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Crimson Snow  作者: mya
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『背信棄義』

 テオドールは『敵国』に守られつつ、呼びかけを続けている。確認したところ、彼に加担しているのは比較的年齢が高めの騎士ばかりで、人数はテオドールを含め七人。その面子を見て納得はした。皆シルヴィアが来る事に反対していた者ばかりだ。一応それなりの年齢なので目に見えて反発はしていなかったのだが、腹の中では不満を抱えていたのだろう。意外だったのは一番最初に突っかかったロニーが、テオドール側につかなかった事である。


「俺は陛下が大好きなんですよ。そりゃ、あの女……アルヴァナの騎士団長にムカついていたので反発はしましたが、だからって忠誠心まで失くすくらいなら騎士を辞めます」


「その結論を導き出せたのは何よりだ」


 ロニーとそのような会話を交わしながら、ギルベルトは疑問を覚えていた。

 元々鎖国に近い状態である国の為、ノイエンドルフは堅牢な城壁に囲まれた城郭都市で、門も非常に狭い。攻め入ろうにも一度になだれ込む事は不可能なので、こうして門付近で防ぐ事が出来る。別所で城壁を壊そうとしている可能性を考え、各所に人員を送っているが、今のところそのような報告もない。これでは敵は消耗するばかりではないかと。もしやテオドール達を使って内部崩壊させた上で一気に落とそうと考えているのか。そんな成功する保証などカケラもない作戦を本当に立てるものなのか。


(この隙に術者を紛れ込ませて同士討ちをさせる事もあり得るか。よもや指揮官がマドラルの時のような、ただの愚か者という事はあるまいな)


 攻めてきたのがアルヴァナの隣国ハルフラントである事は、旗と服で分かる。

 アルヴァナの初代国王が元々はハルフラントの王族の一員で、その人物があまりに優秀であったため、当時のハルフラント王が彼の持つ領地を独立させて国として認め、そのまま王にしたと伝えられている。これは一聴した分には彼の才能を評価した上での対応にも思えるが、優秀すぎたがゆえに自分の立場が脅かされるのを恐れて体よく追い出したとも、彼が実は前王の寵妾(ちょうしょう)の子で目障りだったからだとも言われている。事実は分からないが、結果としてアルヴァナは大国となり、元はハルフラントの領主だった者達の多くが領民を煽動して謀反を起こし、アルヴァナへと望んで併呑(へいどん)されに行った。その辺りの因縁があり、昔からハルフラントは頻繁にアルヴァナへ戦争をしかけているらしいが、一度も勝利した事がないという。今回のノイエンドルフへの侵攻もそういった事情が絡んでのことか。

 指示を出しつつ思考を巡らせる。こんな事を考えながら対応できる程なのだから、ハルフラントの攻撃がいかにお粗末なものかが分かる。そんな中、呼ばれて来たマリウスが首を捻る。


「団長。少し気になっていた事があるのですが」


「気になっていた事?」


「敵国はハルフラントですよね?テオドールのあの様子から見て、向こうが攻めてきてから投降して、こちらに呼びかけるという提案をしたとは考えにくくありませんか?今まで一切交流がなかった国をすぐに信用するはずもありませんし。かといって元々繋がりがあったとも思えません」


「無論それはそうだ。それで?」


「シルヴィア様との決闘の後、テオドールは謹慎していたはずですよね。なのにシルヴィア様襲撃の際は何故か出てきていた。今回も。謹慎以降あいつの部屋には見張りがついていたし、会える人間も限られていた。そんな中でアルヴァナの伯爵令嬢やハルフラントとどうやって連絡をとったのか……おかしくありませんか?」


「それは陛下も私も疑問に思っていたし、本人に問いただしもした。しかし結局分からないままだ。お前は見当がついているのか?」


「……テオドールと面会できた人間の中に手引きした者がいると考えるのが自然かと。見張りをしていた団員は固定ではなく交代していましたから、恐らく違うでしょう。とすれば陛下や団長以外で、テオドールを外に出す命令を下しても疑われない人間という事になります」


 マリウスの発言は筋が通っている。彼の言う通りだとすれば、エーレンフリ―トや自分に分からなかったのも当然だ。何故ならそれは信じきっていてカケラも疑っていない人物であったから。

 まさか……いや、この考えが今のこの事態を生んだのだ。つまり敵のこの稚拙な攻撃は陽動で、真の目的はこちらに皆の気を逸らしておいて、その人物が本懐を遂げることにあるということか。そしてその本懐とは……。


「!?……エーレンフリート様とシルヴィアか!」


 思わず城塞の方へと駆け出しそうになり、ギルベルトは思い留まった。陽動と分かっても、団長がこの場を離れるわけにはいかない。万が一にもここを突破されれば国内に被害が出る。民も犠牲になるだろう。街は壊され、焼かれ、男や老人や子供は問答無用で無惨に殺され、若い女は……ランズウィックのように。シルヴィアのように。


(信じろ。エーレンフリート様やシルヴィアはこのような奴らに遅れをとるほど弱くはない。“奴”が本性を現したとしても、エーレンフリート様より奴の味方をするという者は多くはないはずだ。内乱の時もそうだったではないか)


 歯を食いしばり、ここに留まる事を決意する。そこへテオドールの挑発するような声が聞こえてきた。


「いいか?お前達はみんな騙されている!今のままではアルヴァナは苦もなくノイエンドルフを侵略できてしまうぞ!あの女が陛下と腑抜けのギルベルト団長を籠絡(ろうらく)してしまったからな!ハルフラント騎士団の人達はアルヴァナがいかに悪逆非道か、一番よく知っている!だからこうして我々に味方して救いに来てくれたんだ!そもそもあん女を招き入れなければ、今こうなっている事もなかったんだからな!全てあの女のせいだ!」


 この言葉に、団員の間に動揺する者が出てきた。このハルフラントという国がアルヴァナと因縁がある国というなら、シルヴィアがいる為に攻めてこられたという事になる。今後もアルヴァナと関わっていれば、あの国の友好国家とみなされ、このような事が増えるかもしれない。冗談ではない。他国同士の争いに巻き込まれるのはゴメンだ。そういった声が広がっていく。その様子を見たテオドールはほくそ笑み、ハルフラントの騎士達の攻撃も勢いが増してきた。


「いや、今の状況はテオドールのせいだろ。門を開けたんだから。それにシルヴィア様が現在この国にいるからって、武器を持ってこの国に攻めてくる理由があるか?アルヴァナが危険な国だと知らせたくて来たなら、ハルフラントはまず正式に陛下に会談を申し込むのが筋じゃないか」


 そんな中、ある意味マイペースなマリウスが、テオドールに向かって正論を吐いた。現状にそぐわない、ここが戦いの場ではなく会合の場でもあるかのような口調に気勢をそがれた一同は、一瞬静まりかえる。ハルフラントの騎士までも。

 お読みいただき、ありがとうございました。

 来週は年末で多忙につき、投稿をお休みします。次の投稿は2023年1月6日金曜日の予定です。また読みに来ていただければ作者は小躍りして喜びます。


 では、かなり早いですが皆様良いお年を。

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