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Crimson Snow  作者: mya
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『今を肯定する』

とんでもなく長い過去編が終わって、今回から話が現在に戻ります。

「…………以上が私が知っている範囲の話です」


 レイナルドの話に一切口をはさまず、黙って話を聞いていたエーレンフリートとギルベルトは、あまりの内容にしばし言葉が出なかった。


 シルヴィアの経験した事は重過ぎる。今ああして誇り高く立っていられるのが信じられない程だ。何があったのかを知れば、彼女の心が少しは分かるかとも思ったのは愚かだった。そんな簡単な話ではない。

 そしてレイナルドはこう続けた。


「最初は武力を持たない国の商人の娘という立場で、自分の身を守る術を持たなかった。ランズウィックが攻められた時には、アルヴァナの騎士を非難したら自分たちが危険だとばかりに、キッカケとなったシルヴィアを皆が責めた。アルヴァナへ行くとシルヴィアを連れて行った当の私共でなく、連れられてきただけのあいつが『危険分子』だと言われた。あいつは被害者だと庇うと『それはあの娘が弱かったゆえの自業自得だ。本当に自分の尊厳を守りたいなら自害していたはず』と言われる。自分の為に誰かが傷つく事のないように強くなろうとすると、今度は『そうして力をつけて、やはりアルヴァナに復讐するつもりだな』と言われる。騎士団長として手柄を立てると『美人だから周りの騎士達に守ってもらって勝って、それを自分の手柄に出来るとはいい身分だ』と言われる。いつも世間はあいつに弱い立場である事を強いて、一方的に責められる立場でいろと暗に言っている。あいつ自身もその空気は感じとっているだろうに何も反論しない。男だってあれほど四方八方から責められたら精神的に持たないだろうに、それを性別のせいにしたがる」


 耳に痛い話だった。エーレンフリートとギルベルト自体はそうではないが、ノイエンドルフの騎士達の中にも『一方的に責められる立場』でいる事を、シルヴィアに押し付けようとしている者はいる。戦争をしたのだからある程度は仕方がないのかもしれないが、やはり個人を責めるものではないと思うのだ。


「あいつの本当の心は未だに私にも分かりません。一生分からないのだと思います。クリストフも同様に。であるからこそ、あいつがこうしたいと行動する事を、口にする言葉を、全て信じて受け入れると決めているのです」


「シルヴィア殿が、やはり実は復讐心を抱いているとは全く思わないと、あの方の心が分からなくても言い切るという事か?」


「クリストフとシルヴィアの二人を見て、ギルベルト卿はそう見えたのか?」


「いや、全く見えない。愛し合っているようにすら見えた。が、それ程の目に遭いながら、本当に復讐心を持たずにいられると信じるのは非常に難しい。たとえクリストフ王やレイナルド卿に救ってもらったという認識はあったとしても、人は理屈で感情を制御しきれるものではないだろう」


「俺とクリストフ、それに恐らくグレンもだな。俺たちにとって、そんな事は問題じゃない」


「もし、命を狙われたら甘んじて受け入れると?」


「いや。さっき言っただろう。あいつがこうしたいと行動する事を、口にする言葉を、全て信じて受け入れる。あいつは騎士となった時に、自分の命はアルヴァナと民と、そしてクリストフのものだと誓った。その誓いを破らせはしないさ。……例えば、だ。シルヴィアが例の男の怪しい術にかかってクリストフを殺そうとするなら、俺がシルヴィアを殺してやる。グレンも恐らくそう言うだろう。シルヴィアに誓いを守らせる為に。クリストフにこれ以上の重責を背負わせない為に」


「貴殿はシルヴィア殿の事を大切に想っているのではないのか?それでも殺せるのか?」


「殺すさ。誰よりも大切だからな」


 切なさを含んだ苦笑を浮かべつつ、レイナルドは言いきった。

 彼は、いやクリストフも、その愛情が純粋に恋愛感情なのか贖罪が含まれているのか分からないと言ったが、そんな理屈は必要なのかとエーレンフリートもギルベルトも思う。凄惨な現場を見たゆえ迷いが生じるのだろうが、他人から見れば明らかすぎる感情だ。逆に言えば、これほどの深い愛を持ちながら迷うくらい、その現場は魔境のようだったのだろうが。


(もし我が国の騎士達がシルヴィアをそのような目に遭わせたら……私はその時どうするのだ?内乱で弱体化した騎士団の人数が更に減ろうと、怒りに任せて斬るのか?それとも国防の維持の為、謝罪で済ませようとするのか?)


 例え話で済まない可能性がある。ロニーやテオドールのような者は他にもいるだろう。その者達がシルヴィアを襲い、その現場に自分が出くわしたら。

 ……迷うまでもない。きっと自分はまた仲間を斬るのだろう。内乱の時のように。自分はシルヴィアを護ると約束したのだ。


(シルヴィア……)


 ドレス姿で庭の赤い花を眺めていた、騎士ではない彼女を見た時、縫い付けられたように彼女から視線が離せず、その美しさと、他の何ものも目に入らなくなる存在感に、ギルベルトは息を呑んだ。騎士姿の時と雰囲気があまりにも違いすぎて、シルヴィアだとは思えなかった程に。

 可憐な美しさと、自然に目が惹きつけられる存在感。そんなものを持つがゆえにアルヴァナの前国王に目を付けられたのか。天性の剣の才能といい、何故彼女はそんなものを持って生まれてしまったのか。持たなければ平凡で幸せな人生もあったかもしれないのに。

 ギルベルトがそう思っていると、ずっと黙ったままだったエーレンフリートがようやく口を開いた。


「俺は現場を見ていないから言えるんだろうが、そうと知っても騎士シルヴィア・オルドリッジに会えて良かったと思っている」


「ランズウィックの件は今のシルヴィアを形作るのに必要な出来事だったと、そう肯定しますか?」


 険しい表情でレイナルドは聞いた。それに対しエーレンフリートは真っ直ぐにレイナルドを見て、首を横に振る。


「そうじゃない。この国の内乱もそうだが、どんなに悔やんでも嘆いても、起きてしまった事は無かった事には出来ない。なら今を肯定出来るようにするしかねえだろ」


「今を肯定?」


「あんたらは当事者だから言えないだろう。だから俺が今の、騎士としてのあいつを肯定してやる。内乱の事は俺は肯定しちゃいけない立場だ。なら皆が今を肯定できる国にするのが俺の役目だと思っている」


 エーレンフリートの言葉にレイナルドは驚いたような表情を見せ、そして隻眼を伏せて薄く笑った。


「私が言える立場ではありませんが、やはり我が王を貴方に会わせてやりたい。お互いに得られるものがあるでしょうから」


「俺があのクリストフ王に何を与えられるのか分からねえが、俺も王とゆっくり話したいと思っている。その意思はクリストフ王に伝えておいてくれ」


「はい。必ず伝えます」


「出来ればグレンという奴にも会いたいがな」


「グレンですか?あいつならシルヴィアがアルヴァナに戻った後であればいつでも可能ですが。何故グレンに?」


「話を聞いていると面白そうな奴だと思ってな。そう言えばマドラル戦にはいたのか?シルヴィア以上に強い奴がいたなら耳に入ると思うんだが」


「あの時は、グレンは国で待機していました。私は詳しい話は聞いていませんが、恐らく我が王は盟約があるので援軍は送ったものの、ノイエンドルフとは戦いたくなかったのではないかと思います。何しろあの戦は明らかにマドラル側に非がありましたし、失礼な言い様ですがグレンまで派遣してノイエンドルフ側に大きな損害を与えたくはなかったのでしょう。マドラルの前王はアルヴァナの前王同様愚かで度し難い人物でしたから、我が王は嫌悪感を抱いていたようですし」


「確かに。クリストフ王は『王を名乗るなら臣下にあるべき姿を示せ』と。『偉そうにふんぞり返り、自らは何もせず享楽に耽り、いたずらに他国を侵すような王が最も許せない』とマドラル王に仰っていた。レイナルド殿の話をうかがって、あの言葉の意味がよく分かった。アルヴァナ前王の事を思い出しておられたのだな」


 あの時の怒りの表情は、ただシルヴィアが捕らえられていたというだけの事ではない。ランズウィックの惨劇が脳裏をよぎったのだろう。

 もしかすると王は、シルヴィア以上にランズウィックの件に心を囚われたまま、ややもすると当時に心が戻ってしまうのではないだろうか?前王を斬った事もあり、5年前から時が動いていないのでは。

 王自身のためにもシルヴィアのためにも、ゆっくりとでも時を進めた方がいいのだろうが、それを誰が言えるだろう。話に聞いただけでも「忘れろ」とは言えないと思うのに。と、その時、ふとエーレンフリートの顔が目に入った。


(あるいはエーレンフリート様なら仰られるかもしれないな。レイナルド殿がクリストフ王に会わせたいと言ったのも分かる気がする)


 臆面もなく思った事を口にするエーレンフリートに苦言を呈したりもするが、彼王は機微に聡く、他人を思い遣る事が出来る性質であるため、人を傷つけたりせず言うべきことが言える。その性質を好ましく思いつつ、自分もそうように……とは思ったことはなかったギルベルトが、この時初めて羨ましいと思った。

お読みいただきありがとうございました。

今日からまた投稿を始めますので、宜しくお願いします。


では少し新年のご挨拶などを。


皆さまお風邪など召されませんでしたか?

今年が皆さまにとって良い年でありますように。

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