表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Crimson Snow  作者: mya
92/119

『ほんのひと時の平和』

 レイナルドがノイエンドルフを発った後、シルヴィアはギルベルトから自室への同行を頼まれ、快く承諾した。昨日の事もあり、警戒心を抱かせてしまったかもしれないと思っていたギルベルトは、少なくとも表面上は怯えている様子がない事に安堵した。


「シルヴィア、その……昨日は突然あのような事をしてすまなかった」


 部屋に入って座るなり頭を下げられたシルヴィアは、驚き慌てて首を横に振った。


「頭を上げてください。気にしていませんと言うと語弊はありますが、あの時は私も気持ちが昂っていたので大丈夫……と言いますか、あの……」


「お気遣い痛み入る。決して軽い気持ちで言ったわけではないが、軽はずみな言動ではあったと思う。そこで、その詫びとしてこれを受け取ってほしい」


 ギルベルトがそう言って差し出してきた物は綺麗に包装されており、結構な大きさがあった。詫びなど必要ないと思うものの、露店でシンブルをプレゼントしたいと言われた時の経緯を思い出し、これもノイエンドルフの工芸品なのだろうかと、アルヴァナに持ち帰れば宣伝になるかもしれないと思い直して受け取った。


「ありがとうございます。ここで開けさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「無論」


 ギルベルトの許可を得て包装を解くと、中から美しい飾り彫りが施された木製のラックが出てきた。その仕様から昨日のシンブルを飾る為の物だと分かる。


「職人に頼んで作ってもらおうかとも考えたが、貴女は遠慮をすると思ったのでな。あの時露店で購入した。ゆえに本来は詫びの品ではなく贈り物なんだ。しかしあのような事をした後で贈り物と言えば、本格的に交際を申し込んでいるように思われるのではないかと、実は渡し方に困っていた。なので詫びとして受け取ってもらえればありがたい」


 大真面目な顔をしてギルベルトはそう言った。実際に彼は心の底から真面目に言ったのだが、シルヴィアは小さくクスクスと笑っている。


「私はまた何か変な事を言ったのだろうか?」


「いえ。私の周りにいた人達は、ふざける事が好きな人達ばかりだったんだなと、改めて思ったのです。きっと同じ状況でギルバート様のような言い方をする人は、アルヴァナにはいません」


「そうなのか?グレン殿などは話に聞く限り真面目そうだと思ったのだが」


「グレン副団長は私にはとても紳士的で優しいのですが、職務を離れてレイナルドや他の団員と話す時には、とぼけた事を言ったり何気なく毒舌を吐いたりします。お酒の席では皆がそれはもう大騒ぎで、きっとギルバート様がご覧になったら驚かれると思います」


 ただ、ただ楽しい思い出を語るような、そんな笑顔だった。これほどに幸せそうな顔をした人を、かつて見た事はないと言えるほどに。そしてその思い出の全ての場面にクリストフがいるのだろう。こんな顔を見てしまっては、騎士を辞めてノイエンドルフへ、自分の元へ来てほしいなどとは冗談でも言えない。……実際にそうしてほしいと思ってはいても。


「話が逸れてしまいましたが、ギルバート様……このように素敵な物を、本当にありがとうございます。ずっと大切にします」


「喜んでいただけたなら何よりだ。実は、これよりもっと大きな物を勧められて、その方が数多く飾る事ができていいのかと迷ったのだが、持ち帰る時に邪魔になるかと思ってな」


「あまり大きいと数が揃うまで寂しくなるので、この大きさが丁度いいです。これでアルヴァナに戻って以降もノイエンドルフに来る楽しみが増えました」


「……その棚が埋まるまでには、どれ程の年月が必要になるだろうな」


「意外と早くなる可能性もあると思います。エーレンフリート陛下のお考えが実現できれば、我が国にノイエンドルフの品が並ぶ日も来るでしょう。ですのでギルバート様、その時には商人の方に陶器のシンブルを持っていくよう、こっそり勧めておいていただけますか?シルヴィアが喜んで買うだろうからと」


 珍しく茶目っ気たっぷりに言う。ああ、本当に愛らしいなと思い、同時に少々胸も痛むが、それよりもシルヴィアがアルヴァナとノイエンドルフの関係に未来を見出していて、またここへ来ると明言してくれている事が嬉しかった。またいつでも逢えるというかのように。



 それから二週間。驚くほどに平和な時間が過ぎた。

 再びテオドールに聴取をしたところ、言葉数が少なくなり、思い込みによる発言もなくなっていた。聴取をしていなかった他の騎士達にも、レイナルドのやり方を真似て時系列に沿って考えさせると、一度は混乱を見せた後に落ち着くという同じ流れが見られた。彼らに詳しく話を聞こうとしたが、やはり術者に関する情報は得られず、テオドールも謹慎室に誰かが訪ねてきた事は思い出せたものの、何故見張りの騎士がその“誰か”を部屋に通したのか、それがどんな見た目の人物であったのかも思い出せないという。続いてその時に見張りについていた者達にエーレンフリートやギルベルト、二人の副団長以外に誰かを通したかと訊いたが、そんなはずはないと断言したし、その言葉に嘘があるようにも思えなかった。

 レイナルドが情報収集を頼んでいた飲み屋には、ギルベルトとシルヴィアの二人で訪れて結果を聞いた。最初にナディアがノイエンドルフに姿を現したのは、エーレンフリートとシルヴィアを呼び出した前日の早朝だったらしい。空白の一日の間に術者と接触があったのか、ナディアがノイエンドルフを離れた今となっては確認しようがない。そもそも聞いたところでテオドール達と同様、何も思い出せない可能性は高いが。そして術者らしき異国の人物がこの国で最後に目撃された日については、レイナルドがノイエンドルフを発った当日で、それ以降は全く見かけなくなったという話だ。これについてはアルヴァナの密偵も同日に怪しい人物がノイエンドルフを出た所を見たとの報告があった事から、間違いはないと思われる。しかし密偵が言うには、件の人物は外国人がこの国では目立つと分かっていながら、これ見よがしにうろついてみたり、かといって特定の誰かと接触する事もなく、決定的な動きを何ら見せなかったと。あからさまな陽動にも思えたが、証拠も掴めなかった事から術者とは断定できず、手をくだせなかったらしい。

 ナディアやノイエンドルフの騎士達と、誰が接触したのかは未だ分からない。密偵が見たノイエンドルフを出た人物がそれとは限らない。件の人物が陽動なら、もう一人仲間が潜んでいるのかもしれない。もしくは既に何か仕掛け終わっているのか……。


 そうしてエーレンフリートとギルベルトとシルヴィア、加えてギルベルトの祖父と父親であるデュンバルト公爵、弟のヴェルナーの6人で集まった情報を精査し、今後の方針について話し合いを何度も持った。

 その合間にもシルヴィアはルディの指導と他の団員へのアドバイスを続け、団員達との会食の場も設けた。毎日顔を合わせ交流を続けると、最初は頑なにシルヴィアを敵視していた者達の態度も軟化してくる。すると心に余裕ができた者はアルヴァナという国にも興味を持つようになり、会食の席で彼女にどういう国なのか質問をするようにもなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ