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Crimson Snow  作者: mya
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『テオドールの主張』

「フィリップ伯爵令嬢がクリストフ王の婚約者などという事実はねえよ。本人がそれと認めた」


「あんたらが寄ってたかって脅して言わせたんだろ!か弱い女性に卑怯だぞ!」


「か弱い?確かあんたはシルヴィアより伯爵令嬢の方が美しく、剣の腕も人望も優れているゆえに、本来は騎士団長になるはずだったとかぬかしてやがったんじゃないのか?そう聞いたぞ」


「事実だろうが!」


「シルヴィアより強いのにか弱いねえ。それが事実だとして、じゃあその伯爵令嬢より弱いシルヴィアを、何故騎士が戦場でもない場所で寄ってたかって殺そうとした?」


「俺は騎士は廃業した!もう片腕が無いんだ!」


「シルヴィアを殺そうとした時にも腕は無かったのか?バカじゃねえのか、お前」


 鼻で笑いながら心底バカにしたような口調でレイナルドが言う。当然テオドールは激昂して殴りかかろうと立ち上がったが、胸を軽く押され、バランスを崩して椅子に尻もちをつく形で座り直させられた。


「落ち着けよ。悪いがあんたと俺とでは力の差があり過ぎる。弱い者いじめは、こっちも気分が悪いんだよ」


「弱い者だと?」


「そうだろうが。伯爵令嬢より弱いはずのシルヴィアに対して、不意打ちみたいな()を使ってでしか殺そうとする事もできない。正面きって打ち合って負けて、挙句の果てに負けたのは自分が手加減したからだと言う。こんな奴が強いなどとほざいて誰が信じる?」


「不意打ちじゃない!憎い相手だが、女だからせめて苦しまないようにと温情をかけて、気付かないうちに即死できるような攻撃を仕掛けたんだ!」


「その辺りの経緯も聞いたが、あの程度の距離で、背中を向けたまま身をかわす事すらせずに矢を落とされて、何が即死だ。下手くそ」


 ギルベルトは多少聞き慣れてきたレイナルドの毒舌だが、初めて耳にするテオドールは驚いて一瞬言葉を失い、その意味を反芻(はんすう)して理解すると激怒した。


「ギルベルト団長!自分の部下が侮辱されているというのに、何故黙っているんですか?そんなに自国の人間よりあの女の方がいいんですか!」


「正に自国の人間を守る為にシルヴィア殿を守ろうとしている。何度も言っているのに、聞く耳を持っていないのは貴様だ。アルヴァナを、クリストフ王を本気で怒らせれば、我が国などひとたまりもないぞ」


「ええ、そうでしょうね。何しろ国を守らなければならない立場の騎士団長自ら、敵国の女に骨抜きにされて、団の結束を乱しているのですから」


 団の結束を乱しているのは貴様らだ。ギルベルトは思いはしたが、口には出さなかった。もはや言っても無駄であると理解しているし、レイナルドの邪魔にもなると思ったからだ。そのレイナルドはテオドールの言葉を聞いて、誰が聞いてもバカにしていると分かる笑い声をあげた。


「つまり結束していればアルヴァナに勝てると思ってんのか。あんまり笑わせんなよ。こう言っちゃ悪いが我が国とノイエンドルフでは戦闘経験に差があり過ぎる。団の規模もだ。が、だからと言って両国のどちらが立場として上だとか、そんな話でもねえ。ノイエンドルフは王が国を守る為に他国と交流を持たずにきた。散発的に侵略戦争を仕掛けてくる国はあったとしても守り抜いてきた。俺達からすれば羨ましい限りの話だ」


「当たり前だ!ノイエンドルフは貴様らみたいな蛮族国家とは違う!」


「蛮族ねえ。もし、だ。あんたらがシルヴィアを殺したとする。我が王は絶対にあんたらを許さないぞ。我が王は無駄な戦いは好まねえ。だが敵意を向けてくる相手に温情をかける人間でもねえ。アルヴァナは蛮族国家なんだろ?この国を焼き払い、国が存続できないよう王族を殺し、男は皆遊び半分で生きたまま細切れに切り刻んで、女は犯してから殺すだろうな。あんたらが余計なことをしなければこんな事にはならなかったのにと、自国の民から恨まれるだろうよ。下手をすれば味方に殺されるかもな」


 聞きながらギルベルトは苦々しげな表情を浮かべた。笑いながら話してはいるが、恐らくレイナルドも自嘲しながらの発言なのだろう。それはまさしくアルヴァナがランズウィックに対して行った蛮行だからだ。そしてテオドールとは違い、何も罪を犯していないシルヴィアは自国の民から恨まれた。

 たとえこの国の誰かがシルヴィアを殺したとしても、それを理由にノイエンドルフそのものを滅ぼす事は、クリストフ王もしないだろう。不可侵条約も維持されると思われる。私情で国家間の約束事を反故(ほご)にして、国の信用を損ねるようなまねをする人物ではないはずだ。少なくともシルヴィアやレイナルドの話に出てくる人物像としてはそうだ。反面ノイエンドルフの信用は地に落ちる。もし例の術者とやらの狙いが、クリストフの読み通りアルヴァナへの嫌がらせなのだとすれば、これはどう見ても失敗なのではないだろうか?もしやシルヴィアを殺して、ひとまず王の精神的ダメージを図っているのか。

 そうしてギルベルトが考えを巡らせていると、テオドールが聞き捨てならない台詞を吐いたのが耳に入ってきた。


「ああ。あんたらは既にランズウィックでそれをやっているもんな。クリストフ王とその手下が、賢明な前王が止めるのも聞かずに民を虐殺してまわって、あの女はアルヴァナ騎士団の情婦になる事で助けられたんだろ。だけどノイエンドルフの民は、ランズウィックのような弱小国家とは違って誇り高いからな。あんたらの思い通りになると思うな」


「クリストフ王が……虐殺しただと?」


「団長はご存知なかったんですか?という事は陛下もですね。ああ、だからアルヴァナと同盟を結ぶなどと仰っているわけですか。陛下は真っ直ぐなお方ですから、こいつらの口車に乗せられたんですね」


「何を言っている?貴様もアルヴァナの前王が暴君であった事は知っていたはずだろう。翻ってクリストフ王は我が国にも英雄としてその名が届いていた騎士だった。虐殺をするような人間が英雄と呼ばれるはずもなかろう」


「戦争で人を大量に殺せば英雄視されるのは常識ですよ。団長ほどの方がそれを知らないとは言いませんよね?」


「戦争ならばな」


 普段より一層低い声でレイナルドが言った。つい先刻までの嘲るような表情ではなく、冷たい怒りを(たた)えた表情で。


「あんたの常識では一方的な侵略行為での無用な虐殺でも英雄視されるのか」


「殺された人間からすれば、戦争だろうが一方的な虐殺だろうが変わるもんか!そもそもあんたらはノイエンドルフに対しても、侵略戦争を仕掛けてきた上でマドラルのせいにして、あの女が無用な虐殺をしていたじゃないか!俺の弟がどれほど無惨な死体にされたか、貴様は知らないだろう?!」


「ほう。アルヴァナがノイエンドルフに侵略戦争を仕掛けたにもかかわらず、エーレンフリート王は我が国と不可侵条約を結び、親善大使を迎えたのか。それとも、それも王が騙されていると?どんな騙し方をすれば侵略を主導した国を信用できるようになるのか教えてもらいたいもんだな」


「陛下はお優しいからな。そこにつけ込んだんだろ」


「つまりあんたは自らの王を簡単に騙されるバカだと言ってんのか。王はこの国をより良い国にして、民を幸せにしたいと行動しているだろうに気の毒な事だ」


「そんな事は言ってない!!」


「あんたが言ってるのは客観的にそういう事だよ。そうでなければ侵略国家に怯えて条約を結んだ臆病者か。おまけに伯爵令嬢より実力もない、色仕掛けで騎士団長になった女にお前の弟が惨たらしく殺されている間、ノイエンドルフ騎士団はシルヴィアが女だからと気の毒に思って、殺さないように手心を加えて傍観をしていたと」


「貴様!どこまで俺達を愚弄……」


「では、どう言いたいんだ?時系列に沿って話してみろ」


「何?」


「あんたの解釈でいい。先の侵略戦争から今に至るまでに起きた事を、時系列通りに話してみろ。俺もファルケンマイヤー伯も黙って最後まで聞く」


 そう問われたテオドールはしばらく沈黙し、やがて考えながら話し始めた。

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