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Crimson Snow  作者: mya
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アルヴァナという国

「前の王の治世で、各国のアルヴァナに対する印象は良くないものだった。それでもアルヴァナには国力があったゆえ、また侵略されるのを防ぐ意味でも手を結んでおく方が良いとの判断からか同盟国は多く、その分騎士団は現在も数多の戦場に駆り出されている。民の生活も、王に縁のある貴族達が好き放題に重税を課していたため、苦しいものであったと聞く」


「それで騎士や民は不満を漏らさなかったんですか?」


「それが王の耳に入ると処刑されるので、言えたものではなかったと思う」


 他国の事をよく知らない者も多く、この話に騎士達はざわつく。ノイエンドルフではまず王が民の声に耳を傾けてくれるし、王と、ほぼ宰相のような役割を担っているデュンバルト家の人間が常に目を光らせているため、貴族達も基本的には善良で害はない。生活も無駄に贅沢をしている事はない。


「アルヴァナは前王までは世襲制で、それに伴い王族に縁のある貴族達が優遇されていた。王によっては優遇はしても、領民に対する横暴な振る舞いは許さなかった方もいたと聞く。そして現在の貴族は領地のリーダーとしての役割が求められ、その能力がないと見なされると領主は別の者に変えられる。しかし役割を果たしていれば、報酬は十分に与えられる。騎士に関しては規律が重んじられ、それを乱す行為をした者は即処罰の対象となる。例えば見回りの際、気に入った女性を見つけたとする。仕事が終わってから、または後日会ってくれないかと声を掛ける程度であれば目を瞑るが、そのまま仕事を他の者に任せて遊びに行ってしまう、嫌がる女性にしつこく迫るといった行為をした者は、即日反省牢に入れられ3日間出される事はない」


 ノイエンドルフの騎士達はこれにもざわついた。が、“嘘だろ”“厳しいな”と言いかけた者も、ハッと口をつぐんでギルベルトへと視線を送る。鬼の騎士団長は彼らを見て“まさか貴様らはしていないだろうな”という表情で睨んだ。慌てて皆がブンブンと頭を横に振ると、しばらく疑うような目で見た後に頷く。そうして皆で一斉にホッと息をついた。その一連の様子を黙って見ていたシルヴィアがクスクスと笑い出すと、ギルベルトが軽く声を立てて笑い、それを見て一瞬愕然とした騎士達も笑い出す。しかしそんな中で一人真面目な顔をしていた若い騎士が、不意にこう漏らした。


「でも、それだといつか誰も責任ある立場に立ちたくなくなりませんか?重い責任を背負わされて、それなりの報酬はあるとしても罰則が厳しい気が……」


 この発言に皆の視線が青年に集まる。つい先刻まで和やかになっていた場が一瞬で静まり返ってしまい、青年は焦って頭を下げた。


「あ、いや、すみません!俺ごとき下っ端が偉そうに!」


「いや。貴方の懸念はもっともだと思う。今まさに貴方が口にした事だが、我が王が目指しているのは不当な事を不当だと、身分を気にせず誰もが訴えられるようになり、公正に裁かれる国なんだ」


「え?それってつまり……例えば俺たち騎士が商人に何か嫌がらせをして、それを商人が陛下やギルベルト団長に訴えたら、騎士が罰を受ける……という事ですか?」


「ああ。その話の騎士が貴族であろうと」


 皆がこの話に今ひとつピンと来ていないようで、一様に不思議そうな顔をしているが、ギルベルトだけはシルヴィアの話の意味も皆の反応の理由も理解していた。何故ならノイエンドルフではそれが当たり前の事だからだ。先刻の青年が自らを「下っ端」と言ったように、当然階級による上下関係のようなものはあるが、不当な扱いを受けても上に訴えられないという事はない。何よりエーレンフリートが揉め事に気付けば自ら話を聞いてくれる。しかしアルヴァナは特権を持つ者達とそれ以外とで格差が激しかった時が長く、未だ“不満があっても言ってはいけない”という風潮がある。民が萎縮したままなのだ。その意識を変えるのは時間がかかるのだろう。

 それにしても、とギルベルトは思う。こうして会食で話していると、ルディ以外でも若い騎士の方が積極的にシルヴィアに質問していて、色々考えているのだと分かる。今まで私的な会話をする機会もなく、特に内乱以降は騎士団員に対する不信感と忙しさも相まって交流を持つ事はなかったので、彼らが何をどう考える人間であるのか知る由もなかったのだ。

 ギルベルトがそんな事を考えていると、シルヴィアが青年を、次いで皆を見渡してから話を続けた。


「あなた方にはたったそれだけの事、としか思えないかもしれない。何しろ貴族も騎士もアルヴァナほど極端に特権を持つわけではないから。だが我が国ではそれだけの事を徹底させるのが難しい。いや、我が国だけではない。王制を敷いている国であれば、程度の差こそあれ特権階級は存在する。ノイエンドルフでの先の内乱は、その特権を欲した方々が起こしたと聞いていたが、詳しく聞くとそれだけではなかったようだ。この国は前王も、それが平民相手でも意見具申を受け入れてくださる方であったはずなのに、何故そうしなかったのか……私には分かるはずもない。ただ言える事は、ここが長く平和であったのは王をはじめ平民に至るまで、過度に自分の権利を主張せず、それぞれに話し合って解決してきたからで、それはとても素晴らしいという事だ」


 シルヴィアがこういった方向に話を持っていった理由を、ギルベルトは理解した。近くノイエンドルフに騒動が起こった場合に備え、騎士達にこの国に対する誇りを持たせようとしてくれているのだ。この国がいかに恵まれているか、シルヴィアやレイナルドの話を聞いて、ギルベルトも改めて実感した。外の世界を知る人間だからこそ、その言葉には説得力が生まれる。ましてや彼女は小国の商人の娘として生まれたゆえに、大国の特権階級による理不尽の犠牲になったのだから。


「国民全員でつくりあげ守ってきた平和。それを自分だけの功績であるように主張しない国王陛下。少なくともそれが100年ほども続いている国……正直に言えば羨ましい。アルヴァナは他国との兼ね合いもあり、事は単純にはいかない。それ故に我が王は悩み苦しみ続けているのだから」


「ノイエンドルフ侵略戦でマドラルに協力した事もですか?」


「その通りだ。我々はそれを絶対に正当化してはならないが、同盟関係破棄に持っていくには、盟約違反という大義名分を必要とした。あの時マドラルの前王が、ノイエンドルフへの侵略はアルヴァナが企てた事だと主張したのを、ファルケンマイヤー伯に同行した騎士の方は聞いたと思う。あのような方であったので、我が国としては同盟を続ける事で不利益はあっても利点はなかった。ゆえにあの戦いの前にいくつかの取り決めをしていたのだ。破るだろう事を織り込み済みで。とはいえ結果的にこちらの都合で攻め入った事実は変えようがない」


「ある程度想像はついていたが、同盟国を持つというのも改めて面倒な事だな」


「マドラルは特別でした。同盟国を持つ事で要らぬ争いを避けられる場合も多く、また……いえ、やめておきましょう。ここで同盟の利点を話すのも筋の違う話です。ノイエンドルフにはノイエンドルフの選択があるのですから」


 この場にいる騎士達は初めて“敵国”の事情に思いを馳せた。侵略行為は何を言おうが正当化できないが、その背景には様々な思惑や国の歴史なども関わってくるのだろう。少なくともアルヴァナの立場は理解できた気がした。

ここのところ説明くさい会話ばかりの話が続いてしまってすみません。読んでくださっている方は退屈かもしれないな……内容がくどいかな……と思いつつも、作者なりに必要な部分だとも思っているので、このまま投稿させていただきます。

ここが過ぎればそろそろ終盤に突入です。これに懲りずに、もうしばらくお付き合いいただけると幸いです。

ではまた来週に。

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