『アルヴァナに栄光あれ』
皆さん、良いお年を!
後日、騎士叙任式があり、宣言通り行われた模擬戦でシルヴィアはめざましい活躍を見せた。
模擬戦はランダムに振り分けられたチーム同士での対戦形式で、擬似的に作られた拠点を制限時間内に制圧したチームが勝利というルールで行われた。
当初シルヴィアの所属するチームは、正面から猛攻を仕掛けてくる相手チームに押されていたのだが、短期決戦であるが故に、敵チームが総力をあげての力押しで拠点を狙う作戦を採ってきたと見たシルヴィアが、チームリーダーであったレジェに、猛攻を支えられるだけの人数を残し、少数で敵チーム拠点を狙いに行く強襲部隊と、その部隊に気付かせないよう陽動する部隊を作る作戦を提案した。恐らく拠点にはそれほど多くの人員は残していないだろうと。
入団テストでのシルヴィアの腕を見込んだレジェは、彼女に強襲部隊を任せ、自らは単独で陽動を引き受ける事にした。クリストフの元直属の部下で、その実力は折り紙付きのレジェが強襲すると見せかければ、敵チームは多少なりとも動揺して隙は出来るであろうし、間違いなく自分に意識が向くであろうからと。
その策は当たり、レジェを倒す(降参させる)、それが敵わなくともせめて足止めをする為に敵チームは人を割かねばならず、注意もそちらに引き付けられたもので、シルヴィア達強襲部隊はその隙に上手く拠点へ向かう事が出来た。
当然そちらの動きに気付いた者もいたが、強襲部隊まで追うとなると拠点攻略勢の人数が更に減り、レジェチームに押し返されてしまう恐れがあった為、シルヴィア達が拠点を突く前に制圧する事にしたようだ。お陰で追手もなく敵拠点へ着いたが、急がねば自チームが先に制圧されてしまう。
入団テスト時に手合わせしていた事もあり、守備に残っている者の中で誰が一番強いのかは分かっていた。シルヴィアは真っ先にその人物を倒し、他の守備隊を自分に引き付けた上で強襲部隊の仲間に拠点制圧を任せた。
そうして模擬戦はレジェチームの勝利となった。
そもそもアルヴァナ騎士団は速攻に定評がある。それ故に敵チームはスピード勝負の戦略を用いてきたし、レジェチームも基本戦略は同様であった。しかし出遅れた形となり、変更を余儀なくされた時点ですぐシルヴィアがこの作戦を提案してきたのだ。
レジェとしても、敵チームがどういった戦略で来るか、いく通りかのパターンは想定して、対抗策も考えてはいた。当然別働隊を編成して拠点を強襲する策もその中にはあったが、今日騎士になったばかりのシルヴィアがそういった状況判断が素早く出来た理由は何故か?勝負がついてクリストフの所へ報告に行った後、検討をする段になってレジェはシルヴィアに訊いた。
「時間制限のある勝負でしたから、守備を固める戦略は今回どちらも採らないだろうとは思っていました。問題は攻撃と守備の人員の割合でしたが、いずれにせよ先に指揮をしている方を倒して指揮系統を混乱させ、その間に別働隊が拠点制圧に向かうのはどうだろうかと考えていました。これが実際の戦場だとすれば、それが一番犠牲が少なくなるのではないかと」
レジェのみならず、この話を聞いていたクリストフやレイナルドやグレン、検討に参加していた騎士達は驚いた。そしてレジェは頷く。
「なるほど。貴女は陛下に剣を教わっていただけでなく、その理念も学んでいたのだな」
「もしや奇襲はシルヴィアが提案したのか?」
「はい。シルヴィアさんの提案がもう少し遅ければ、押し切られていたかもしれません。奇襲も、先日見た彼女の力があれば可能だと判断しました」
レイナルドの問いにそう答えたレジェは、少し考える素振りをみせた後、クリストフの方を見た。
「陛下。私はシルヴィアさんを団長に推薦します」
このレジェの発言に、周囲にいた者達はクリストフとグレンを除いて皆が驚き、口々に異論を唱え始めた。
「アルヴァナ生まれでない人間に、この国を守る騎士団長が務まるはずがない」
「確かにこの人は気の毒な立場ではあるが、だからといって騎士団長にするのは……。ここに情を持ち込むのは間違いだ」
「そもそも女性に大局を見る目はない」
「そうか?自分も副団長として、彼女は団長と呼んでもいい人物だと思っているが」
グレンの発言に、異論を唱えていた者達は口をつぐんだ。が……
「しかし……剣の腕が優れているからといって、それだけで団長というのはいかがでしょうか」
「剣の腕だけと思うか?先刻レジェが言っていただろう。陛下の理念を理解しているから、自分もレジェも彼女を推しているんだ。女性は大局を見る目が足りないと言うが、そうだとしても団長一人で全てを決めるわけではない。最終決定は団長の義務であり、権利であり、責任でもあるが、それまでの案は隊毎に決める。その案をまとめる為の会議を経て、団長が最終的に方針を決める。その方針は、陛下の理念を理解している者でなければならない。故に彼女が最適だと言っている。情ではない。むしろ情であれば、危険の少ない後方勤務を勧める」
グレンの言葉を皆が黙って聞いた。異論のあった者もそれ以上何も言えなかった。
クリストフが静かにシルヴィアの方を見る。その表情は複雑な心境を映していたが、見つめ返すシルヴィアの瞳は変わらず強い光を放っている。
そうしてクリストフは頷いた。
翌日、正式にシルヴィアを団長とする事が発表された。これには当然、騎士団のみならず、大臣達の間でも不満が噴出した。
「団長という立場を利用して陛下に近付き、弑するつもりだ!」
「女が団長だなどと他国に笑われる」
「その為にも自分が副長として居る。自分はシルヴィアさ……団長に勝てる、団唯一の人間だ。団長が間違っていると判断したら止める。が、そもそも陛下が情だけで彼女を団長にし、今まで大切にしてきた騎士団員や民の命を預けると思うか?それほどの侮辱、他にはないぞ。彼女が団長にふさわしいからそう決められた。それだけの事だ。納得できないのは自らの恐れと力不足故と知れ」
皆の不満の声に、グレンがそう言い切った。
確かにそうだ。国王弑逆の際も「大臣個人の命を守る為に部下達の命はかけさせない」と言い、先日もダゲール伯の孫に対して、他を軽んじる彼女などに騎士達の命は預けさせないと言っていた。騎士ひとりひとりの命を大切にする、そんな団長、王だから彼らは尊敬し、彼の為に命をかけられると思う。そのクリストフが安易に情だけでシルヴィアを団長に推すとは考えられない。納得は出来なくとも、クリストフが私情で団長を決めたのではないという事だけは信じられる。
「皆さんが納得できないのは当然だと思います。私を危険視するのも陛下を案ずるがゆえ。ですが陛下から団長という大任を授かった以上、私は行動で示していく覚悟です。私の命はアルヴァナ国、クリストフ陛下、そして民のためのもの。陛下が団長として築かれた誇りと民、他国からの信頼を、私の行動で汚させはしないと誓います」
自らを、家族を、母国を襲った国の騎士団の服を身に付け、ハッキリとシルヴィアは言った。その騎士服を着るという行為が、彼女の胸に何をもたらすのか、誰にも分からない。それでも彼女は真っ直ぐ前を見据え、叫んだ。
「アルヴァナに栄光あれ!」
その姿は、彼女が団長になった事を危惧する者達にも、戦いの女神のように輝いて見えた。
活動報告にも書かせていただきましたが、お正月1日、2日は多忙の為、投稿をお休みさせていただきます。




