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Crimson Snow  作者: mya
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『晩餐会』1

 夜になり、シルヴィアを歓迎する晩餐会が催された。彼女はブルーのイブニングドレスに着替えており、それがまた非常に似合っていて人目を惹く。

 彼女を見た貴族の幾人もがギルベルトに


「あの方は騎士団長だと聞き及んでおりましたが、とても美しい方ですな。美貌をもって騎士団長とするとは、アルヴァナは平和な国なのでしょうなあ」


 といったような事を言いに来た。


(平和なのは、あなた方の頭の中だ……)


 心の中で呆れつつ、適当にあしらう。

 彼女がエーレンフリートと渡り合う腕の持ち主で、この国の騎士が『気が付けば斬られていた』と評される形で殺されたと知ってもなお、美しいから騎士団長になったと言えるのだろうか?

 他国と交流がない弊害はこんな所にも出ている。ノイエンドルフの民はあまりにも世間知らずなのだ。エーレンフリートは、その辺りも考えてシルヴィアを迎える事を決めたのだろうか?恐らくそうだろうと思う。内乱の際に反乱を起こした者たちが言った「閉鎖したままではこの国は世界に取り残され、これ以上の発展は望めない」という言葉には、ギルベルトも思う所があったから。

 噂の人であるシルヴィアは、エーレンフリートにエスコートされてこの場に来たのだが、そのエーレンフリートは大臣の一人につかまってしまい、何やら話し込んでいる。途中ギルベルトの方をチラッと見て、親指でシルヴィアの方を指し合図を送ってきたので、了解と手を上げて応えてから、一人で所在無げにしている彼女の所へ向かった。

 エーレンフリート達の近くを通る際、


「晩餐会の席で仕事の話とは無粋でしょう。ほどほどにして陛下を解放して差し上げて下さい」


 と声をかけていくのを忘れないギルベルトは、結構な忠臣と言えるだろう。

 彼はノイエンドルフ一の公爵家の長男だ。しかも他国に名だたる双剣使いで、泣く子も黙る鬼の騎士団長とくれば、大臣といえどもなかなか文句は言えない。そうして小さくなった大臣には目もくれず、壁の華と化しているシルヴィアに飲み物を差し出した。


「シルヴィア殿。お疲れではないか?」


「あ、ファルケンマイヤー伯。ありがとうございます。エーレンフリート陛下が私の体調を気遣ってくださって、つい先刻まで部屋で休ませて頂いていました」


「そういう事ではなく」


「?……どういう事か分かりませんが、困っている事はありません」


 ニコッと笑い、ギルベルトから受け取った飲み物に口を付ける。瞬間、驚いたように目を見開いた後、眉をひそめた。


「シルヴィア殿?」


「これは‥‥‥‥酒……ですか?」


「そうだが。もしやシルヴィア殿は酒が飲めないのか?」


「いえ。大丈夫です」


 言いながら一気にグイッとグラスを傾ける。あっ、とギルベルトが手を伸ばすも時すでに遅く、中は空っぽになってしまった。


「そのような飲み方は酒に強い者でも良くないのだ。無茶をするものではない」


「本当に大丈夫です。せっかく私の為に開いて下さった席なのですから」


「かといって、酔って具合が悪くなっては意味がないだろう。何か召し上がられてはどうか?私が取ってこよう。好きな食べ物は?」


「好き嫌いはありませんが。ファルケンマイヤー伯にそこまでして頂くわけには参りません。自分で取りますから」


「遠慮などしなくてもいい。では適当に見繕ってくるので、しばし待たれよ」


 そう言ってギルベルトは食事を取りに、食べ物が置いてあるテーブルに向かった。

 ふと戦場で見かけた時のシルヴィアを思い出す。全身を返り血で染め、剣を携えて立つ姿は、それだけで周りを圧倒する雰囲気を持っていた。その彼女が鎧を脱ぎドレスに着替えると、あれほど可憐な女性に変わるとは。やはり彼女は本来、戦うべき人ではないのだろう。レイナルドから聞いた彼女の境遇を思い出し、胸が痛んだ。


「おい、ギルベルト。あいつは?」


 そう声をかけてきたのは無論、エーレンフリートだ。


「あいつ?シルヴィア殿ですか。あちらで待って頂いていますが、何か?」


「すぐ戻れ。さっきからロニーがヤバい視線を送っている」


 ロニーとは、シルヴィアを受け入れるに際し苦情を言ってきた者の一人だ。

 ギルベルトがそのロニーの姿を探すと、剣に手をかけ、シルヴィアに向かって一直線に歩いて行っている所だった。恐らくギルベルトが離れたのを見計らって、行動に移したのだろう。


「あのバカ者が!何故このような場に剣など!」


 エーレンフリートとギルベルトが急ぎシルヴィアの元へ行こうとすると、二人そろって背後から肩に手をかけられた。振り返ると、そこにはレイナルドが立っていた。


「手を出すな。黙って見てろ」


「しかし、シルヴィア殿は剣を持っていない!あれでは身の守りようもない」


「うちの団長をナメるな。シルヴィアの為にも、あの騎士の為にも、ここはやりたいようにやらせた方がいい」


「そのような事を言って、万が一にも大事に至ったらどうされるおつもりか!」


「あいつに万が一などあり得ねえ」


 レイナルドは不敵に笑って言った。そうしてシルヴィアの方へ向かって二人より前に進み出る。見ると、手には殺傷力のない訓練用の剣を携えている。


「それは」


「あいつが最も多く握っている代物だ。こんな事もあるだろうからと、クリストフ陛下が持たせた」


 この時すでに会場は騒然としていた。ロニーが剣を抜いて構えて立ち、それを見た争いを知らない貴族たちは悲鳴を上げ、騎士たちは「ロニー、やっちまえ!」と歓声を上げている。

 対するシルヴィアは落ち着いた様子でロニーに向き合っていた。


「目障りなんだよ!よくもぬけぬけと俺達の前に顔を出せたな、この悪魔!」


「‥‥‥‥‥‥‥‥」


「そんなドレスなんか着てごまかそうとしても、俺たちは騙されないからな!血にまみれた殺人狂が!」


「‥‥‥‥‥‥‥‥」


「何とか言ってみたらどうだ?それとも言えないのかよ。そりゃそうだよなあ。俺は正しい事を言ってるんだから」


「‥‥‥‥そうだな」


「はっ!認めたか。だからといって許されると思うな!死んで、てめぇが殺した奴らに詫びてこいよ!……ああ、ムリか。あいつらはイイ奴らだったし、天国に行っているだろうからな。でも、てめぇは地獄行き決定だ!あいつらの所には行けねぇよなあ!」


 勝手な言い分である。どちらも騎士として戦争で戦った身だ。普段の人格はどうあれ人殺しに変わりはない。

 エーレンフリートもギルベルトも、数え切れないほどの人間を斬ってきた。ロニーとてそうだ。シルヴィアに殺された騎士たちも。死んだ後に行く先は皆同じだろう。なのに一方的に何を言うのかと、ギルベルトはロニーの所へ行こうとしたが、またもやレイナルドに止められる。止めに行く許可を得ようとエーレンフリートの方を見ると、彼の王は苦々しげに笑っていた。


「‥‥‥‥エーレンフリート様」


「俺も悪魔だな」


 小声で呟かれた言葉に足が止まる。


 身内を殺した。仲間を殺した。決断が遅く、そのために父王も死なせてしまった。その自責の念が彼の心の中から消える事はない。それを失くしてしまう事こそ罪悪だと。

 エーレンフリートに仲間を裁く許可を求めるのは酷だろう。が、シルヴィアに対してあの暴言は許されないのだ。ましてや怪我でもさせたら……ロニー達を率いる立場の人間として、これ以上放置しておく事は出来ない。ギルベルトはシルヴィアの過去を知る者として、この国で彼女を守る責任があると思っているから。

 が、ギルベルトが動き始める前にロニーがシルヴィアに斬りかかった。


「シルヴィア!」


 ロニーの剣がシルヴィアに届くより早く、絶妙なタイミングで彼女に向け、レイナルドが訓練用の剣を投げた。それを片手で受け取ると、そのまま流れるような動きでロニーの剣を止めた。


「何だよ!分かったふりをして、結局は死ぬのが怖いのか!」


「私は騎士だ。死など恐れてはいない」


「なら、おとなしく斬られろよ!」


 一度合わせた剣を離し、体勢を立て直して斬りかかろうとしたところ、シルヴィアがあっという間にロニーの懐に入り、柄の部分でみぞおちを突いた。誰の目にも圧倒的な力の差だ。シルヴィアは表情一つ変えず、息も乱さず、紅い目でロニーを見ていた。

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