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神に選ばれた人間異世界で王様になる  作者: ペンギン
始まりの試練編
7/48

決着

 見えない翼をはためかせ、朝日を背に大空を飛び回る。影と影が交差するたびに甲高い金属音が大空に広がり大気を揺らしていく。

 共に満身創痍というのが相応しい状態だった。自分でも未だに戦闘を続けていられるのが不思議なくらいだ。

 何度目かの突進。刃を交わす間合いの直前で直角に上昇した俺は背面飛びの要領で神様の頭上を飛び超え背後をとる。

 闘志を込めて振るった一太刀は吸い込まれるように神様の首筋へとその刀身を滑り込ませていく。

「せえい!」

 振り向きながらその回転の力を余さず伝えた一太刀が今まさに首を落とさんと迫る刃を迎え撃つ。

「甘い!」

 お互いがあらん限りの力を以って相手をねじ伏せようとする。

 お互いが死力を尽くす。

「勝つ!!勝って俺は願いを叶える!!」

()かせ!この程度ではまだ俺の命には届かん!」

 これまでとは打って変わって激情に任せて吠える神様。それは歓喜の雄叫びだった。待ち続けた人間の来訪を喜ぶ神の咆哮。

 剣を通して神様の心の内が伝わる。


 ・・・ずっと待ち続けてきた。自分を、神を超えうる存在を。人間には計り知れない永い年月の間。ずっと挑み続けてくる人間を殺し続けて。

 それが神として俺に課せられた使命だった。

 殺したっかたわけではない。しかし結果として多くの人間が死んでいった。待ち望んだ人間は現れないのだろうか、いつまでこんなことを続けるのだろうか、胸の内に燻る不快な感情とともに刃を振るい続けた。いつか現れるたった一人を待ちながら。

 そして今、ようやく巡り合った。自分を殺す可能性を秘めた人間に。この人間なら神を超えることも不可能ではない。

「俺を超えてみろ!人間!」


 これこそが自分の真の姿だと言わんばかりに内に秘めた闘争心を発露する。

 戦い方すらもそれまでの堅実な戦い方から、荒々しい力任せのものに変化していた。だが確実にこれまでよりも今の方が強い。怒涛の如く押し寄せる剣撃の奔流はその全てが海を割り、山をくり抜き、地を断つ威力を秘めている。

 しかしこちらも負けてはいない。これまでの敗北の末積み重ねた剣技とこれから積み重ねるであろう剣技、過去と未来の全てを使って今まさに神を越えんと攻撃に己の全てを込めていた。

 激しく空中戦を演じる最中距離ができた一瞬を見逃さずに魔法陣を描く。魔力を空域全体に広げて描いたその数はちょうど百個。神様を完全に包囲していた。

「『氷雪刺撃(ブリザリア)』」

 神様を完全に包囲した形で放たれたのは先端の尖った無数の氷片。逃げる隙間のない死の吹雪に対して神様は笑っていた。

「嘘でしょ!?」

 一斉に射出された氷片に向かって神様は迷うことなく突っ込んだ。一直線に俺へ向かって。

 致命傷となりうるものだけを最低限処理してこちらに向かってくる。捌ききれなかった氷片がその身を傷つけることをものともしない。

 傷だらけになりながらもあっという間に接近した神様は振りかぶった神剣を上段から斬り落ろす。

 それを下段からの斬り上げで打ち払う。衝撃に両者の体が大きく後方にのけぞる。その力に敢えて逆らわずお互いに距離を取る。

 魔法の間合いとなる。

 共に知識の全てを使って魔法陣を描き上げていく。放たれた魔法がぶつかり合い朝焼けの空に色とりどりの閃光が煌めく。

 魔法の撃ち合いを演じながら考える。このままでは負けると。

 現状は五分五分と言っていい。しかしこのまま続けば先に魔力が尽きるのはこちらの方だ。『選定(セレクト)』の魔法を使ってからは凄まじい勢いで聖剣の魔力が減り続けている。『選定(セレクト)』を維持できなくなったらもう万に一つも勝ちの目はないだろう。

 賭けに出るしかない。そう考える。確実ではないが勝算のある作戦もある。

「やってやる」

 覚悟を決めて呟いた。

 そして勝負に出た。

「王権を発動する」

 するとそれまで蘇生とともに修復されていたシャツとズボンが光に包まれ白を基調としたサーコート、マントに変化した。

「落ちろ!『炎却(フラメイズ)』」

 幾筋もの炎の円柱が空気を焼いて迫り来る。

「『硬魔壁(ラ・シェルド)』」

 それを落ち着いて防御魔法で防ぎながら別の、白い魔法陣を描く。

「王法【人の章】第一条『人よ、繁栄せよ』」

 王法、王にのみ許された魔法。この身に宿したのがいつか王になった自分の可能性であったればこそ使えた魔法。その効果は並の魔法とは一線を画す。

「この魔法は人の繁栄の象徴。俺は人の力を束ねて神を討つ」

「見せてみろ、人の力をが如何程のものか!」

 この魔法の効果は至極単純。人口に比例した魔法の強化。人という種族が増えれば増える程魔法を強化する。

 聖剣に王法の効果で強化された魔法陣を描く。

「『神撃(しんう)ち、天之尾羽張(あめのおわばり)』」

 神殺しの魔法。聖剣が神を殺す紅蓮の(ほのお)を纏う。王法で強化されたそれは使い手すら焼き滅ぼさんとする熱量を放つ。

「では俺も奥の手を披露しよう。この一刀は魂を斬る。故に蘇生の魔法とて復活は叶わん。覚悟はいいか?」

「勿論です」

 俺の答えを聞いた神様が手にした神剣に魔法陣を描く。

「『魂焉斬(こんえんざん)』」 

 互いに必殺の一撃で相手を斬るために集中力を研ぎ澄ます。

 視界から神様以外の景色が消えていく。相手の呼吸、筋肉の収縮、視線の動きが手にとるようにわかる。

 意識がただ向かい合った好敵手を斬ることにのみ向かっていくのを感じる。

 示し合わせたように両者同時に動き出す。

 互いの距離が一瞬で詰まり、剣の間合いとなる。

 上段から斬り下される神剣、必殺の威力を秘めたそれを鏡合わせのように同じ軌道を取った聖剣が真っ向から受け止める。

 剣と剣が交わり、衝撃が大地を揺るがす。

「「うおおおおおお」」

 共にあらん限りの力を以って相手を斬り伏せようとする。

 ーーバキン

 闘いの終わりを告げる音が鼓膜を揺らす。

 神剣に亀裂が走る。

 最後の力を振り絞って聖剣に力を込める。

 一際甲高い破砕音を響かせ神剣が砕け散る。

 聖剣は勢いを殺すことなく神様の胸を切り裂き紅蓮の焔がその神体を焼いた。

「見事」

 共に力を使い果たして地に落ちていく。

 最後に残った魔力を使ってなんとか着地に成功するも気力、体力、魔力を使い果たしこれ以上は戦えそうにない。

 それでもなんとか体を起こしてすぐそばに倒れる神様の元へと這い寄る。

「俺の負けだ・・・。しかし不思議だな。負けたというのに・・・こんなに・・・嬉しいこともあるのだな」

 途切れ途切れのその言葉には確かに嬉しさが滲んでいた。

「辛かったし苦しかった。それでも諦めなかったからここまで来れた。・・・だから、俺の願いのために死んでください、神様」

「ああ、構わんとも。其方(そなた)のために喜んでこの命差し出そう」

「神様も蘇生されるんですよね?」

「無論だとも。だから其方(そなた)はただ人の身で神を討った偉業に胸を張っていればいい」 


 その後無事に神様は蘇生された。

「では『エレクナ』の待つ神世界へ行くとしよう」

「神世界?」

「神々の棲まう世界だ」

「わかりました。いきましょう」

 頷くと、神様は青色の魔法陣を描いた。

「『移界(ムーブ)』」

 視界が純白に染まっていく。大地の感触が消えていく。

 人生初のテレポートに密かに感動しながら、長かった試練がようやく終わったのだと改めて実感した。

 これで俺は一歩願いの実現に近づいたのだ。


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