人狼様がいた村
『人狼ゲーム』名を聞けばどんなゲームがわかるものが多いはず。
これはもしも人狼が存在し、そんな狂ったゲームをしていたら?
もしも人狼がそのゲームに勝ってしまっていたら?
その村はどうなるのか。
これは、そんな人狼が勝ち残ってしまった村で記録された、人狼達の愚かな会話。
▼▼
「……減ったな」
男がそう呟いた。この山奥の村で生まれて育った人狼の一人だ。
「処刑なんて勿体ない。俺らが食う分が減るだけじゃねぇか」
別の男が答えるように文句を言った。
「まあ、私たちも人の肉を食わなければ死ぬって訳じゃないし。この村の再建が始まるまでは外からここを見てましょうよ」
長い髪を揺らした女が楽しそうに男たちに言った。
「何でてめぇなんかと……」
男の一人は機嫌が悪い。女を舌打ちをしながら睨み付ける。
「待て。俺らには選択肢なんて無い。ところで……」
男のもう一人は冷静だ。その男が少し気まずそうにずっと黙っていた幼い少女に目を向ける。
「お前は何者だ。狼じゃないだろ」
「まさかまさか、ご主人様方。私は貴殿方の非常食にでも何にでもなりますからそんな目を向けないでくださいな」
キラキラとした無垢な笑顔を少女は浮かべたまま冷静な男に言う。
「狼じゃないなら信者さんでしょ。逃げてないならそれしかいないよ~」
「ただ媚びてる狂人じゃないのか? こんなガキに信仰されてるとか気分よくねぇんだが」
女と機嫌の悪い男が幼女に各々の怪しい視線を向ける。そして、その幼女は反論した。
「私は貴殿方の信者ですよ。数年前に亡くなった爺様に貴殿方の支援をするように命じられております。他の信者と貴殿方の仲間も多く死んでしまいましたが、初めの事件の時に何人いて、それが誰だったのかも全て把握しております」
その容姿から想像が出来ないほどの礼儀正しさと情報を幼女は話す。それも、世の中の汚いものを何も知らないと言うような笑顔で。狂った殺人ゲームのせいで多くの死体を見た少女からは見ることのできないはずの子供らしい笑顔で。
「あ、殺したければいつでもどうぞ。私は爺様に命を差し出してでも人狼様をお守りしろと命じられているので」
「手を出すなよ、お前ら。俺の話を聞け」
幼女の笑顔と話を不気味に思ったのか、機嫌の悪い男が幼女に手を伸ばした。冷静な男は声だけでそれを諌めた。機嫌の悪い男がそれに従う義理はないが、冷静な男の威圧を感じたのか、その手を止める。
「俺達には二つしか選択肢がない。一つはこの村の再建を放浪者が行うまで外で眺める。だが、これは俺達が死ぬまでに行われる可能性は極めて低い」
冷静な男が指を折って三人に説明する。最後まで生き残った人間の二人を殺して食らい、火を放った村を背にしながら。
「二つ目は?」
そこまで話して言葉に詰まった冷静な男に女が尋ねた。
「……最寄りの村まで俺達が人狼を滅ぼして逃げてきた人間として行き説明することだ。だが……」
言い辛そうに冷静な男が顔を顰めながら呟くように言う。機嫌の悪い男もそのあとの続く言葉を察したのか、代わりに言う。
「次に誰かが狼のせいにして誰かを殺したら、真っ先に俺らが殺されるな。俺らは人狼の村出身だ。人狼に滅ぼされたことを言う必要性がないだろ」
「あるわね。村に殺人鬼が出たのならば、私たちは他の残った村人を見殺しにして村に火を放ったことになるわ。村に不審火が出たのならば、火が消えたときに調べれば人為的に噛み殺された死体が出てくるわ」
機嫌が悪い男の疑問に女が答える。
「そうですね。爺様が言うには隣の村まではそう離れていません。火が消えたとなれば何かしら調査に来るでしょう。火をつけない選択肢もありませんね。もし誰かを殺し損ねていたら貴殿方の正体をバラされてしまいますし」
幼女も話に参加する。村についた火がフワリと周囲を明るく照らすが、もう日も落ちた。この火事はもう隣の村まで伝わっているだろう。考える時間など無い。
「わかった。お前ら、隣の村までいくぞ。俺たち四人が少しでも長く生き残る方法だ。立て」
冷静な男がちらりと幼女を見た。
「私もですか? 私は死んでも構いませんが」
「ああ。次に俺たちが濡れ衣を着せられたときも助けてくれるんだろ?」
その言葉に、幼女が口元に隠しきれない笑みを溢した。
「はい。もちろんですとも、ご主人様方」
その言葉に、三匹の狼が悪寒を感じた。だが、それを他者に感じ取らせることなく三匹と一人はその場を去った。
▲▲
人狼ゲームの始まり。それは本当に狼が誰かを噛み殺すことから始まるのか。
神様が怒っているから生け贄を差し出さなければ。妖怪が出た、だからあの人は狂ってしまったんだ。あの伝説の通り神隠しが起こった。
人狼が存在し、その伝説が存在するのであれば。誰かが人狼のせいにして誰かを殺すのはもはや必然と言えるのかもしれない。
村人は人狼を殺さなければ殺されるのだから誰かを疑い、処刑する。
ならば、無実の人狼も殺さなければ殺されるのだから夜に人を殺す。無実だから、人の心を持っているから罪悪感が生まれ、律儀にルール通りに一人ずつ殺す。
では、狂った人狼の信者は?
彼らだけは知らない。狼が本当は無実だったことも。村人がどんなに恐れながら狂ったゲームをしているのかも。
彼らは人殺しと知っていながら初めからずぅっと狼を信仰していたのだ。
狼すらも震えながら、警戒しながら、ただ自分の心臓を握られているということを自覚しながら、彼らに守られなければならない。一番恐ろしいことを考えるのが、狼を信仰する者。狂った人狼の信者だ。
さっきの三匹の狼は、最期の時まであの幼女の一挙一動にビクビクと覚えながら生きるのでしょうね。知らないけど。
これが愚かなことにも生き残ってしまった狼の哀れな末路のお話。
ただの人狼好きが最近人狼ゲームやってなかったなと思いながら考えたお話です。
人狼ゲームやりたいなと思いながら書いたお話です。
ちなみに好きな役職は村人陣営以外ならみんな好きですよー。知ってることが多いので処理しやすいんですよね。だから狂人も好きですよ。
まあ、こんなことどうでもいい。
ここまで読んでくれてありがとうございました!