登頂
「やっと‥‥着いた‥‥ハァハァ」
思わずアーロットの口からそんな言葉が漏れる。
しかし、周りの面々もその言葉に反応する余裕を持っていない。皆一様に滝のような汗を流している。
「あれは‥‥」
やっとの思いでたどり着いた永燃山の頂上。そこは直径四十メートルほどの円を描く平らな場所だった。
そしてその中央、アーロットの視線の先には一際熱く、明るい炎が燃え上がっている。
消耗しきって動けないアーロットたちから、同じかそれ以上に消耗しているはずのログレスが確かな足取りで離れていく。
一歩、また一歩と近づく。つられてアーロット達も彼女の後を追う。
山頂の中央で燃える炎。そのすぐそばまで歩み寄ったアーロットたちは炎の中心で燃えるものの正体を目にする。
人間だ。体長二メートルほどの大男。燃える炎のせいで詳細な容姿まではわからない。
だが間違いなくこの男こそが‥‥‥。
「ガウェインです。間違いありません」
アーロットの隣に立つガラハッドがそう断言する。
「では、あとはガウェインを起こすだけか‥‥‥」
疲労のにじむ声でラデスが言う。
「いえ」
それに待ったをかけたのはログレスだ。
「まだ何かあるのかい‥‥?」
うんざりしたような晴明の言葉に同意するものはいないが、内心は皆同じ意見であるのは言うまでもない。
「最後の防衛機構、というよりこれはあなたへの試練です。人王陛下」
「俺への‥‥?」
何らかの魔法陣を描きながら、ログレスは事情を説明する。
「ガウェインは未だ先王、アーサー様への忠義を忘れておりません。彼は二君に仕えるを良しとはしないでしょう」
「つまり試練を突破すれば俺を新たな主として認めると?」
「いいえ」
そうではないとログレスは首を振る。
「おそらくこの試練は彼がアーロット様に会うか否かを判断するためのもの。この試練に打ち勝って初めてガウェインは自らの目で、アーロット様に仕えるかどうかを決めることでしょう」
なんとも面倒くさい男だ、というのがアーロットの正直な感想だった。何より、アーロットはガウェインとうまくやっていける自信がなくなっていた。
「この試練、俺一人で臨むべきだろうか?」
既に九割がた魔法陣を完成させているログレスにそう尋ねる。
「その必要はないかと。臣下の力もまた王の力、彼ならこう言うでしょう」
「なら遠慮なく全力で挑ませてもらおう」
そして、ログレスの指が魔法陣から離れる。
描きあげられたのは赤黒い魔法陣。円の内部は文字や記号がびっしりと並び、総画数は一〇〇を下らないだろう。
魔法の規模が魔法陣の画数に比例するならなかなか油断のならない数字だ。
「下がれ」
魔法陣に込められた魔力の揺らぎを感じ取ったアーロットは後ろにいる配下たちに指示を出す。
全員が山頂の縁まで移動する。
「炎が‥‥‥」
メリサの言う通り、永燃山の炎という炎が赤黒い魔法陣に吸い込まれていく。
そして炎を吸い込んだ魔法陣は徐々に内包する魔力と、規模を大きくしていく。
変化が起きたのは魔法陣が直径十五メートルの大きさに達した瞬間。
「守れ!」
晴明の危険信号に誰もが一瞬で魔壁の魔法を使う。
次の瞬間。炎を吸収し、限界まで膨張した魔法陣が爆発。赤黒い炎が山頂を覆い、魔壁の魔法を溶かす。
爆炎、爆風。すさまじい熱と衝撃はそれだけでも並みの魔法の威力の比ではない。
しかし、この場にいる誰もがこれで終わりだとは思っていない。
その予想を肯定するように、沈静化した爆発の奥、爆心地である山頂の中央に巨大な影が現れる。
「炎の巨人‥‥?」
まさしく、アーロットの言う通りであった。
現れたのは炎で体を作った巨人。霊のように上半身だけの体だが、その全長は十五メートルに及ぶ。逆三角形を描く上半身は筋肉など一繊維たりともないはずなのにすさまじいパワーを宿しているのが伝わってくる。
「『世界焼却装置』」
ログレスが魔法を完成させる引き金を引けば、本格的に魔法が発動する。
髪の毛のように炎が揺らめく頭部。人間なら瞳がある位置に黄金の炎が灯る。黄金の瞳が見つめる先。スルトの右手には二十メートルを超える大剣が装備される。
「BOOOOOOOO!」
世界を滅ぼす炎の巨人が咆哮が響く。




