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Crimson Snow  作者: mya
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『世話係・ビアンカ』

 その後、城の中に入って案内をする段になり、レイナルドがギルベルトに

「うちの団長を預かってもらうにあたって、いくつか確認事項がある。少し時間をもらえるか?」

 と声をかけたので、エーレンフリートがシルヴィアを案内する事になった。ギルベルトと二人で、シルヴィアの傍には出来るだけ常時どちらかがついているようにしようと決めていた為、他の者に任せるわけにはいかないのだ。


 二人で城内を回っていると、すれ違う者たちから好奇の目で見られた。仕方がないと分かっていても、どうしても居心地の悪さを感じてしまう。ふう、と息をついたシルヴィアをエーレンフリートが見た。


「すまないな。皆、客人が珍しいもんだから」


「過日のお話ですと、そのようですね」


「うちの国はとりあえず資源はあるし、基本的に他国との交流はないからな。個人レベルでの行き来なんかは別に規制しちゃいないが、それでも戦争以外で異国の人間を見るのは珍しい。先日のお前の立場みたいに、下手に同盟を組んだばかりに他国の戦争に駆り出されたりするのが嫌で、俺も先代も先々代も、他国との交流を交易ですら避けてきたせいでな。今でもこの主義が間違っているとは思っていないが、あまり閉鎖的なのも国の発展を妨げるのではないかと、ずっと迷いはあった。そういう点でも今回の不可侵条約は多少なりとも国の、誰より俺自身が他国に目を向ける、いいキッカケになるんじゃないかと思ってる」


「そう言って頂けると、我が王も喜ばれると思います」


「となると、俺とお前とギルベルトの役割は重要だな。しっかり友好関係を結ばねぇと」


「はい。よろしくお願いします」


 クスッと笑って深々と頭を下げると、シルヴィアの美しい金髪がサラサラと肩から流れ落ちた。どうにも調子が狂う。隣で歩いている人物と、ほんの一ヶ月ちょっと前まで命のやり取りをしていた相手が同一人物だとは。


「どうかなさいましたか?」


 複雑な表情をしているエーレンフリートを不思議そうに見上げる、その紅い瞳が美しい。そして『美しい』と思ってしまった自分に何やら気恥ずかしくなり、エーレンフリートは慌てて目をそらした。


「しかし、あれだな。失礼な言い様だが、お前ってドレスを着ていると別人みたいだな。所作とか」


「ああ、これは我が王から貴国にお世話になる以上、失礼な態度を取ってはいけないと申しつけられて。一騎士として対するのと公人として対するのとは違うのだと。この一月、随分色々と叱られつつ教えて頂きました」


「そうか。俺は別に気にしないけど、他国との接触があるアルヴァナの騎士団長ともなれば、そういうのも必要なんだろうな。俺はともかく、ギルベルトにその辺を伝えておけば、礼儀作法なんかも教えてくれるぜ」


「それは助かります。そうか。ギルバート卿は公爵家の御子息なのだから、様々な作法なども心得ておられるのですね」


「お前だって騎士団長になるくらいだし、見た目も貴族っぽいと思うんだが、違うのか?」


「私は商人の娘です。うちの家系で騎士になったのは、きっと私が初めてかと」


「商人?意外すぎるな」


 騎士としての堂々たる立ち居振る舞いから見て、ギルベルトのように爵位を持った家系の騎士の育ちだとばかり思っていたのだが、商人の娘とは。そもそも身分の低い者が、王に仕える騎士達の長となる例など滅多な事ではないはずだ。しかし元は騎士で、実力主義で団長を決めるという彼の国の王にすれば、身分などどうでもいい事なのかもしれない。そう考えると、改めて面白い人物だと思う。


「あ、陛下」


 ふと後方から、遠慮がちな女性のか細い声が聞こえてきた。二人で振り向くと、そこには非常に小柄な、年若いメイドの女性が、恥ずかしそうに顔を赤くしながら立っていた。


「ああ、ビアンカ。丁度良かった。こっちに来いよ」


 エーレンフリートに『ビアンカ』と呼ばれたメイドは、おずおずと近付いてきて、おどおどとシルヴィアを見上げた。


「紹介する。こいつはビアンカ・クラーマーといって、ここにいる間、お前の世話係を務める奴だ。気は弱いが世話係としては真面目で優秀だから、安心して色々申しつけていいぜ。ビアンカ。こちらがアルヴァナ国から来たシルヴィア・オルドリッジ嬢だ」


「え?あ……え?」


「落ち着け、ビアンカ。どうした?」


「あ‥‥‥の……その‥‥‥‥シルヴィア様って……陛下と戦われたという騎士様ですよね」


「ああ」


「その方がこんなにお綺麗な女の方とは思っていなくて……驚きました」


「綺麗?私が?」


「はい‥‥‥‥って、え?あの……すみません‥‥‥‥」


 シルヴィアにすれば「綺麗」などと言われた事が意外で、ビアンカにすれば初対面でいきなり「綺麗」などと言ったのは失礼だったのかと思い、お互いに困惑する羽目になった。間に入ったエーレンフリートは、


「お前らな。俺を挟んで両側で困惑してんじゃねぇよ」


 と苦笑いを浮かべた。


「まあいいか。おい、ビアンカ。今日の予定は?」


「あ、はい!十八時より晩餐会になっております。準備は順調だそうですので、遅れる事はないかと」


「分かった。それまでは城の案内したり適当にやってるから、お前はそっちの手伝いを頼む」


「はい。かしこまりました。では陛下、シルヴィア様、失礼いたします」


 そう言って丁寧に頭を下げてから、ビアンカは小走りに去って行った。その走る様と、小柄な事と、薄めのブラウンの髪から、何だか仔リスみたいな子だなと微笑ましくなり、思わずシルヴィアはクスッと笑ってしまった。


「ん?何かおかしかったか?」


「失礼。ただ可愛い方だと思ったのです」


「まあな。素直だしおとなしいし小せぇし。けどな、あいつああ見えてもう二十歳なんだぞ」


「二十歳ですか。なら私と一つ違いですね」


「えっ!?」


「それほど意外ですか?」


「いや、まあ、言われてみればそれくらいには見えるか。ビアンカが年齢の割に幼く見えるから、その対比上ちょっとな」


「エーレンフリート陛下は何歳なのですか?」


「俺は二十三だ。意外でも何でもないだろう」


「そうですね」


「即答かよ」


 つまらねぇ、とエーレンフリートは笑った。それを受けてシルヴィアも軽く笑顔を返す。

 多分に話し方のせいもあると思うが、本当に相手が国王だという事を忘れてしまいそうなほど、気さくな人だとシルヴィアは思った。戦場で相見えた時の威圧感はここにはない。ただ政治上の話となった際、その見識を語る時には王の顔になる。自分と二歳しか違わないのに国を背負っているのだ。しかも見知った人間による反逆から親を殺され、自らは殺し‥‥‥。それが起きてから、まだ一年経っていない。その重圧や辛さを、どうやって乗り越えているのか。陰など微塵も見せない横顔を眺めつつ『自らの境遇』に照らし合わせ、そんな事を考えた。

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