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Crimson Snow  作者: mya
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『初訓練』2

「今回はまず実力を見させていただく為に、訓練という形ではなく、実戦形式で打ち合いたいと思う。よろしいか?」


「私はギルバート卿に指導していただく身です。貴公の指示に従います」


「分かった。では」


 ギルベルトが二本の剣を構える。それを見た騎士団員からざわめきが起こった。

 彼は普段、団員相手の訓練では剣一本しか使わない。それだけシルヴィアには本気で相手を務める気なのだろう。騎士団長同士の手合わせなのだから当然である。特に彼女の強さを目の当たりにした今となっては……。

 ギルベルトの双剣に対しシルヴィアは居合のような構えを見せた。そして


「シルヴィア・オルドリッジ。全力で、参る!」


 宣言と同時に、瞬く間にギルベルトの懐へと飛び込んだ。


(‥‥‥‥っ!早い)


 クリストフと違い上背がない分、低い位置からの斬撃となる事は分かっていた。が、懐に飛び込んでくるまでの速度、剣を抜く速度が予想を越えていて、ギルベルトは剣を弾き飛ばされないよう片方の剣で受け止め、もう片方の剣で押さえこむことで、それを防ぐのがやっとだった。それぞれにクセが異なる相手の剣の急所を、しかも動いている時に狙い撃つのだから、元々そういった感覚に優れていたのだろう。

 感心しているヒマもなく二撃目が来る。また利き手である右側の剣の急所を狙って。今度は二本の剣をクロスさせて防いで、シルヴィアの剣を弾いた後、左手の剣を肩辺りに振り下ろすと、なんと彼女は腕を上げてギルベルトの左腕を突きあげて防ぎ、次いで薙いできた右手の剣を、自らの剣を立てて防いだ。

 力では圧倒的に勝っているギルベルトの攻撃に対し、急所をつく事で最小限の力で対抗して見せている。体格の違う相手との戦いの手本ともいえるが、誰にでも出来る事ではない。彼女は『天才』なのだ。剣を交えてみてよく分かった。


 その後も互角の攻防が続く。

 シルヴィアはギルベルトの双剣に、時に格闘を織り交ぜながら対抗し、徐々にシルヴィアのスピードに慣れてきたギルベルトは、それでも必殺の一撃を彼女に叩き込む事が出来ずにいた。正に騎士団長同士のハイレベルの攻防に、他の騎士たちは息をのむ。無敵の双剣使い、鬼の騎士団長ギルベルトが、これほど攻めあぐねている所など初めて見たのだ。


「二人ともそこまで!これ以上やっていたら、他の奴らが訓練する時間がなくなっちまう」


 そうしてエーレンフリートが二人を止めたのは、実に五十合以上打ち合った後である。

 声がかかった瞬間、二人同時に手を止め、大きく息を吐き出してから顔を見合わせて笑い、頭を下げた。


「ありがとうございました」


「こちらこそ。さすがはエーレンフリート様と対等に戦った方だ。部下たちの前で剣を飛ばされる醜態を見せるわけにはいかないので、内心、冷や汗をかいていた」


「緊張したのは私の方です。双剣使いの方とは初めて手合わせしたので、どのように対応すればよいのかと。ですが、お陰で勉強になりました」


 これまた騎士たちにとって初めて見るギルベルトの姿であった。ただでさえ彼が笑う所などほとんど見られないのに、訓練で手合わせした後に、このように笑いながら言葉を交わすなど、今までは全くなかったのだ。(まあ確かに美人ではあるしなあ)とは、シルヴィアに対して不満を持っている騎士も含めて思った事で、鬼のギルベルト団長もやはり男なのだと実感させられた。

 そしてエーレンフリートはといえば……


「おい。ギルベルトばっかいい思いしてんじゃねえぞ。俺にもやらせろよ」


 こんな事を言い出す。それを聞いたギルベルトは、やれやれと肩をすくめたが、騎士たちの方から笑い声が漏れて


「陛下。その言い方はマズいですって!抱かせろって言ってるみたいに聞こえますよ!」


 などと言われた。

 その声で益々笑い声が大きくなる。エーレンフリートの言葉では、そのような意味にとらえていなかった為、しばらく騎士の言っている事の意味が分からなかったシルヴィアだが、よくよく考えて理解すると頬を赤く染めて俯いてしまった。不謹慎とは思いつつ、至近でその様子を見ていたギルベルトは、先刻まで勇ましく剣を交わし合っていた彼女の女性らしい一面を見て、可愛いと感じた。が、可愛いで済ませているわけにはいかない。騎士団長として部下たちに言わなければいけない事がある。


「貴様ら、女性のいる前でそのように下品な物言いをするとは何事か。エーレンフリート様も。もう少し言葉を選んで下さい」


 ギルベルトにたしなめられ、騎士たちは恐縮して口をつぐんだが、エーレンフリートはキョトンとして何度か瞬きをした後、頭をポリポリとかいた。


「あ~……悪かった。なんだかな。そいつがあまりにも強いもんで、つい男と同じつもりになっちまう。俺らの所の騎士団に女はいないしな」


「アルヴァナでも女の騎士は私一人です」


「そうなのか?」


「はい。やはり、いざ騎士になれば男も女も関係がありませんから。体力や腕力に劣るからといって、訓練でも、ましてや戦場で特別扱いを受ける事はありません。いえ、むしろ狙われ易いと言っても過言ではないでしょう。どれほど腕が立っても持久戦に持ち込めば崩れますし。女性が仮入団してくる事はあっても基礎体力が男性より劣るので、男性と同じ訓練のメニューを与えられると、ついて行けずにすぐに辞めてしまいます」


「の割に、お前は女でも団長まで張ってんだな」


「私は負けず嫌いなのです」


 冷やかしていた騎士たちは、シルヴィアの話を聞いてまた黙り込む。

 女の分際でと思いつつ、エーレンフリートが言うように実感として分かっていなかった。体力の差。腕力の差。それらは戦場に出れば致命的な弱点となるはずなのに。そう考えると益々シルヴィアの凄さを実感して、大の男が集団で「仲間を殺された恨み」がどうだと言っていた事が恥ずかしく思えた。


「さて。じゃあ、ギルベルト。後の訓練は当初の予定通り副団長に任せて、お前は午後の訓練まで、こいつに戦略・戦術の講義をするなり、茶でも飲んで親交を深めるなりしてこいよ」


「‥‥‥‥はい。かしこまりました。ではシルヴィア殿。行こうか」


「はい」


 シルヴィアは微笑み、エーレンフリートとギルベルトに頭を下げた。それから窓べりに置いてあるタオルを取りに行き、騎士たちの集団の方へと歩み寄る。


「これは貴方のものか?」


 シルヴィアにタオルを差し出した騎士に向かって聞く。


「あ、はい。そうです」


「分かった。すぐに洗って明日の訓練時には返すので、少し借りておく」


「そんな、いいですよ、そのままで」


「そういうわけにはいかない。汗も付いている事だし、洗って返すのは当然だ。では、これで失礼する」


 そう言って頭を下げ、エーレンフリート達の方へと戻って行った。振り返った際、結われた髪が揺れていい香りが漂ってきた。自分たちと手合わせした時はともかく、ギルベルトと打ち合って汗をかいたはずなのに。シルヴィアにタオルを渡した騎士と、その周囲にいた者たちは、何となく赤くなった。

 騎士団長でありながらタオルを自ら洗って返すと言ってみたり、異国とはいえ下級の騎士である自分達に向かって自然に頭を下げるなど、非常に腰が低い人物であるようだ。あれほど強いなら、もっと居丈高になってもおかしくないと思えるのだが。

 彼女が、戦場を離れれば普通の優しい女性なのではないかと、この時になって初めて騎士たちは思った。

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