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Crimson Snow  作者: mya
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『最後の務め』

「アルヴァナは陛下と話し合って、両国の合意の結果大使を派遣してきた。シルヴィア様が大使として来られてから、我々に何か不都合となる事をしたか?本来は必要のない訓練までつけてくださって、この上悪者扱いか。じゃあアルヴァナはどうすれば良かったと考えているんだ?同盟国とはいえマドラルの味方をしてごめんなさい、お詫びにアルヴァナはノイエンドルフの子分になりますとでも言ってほしかったのか?それともシルヴィア様が無抵抗のままにノイエンドルフ騎士に虐殺されれば満足だったのか?悪逆非道なのはどっちなんだ」


 正論につぐ正論で、さしものテオドールも鼻白んだ。マリウスは声を荒らげるでもなく淡々と、ただ率直に疑問を口にしているだけといった様子である。そのお陰で動揺していた騎士達が落ち着きを取り戻した。そんなマリウスを半ば驚きをもって見ながら、ギルベルトは薄く笑った。


(疑うべきを疑わず、信じるべきものを信じる努力をしてこなかったのだな、私は。若い騎士達の中にもこういった人間がいたとは。我ながら情けない。しかし、さすがにもう学んだ。シルヴィアが自らの姿勢をもって教えてくれた)


 ギルベルトは2本の剣を強く握り、前に出てハルフラントの騎士を一瞬のうちに三人斬り捨てた。その表情は内乱時の『鬼のギルベルト』を彷彿とさせる、迷いのない強さを湛えていた。


「マリウス、よく言った。だがもう十分だ。細かい事はどうでもいい。みんな我々が守るべきものが何かを見失うな。まずは貴様らの家族の事を思え。敵の侵入を許せば家族が犠牲になるかもしれない。それを忘れるな。我が国を侵すものは何ものであれ倒す。もしいずれアルヴァナが敵となって攻めてくるならまた戦う。それだけの事だ」


 言いながらテオドールを見据え、その前を守っているハルフラントの騎士達に剣を向けた。


「私は貴様らの国の事をよく知らん。だがアルヴァナへの嫌がらせの為に我が国に干渉してくるところといい、テオドール達を使って動揺を招くといった姑息な手段を用いるところといい、つまらん国であることは分かった」


「ふん!これは戦略だ。そんな事も分からないとは、高名な双剣使いファルケンマイヤー伯も大した事はないな」


「これを戦略と言い切れるところがつまらんと言っている」


 ギルベルトが内乱以前の冷静さを取り戻した事とマリウスの言葉で迷いのなくなったノイエンドルフ騎士達は、自らの判断で動いてハルフラント陣営を押し返し始めた。その勢いに押され、テオドールを守っていた騎士達の隊形が崩れる。逆に迷いが生じたテオドール側の人間は自らの去就をどうすべきか、急ぎ判断を迫られることになった。

 ハルフラントの協力を得てシルヴィアを討ち倒し、エーレンフリートにギルベルトを一時更迭するよう訴えて元のノイエンドルフに戻す。そうしてシルヴィア殺害の報復として攻めてくるであろうアルヴァナを、現副団長を団長に据えてハルフラントと共に迎え討つ。アルヴァナを敗北せしめる事はハルフラントの利になる事なので、何の問題もなく協力関係が結べるという話であったはずが、このままでは自分達が国に対する裏切り者だ。裏切り者に対するギルベルトの容赦のなさは内乱で思い知っている。その強さも。シルヴィアを倒したという報告さえ届けば、ギルベルトも動揺して隙ができるだろうが、その余裕はもはやない。


「……っ!団長!俺、投降します!」


 一人の騎士がそう叫ぶと、他の騎士達も彼に倣って投降する旨を伝えた。ただ状況が状況であり武器は手放せなかったので、ギルベルトは信じてくれないかもしれないと思い、自分達を守っていたハルフラントの騎士を背後から斬った。


「貴……様!よくも……!」


 斬られた騎士が振り返り反撃しようと剣を振り上げたところで追撃を加え、止めを刺した。それを見た他の騎士達もハルフラントの騎士と戦い始める。


「お前ら!味方してくれる人達を背後から斬って、恥ずかしくないのかよ?!それでも騎士か!」


 テオドールが叫ぶが、その声を聞いたマリウスが言葉を返す。


「シルヴィア様だって親善大使で敵じゃない。そのシルヴィア様を背後から矢で狙った人間の言う言葉か」


「あいつは敵だ!」


「自分の主観が国の方針より優先されるはずないだろ。その程度の事が分からない人間じゃなかったのにな。どうしてしまったんだ、テオドール」


 憐れみを含んだ調子で言うマリウスに、テオドールは一瞬言葉に詰まる。その瞬間、ハルフラントの騎士の剣がテオドールの体に刺さった。


「どうせ説得など成功するはずはないと思ってはいたが。役立たずめ」


 隻腕であるため、テオドールは武器を持っていなかった。なす術もなく二撃、三撃と斬られ、その場に倒れ伏す。


「……?!……テオドール……!」


 ギルベルトの声が聞こえる。自分だって俺を殺そうとしていたくせに、何を驚いているんだと思う。しかし、ああ、驚くという事は、まだ仲間だと思ってくれていたのか。鬼と言われた割には随分お人好しじゃないか。あの女に感化されたのか?……そうだ。あの女はお人好しだったな。気に食わないが卑怯でもなかったし強かった。あの時はそう思っていたはずなのに、何故今まで忘れていたのだろうか?そんな事を考えながら目を開いて横を見ると、そこに剣が落ちていた。手を伸ばしそれを掴む。剣を立てて持ち、背中を向けて立っていたハルフラントの騎士の膝裏を蹴ってバランスを崩させた。倒れ込んできた騎士の体に刺さるよう、最後の力を振り絞って剣を強く握る。一瞬手に伝わった重みと響く絶叫とで成功した事を知ったが、もはや自分が剣を持っているのかどうかも分からない。

 そんなテオドールの耳に、再びギルベルトの声が聞こえてくる。


「テオドール。騎士としての務め、ご苦労だった」


「騎……士……?俺……は……」


「貴様はまだ正式に除名されてはいないからな。それより大事なことを聞いておく。ノイエンドルフに埋葬される事を望むか?」


「はい……弟と……共に…………」


「分かった。処置は施すが間に合わなかったら許せ」


 前の団長だったら絶対に言わないセリフだな……そう思いつつ救われた思いになり、テオドールは薄れゆく意識の中で掠れた声を押し出した。


「……すみ……ません……でし……た…………団……長…………陛下…………」


 その言葉を最後にテオドールの意識は途切れた。

 周囲にいたハルフラントの騎士を一掃したギルベルトは、部下にテオドールを安全な場所に移動させ治療するよう指示を出し、運ばれていく彼を複雑な表情で見た後、門の守備へと戻った。

 明けましておめでとうございます。

 年が明けて、もう6日も経ったのか……と驚きつつこれを書いています。


 週一投稿で文字数もまちまちなのでハッキリとした事は言えませんが、この作品も恐らく春くらいには終わるかと。終わるはず。

 予想以上に長くなってしまったので、とにかくちゃんと終わらせるのを目標に、また頑張りたいと思います。


 では、本年も宜しくお願いします。

 皆さまにとって今年が良い年でありますように。

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