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神に選ばれた人間異世界で王様になる  作者: ペンギン
キャメロット編
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who am I?

 ラスティナ、人口一千億人を超える超大規模な世界。しかし、今は悪魔の侵略によりその数を大きく減らしている。

 山あり海ありの地形に暮らすのは主に人間だが、妖精なんかも少数暮らしているらしい。

 彼らは今なお自世界の奪還のために日夜戦い、人王の帰還を待っているとのことだ。

「よし、事前知識は問題ないな。・・・ところで俺は誰だ?」

 いや、落ち着け。大丈夫、わかってる。俺がこの世界の住人が待ち望んだ人王その人だということも、これから俺はこの世界の奪還に向けて(いくさ)を開始することもよく分かってる。

 そこじゃない。名前とかもっと基本的なことが思い出せない。思わず俺とか言っちゃったけど一人称は本当に俺だっただろうか?私?僕?余?我?

 原因はわかってる。転世前に受けた悪魔の妨害、あれで間違い無いだろう。あれのせいで今部分的に記憶が欠落している。

 無論全てを忘れたわけではない。レーテルナー生前俺が生きた世界の名前だーでの記憶も、神世界(しんせかい)での記憶もある。ただそこで自分がどのような人間だったか、どう振舞(ふるま)っていたかが思い出せない。

 圧倒的に自己というものが欠けている。正直こうやって頭を働かせていないと恐怖で狂ってしまいそうだ。

 それを避けるためにも辺りを見回してみる。

 転世先はキャメロットとのことだったのでここはその何処かだろう。今は見渡す限りの草原の真ん中に座り込んでいる。天気は快晴でさらには雲ひとつない。芝生を揺らす風は暖かく、パニックに陥っていた心をいくらか落ち着かせてくれる。

 冷静さを幾らか取り戻すと少しばかり視野が広がる。視界の端の方にうっすらと街らしきものが見て取れる。まずはあそこを目指すべきだろう。

 最低限持ち込んだ所持品を紛失していないことを確認すると立ち上がる。

 すると、先程街があることを確認した方向から人がやってくるのが見える。

 人のように見えるが悪魔ということもあるので腰に()った剣の柄に手を伸ばし警戒する。

 やってきたのは真紅の鎧を身に纏う少年だ。髪と瞳も鎧同様燃えるような赤だ。腰には一見して見事な装飾の施された鞘に収められた剣がつられており、背には盾を背負っている。

 馬に乗ってきた彼はこちらを見るとすぐに馬を降り目の前に(ひざまず)いた。

「新たな人王様、ガラハッドお迎えに参上いたしました」

 告げられた名前は記憶に存在する。サーガラハッド、先王アーサーが築いた円卓の騎士団において一、二を争う優れた騎士だ。

 しかしその名前はより一層の警戒心を抱かせる。

 というのもアーサー王の円卓の騎士達はただ一人を除いて皆死んでいるはずだからだ。主な騎士はアーサー王が戦死した(いくさ)で共に散り、生き残った者もとうに寿命を迎えているとの話を神世界で聞いた。

 それもそのはず、アーサー王が戦死した(いくさ)は今より三千年以上前の話なのだから。人間の寿命はそれほど長くない。

 こちらの(いぶか)し気な視線の意図を悟ったらしいガラハッドを名乗る男が口を開く。

「私は聖杯に刻まれた魔法により不老の体を得ました。それにより今まで王の帰還を待つことができたのです」

 筋は通っている。聖杯は新世界の資料にもその名が載っている魔法具だ。

 しかし実はこの聖杯、一つの魔法具を指す名前ではないのだ。

 聖杯はありとあらゆる世界に存在し、聖杯を生み出す親聖杯、親聖杯から生み出される子聖杯というものが存在する。

 親聖杯には子聖杯を作る魔法陣が、子聖杯には生み出されるたびに異なる魔法陣が刻まれている。

 なので不老の肉体を与えるという貴重極まりない子聖杯が存在してもありえないことはないのだが、果たして信じていいものだろうか・・・。

 自身の身分は王冠で証明できるが相手の身分を確かめる(すべ)を持ち込まなかったことに遅まきながら気づく。

 尚もあれこれ悩んでいると、そこで東の空から大きな魔力がこちらに近づいてくるのを感じる。

 ガラハッドもそれに気づいたようで二人揃って東の空を見上げる。すると、黒い何かが流星のように少し離れた場所に飛来した。

 着地した姿勢から立ち上がったその姿は紛れもなく人型だ。黒い髪に黒い鎧、剥き出しの顔は病的なまでに白い。こちらを見る瞳には明らかな殺気が込められている。

「悪魔!?」

 ガラハッドのその反応に確信を得る。目の前の男の特徴は知り得る限りの悪魔のそれと一致している。

 転世を阻止できなかったことで直接的な手段に出たのだろうか。

「俺は恐禍(きょうか)の騎士団所属、オルトスだ。」

 悪魔達も無秩序に世界を襲っているわけではない。恐禍の騎士団という組織のもと、世界侵略を企んでいる。

「オルトスの階級は大佐、騎士団でもかなりの実力者です」

 ガラハッドがそう忠告してくる。

 分かりきったことだが、一応ここにきた理由を聞いておこう。

 一人称は俺として、出来るだけ王様らしく話しかけてみる。

「お前はここに俺を殺しにきたということでいいのか?」

 この問いに対する答えは至極単純であった。

「そうだ」

 その答えを聞いて真っ先に動いたのはガラハッドだった。剣と盾を構えて俺を守るように前に立ち塞がる。

「王よお下がりください。ここは私が」

 そう言う彼の肩に手を置いて後ろに下がらせる。

「まあ待て。オルトス、少し話し合おう」

「貴様と話すことなどない」

「まあそう言うな。俺はこれが悪魔との初めての出会いなのだ。刃を交えるにしてもお前達の言い分も聞きたい」

 神世界(しんせかい)では散々悪魔殺すべしと言われたが、それだけで刃を向けるほど思考停止してはいない。

 『オルデアル』様との戦いで知ったのだ。自分のためだけに戦うことがなんと愚かなことかを。あんなのはもうお断りだ。

「お前達は何のために俺たちに剣を向ける?なんのために世界を侵略する?その先にあるお前達の願いとは一体なんだ?」

 半ば答えが返ってこないと予想しての問いだったが、意外にも答えは返ってきた。

「故郷のため。俺たちの世界は枯れている。川を流れる水は飲めたものじゃない。地に植えた作物は育たない。家畜が生きられる環境などない。故に俺たちは他の世界を、豊かな世界を求めて侵略する」

「共存はできぬか?」

()かせ。和解など今更できぬ。」

 それ以上問答は続けないとばかりにオルトスは剣を抜く。

「死ね!人王!」

 猛然と斬りかかってくるオルトス。その力を利用する形で俺は彼を投げ飛ばす。

「ぐっ!」

「俺はこの世界を救い、魔神を討つ使命を帯びている。しかし俺にお前を殺すつもりはない。俺はお前に対して憎しみも殺意も抱いてはいない。仮に抱いていたとしてもそんな感情で剣を取るのは間違っている」

「王よ!あれは悪魔ですぞ!これまであなたの民がどれだけ奴らに虐げられてきたとお思いですか!?」

 ガラハッドの言い分はもっともだ。俺よりもずっと間近で世界の惨状を見てきたであろう彼にとって悪魔を見逃すことなどできないであろう。

 俺の発言を聞き逃すことができないのはオルトスも同じだったようだ。

「甘いことを言うな人王。これは戦争だ。もはや一人の意思でどうこうなる状況ではない。剣を取れ!そして俺と殺し合え!」

 そう言って再度突撃する悪魔にやむなく剣を抜く。

 鍔迫り合いになると気迫で負ける俺の剣はグイグイと押し込まれていく。

「まだ腑抜(ふぬけ)けるか貴様は!ならばそのまま死ね!」

 刃がさらに押し込まれる。皮一枚ほど隔てた場所に刃が迫る。

「・・・死ぬわけにはいかない・・・!俺はこの世界を救うと決めた・・・!その覚悟に偽りはない!」

「ならば貴様の覚悟など所詮この程度だったと言うことだ。悪魔一人殺す覚悟も持たぬ貴様が世界を救うなど世迷言だ!」

 言葉と共に刃が振われる。肩から脇腹にかけてが切り裂かれる。鮮血が、宙に舞う。

「王よ!」

 ガラハッドが駆け寄ろうとするのを片手を挙げて静止する。傷は・・・もう無い。

「何!?」

 『零から無限へ(ゼロクリエイト)』で無から細胞を作り出した結果だ。失われた血液も新たに作り出した。

 しかし動けない。オルトスの言葉は見えない糸となって俺の体をがんじがらめにする。

 動けない俺を見て即座にガラハッドが動き出す。

「ここは私が!」

「待っ・・・!」

 静止の言葉すら引きつった喉では満足に発することもできない。

「来い最優の騎士よ!まずは貴様からだ!」

 目の前で始まった戦闘を俺はただ見ていることしかできない。

 ・・・神世界で修行して強くなった気でいた。いや、今でも俺はあの悪魔より強い自信がある。

 だがそれ以前の問題だった。俺の覚悟は中途半端だった。これは戦争だ。誰も殺したくない、対話による解決を試みたい、そんな甘えは許されない。

 殺さなければいけない、目の前の悪魔を。それがこの世界を救う唯一の方法だ。

 そうと分かってなお剣を握る右手に力が入らない。

 目の前では戦闘がその苛烈さをより一層増していく。ガラハッドの痛烈な一撃がオルトスに深傷(ふかで)を負わせる。しかしオルトスは止まらない。

 このまま、二人に戦闘を続けさせていいのか?ふと脳裏にそんな疑問がよぎる。

 仮にガラハッドが悪魔を殺したとして、我が身の潔白のために自身が負うべき罪を他人に背負わせることを良しとするのか?オルトスがガラハッドを殺したとして、自分のせいでガラハッドが死ぬのを黙って見ているのか?

 どちらも避けねばならない。これは俺が始めると言った(いくさ)だ。ならば誰の手に委ねていいものでもない。

「下がれガラハッド。すまない、後は俺がやる」

「しかし、王!」

「大丈夫だ」

「・・・御意」

 躊躇(ためら)いは消えない。それでもやるしかない。

「王法【人の章】第八条『想いよ(つど)え』」

 王法とは六王のみが使える魔法。その効果は六王それぞれで異なり、自分が守護する種族の影響を強く受ける。

 例えば今使ったのは人間の想いを魔力に変えて束ねる魔法。無数の世界から束ねられた想いは俺に絶大な魔力を与える。

 しかしこの魔法の真価は別にある。一口に想いと言ってもそれは多様極まりない。そこで今俺が束ねたのは世界中の人間の悪魔に対する強い怒りや憎しみの感情だ。その想いは王法によって束ねられ、この上ない悪魔への有効だとなる。

 つまりこの魔法は出力に差はあれ確実に相手への弱点を作り出すことができる魔法というわけだ。

 聖剣を憎しみの炎が覆う。それは禍々(まがまが)しい漆黒の炎。

「行くぞ、オルトス」

 地を蹴りオルトスめがけて斬り込む。こちらの一太刀を見事受け止めたオルトスだが無傷とはいかない。

 漆黒の炎が意思を持ったかのようにオルトスの体へと巻きついていく。

「ああっ!」

 慌てて距離を取るも炎は消えない。むしろ徐々にその勢いを強めていく。

 絶叫が草原を駆け抜ける。しばらくすれば奴はその身を灰に変えるだろう。目を背けることもできずにその光景をじっと見つめる。

 葛藤(かっとう)が胸中を襲う。命を絶つ恐ろしさと、義務感が衝突する。

 もう少しで奴の命を絶つ直前、俺は魔法を解いた。すると炎は消え、オルトスは生き延びるため、この場を離脱するため、空へと飛び上がる。

 俺はというと初めての悪魔との戦闘による緊張か、はたまた自分自身の不甲斐なさによる精神的苦痛か意識が遠のいていく。

「ごめん・・・ガラハッド」

 そう言い残すことしかできなかった。



 目が覚めるとそこはどこかの建物の一室だった。俺の体はふかふかのベットに包まれている。起き上がって辺りを見回せば内装はとても豪奢な造りとなっている。

「ここは、どこだ?」

 自分の置かれた状況を確認するためにも倒れる前の出来事を思い出そうとする。

 そして思い出す。自身の晒した醜態(しゅうたい)を。思い出すと同時に悔しさや恐ろしさが胸に込み上げてくる。

 覚悟を決めたつもりでいたのに俺は最後の最後で自分の使命を果たすことができなかった。

 後悔と自己嫌悪が際限なく高まる中室内にノックの音が響く。

 反射的に返事をしてしまう。

「どうぞ」

「おはようございます王様。ご気分は・・・あまり優れない様子ですね」

「王様、まだ起き上がらない方がよろしいのでは?師匠の言う通り顔色が悪いですよ」

 入ってきたのは一組の若い男女。

 男の方は白い肌に白髪混じりの黒い髪を生やした長身で、右手には杖を持っている。見た目は悪魔に近くつい身構えてしまう。

 そんな彼を師匠と呼んだ女性の方も同じく杖を持っている。窓から差し込む陽光を受けてキラキラと輝く金の髪が美しい。

 見知らぬ人間?の登場に戸惑っていると後からガラハッドがついてきた。

「王よお目覚めになられたのですね!良かった・・・。一時はどうなることかと」

 心の底から安堵の表情を浮かべてくれる彼にこちらの警戒心が解ける。悪魔と戦っていたということもあるが彼は信用に足る人物なのだろう。

 それと同時にそんな彼の期待を裏切ってしまったのではないかとふたたび自責の念が湧き上がる。

「マーリン!あれほど一人で行くなと言ったのに!王が驚かれるでしょう」

「すみません、ガラハッドさん・・・私も止めたのですが・・・」

「いえ、メリサを責めているわけでは・・・。王よ」

 そこで意識が現実に引き戻される。

「こちらの二人を紹介させていただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ頼む」

「では、こちらの男はマーリン。ここキャメロット随一の魔法の使い手で預言者でもあります。こちらはその弟子のメリサです」

 紹介された男は笑みを浮かべ挨拶をする。

「宜しく、王様」

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