ガウェイン
火の粉となって散っていくスルト。その様子を見つめていたアーロットはふとあることを思い出す。
「そう言えば、スルトの体の中にガウェインが取り込まれていた気がするんだが‥‥‥」
戦闘に集中してそのことを忘れていたガラハッドがぎょっとした視線をスルトに送る。完全に火の粉となって散っていったスルトがいた場所に赤く輝く何かだけが残っている。
「ご安心を。拙者はただ、斬るべきものを斬っただけ。それ以外のものには傷一つつけてはいません」
体中やけどだらけの侍。しかし、そんな重症の状態であるとは感じられない程落ち着いた声で彼は自らの仕事を評価する。
「とりあえず、様子を見に行こう」
アーロットが飛翼の魔法を操作して落ちてゆく赤い輝きに近づいていく。既にそのそばにはログレスがより沿っている。
「ガウェイン、起きて。あなたの王が参られましたよ」
地に降り立ったログレスが赤い輝きにそう声をかけるとより一層強く輝いた赤い光は取り囲むアーロットたちを照らした。
「!?」
反射的に手をかざし、光を遮るアーロット。辛うじて見える視界の奥。強い輝きを背に、一人の大男の影が浮き上がる。
「ログレス、長い間すまない、そして彼を連れてきてくれてありがとう」
光が収まるとそこには身長二メートルを超える偉丈夫が立っていた。彼はすぐそばに立っていたログレスを抱きしめると、同性のアーロットが聞いてもほれぼれする美声でログレスに謝罪と感謝を告げる。
「あなたが、私の王ですか?」
抱擁を解き、アーロットに近づいてきたガウェイン。ブロンドの髪と逞しくも美しい顔つき。筋骨隆々とした体。他を圧倒してやまないガウェインがアーロットに問いかける。
「ああ、俺がアーサーの後を継いだ人王だ」
はっきりとガウェインに向かって宣言するアーロット。見極めるようなガウェインの視線がアーロットに向けられる。
「未熟」
誰もが固唾をのんでガウェインとアーロットを見つめるなか、沈黙を破ったガウェインがアーロットをそう評価した。
「力も、器も、遠くあのお方には及ばない。あなたの歩む王道に輝かしい未来を感じられない」
アーロットが言い返せないでいるのを見てガウェインはそっとため息をつく。
「反論があるのなら剣で、とも思ったのですがそれすらないようですね」
反論などあるわけがない。少なくともアーロットは今そう考えている。
力があれば悪魔から逃亡する現在など存在しない。
器があれば民と衝突はしない。
理想の無い王に輝かしい未来などあるわけがない。
いまのアーロットは誰かから与えられた使命、世界の救済を成し遂げようと動く機械。それに挑むにあたって本来アーロット自身が抱いていた動機は失われてしまった。ゆえに、達成感はなく、情熱はなく、誇りもない。ただ焦燥感と義務感のみで動いている。
ガウェインは正確にそれを看破していた。
「‥‥‥」
「それではこれで」
押し黙るアーロットに見切りをつけ背を向けるガウェイン。一瞬だけアーロットに視線をやったログレスがその後についていく。
「待てガウェイン卿!どこに行くつもりですか!?」
慌てて彼を止めたのはガラハッド。
旧知の仲である深紅の鎧を纏う騎士を見てガウェインが動きを止める。
「久しぶりですね、ガラハッド卿」
ガラハッドの方に向きなったガウェイン。その視線はかつての友に向けるにはいささか険しい。
「どこに行くも何も、悪魔狩りですよ。それこそが円卓の騎士の本文でしょう」
なおも問いを重ねようとするガラハッドの言葉をガウェインが遮る。
「それより、あなたこそどういうつもりです。なぜあなたは彼の隣にいるのです」
返答次第では斬りかかるとでも言いたげな雰囲気を纏いガウェインは詰問する。
「ガウェイン卿、あなたは勘違いしている。この方はアーサー様の魂の欠片を引き継いでおられる。つまりアーサー様の生まれ変わりに等しいので──」
言葉は最後まで続かなかった。
この場にいるほとんどの戦士が目で追えない速さで距離を詰めたガウェインはガラハッドの喉元に剣を突きつけていた。
「彼とアーサー王を同列に扱うなどたとえあなたでも許しません」
それはまごうことなき殺気だった。
「私は彼をアーサー王の生まれ変わりだとは認めない。ゆえに二君に仕える不忠を犯すことはない」
アーサー王への絶対の忠誠。だからこそ彼はアーロットを認めない。
彼が求める理想にアーロットは程遠い。
「私は私で仲間を集め、この世界を守ることにします」
剣を鞘に戻し、もう一度背を向けたガウェインは去っていく。今度はガラハッドも彼を止めることはできなかった。




