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Crimson Snow  作者: mya
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『別れ』

 ランズウィック出身の男にシルヴィアが襲われた翌日、ギルベルトからその事を聞いたレイナルドは、すぐに彼と面会をした。

 隻眼の大男の姿を見た彼は、気まずそうに俯いて顔を背けた。恋人であるカーラが片腕を斬り落とされ犯された上、殺されそうになっていたところを救ってくれたのがレイナルドだったからだ。彼はカーラの腕の止血をした後すぐに他のランズウィックの民を救いに走っていったという。彼女本人が言っていたので間違いない。


「何故顔を背ける?シルヴィアより俺の方がよほど国の仇だろうが」


「……………………」


「ランズウィックは復興の手伝いをしているアルヴァナの騎士に対しては、それほど敵意を表していないと聞く。親切にしてもらって逆に申し訳ないと言っている奴もいるくらいだから本当なんだろう。それには感謝している。しかし加害者ですらないシルヴィアに対しては殺そうとまでするのか。あいつが女だから簡単に殺せるとでも思ったか?罪悪感を抱かせて責めて鬱憤を晴らした上で、抵抗できないようにして殺すつもりだったのか?」


「……違うと言っても信じないだろう」


「何を勝手に判断してんだ。こっちとしても聞きたい事があるんだ。話す気があるならそうしてもらった方がいい。どの道お前の扱いは難しすぎて俺の手に余る。アルヴァナに連行させてもらうから、向こうに着くまでに色々聞かせてもらおう」



 こうしてレイナルドはまたノイエンドルフを離れる事になった。もう少し滞在して術者らしい人物の、こちらでの動向を掴みたいと思っていたのだが、アルヴァナの騎士団長という肩書きがあるシルヴィアを暗殺しようとした“ランズウィックの青年”の処分は、レイナルドが独自の判断でできるものではない。彼を一方的に殺せば、またアルヴァナとランズウィックの関係が悪化し、向こうに滞在している騎士団員が危険な目に遭うか、逆にランズウィックの民を殺してしまうかもしれない。この上そのような騒動が起きれば、クリストフの宣言は嘘だったのかと他国に付け入る隙を与えてしまう。それは絶対に避けなければいけない。しかしシルヴィアの暗殺未遂は事実であり、無罪放免というわけにもいかない。その出来事がノイエンドルフで起きたという事が事態を更に面倒にしている。

 伝令に出したアランが行方不明になっている現状、他の者に青年を連行させるわけにもいかない。何者かの襲撃がある可能性が捨てきれないからだ。そういった事情があり、レイナルドが付き添うのがベストだという判断になった。


「申し訳ありません、エーレンフリート陛下。しばらく滞在するとお約束した身でありながら」


「いや。元々こちらが無理を言ったんだ。それに情報の共有はすでにしてもらったし、テオドールの尋問も済んでいる。加えてあのお嬢様を、このままノイエンドルフに置いておくわけにもいかないだろうしな」


「はい。然るべき処分は必要ですので」


 そう言って少し離れた場所に待機させている馬車の方に一度目を向けた後、珍しく見送りに来ているシルヴィアへと視線を移す。


「あのランズウィックの奴には俺も色々思うところはあるが、まあお前の顔見知りらしいし、何とか丸く収まるよう努力する」


 シルヴィアは黙って頷く。自分から彼への寛大な措置を願うのもおこがましい気がするし、何よりクリストフへの暴言があったことは事実なので、口出しする立場にないと思ったからだ。


「では陛下、私はこれで失礼します。ファルケンマイヤー伯、これほど分かりやすく騒ぎを起こして揺さぶりをかけてきている以上、いつ何が起きても不思議ではないと考えておいた方がいい。くれぐれも気を付けろよ」


「ああ。忠告感謝する。貴殿にはいつも世話になりっぱなしですまない。落ち着いたら何か礼をさせてくれ」


「そうだな。その時には美味い酒でも奢ってもらおう」


 レイナルドらしい返しにギルベルトは軽く笑い、「用意しておく」と言いながら握手の手を差し出した。その手を握り返してから、レイナルドは最後にもう一度シルヴィアの前に立った。

 ……何故なのか。突然得体の知れない不安に襲われる。目の前にいるシルヴィアがまるで過去の幻影であるかのように、奇妙に現実味が薄く感じられたのだ。そうして不意にその姿が薄れていくような錯覚に襲われたレイナルドはシルヴィアを抱きしめた。


「レイナルド?」


「シルヴィア……用事を済ませたらすぐに戻ってくる。だから俺が戻るまで絶対に無茶をするなよ」


「無茶をしなければならない事態が起こらないことを祈っていてくれ」


「そうだな……それが一番だ」


 そうであればいい。しかしナディアとテオドール、そしてランズウィックの青年と、連続でシルヴィアが命を狙われている現状、これ以上何も起きないとは誰も言えないだろう。エーレンフリートとギルベルトも思ってはいない。そしてこれら一連の出来事が偶然同時期に重なったとも思えない。やはり何者かが裏で糸を引いているとしか。

 一緒にアルヴァナへ帰るぞ……そのひと言が言えないまま、抱きしめる腕に一瞬だけ力を強く込め、やがてレイナルドは手を離した。その瞬間、何故かシルヴィアもレイナルドとは二度と会えない気がして、離れ難さに彼の手を取り両手で包んで、一度祈るように胸の高さまで持ち上げた後に、何も言わずに手を離した。


 それはまるで永遠の別れの儀式のようだった。

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