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Crimson Snow  作者: mya
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『ランズウィックの惨劇』3

 今にも斬りかからんばかりの目でレイモンを睨むクリストフの様子に、周囲の部下達は彼らの上官同士が相争う事態を避けようと口を開いたが、クリストフの気迫に気圧され、制止の言葉が出てこない。

 が、レイモンだけは違った。


「一人で行くのは認めないと言ってんだろうが。俺も一緒に行く」


「王を手にかける騎士などという汚名を、俺以外の人間が背負う事はない」


「この状況を見て頭にきてるのがお前だけだとでも思ってんのか。俺だってもう我慢の限界なんだよ。確かに王があんな人間だと知りながら騎士になった俺が愚かだったんだろうさ。だがな、王の手先になって、つまんねー罪で民をひっ捕らえたり、圧政に耐えかねた民の反国王を唱える集会を力で鎮圧したりするのは、もうゴメンだ。ましてやこれは何だ?騎士どうこう以前に人として許されねえだろ」


 クリストフに続きレイモンも勲章を放り投げ、それを見た彼らの部下達も倣って次々と騎士の証を捨てていった。もちろんグレンも。


「団長。自分はどこまでも貴方について行きます。自分だってこんな事がやりたくて騎士になったのではありません。戦争ならばともかく、これは一方的な侵略行為ではありませんか。一体誰に向かって己は騎士だと誇れるというのか」


 忌々しそうにグレンは言った。そして気遣わしげな表情をシルヴィアに向ける。


「この子は自分の妹くらいの年でしょう。もし妹がこのような目に遭わされたらと思うと、とても許せる気がしません。ですから連れて行って下さい」


「事が失敗すれば、その妹も無事では済まないぞ」


「団長と副団長が失敗などなさるはずがないでしょう。そもそも団長は、王の命令なしに我々を率いてここへ来ると決めた時点で、命令違反のかどで処罰の対象となる覚悟もおありでしたでしょうし、責任は全て負うつもりだったとは思いますが、少なくとも自分は団長お一人に責任を負わせる気はありませんでした。どうせあの王の事。処罰とはそれ(すなわ)ち処刑です。自分は団長をみすみす死なせるつもりはありませんよ」


「そういうこった。前々から民に人気があるお前を疎ましく思っていたようだしな。この機とばかりにお前を消すつもりだろう。王もそう思っているかもしれないが、こちらとしてもいい機会だ。王にはご退場いただいてアルヴァナを住みやすい国にしてやろうぜ」


 クリストフは即答しなかった。厳しい表情のまま団員達を見回すと、彼らもみんな頷く。


「我らの思いは団長と共に」


「団長がダメだと仰っても勝手について行きます」


「アルヴァナを安心して住める国に!」


 彼らの言葉を聞き、一度固く目を閉じたクリストフは、目を開くとシルヴィアの方を見て、怖がらせないようその場から声をかけた。


「お嬢さん、私は君を我が国に連れて行こうと思う。しばらくは騒がしくなるが、できる限り速やかに私が責任を持って治めるゆえ、待っていていただきたい」


  “私が責任を持って治める”との言葉に皆が息をのむ。これはクリストフが“自らがトップに立つ”と宣言した事になるからだ。それを察したレイモンは黙って頷き、他の団員達も(なら)う。

 クリストフはシルヴィアの両親の遺体の側で(ひざまず)き、自らの胸に手を当てて頭を下げた。


「我が国のこの度の行い、どれ程の謝罪を積み重ねても(あがな)えるものではございません。その上私の独断で、あなた方の大切なお嬢様を我が国にお連れする事、お許しいただきたい。私は私の一生をかけてお嬢様を守り通す事を誓います」


 誓いを済ませて立ち上がると、クリストフは今後の事について指示を出していった。

 捕縛しておいたガストンに対する事情聴取と、この期に及んでまだこの国で蛮行を行っている者達については問答無用で斬り捨てる、それらを可及的速やかに行うこと。現在、ランズウィックの民を守っている部隊はここに残し、遺体の埋葬や壊された物の修繕、警備等にあたらせること。この国を出て後、野営にはなるが少々の休憩を取り、体調を整えて王襲撃に向かうことなど。


「我々がここに向かった旨の報告が陛下の耳に入っていれば、今度は我らを討伐する為の騎士隊が送り込まれてくるだろう。そうなればこの国に更なる被害をもたらす事になりかねない。事は急を要するぞ。心してかかれ!」


「はっ!」


「ガストン隊長の尋問は自分が行います。尋問後は処分でよろしいですか?」


「それでいい。頼む」


「分かりました。では、行ってまいります」


 グレンはシルヴィアと彼女の両親の方を向いて一礼した後すぐに家を出て行き、他の者もそれに続いた。シルヴィアを抱えたレイモンとクリストフがその場に残ったが、レイモンはシルヴィアの身をクリストフの腕に託すと、


「俺も行ってくる。お前は最後の大仕事まで、その子を守りながら気持ちを整理しておけ」


 と言い置き、前の皆に続いた。



 残った騎士達の抵抗や蛮行は杞憂(きゆう)に終わった。

 『英雄クリストフ』とその直属の騎士達はアルヴァナの中でも精鋭中の精鋭だ。それに向かっていくなど自殺行為だと誰もが思ったのだ。その容赦のなさについても、そこここに転がる同じ隊の仲間の死体を見れば分かる。せめて現場を見られなければ殺されずに済んだかもしれないが、何故かクリストフ達がここにいる。あの暴君である王の命令に逆らえるものでもなく、つまりピエール、ガストン隊の者達は『詰んだ』のだ。


 捕縛されている騎士達は、戻ってきたレイモンやグレン達に向かって叫んだ。


「理不尽じゃないですか!我らは陛下の御意に従ったまで。団長の御心に染まないからといって、何で我らがこのような目に遭わされなければならないのですか!」


「そうだ!では我らはどうすれば良かったのだ!陛下に逆らっても殺される、命令に従えばクリストフに殺されるでは、命令が下った時点で我らの死は確定だったではないか!」


 下級騎士に続いてガストンも言う。と、レイモンの足がガストンの顔面を蹴飛ばした。


「あ〜あ。身動き出来ない奴に蹴りを入れたなんて知られたら、クリストフにどやされるな。おい、どうしてくれんだ?お前らがくだらん事を言うからだぞ」


「な、何を……!」


「どうすれば良かったかと、本気で聞いているのか?ならばお前達はどの道いずれ、我々とやり合う事になっていただろうな」


 グレンが心底軽蔑したように言う。レイモンは呆れたように「無駄だ」とばかりに首を横に振る。本当に意味が分からないと口々に文句を言う騎士達に、グレンが静かに言い放った。


「理念の違いだ。分かるはずがない。我らが同じ命令を受けたなら、武器を持たない無辜(むこ)の民には威嚇をしても手出しはしなかっただろう。お前達はそれをした」


「偽善を!クリストフも貴様らも、どれほど綺麗事を言ったところで人殺しだろうが!」


「クリストフや俺らが偽善者だって事と、お前らが抵抗出来ない相手に好き勝手やらかす人間だって事は別の問題だ。勝手に並べるな。それに俺らがいつ清廉潔白だと主張した?グレンが言っただろうが。単に理念の違いだ。自分の思い描く騎士としての在り方が俺らとお前らは違う。それだけの事だ。……と、お喋りしている暇はないんだったな」


レイモンの言葉にグレンが頷き剣を抜く。


「副団長と共に自分も団長にどやされるとします」



 レイモン達がやるべき事を終えてクリストフの所へ戻ると、二人はシルヴィアの部屋に移動していた。彼女はクリストフに抱きかかえられたまま眠っていて、クリストフはそんな彼女の頭をずっと撫でている。


「ガストンに話を聞きましたが、どうにも要領を得ませんでした。陛下の命令は先に聞いた通りでしたが、何故ここまでの惨状に至ったのか、ピエール、ガストンが命令したわけでもないそうで、よく分からないと。正気に戻ったらしい一部の者が周囲の惨状を改めて見て泣いていました」


「……まあ、そうだろうな」


「ピエール、ガストン隊は全員殺すか捕縛してある。ランズウィックの民は捕縛されている連中に石を投げたり、殺させてくれと叫ぶ者もいて少々混乱しているが、どうする?」


「捕まえた連中には復興の手伝いをさせる。石を投げられようが刺されようが、生きている限り。ここに残す部下の手間を増やす事にはなるが、俺が出来る限り早く国を掌握すれば、こちらに回す人員も増やせるし、今後の指針も決められる」


「じゃ、行くか」


「ああ」


 クリストフはシルヴィアをマントで頭までスッポリと覆い、抱えたまま立ち上がった。


「その子、本当に国に連れて行くのか?お前の意図は分からないでもないが、アルヴァナはその子にとって憎んでも憎みきれない国だろうに」


「レイモンは真っ直ぐだな。お前のそういうところを好ましいと思うよ」


 苦々しげに笑いながら言う。その意味をレイモンは図りかねていたが、グレンは何かに気づいたようにクリストフを見た。


「……まだ混乱している間に、この国を出た方が良さそうですね。急ぎましょう」

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