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Crimson Snow  作者: mya
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『罠−トラップ−』

 時は少し遡り、ナディアがノイエンドルフにてシルヴィアの前に姿を現した頃、アルヴァナではダゲール伯爵が騎士団によって身柄を拘束されていた。

 ダゲール伯は「いつになれば我が孫娘との結婚について公表するのか」と叫びながら、最近はずっと門前払いだった王城へ許可なく足を踏み入れようとし、衛兵に取り押さえられたのだ。いつもの事だと、まともに相手にするのもバカバカしいと誰もが思ったし、一応報告を受けたクリストフもグレンも自分達が話す必要はないと考えていた。が……


「騎士の一部の様子がおかしい?」


「はい。ダゲール伯爵を何故こんな場所にお連れしたのか、サロンにご案内して差し上げろと言い出す者が現れて……」


 騎士の一人に報告を受けたグレンは、少しの間何か考えるような様子を見せ、こう訊いた。


「いくつか聞きたい。ダゲール伯爵が城に現れた際、一人だったかどうか知っているか?」


「え?はい。確か供の者が一緒だったと聞いています」


「その者は今はどうしている?」


「拘束したのは伯爵のみで、供の者はそのまま放置したと」


「……おかしくなったのは、その時の対応に当たった者か?それと君はその現場にいたか?」


「言われてみれば……対応に当たった者がおかしくなっているようです。私は騒ぎに気付いて取り押さえに行ったのですが、その時には伯爵一人しかおられませんでした」


「なるほど。分かった。君は急ぎレジェに伝えてくれ。即ダゲール伯爵を地下牢に放り込んでリシャールとベルトランを見張りに付けろ。その後、現在城内にいる他の騎士団員を城前の広場に全員集結させ、私が行くまで待機。以上、私からの命令だと」


「は!しかし伯爵を問答無用で牢に入れてよろしいのですか?」


「構わない。今まで散々陛下に無礼を働いてきた方だ。理由付けなどどうとでもなる。ああ、もうひとつ。おかしくなった者達も全員牢へ入れておくように。そちらの見張りは巡回程度でいい」


 報告に来た騎士にはグレンの意図は分からなかったが、彼が大隊長だった頃から現在まで、間違った指示を出しているところなど一度も見た事がないので、すぐに命令を実行した。その間グレンはクリストフの所へ行き、報告の内容とグレンが出した命令について伝えた。


「まさか“本人”が直接乗り込んでくるとはな」


「供の者という男の容貌も確認済みです。城前に騎士団が集まっていれば、何処かで様子をうかがっているかもしれません。騎士の中で挙動のおかしい者についても、同時に私が確認します」


「何から何まで任せてすまない。頼んだぞ」


 クリストフは事実を含んだ一つの噂を流すよう指示を出していた。

『王がついにご結婚の意思を示されたらしい。お相手の方は明らかにされていないが、噂では貴族のご令嬢という事だ』

 何故わざわざこのような噂を流したのか?もし件の術者がクリストフの読み通りアルヴァナに対する恨みを持っていて、この国をいずれ滅ぼしたいと思っているなら、王の結婚という噂が流れれば早晩何か動きがあるだろうと踏んだからだ。

 その者にとっては王が結婚して世継ぎが生まれては不都合だろう。何しろ国を継ぐ者がいては、たとえ王が死んでも、上手く事が運んで国が滅びたとしても、その存在があるだけでアルヴァナの復興を目指す者が出てくるのは明白だからである。王となる者さえいれば、それが象徴的な存在でしかない赤ん坊でも旗印となる。殺す事は可能だろうが、守る者の多さから容易ではない。ましてや生まれる子が2人なら?3人なら?つまり結婚されては非常に厄介なのだ。相手を貴族の令嬢としたのは、無論シルヴィアに矛先が向かないようにする為という理由もあるにはある。しかしそれ以上に結束を乱す意味の方が強い。貴族にはクリストフの治世に不満を持っている者も多い。今回のダゲール伯のように術者からすれば利用しやすい存在だ。その貴族の中に王妃候補がいたとしたら、まずクリストフという共通の邪魔者がいて成り立っていた結束が崩れる。誰が出し抜いてクリストフとの婚約にまで漕ぎ着けたのかと、貴族同士で疑心暗鬼になる。そうなっては術で操って混乱を起こしたとしても、標的が王にはならない。貴族達が暴走してお互いを潰し合っているだけと世間には見られる。それでは意味がないはずだ。

 これまで術者は、王と騎士団に対する国内外の不信感を煽る方向に事を起こしているように見受けられるし、貴族達に反乱を起こさせるにしても、王の体制への正当な批判ゆえという大義名分を成り立たせなければ、クリストフへの諸外国の印象にあまり影響はないだろうから。それに今までクリストフが特定の貴族の令嬢と親しくしてきた例はないので、『噂話』という形をとっておけば信憑性が疑われ、罪もない貴族の娘が殺されてしまう危険性も減らせると考えたのだ。

 これらは全て一つの推測に基づいて立てた計画で、全くの見当違いかもしれない。しかし術者に対して何も出来ずに手をこまねいているより、可能性を潰していく方を選んだ。ゆえにこの国で一番の不満分子であり、術者にとって利用しやすいであろう貴族達を糾合させないよう手を打ったのだった。それがたとえ的外れの推測であったとしても、貴族達の糾合を防いでおくのは国の混乱を防ぐ意味でも無駄にはならない。

 “貴族の令嬢と結婚”という噂が流れれば、ダゲール伯爵が自分の孫であるナディアではないのかと焦り、早晩乗り込んでくるのは分かっていた。その件に関しては相手にするつもりはなかったのだが、術者と接点があったのなら都合がいい。術者本人が現れた(らしい)以上、ダゲール伯爵とおかしくなった者を即、牢に放り込むよう指示したグレンの判断は正しかった。


「ではグレン、怪しい者を見つけ次第自己の判断で動いてくれ。使う人間がいれば好きに動かしていい。その際私に対する確認は不要だ」


「はっ!」


 そうしてグレンは急ぎ騎士団員が待つ城前へと向かった。


 城前では騎士達が突然の招集に何事かとザワザワしていて、レジェが前に立って全体に目を配るように見回していた。彼は元クリストフ直属の隊のメンバーであり、中でもグレンと似たタイプで、頭の回転が速く感情的にならない人物であるため、物事を察して動く必要があるこういった場面で特に重用される。口も堅く信用があるので、術者の話もある程度は聞かされていた事もあり、グレンの命令を伝え聞いて騎士団員の中に様子がおかしい者がいないか探っていたのである。


「ご苦労。何か気づいた事はあったか?」


 グレンがレジェに確認する。レジェは答える前に一度騎士達を見回し、首を横に振った。


「今のところ特に変わった様子はありませんね。周囲の隠れられそうな場所も注視していましたが、怪しい人影は見当たりませんでした」


「そうか」


 そう言ってからグレンも団員達を見回す。流し見た後、グレンはレジェに一枚のメモを渡すと、皆の前に立った。

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