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神に選ばれた人間異世界で王様になる  作者: ペンギン
アノール編
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登山

 めらめらと炎が燃えている。特別な木なのか、これだけ派手に火が燃え盛っているというのに周囲に生える木は燃えつきることなく炎を纏っている。まるで炎の葉を生い茂らせているように。

 木は燃えず、他にこの山にあるものと言えばアーロットたちが踏みしめる地面くらいのもので、どちらも炎に焼かれることはない。

 おかげで煙に視界を阻まれることもないのだが‥‥‥


「マントのおかげである程度熱は遮断されるが‥‥」


 呻くようにラデスがこぼす。

 口には出さないが全員が同じ意見を共有する。

 とにかく暑い、と。

 我慢できる程度に減衰されているとはいえ、暑いものは暑い。

 したたり落ちる汗は、彼らの体力が奪われていること目に見えて伝えてくる。


「ログレス、ガウェインのいるところまではどれくらいかかる」


 汗をぬぐいながらゴールまでにかかる時間を尋ねるアーロット。

 これで少しでも短いのなら、と思ったものの‥‥


「ガウェインがいるのはこの山の山頂。到着までには二、三時間ほどかかると思われます」


 膝から崩れ落ちそうになった。

 聞かなければよかったと心からそう思った。

 中には強靭な精神力で耐えているものもいるが、ほとんどの仲間はアーロットと同様に頬をひきつらせている。


「「「!」」」


 突然、ラデスとバルト、さらに侍の空気が変化する。

 その変化を敏感に感じ取ったアーロットたちの空気もまた変化する。


「なにか来ます」


 侍のその言葉に空気がより一層の緊張感を帯びる。

 アーロットがさっと周囲を見回すも、それらしい影は見当たらない。

 それでも、たしかにアーロットにも認識できるほどちかくに何かがいる。


「御免!」


 アーロットの体が、侍によって押しのけられる。

 一拍遅れて銀色の輝きが走る。

 気づけばいつの間にか刀を抜き放っていた侍が揺れる炎を両断していた。


「ギャオッ!」

「!?」


 斬り裂かれた炎から獣のような悲鳴が放たれる。

 驚愕に見舞われるアーロット達に追い打ちをかけるように周囲の環境が一変する。


「囲まれたか?」


 ざっと周囲を見渡して呟いたラデスの言葉が真実を語る。

 斜面で点々と燃えていた炎が、明確な意思をもって彼らを囲む。


「ログレス、これは?」

「ガウェインが施した防衛機構ですね。残念ながらわたくしたちを判別できるほど融通のきく代物ではないので撃破しましょう」


 この灼熱の空間に身を置くだけでも消耗すると言うのにその上さらに戦えと。

 そう言われてしまったアーロットたちの選択肢は残念ながら一つしかない。

 諦めたように各々が自分の得物を抜き放つ。

 徐々に包囲の範囲を狭めてくる炎にそれぞれが一斉に躍りかかる。

 魔法の輝きが、剣戟の閃きが空間を彩る。

 攻撃を受けた炎は次の瞬間には再生した。


「予想はしていましたが、ただ攻撃するだけでは倒せそうにありませんね」


 ガラハッドの言葉が現状のすべてだった。

 そもそも水を斬っても、風を斬っても意味がないわけで。それは滑稽なダンスを踊るようなもの。炎もまた(しか)り。


「それ相応の対処が必要と言うことだ」


 アーロットが右腕を突き出すと腕輪に嵌められた闇石(あんせき)が漆黒の輝きを放つ。


「『黒渦(くろうず)』」


 あふれ出た闇子が、アーロットたちを中心に渦を巻く。

 外側にいる炎の化け物たちはひとたまりもなく闇子(あんし)によって消滅させられる。

 台風の目のように凪いでいる中心。そこにいるアーロットたちは黒い竜巻の影響を受けない。

 

「・・・やりましたね」


 渦が晴れ、視界が元の景色を取り戻すとそこにはもう炎の化物はいなかった。どころか、周囲の木々、そして地面までも抉られたように消滅していた。


「ふう・・・。これでひとまずは一安心といったところか・・・」


 吐く息に疲労を滲ませながらアーロットは額に垂れる汗を拭う。


「侍、少しいいか」


 全員が歩みを再開させようとする中、侍の横に移動したバルトが、彼に話しかける。


「なんなりと」


 疲労など全く見せつけない表情で侍は応じる。


「先ほどの炎の化物。お前だけは刀の一振りで屠って見せたな。できることならそのからくりを聞かせてもらいたい」


 確かに、最初にアーロットを攻撃してきた炎を侍は見事斬り滅ぼした。他の誰も同じ真似は出来ていない。

 無論、バルトも。彼の高性能のセンサーを()ってしてもその理由に検討がつかない。

 半ば使命のような知的好奇心に突き動かされて彼は侍にその神業(かみわざ)の真相を尋ねた。


「難しいことは何も‥‥。斬るべきところを斬ったまでです」


 問いに対する侍の答えは簡潔だった。

 しかしこれではあまりにも簡潔で、バルトの問いに対する十分な答えにはなっていないだろうと、侍は補足する。


「特別なのです。私の目は」


 バルトのセンサーでも‥‥いや、この場の誰の目にもとらえられなかったものを侍は見たという。恐らくは魔瞳(まどう)の類か。

 自らのセンサーにも見えなかったものを見たという侍の言葉に、バルトは納得がいかない。

 ‥‥いかないが、実際問題として侍はバルトに屠れなかった炎の化け物を屠った。ならば己の感情など関係なく、彼の言っていることを受け入れるしかない。

 彼らの会話を耳に入れていたアーロットだったが‥‥。


「ん?そっちに行くのか、ログレス?」


 先頭を歩くログレスが進路変更したので、その後に続いたアーロットは違和感を覚える。

 山頂を目指すはずがログレスは下山する方向に進路を変更した。


「山頂は世界の隠し部屋と同質の状態にありますので」

「なるほど」


 世界の隠し部屋。特定の場所で、特定の順路を辿った時のみたどり着ける不思議な場所。

 ログレス曰く、この山の山頂もまた、世界の隠し部屋と同じ方法でしかたどり着けないと言う。


「具体的に言いますと、まず一度下山します」


 みしり、そんな音が聞こえた。

 それは誰かの、あるいはアーロット自身の心に(ひび)が入る音。


「再び登る際、今度は円を描くようにぐるっと回って山頂を目指します」


 これがタチの悪い冗談だったらと考えるアーロットだが、無論ログレスの言葉は冗談などではなく。

 一行は諦めて下山するログレスの背中を追った。

 

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