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Crimson Snow  作者: mya
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『茶番劇』

 時間になり、シルヴィアはアルヴァナの騎士服を身につけ、腰に二本の剣を提げて指定の場所に行った。その人物は既にそこで待っており、威嚇するように腕を組んで立っている。……ドレス姿で。


「……あなたでしたか。わざわざノイエンドルフまで何をしにいらっしゃったのですか?」


 呆れた様子を隠しもせずにシルヴィアが言う。それに対しその人物は、嘲笑しつつ髪をかきあげた。


「婚約の報告ですわ」


「婚約ですか。それはおめでとうございます。で、私にお祝いの要求にでも?」


「あなたから?そんな気の毒な事はしませんわ。でもそうですわね。式にはお呼びしましょうか」


「慎んで辞退させていただきます。それより早く本題に入っていただけませんか?一体私は何に付き合わされているのかと、今本気で悩んでいますので」


「相変わらず生意気な人ですね。騎士団長になっていながら礼儀作法も習っていませんの?」


「申し訳ありません。それで本題は?」


 時計塔に隠れているギルベルト達は顔を見合わせた。どうやら相手はシルヴィアの知り合いだったらしい。が、何より驚いたのは、あのシルヴィアが本気で辟易している様子である事だ。

 その女性は余裕の態度を崩さず、嘲笑するような笑顔を浮かべたままである。それを意に介することなく、ため息をついたシルヴィアは、自分から話を切り出した。


「あのメモの内容についてお聞きしたいのです。あなたは何をご存知なのですか?」


「そう言えばここの王はどうなさったの?お呼びしたはずなのに顔も出さないとは失礼な方ですね」


「メモ書き一枚で一国の王を呼び付ける無礼な相手に、なぜ礼を尽くさなければならないのですか?正式に招待されたわけでもない異国の貴族の令嬢が、このような場所で王との謁見が叶うわけがないでしょう。世間知らずで許される範疇を超えています」


「ふんっ!そんな口を私にたたけるのも今の内ですわよ。何しろ私はアルヴァナの王妃になるのですから。私が王妃になった暁には、一番最初にあなたを騎士団長の座から下ろし、我が国に仇為そうとした罪で投獄して差し上げます」


 本当に何を聞かされているのか。件の男の話はどうなったのか。それにクリストフ王があの女性と婚約したというのはにわかには信じ難いのだが、一体何が目的でそんな話をしているのか。ギルベルトには何もかも理解不能だった。他の騎士達も困惑した表情を浮かべている。

 しかしシルヴィアはどうか?たとえ嘘としてもクリストフ王が婚約したと聞いて冷静でいられるのか。そうして彼女の方を見ると、表情ひとつ変えずに女性を見据えていた。


「私は騎士です。それが我が王の望みであれば従いましょう。が、それも全て陛下から直接伺ってからのこと。あなたの戯言には付き合っていられません。今一度問います。あなたは何をご存知なのですか」


「戯言ではございません!“クリス”は祖父に叱られて反省し、私に謝罪をした上で婚約を申し込んできたのです!よほど祖父が恐ろしかったのでしょうね。だからご忠告申し上げましたのに。人気だけのクリスが世界一の騎士と謳われた祖父に敵うはずがないと。まあ私と祖父とでこれから剣も礼儀も教育して差し上げますから問題はありませんが」


 言い終えるか終えないかという瞬間に、シルヴィアは女性の腕を掴んで地面に倒し、頭を押さえつけた。その表情は、晩餐会でロニーに対した時よりも更に、冷たい怒りに満ちていた。


「何をなさいますの?!貴女は国と民を守る騎士なのでしょう?いわば私共の奴隷。その奴隷の分際で主人にこのような暴力を振るうとは……!」


「私の質問に答える気はないのですね?分かりました。……では、我が王への度重なる侮辱、何を意図してのものかは分からないが、エーレンフリート陛下を騙してこの場に呼び寄せようとした罪、償ってもらうぞ」


 シルヴィアは親善大使としてこの国に来てからは一度も手にしなかった真剣を抜いた。ずっと嘲笑を浮かべていた女性は一瞬意外そうな顔を浮かべ、それから再び鼻を鳴らして笑った。


「やはり貴女はアルヴァナに復讐したかったのですね。クリスに報告しなくては。騎士団長が武器も持たない貴族の令嬢を嫉妬から殺そうとするなどと、他国の人間にはどう映るでしょうね。そうして悪評を立てて国を貶めるのが目的なのでしょう?」


「私は騎士だ。クリストフ王の治世を守護する為に存在する。故にあの方をどこまでも見下し、侮辱し、軽んじる貴女をこれ以上野放しにはしておけない。ましてや貴女には、我が国のみならず、この国にも混乱をもたらそうとしている人間と共謀している疑いもある。……繰り返して宣言するが私は騎士だ。たとえ自国でなかろうと、罪なき人々の平和を脅かす恐れのあるものは排除する」


 シルヴィアの目に本物の殺気が宿る。剣を振り上げる、その様を見ていた女性は何故か勝ち誇った顔をしていた。が、その剣は女性に向けて振り下ろされる事はなく、何処からか飛んできた矢を払った。塔の中から様子をうかがっていたギルベルト達には何が起きているのか分からなかったが、この場にシルヴィアを殺そうとする人物が来ているのは確実だ。待機していた騎士達に合図をし、一斉に塔から出てシルヴィアを守るように囲む。


「ギルバート殿!塔の西側30メートル辺りの木、複数人います!」


「?!分かった!ロイス!ルディ!シルヴィア殿の守護を頼む!他の者は私に続け!」


「はっ!」


「……その手前、10メートル辺りにも気配があるのですが……殺気がない。お味方してくださる方でしょうか?」


「え?」


 シルヴィアの呟きを聞いたロイスとルディは、彼女の示した方角へと顔を向ける。と、そこには確かに味方が、しかも意外な人物達がいた。


 シルヴィアの言われた方向へと走り出したギルベルト達の目に、弓を構えている人物の顔が映った。やはりという気持ちと苛立ちとが湧く。


「テオドール!いい加減にしないか!!」


 そう。その人物はテオドールだった。彼は弓をシルヴィアに向けて構えたままギルベルトの叱咤を聞く様子もない。


「邪魔しないでください、団長!貴方はあの女の正体を知らないんです!」


「貴様の思い込みによる正体とやらに興味は一切ない!」


「思い込みなどではありません!団長はあの女に惚れているから目が曇っているだけです!いいですか?あの女はランズウィックを滅ぼした元凶なんですよ!当時団長だったクリストフ王とその配下の騎士達を色落としと、健気さをアピールする事で(たら)し込んで、前の王を殺させたんですよ!現在団長や一部の者達が、丁度同じように(たぶら)かされているではないですか。それが証拠です!このままでは団長がエーレンフリート陛下を殺しかねません!そうなる前に俺があの女を殺すんです!」


 その言葉を聞いたギルベルトは、無言でテオドールの利き腕を斬り落とした。

 最初、信じられない思いで番えていた矢ごと落ちた腕を眺めていたテオドールは、状況を理解すると腕を押さえて絶叫した。


「貴様は今、何重にアルヴァナ国を侮辱したか分かっているのか?……いや、分かるはずがないだろう。私の誇りにかけて貴様のような者に騎士は続けさせられん。ここで死ね」


「団長!!!」


 テオドールの背後から、10人ほどのノイエンドルフの騎士が出てきた。皆ギルベルトに向かって剣を構えている。


「貴様らもテオドールの妄言を真に受けているのか」


「妄言ではないと、今団長が証明したではありませんか。貴方はあの女に誑かされて仲間を斬った」


「よくこの私に対してそれほどの侮辱を重ねられるな。私が情で判断を誤って、あまつさえ陛下を弑すると?」


「現にランズウィックは滅び、アルヴァナの“賢王”は実力もなしに美しい容姿だけで英雄と祀り上げられていたらしい騎士団長に殺されたというではありませんか。我が国が同じ事にならないと言い切れますか?」


 ギルベルトについてきていた騎士達も、テオドールの言葉には軽く動揺していた。自分達も早い段階でシルヴィアに対して警戒を解き、尊敬する気持ちも湧いていたから。が、この騎士の言葉で一部の者が違和感に気付き、剣を構える。


「……お前達も誑かされたのか。そんなにあの女の体の具合が良かったのか?」


「何を言ってもお前らは信じないだろう。だけど俺にはお前らが根拠のない事を言ってると分かっているんだ」


「根拠のない事を言ってるのはお前だろう!簡単に騙されやがって!」


「あのクリストフ王が見た目だけだって?あの方の剣技を見ていないから言えるんだ!ギルベルト団長についてマドラルに行った奴らはみんな知ってる。あの方は人間が敵う相手じゃない!この場にいる人間、ギルベルト団長も含めて一瞬で殺せるくらいの実力があったぞ!」


「嘘です!クリスは私の祖父の英雄譚を自分のものとして流布したのです!皆さん、騙されてはいけません!」


 皆が叫ぶような声で話していたため、会話の一部が聞こえていた『ダゲール伯の孫』が、そう言って更に煽動しようとする。が、シルヴィアを守る為に彼女の側にいたルディがその言葉を遮るように言う。


「あなたはレイナルド卿の剣技は見た事がありますか?」


「レイナルド?ああ、あの方のそれは偽名ですわ。本名はレイモン・マクファーレンといって、クリスの親友というだけで重用されていた、偉そうなだけの小物で……っく……かはっ!」


 女性の首を掴んで押さえつけていたシルヴィアの手に力が入る。親指が皮膚を裂き、更に首へと食い込んでいく。


「ルディ殿。この方には無駄口を叩かせないようするゆえ、続けてくれないか」


「はい、シルヴィア様。おい!今のは聞こえたか?そっちの連中でもシルヴィア様とレイナルド卿の打ち合いを見た奴はいるだろ?あのレイナルド卿をこの人は小物だと言ったんだ!テオドールやロニーが悪魔と言ったシルヴィア様が、あの方には及ばなかったじゃないか!クリストフ王は同じかそれ以上の強さだそうだ!そんな人が実力がないわけないだろう!」


 ルディの言葉に、今度はテオドールに味方した者達が動揺する。一体どちらの言葉を信じればいいのか……混乱している者達の内二人が、突然背後から何者かに取り押さえられた。


「もうよかろう、ギルベルト。これ以上そちらの親善大使の方に聞き苦しい言葉を聞かせるものではない」


「……申し訳ありません。貴様ら、テオドールには止血、他の者は捕縛しろ」


 そう命令を受けたギルベルト側の騎士達は一斉に動き出し、テオドール側の騎士達は3人逃げ出そうとしたが、2人はすぐに捕まり、もう一人は前方から歩いてきた人物を見て足を止めた。

 その人物は怒りを抑えきれない表情を浮かべている。


「…………陛下」


 騎士の目に映ったのは彼らの王の姿だった。

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