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神に選ばれた人間異世界で王様になる  作者: ペンギン
始まりの試練編
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世界の真実と戴冠の儀

「ここが『エレクナ』様の家ですか。なんだか思ってたより普通ですね。もっと神殿ぽいところに住んでるもんだと思ってました」


 『オルデアル』様に連れられて訪れた『エレクナ』様の家はいたって普通の一軒家だった。外観にもこれといった特徴はなく、通されたリビングも普通の民家のリビングといった趣だ。家具にしてもテーブルにソファー、本棚とどれも生前の世界で見ることができるものばかりだ。


「神殿でどう生活しろというんだ」


 言われてなるほどと思うもやはり納得がいかない。


「それでも神世界独自の便利アイテムとかがあっていいんじゃないですか?俺のいた世界と技術レベルじゃ大差ないんですね」

「そこんところを今から説明してやるからそこのソファーに座ってろ。コーヒーでいいか?」

「ココアでお願いします」

「お子様め。『オルデアル』、お前は?」

「私もココアをもらおう」

「・・・お子様どもめ」


 そう言い残して『エレクナ』様はキッチンに引っ込んでいった。


「では改めて、試練の突破おめでとう。無事試練を乗り越えたことを私も喜ばしく思っているぞ」

 戻ってくるなりの『エレクナ』様の祝福にこちらとしては微妙な反応をせざるを得ない。

「無事と言っていいんですかね・・・。めちゃくちゃ殺されましたけど」

「最終的には一万七千二百二十五回殺されていたな」


 猫舌らしくちびちびとココアを飲んでいた『オルデアル』様がそう教えてくれる。

 我がことながらその数字にはゾッとせずにいられない。


「まあ試練を乗り越えたのだからいいではないか!さて、ここからは真面目な話だ。少し長くなるぞ」


 俺が頷くのを確認すると『エレクナ』様が語り出す。


「まず神とは何かについて教えよう。といっても神はそれほど特別な存在ではない。全知でもなければ全能でもない。ただ人より多くを成し、人より長くを生きる。ただそれだけの存在だ。私や『オルデアル』が選定や試練を司るのもその延長線に過ぎん。神はあくまで概念の守護者として存在しているだけだ」

「守護者がいなくなると?」

「たとえば『オルデアル』が消えると学校の定期試験とかが消えるし、私が消えると何かを選ぶということができなくなる。世界がうまく回らなくなる」

「それは困りますね」 

「そしてその世界を産み落とし、世界の概念を守護している神もいる。それが『世界の神ユニヴェル』だ」

「産み落とす?」


 世界という単語と容易に結びつかない単語につい鸚鵡返(おうむがえ)しに聞き返してしまう。


「そうだ。無限に等しい数存在する世界は全て『ユニヴェル』が産んだ一つの生命体だ」


 脳の理解が追いつかない。世界が生きている?


「その様子だと理解に苦しんでいるようだな。百聞は一見にしかず。見たほうが理解も早いだろう。『観界(ウォッチ)』」


 『エレクナ』様はテーブルに魔法陣を描くーちなみに『選定』の魔法が切れた途端に俺の記憶からは一切の魔法知識が忘却されたー。

 魔法が発動するとテーブルにどこかの映像が映し出された。

 『エレクナ』様がなにやら調節を施すと映像が切り替わった。


「これは?」


 そこにはシャボン玉を背負った亀が映し出されていた。本来甲羅があるはずの場所に収まっているシャボン玉は虹色の光を発しており内部が見通せない。


「これが生前お前が住んでいた世界を外から見た様子だ。シャボン玉の中に人々が暮らしている」


 宇宙のように真っ暗闇の空間を泳いでいる亀を見ればなるほど確かに世界は生きているのかもしれない。

 しかし簡単に飲み込みがたい事実であることには変わらない。

 うんうん唸っている俺を見た『エレクナ』様が苦笑まじりに言う。


「神はすぐに信じたのに世界については疑り深いんだな」


 言われてはたと気づく。神様が実在した時点で自分の常識を大いに逸脱しているのだから、今更世界は生きていると言われた程度で驚いてはいけない。


「信じます!」

「理解が早くて助かるよ。それでな、世界もまた生きている限り世界同士でコミュニケーションを取る。その内容は様々だが大半は自世界で起きた歴史や文化あるいは技術といった情報をやり取りする。交わされた情報はひらめきやアイディアといった形で人に無意識のうちに伝わる。結果としてそれが世界の発展につながるというわけだ。この家がお前の世界と技術レベルで大差がないのはこの家の道具がお前の世界、またはそれに近しい技術力を持った世界から流れ着いた技術によって作られているからだ」


 乾いた喉をコーヒーで潤し『エレクナ』様は話を続けた。  


「ここからがお前の願いにも関わってくる話だ。お前が転世したいと望むラスティナは今現在存在している」


 驚きの内容だった。ラスティナは作品の舞台となる世界の名前だ。創作物の世界にどうやって転世するのかと疑問がなかったわけではないのだが既に存在していたとは。

 ちなみに世界を渡って転生する場合は転世と書くらしい。


「つまり俺の世界のラスティナの物語は世界同士の情報交換の末たどり着いた実話だったんですね」

「そういうことだ」


 さらにもう一つの疑問が解消された。なぜ俺が小説の知識で魔力を扱えるようになったのか、あれもまた魔力の真実が異世界から伝わった結果というわけだ。

 ここで『エレクナ』様はスクリーンの映像を切り替えた。

 そこに映し出されたのは先ほど同様シャボン玉を背負った亀なのだが先ほどと違うのは背負っているシャボン玉が黒く(よど)んでいることだ。


「これがラスティナだ。今や悪魔たちに占領され植民地と化している。つまりお前の愛した世界はもうない」

「なっ!?」


 苦悶に満ちた表情で告げられた情報に再度驚愕する。


「どうしてそんなことに!?いや、そもそも悪魔って!?」

「落ち着け。順を追って説明する」


 そこで自分が冷静さを欠いていたことに気づいて素直に謝罪を口にする。


「・・・すみません」

「悪魔とは世界と世界の隙間、ちょうどこの映像でラスティナの周りに広がる暗闇、暗黒界と呼ばれる場所で生まれる。悪魔どもは『崩滅(ほうめつ)魔神(まじん)』と呼ばれる存在を主とし、魔神は生物の負の感情から悪魔を産み出す。ある日突然暗黒界に現れた魔神は悪魔を産み出し、なにを考えたのか次々と世界を侵略していった」

「そんな!?どうして止めないんですか!?」

「無論我々とて対策は講じた。六王(ろくおう)を中心に軍を組織し魔神を討とうと試みた」

「六王?」

「人の王、亜人の王、妖精の王、獣の王、植物の王、機巧の王を指して六王と言う。彼らは神や人のように王という種として存在する。その役目は神に変わって自種族を守ること。ひいては種を存続させることだ。それだけじゃない、王というのは存在するだけで自種族に安定をもたらすのだ」 


 正直新しい情報の洪水に頭が一杯一杯だ。しかしとても休憩を要求する気にはなれない。


「それで魔神はどうなったんですか?」

「六王を筆頭とした軍が魔神領、悪魔たちに占領された領界に攻め入った。・・・結果はこちらの敗北。その上六王の一角である人王が戦死した」


 言葉が出ない。何も知らない人間でもわかる。現状がかなり分の悪い状況にあることを。


「そうだ!蘇生の魔法は?」

「人王は死した時点で魂が砕かれておった。蘇生の魔法とて復活は叶わん」


 とっさに浮かんだアイディアも即座にどうしようもない現実に打ちのめされた。


「人王の死によって人間からは魔力が失われた。唯一魔力の感知能力は失われていなかったようだがそれも今や時間の問題だろう。それどころかこのままでは王のいない人間は・・・滅びる」

「なんとかならないんですか!?」

「それをなんとかするためにお前を呼んだ」

「え?」


 唐突に自分の話になったが、全く意味がわからない。なんてことないただの人間にこの状況をどうにかできるとは思えない。


「お前が次の人の王になれ。そのための試練はすでに乗り越えた。お前には人の王になる義務がある」

「な、なんで俺なんですか!無理です!」


 こちらの抗弁などお構いなしに『エレクナ』様はなおも続ける。


「先代の人の王アーサーは死に、砕かれた魂は世界に散った。魂はやがて異世界で魂の器となる人間を得た。私は選定の神としてアーサー王の魂の器となった人間の中から特に次の人の王となるに相応しい人間を選び試練を与えてきた」


 思わぬ人物の名前が出たことに何度めとも知れぬ驚愕を覚える。恐らくはアーサー王に関する物語のいくつかは実話で異世界から伝来したのだろう。

 しかしそんな驚愕もこれから続くであろう話の続きを前にしては気にしていられない。

 察するに俺は・・・


「お前はアーサー王の魂の器だ。そして見事に試練を乗り越えた。今までに何人も数え切れないほどの人間に試練を課してきた。結果は言うまでもないがな・・・」


 そうだろう。他に試練を乗り越えたものがいたのならわざわざ俺に試練を課す必要はない。


「他の五王同様に試練を突破したお前には必ず人の王になってもらう。悪いが拒否権はない」


 理不尽な話だが心の底では仕方ないと納得してしまっている。だってそうだろう、誰かがやらねば人類が滅びる。それどころか悪魔たちに世界が侵略されるのだ。神様たちとしては俺を王にする他選択肢はないだろう。

 そして俺はこの命令を断れないー断ることなどはなからできないのだが。当然だ自分が王にならねば人類が滅亡する?その上で断ることなどできるはずがない!

 あまりの理不尽に打ちのめされていると『エレクナ』様が追い討ちをかけてきた。


「始めに言ったな。願いを叶えるには二つ条件があると。二つ目の条件は人王となり魔神討伐に協力することだ」


 これで退路は完全に閉ざされたーそんなものは始めからなかったが。


「ここなら悪魔たちに襲われる心配もない。まだしばらくの時間もある。ゆっくり覚悟を決めてくれ」


 その後俺は当面の寝床として与えれた『エレクナ』様の家の一室で一人物思いにふけっていた。

 いや、実際には何も考えてなどいない、考えたところでどうにかなるほど状況は優しくない。

 思考停止状態に陥っていると室内にノックの音が響く。


「どうぞ」


 入ってきたのは『エレクナ』様ではなく『オルデアル』様だった。

 椅子に座っていた俺のテーブルを挟んだ向かい側に座った。


「覚悟は決まらぬか?」

「・・・まだ」


 『オルデアル』様を前にして聞くまいと思っていた疑問の火種が燻り出すのを感じる。単純に答えを聞くのが恐ろしかったその疑問を思い切って投げかけてみることにする。


「俺を病死させたのは神様たちですか?人の王が欲しかったから」


 神様なら未知の病で人を殺すことも容易だろう。そうすれば悠長に寿命を待たずとも試練を開始できる。

 そう思っての問いかけだったが答えは予期していたものとは全く違った。


「いや其方(そなた)を呪い殺したのは悪魔どもだ。奴らとてせっかく殺した人王の復活を座視するほど愚かではない。もっとも神々が見守る中では呪いという消極的な手段しか取れなかったようだがな。いや結果として其方(そなた)は呪い殺されたのだからこれは言い訳だな。我々の力不足だ、すまない」

「いえ、そんな・・・頭を上げてください」


 頭を下げて謝意を示す『オルデアル』様に俺はそう言うことしかできなかった。

 もしかしたら先王のように魂を砕かれ蘇生すら叶わなかったのかもしれないのだから文句などあろうはずもない。

 しばらく沈黙が室内を支配したのち『オルデアル』様が口を開いた。


其方(そなた)が愛する世界ラスティナは元は先王の領界だった」

「え!?」

「其方の他に試練を受けた器たちも皆、其方と同じことを言った。ラスティナに転世したいと。思えばそれはアーサー王の魂の願いなのかもしれんな」


 合点がいった。細かく話した覚えもないのに神様たちが俺がラスティナに転世したいことを知っていたのはそういう理由か。


「・・・俺のこの願いは他人のものだったんですね」


 意図せずそんな言葉が口から漏れた。


「そうかもしれんが、そうでないかもしれん。他人の願いを拠り所にして届くほどこの命安くはないぞ。きっかけはアーサー王の魂だったかもしれんがな、其方自身あの世界を愛しいているのではないか?」

「・・・」


 問われて気づく、自分の愚かしさに。そうだ、この想いは他の誰でもない俺自身のものだ。アーサー王が愛した世界を俺もまた愛している。


「其方が人の王となればまず最初にラスティナ奪還を命じられるだろう。其方が自分の手で己が愛した世界を救うんだ」


 そこまで言うと『オルデアル』様は部屋を出て行った。


「・・・俺が世界を救う・・・」


 翌朝目が覚めると手早く着替えー『エレクナ』様がくれたーを済ませると真っ先に『エレクナ』様のもとに向かう。

 リビングの扉を開けると優雅にコーヒーを飲む『エレクナ』様と目が合う。

 俺を見た女神様は優しく微笑みかける。


「覚悟は決まったか?」

「はい」


 俺が世界を救う。正直自分にそんな大層な力があるとは思えない。それでも、成し遂げてみせる。そのためだったらなんだってやってやる。だって俺はあの世界を愛しているから。たとえもう俺の愛したラスティナは無くなっていたとしてもだったら俺がそれを取り戻す。


「いい顔だ。ついて来い、戴冠の儀を執り行う。」


 連れてこられたのは白塗りの教会のような建物だった。

 中に通されるとそこは広大な講堂となっていた。内装は(おごそ)かの一言に尽きる。天窓から日が差しているのに心なしか気温が外より低い気がする。

 キョロキョロと辺りを見回していると講堂の最奥、俺たちがいる場所とは反対側に人、いや神様がいることに気づく。

 歩き出した『エレクナ』様に続いて講堂の最奥へと向かう。

 そこにいたのはゆったりとした白いローブに身を包んだ長身の女神様だった。牡丹(ぼたん)色の髪を長く伸ばした女神様は優しく微笑んでいる。


「ようこそおいでくださいました人の王よ。わたくしはあなたを王とするもの『クローネ』にございます」

黒巻(くろまき)透也(とおや)です。よろしくお願いします」


 少し緊張していたが『クローネ』様の柔らかな物腰に安心感を覚える。


「では早速戴冠の儀に移らせていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」

「ではそこの魔法陣の上に膝をついてください」


 『クローネ』様が示す先には青白く輝く魔法陣がある。

 俺は言われた通りその上に膝をつく。


「これより戴冠の儀を始めます」


 『クローネ』様が魔法陣を描くと中から黄金の王冠が現れる。

 眩く輝く王冠には随所に宝石がはめ込まれている。あまりの美しさに目を離すことはおろか息をすることさえも忘れてしまう。

 そんな俺の意識を現実に引き戻したのは落ち着いた『クローネ』様の声音だった。


「汝、黒巻(くろまき)透也(とおや)よ、汝は人をやめ王となり人のために剣を取ることを誓いますか?」


 これに「はい」と答えたらもう後戻りはできないだろう。しかし今は少しも引き返すことなど考えてはいなかった。

 俺は俺に与えられた使命を全うする。


「はい、誓います」

「ならば『王権神授(おうけんしんじゅ)の神クローネ』の名の下に汝を人の王とする」


 頭に先程の王冠が被せられる。

 途端足元の魔法陣が強く光り輝く。眩しさのあまり目を細めるもほんの一瞬で光は収まった。


「お疲れ様です。これにて戴冠の儀は終了です。新たなる王の誕生を心より祝福申し上げます」

「え!?もう終わりですか?」


 思っていたよりも呆気ないものだった。

 人をやめ王となったというにはあまりに変化がない。

 すると儀式を見守っていた『エレクナ』様が口を開く。


「よく自分を見てみろ。先程までとは大違いだぞ」


 言われて自分の体を見下ろして気づく。身体中をとてつもない量の魔力が流れていることに。


「人王が即位したことで失われた魔力が戻ったのだろう。それだけじゃない、恐らくは・・・」


 『エレクナ』様の銀瞳に魔法陣が描かれる。


「ほう、これはまたなんと・・・」


 要領を得ない言葉を呟く『エレクナ』様の顔には隠し切れない驚きの感情が見えていた。


「人間や神、高位の獣や植物は皆魔力を有している。人王の不在で人からは魔力が失われていたのだが、もう一つ人から失われたものがある。それが魔性だ。わかりやすく言えば個人の固有魔法だ」


 またしても出てきた新単語に早速疑問をぶつけてみる。


「もうちょっと具体的に言うと?」

「個人に許された特別な魔法。同じことを余人が再現しようとしても効果が劣化するか発動しないかのどちらかだ。また魔性は魔力と違い誰にでも発現するわけではない。魔性による魔法の発動に魔法陣は必要ない」


 便利だ、そして何よりかっこいい。


「それで今分析の魔瞳で・・・」

「はい!魔瞳ってなんですか?」

「魔法具のようなものだ。瞳に魔法陣を刻むんだよ。それでお前の魔性を見てわかったんだがはっきり言ってチートだチート。俗っぽい言い方をするとな」


 ほう、それは是非とも効果をお聞きしたい。


「名は・・・そうだな『零から無限へ(ゼロクリエイト)』とでも呼ぼうか。効果は無から有の創造。お前は代償を支払わずにおよそなんでも作れる。魔力とかな」

「・・・」


 絶句である。自分でも正直引くレベルの内容だ。


「マジですか?」

「マジもマジ、大マジだ」


 呆気に取られてしまったが、よく考えればこれから世界の存亡をかけた(いくさ)に臨むのだ強力な能力があって困ることはない。ここは素直に喜ぶべきだろう。


「後、さっき渡した王冠は魔法具だから使い方を確認しておくように」

「了解です」

「さて、戴冠の儀も終わったことだし、これから地獄の終業タイムだな。知識に長けた神の座学、戦闘に長けた神の実戦訓練と転世前に鍛えられるだけ鍛えるぞ」

「えー!?」

「ではな『クローネ』、また近いうちにお茶でもしよう」

「ええ。それでは人王、御武運を」


 そして地獄の日々が始まった。

 まず座学、魔法や生物学、ラスティナ語ーラスティナで使われている言語らしいー等々、転世するにあたって必要となる知識が広範囲にわたって詰め込まれる。覚えることが膨大なため大変ではあるが教師役の神様も優しく座学にはそれほど苦労しない。

 問題は実践訓練だ。蘇生の魔法があるためまるで容赦がない。正直何度殺されたか覚えていない。

 休む間もなく繰り返される戦闘には精神を削られる。

 正直逃げ出したくてたまらない。

 だが、俺は『エレクナ』様に覚悟を決めたと言った。世界を守ると言った。ならば逃げ出すわけにはいかない。あの日の覚悟を偽りにするわけにはいかないのだ。


 

 そうして十年の年月が流れた。もともと俺が寿命に達するまで試練は待つつもりだったようなので十年程度修行に費やしても問題ないらしい。

 俺はというと王になったことで寿命というものがなくなり成長も止まったので外見的に変化はない。

 しかし修行の成果もあり戦闘能力、知識ともに大きく成長を果たしていた。

 そして今日はいよいよ転世の日だ。

 目の前では『転世の神カイン』様という男神様が準備をしている。

 ちなみに手荷物はないに等しい。今着ているサーコートにマント、すっかり愛剣のエクスカリバーと王冠、あとは魔法具が数点と言った具合だ。後必要なものは現地調達が可能ということだ。

 見送りに来た『エレクナ』様が最終確認にやってくる。


「いいか透也(とおや)、ラスティナは今悪魔どもに占領されている。神々としてはお前を転世させるのが限界だ。まずは転世先のキャメロットで仲間を集めるんだ。その王冠が身分の証となる。仲間を集め次第ラスティナを奪還するんだ」

「わかりました」


 一通りの確認を終えると『カイン』様が声をかけてきた。


「準備が整いました」


 招かれるまま俺は魔法陣の中心に立つ。


「では『転世(トランスワールド)』」


 足元の魔法陣が白く輝く。

 次の瞬間純白の光が黒く染まる。


「これは!?まずい!悪魔による妨害です!」

「すぐに魔法を中止しろ!」


 『カイン』様の悲鳴に続いて『エレクナ』様の静止の声が響く。


「無理です!今中止すれば人王がどうなるかわかりません!ここは私がなんとか・・・!」


 そう言って『カイン』様は妨害魔法の妨害を始める。


「くっ!これでなんとか!」


 その声が聞こえる頃には視界が黒と白の光に染まっていた。


透也(とおや)!」


 遠くで『エレクナ』様の声が響く・・・

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