vsスルト
上半身だけの炎の巨人がアーロットたち目掛けて進んでくる。
「まずは距離を取りながら相手の出方を窺う!」
アーロットの指示のもと、詰められた距離の分全員が後退し、距離を取る。
「面倒なことをせずにお前の闇魔法であいつを消したらどうだ」
完全にアーロットたちの事情に巻き込まれた形のリッツァーが適切ともいえる提案をする。
しかしアーロットは首を縦に振ることはしない。
「内包するエネルギー量が多すぎる。それに‥‥‥」
アーロットが指をでさす先、スルトの炎の体を見るリッツァー。
その視線の先で、顕現したスルトは徐々にだが炎の勢いを強めていっている。
「エネルギーがわずかに上昇し続けている?」
「恐らくは太陽光からエネルギーを摂取しているのでしょう」
リッツァーの疑問に答えたのは分析の魔瞳を持つメリサ。
「徐々に強くなる、という枷を設けることで魔法の出力を限界以上に引き伸ばしているのだろう」
構造上、技術上、魔法陣の出力には限界がある。そこであえて魔法陣に不自由を課すことで、本来使われるはずだった回路のリソースを出力の向上に使用する。
典型的な出力アップの手法だった。
「俺の闇魔法で消滅させることのできるエネルギーはあいつがいまも蓄え続けているエネルギーの量にギリギリ負ける」
つまり、どう頑張ってもアーロット一人の力ではスルトは倒せない。
出方を考えるアーロットたちに対して、スルトが剣を持っていない左手を向ける。
正面に陣取るアーロットに向けられた掌。その中心に太陽を縮小したような火球が生み出される。
十分離れた距離でも目を焼き、肌を焦がす光と熱の塊が勢いよくアーロットめがけて飛翔する。
「『黒盾』」
火球とアーロットの間に漆黒の幕が下りる。
漆黒の幕に触れた瞬間、目に見えて火球はその威力、速度を減衰させた。
そして火球は幽霧之羽々斬に一閃され、火の粉となり空に散る。
「俺の闇魔法が通じなくても問題はない」
スルトの攻撃など意に介さず、散開する臣下たちにそう言って聞かせるアーロット。
「お前が決めろ、侍」
「御意」
突然の命令に対して、一瞬の間もなく即答してのける侍。
その答えに満足したアーロットは設定した目標までの道筋を考え始める。
(スルトの攻撃方法は主に二つ。火球による遠距離攻撃と、大剣による近接攻撃。どちらも規模と威力こそ油断ならないが、速度はそれほどでもない)
自分と臣下たちに対するスルトの攻撃を上空から俯瞰して、相手の手札を徐々に暴いていく。
(いや、二つとは限らないな)
スルトの体に飛翼の魔法陣が描かれたのを見て、アーロットの頭の中にあるスルトの手札に一枚、カードが付かされる。魔法、これでスルトの手の内は格段に読みにくくなった。
「BOOOOOO!」
熱波を伴う咆哮が空を揺らし、大気を焦がす。
砲門のように魔法陣が描かれれば、それは四方に散らばるアーロットたちに狙いを定める。
「BOOOOOOOO!」
再度の咆哮。同時に放たれるのは幾本もの炎の筋。
それらは空中機動を駆使して魔法を避けようとするアーロットたちをどこまでも追い続ける。
「『水華』」
メリサの声とともに咲き誇るのは水でできた菫の花。そしてそれらは空中を埋め尽くす密度で咲き誇る。
「手数の勝負なら受けますよ」
黒のローブから覗く端正な顔に挑発的な笑みを浮かべて、スルトの魔法攻撃をすべて防ぎきって見せるメリサ。
「ならメリサがスルトから侍を守れ」
「了解」
指示を受けたメリサは空中を滑るように飛んで侍の近くに移動する。
「よし!ラデスとリッツァー、それにガラハッド。お前たちでスルトの剣を止めろ。残った者は魔法攻撃でスルトの気を散らせ。そこに俺が魔法で隙を作るから侍はそこを突け」
「「「了解っ!」」」
基本的な方針を決めたアーロットが臣下たちに支持を出す。
大雑把な作戦ではあるが、それゆえに不測の事態に惑わされることも少ない。敵に対する情報不足を懸念したがための作戦だった。
「合わせろ!」
稲妻を模した槍、雷霆を構えてラデスが一番にスルトへと接近する。そのあとに続いてガラハッドとリッツァーがそれぞれ聖剣とカットラスを構えて飛行する。
対するスルトは溶岩を固めて作ったような巨大な剣を真っすぐ三人へと振り下ろす。巨体の割にと言うべきか、巨体ゆえにと言うべきか、三人へと振り下ろされる溶岩の大剣は凄まじい勢いを有している。
「BOOOO!」
「「「おおっ!」」」
頭上から迫る溶岩の大剣に臆することなく突っ込んだ三人はピタリのタイミングで大剣を打ち返す。対比すれば豆粒のように小さい三人が大剣を打ち返してしまう光景はいっそフィクションのようだった。
「BOOOOO!」
怒気を孕む雄叫びを上げ、打ち上げられた右腕とは反対の左腕がラデスら三人を捉える。
しかし、スルトの魔法が放たれるよりも先に晴明とバルトの魔法がスルトの左側面を穿つ。
「『黒砲』」
畳みかけるようにアーロットが魔法を発動する。闇子を固めた弾丸が六つスルトの体に穴を空ける。炎の体はすぐに穴を再生するが、その間スルトの動きが止まる。
「いまだ!」
「御意!」
戦場に訪れる一瞬の停滞を切り裂くようにアーロットが叫ぶ。即応した侍が弾丸のように早くスルトの胸部めがけて突き進む。
「BOOOOOO!」
本能的に命の危機を察したスルトが大技の発動に踏み切る。まだ侍がスルトとの間の距離の半分を詰めたところで放たれる火球。これまでのものより段違いに大きいそれが放つ熱と光は太陽と見まごうほどである。
「『水星』」
後方から放たれたメリサの魔法が侍を追い越しスルトの火球を相殺する。一瞬にして山頂全体を覆う高温の蒸気。
「BOOOOOOOOOOO!」
「どうなった!?」
一際大きなスルトの叫び声が空気を揺らす。たまらず叫ぶアーロットだが、周囲の誰も状況を把握できないでいた。
すぐさまメリサが風の魔法で蒸気を散らすと、白い煙の奥に刀を振り切った状態のサムライがいた。高温の蒸気に直撃したせいか皮膚が露出した部分の多くにやけどを負っている。
そしてそのさらに奥、肩からわき腹にかけてを切り裂かれ不自然に制止した状態のスルトが。不思議なことに侍が持つ刀の刀身よりスルトの体はずっと大きいのにも関わらず切り傷はスルトの体を真っ二つに両断していた。まるでそれは空間そのものによってスルトの体が分断されているようだった。
「ふぅー」
刀を振り切った姿勢から大きく息を吐きながらむき出しの得物を鞘に納める侍。その動作に合わせてスルトの体が火の粉となって散っていく。




