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神に選ばれた人間異世界で王様になる  作者: ペンギン
アノール編
43/48

鞘のありかは疑惑の果てに

「見張りご苦労」


 朝食を取り終えたアーロットは予定通りセルスが監禁されている一室を訪れた。狭い室内、他のキャメロットの人間を連れ込むには物理的に無理がある。よって、彼に同伴するのはガラハッドのみである。

 部屋の前の扉にはバルトの部下の機人が二人、見張りについている。

 彼らを労いつつ、アーロットとガラハッドはセルスがいる室内への扉を開けた。


「ごきげんよう、人王様。サーガラハッドもごきげんよう」


 優雅に朝の挨拶を告げるセルス。隙なく着込んだスーツの色は黒、唯一白色のネクタイが目立つ。寝起きだろうに彼のウェーブのかかった白髪に乱れはなく、二人を見据える金色の瞳は鋭い。

 航海を始めてから二日目、監禁されているセルスの様子に変わりはない。


「今日はお前に話があってきた。時間をもらうぞ」


 狭い室内に一つだけ存在する椅子にアーロットは腰掛ける。

 セルスはベッドに腰を落ち着けていて、ガラハッドに座る場所はない。

 魔性で椅子を用意しようかとも思ったが、目があったガラハッドが首を横に振るので、視線をセルスに戻す。

 

「もう一人ここに招待してもいいか?」

「もちろん」


 これが貴族だと言わんばかりにセルスは気品たっぷりに提案を受け入れる。捕虜だというのに、それを忘れさせるほどの余裕が彼にはある。

 ともあれ、セルスからの許可が得られたアーロットは早速携帯端末を取り出す。海中でもつながるのかと不安を覚えたが、そこは問題ないとのガラハッドのお墨付きをもらっている。

 アーロットが連絡を取ったのはもちろんキャメロットにいるマーリン。

 どちらの言い分が正しいのか、いっそ二人を同席させて聞こうではないかという魂胆だ。


「おはようございます。アーロット様」

「早くに悪いな、マーリン」

「いえ、お気になさらず。要件はキャメロットの現状についてですかな?それならば問題ありません。アーロット様達がロンバールを脱出した時点で、キャメロット付近に展開していた敵軍は撤退いたしました。いまさら陣を展開する必要がなくなったのでしょう」


 本題ではなかったが、その報告を聞いてアーロットの胸の中でくすぶっていた不安の火種がひとつ消えた。

 もっとも、これは予測できたことではある。アーロットたちがキャメロットに侵入しようとするのを阻むために展開した陣なら、彼らがアノールに逃げ込んだ時点で展開した陣はその意味を失う。

 アーロット達がいない間にキャメロットを攻めようにも、キャメロット城の城魔法と、マーリンがいる限りそれも容易ではない。戦力を分散させたいまの状況ではほぼ不可能と言っていい。


「報告感謝する。騎士団が撤退してくれてほっとしている。だがいまお前に連絡したのには別の理由がある」

「お聞かせ願えますか?」

「無論だ」


 あれこれと回りくどい言い方をするのはアーロットの苦手とするところなので、単刀直入にアーロットはマーリンへの疑惑の真偽を問いただす。


「先の戦で捕虜とした悪魔、セルスの話によると悪魔は魔神によって生み出されるのではなく、俺たちとまったく同じメカニズムで生まれるという。しかし俺はお前の口からそのような話を聞いたことがない。・・・正直迷っている。俺たちはどちらを信じればいい」


 要件を聞き終えたマーリン。短い沈黙の末、覚悟を決めたように彼は息を吐く。それは、とうとうばれてしまったとでも言いたいげな諦めのため息にも聞こえた。


「私を信じていただきたい、と言いたいところですが、この件はセルスの言い分が正しい。神々と六種の間に広がる定説。曰く、悪魔は負の感情から魔神が生み出した存在である。これは真っ赤な嘘です」


 これで、アーロットがマーリンに抱いていた疑惑は彼自身の言葉で真実であることが証明された。

 アーロットの目の前に座るセルスがそれ見たことかとその表情で以って雄弁に語りかけてくる。

 アーロットはそれに取り合うことはせず、少しでもマーリンの意図を探るべく気になる点を突いていく。


「なぜ、お前は俺たちを騙した。神々でさえも真実を知らないのか?」


 ガラハッドはよほど衝撃的だったのか、口を挟む様子がない。


「後者の問いに対する答えはいいえ、です。むしろこの嘘は神々が広めたものです」

「「!」」


 再度の驚愕がアーロットとガラハッドを襲う。二人とも、まさか神に騙されているとは思っていなかったという表情だ。

 特にアーロットの場合、知識の大部分を神から与えられている。結果、彼は築き上げた知識の城が、その土台から崩れ去るような恐怖を抱いた。なにが正しくて、なにが嘘なのかいまの彼に判断する方法はない。


「前者の質問にもお答えしましょう」


 アーロットたちの反応について察しているのかいないのか。マーリンの自白は止まらない。


「結論を言えば、私も神も悪魔をまごうことなき悪に仕立て上げたかった。同情の余地はなく、救いの余地もない。そのような存在に仕立て上げることで、人類の振るう刃から迷いを取り除きたかったのです」


 その場にいる三人の表情が一気に硬くなる。室内を満たす空気が冷たく、重いものに変化する。

 なんて合理的で、心無い策略なのだろうか。怒りを覚えるよりも先にその冷酷さに(おのの)くアーロットとガラハッド。


「お前たちは悪魔を根絶やしにしたいのか・・・」


 そうとしか思えないような策略だった。個人にしろ複数人にしろこの策略を考えた存在は和解など望んでいない。徹底的に交戦し、そのうえで悪魔の根絶を願っている。


「私たち、私と神もさすがにそこまでのことは望んでいませんよ。本当にただ人々から迷いを取り除きたかっただけです。

 むしろこう考えていただきたい。私たちは、そこまでしなければ悪魔には勝てないのだと。ほんの少しの心の迷いも許されない戦場に私たちは立っているのです」


 すでに人類の首都圏であるラスティナが陥落間際にあるだけにその言葉はアーロットにも、ガラハッドにも重くのしかかった。

 しかしだからと言って容認できる話でもなかった。

 この際、彼の主であるアーロット自身まで騙されたことを問題にはしない。むしろ、ラスティナに来たばかりのアーロットを知るマーリンなら騙して当然。真実を知ればアーロットは戦えなくなっていただろうことは想像にたやすいのだから。

 問題は嘘の内容。彼らが用いた嘘の内容はあまりにも悪辣すぎる。

 心をかき乱していた戦慄が鎮まるにつれて、怒りがアーロットの胸中ににじみ出ていく。


「許しがたい嘘だ。自分たちと変わらぬ存在を故意に陥れ、挙句絶対の悪に仕立て上げた。いかなる大義名分があっても許されない行為だ」

「重々承知の上です。償いのしようもありません。せいぜい最期は生きざまに見合った、無惨で、凄惨な死にざまをさらしましょう」


 その言葉にはマーリンと言う一人の悪魔が背負う深い苦悩の一端がにじみ出ていた。しかし、そこに後悔の感情は感じ取れなかった。

 今更、アーロットにもガラハッドにもマーリンを責める気はなかった。

 そんなことをしてもどうにもならないというのが理由の半分。もう半分は彼らにマーリンを責める資格がないから。彼らとてここに来るまでに悪魔の命を奪い続けてきたのだから、今更他人の非道をとやかく言えた義理はない。

 ゆえにアーロットは問うた。そうまでしてマーリンが目指す未来を。


「マーリン、お前が目指す最後とはなんだ」

「世界の平和。私が目指すのはそれだけにございます」


 即座に返ってきた答えはこの戦争に参加する誰もが抱く願いだった。予想できていただけにアーロットもさして驚きはしなかった。

 

「その平和の中に僕たちは含まれていないのだな」


 ここまで黙ってマーリンとアーロットのやり取りを聞いていたセルスがここでようやく口を開いた。

 皮肉なセリフに反して、金色の瞳に怒りは宿っていない。むしろ口の端は自嘲の笑みで吊り上がっている。


「無理もない。もともとこの戦争の発端は僕たちだ。同情の余地が無くても当然だ。

 お前たちの嘘はあくまで味方を奮い立たせるためのスパイスを加えたに過ぎない」

「それでも、私たちを非難する資格くらいはある。王が退室された後でなら、いくらでも耳を貸そう」

「いや、結構だ。そもそも、お前たちの嘘が広まったのも、僕たちが嘘を真実にしてしまうほどの行いをしてきたのが原因なのだから」


 意外なほどセルスの感情は凪いでいた。いや、乾いていたという表現の方が適切かもしれない。

 それ以上セルスが口を開くことはなかった。


「答えろ、マーリン。お前がアーロット様に捧げる忠誠は本物か?」


 セルスとの会話が一段落するのを見計らって、今度はガラハッドがマーリンに問いかける。

 その言葉はガラハッドが振るう刃のように鋭い。端末越しであっても、表情など見えなくても、ガラハッドの言葉の切れ味の前にマーリンは偽りを語ることを許されない。


「本物だとも。修めた魔法も、生まれ持った魔性も、身につけた知恵も、すべてはアーロット様に捧げるためのものだ」


 ゆるぎない声が、アーロットたちの耳を揺らす。


「いいだろう。その言葉を真実と認めよう。だが、次はないぞ」


 事の成り行きを見守っていたアーロットの前で、ガラハッドはマーリンの言葉に偽りはないと判断した。ゆえに、ここはアーロットも臣下の判断を信じることにした。


「ではこの話はこれで終わりだ。マーリンについてとくに処分を下すことはしない。また、真実を明かすかどうかは今後判断することとする」


 そう締めくくったアーロットの言葉に異論が出ることはなかった。


「王よ、寛大な処置に感謝します」

「ガラハッドの言葉通りだ。次はないことを肝に銘じておけ」

「御意」

「ところで、もう一つ要件がある」

「なんなりと」


 もう一つの要件はもちろん聖剣の鞘について。ガラハッドでも知らなかった鞘の行く末もマーリンならその手掛かりを知っているかもしれない。


「聖剣の鞘について聞きたい。それと─」


 それまで流れるように紡がれていたアーロットの言葉がそこで不自然に止まった。

 周りが(いぶか)し気な視線を送ってくるが、アーロットにそれを意識している余裕はない。この先、自分が言うべきであった言葉がきれいさっぱり抜けている。心が締め付けられるような悲しさを伴った忘却は決してど忘れなどではない。


「いや、何でもない。聖剣の鞘について、知っていることを教えてくれ」


 悩んだ一瞬のうちに違和感は消えていた。自分が誰かの名前を思い出そうとしていたことすら忘れてしまっていた。異常な状況を周りの人間はもちろんアーロット本人すらも気にしていない。気に掛けるべき問題すらも忘却してしまったのだから。


「聖剣の鞘ですか・・・」


 単に月日が経っているからか、マーリンは随分と長く記憶を探っている。


「たしか、アーサー王が鞘を奪われた?のはまさにアノール国での出来事だったように思われます」


 マーリンの様子もどこかおかしい。そもそも、聖剣の十倍の価値がある─あくまでレーテルナでの伝説─とされる聖剣の鞘についてこれまでマーリンが一切触れなかったことすらおかしい。

 しかしここでも誰もその違和感を指摘するものはいなかった。それどころか違和感を認識したものすらいなかった。


「とは言え、アノールも広い。ガウェインとの接触、リヴァイアサンの討伐がある俺たちにアノールのどこかから聖剣の鞘を探すのは至難だぞ」

「ここはリッツァーたちを頼ってはいかがでしょうか?」


 ガラハッドの提案には一理あるが、安易に受け入れるわけにはいかない。


「彼らと俺たちはあくまでお互いの利益にもとづいた関係だ。鞘を探してくれと頼んで素直に向こうが了承するとは考えづらい。相応の対価を支払えばそれも可能かもしれないがな。

 セルス、お前はなにか知らないか。アーサー王が持っていたという聖剣の鞘について」


 聖剣の鞘が強力な魔法具だったのなら、それを封じるべく騎士団が動いていても不思議ではない。どこか納得いかない推理ではあったものの筋は通っている。


「聖剣の鞘については僕たちも知っている。ただそれがどこにあるかは知らない。もしかしたら知っている悪魔もいるかもしれないが、いまの僕は悪魔を裏切った身だ。見つける手立てはないに等しい」


 推理は外れ、鞘探索は早くも暗礁に乗り上げた。

 こうも手掛かりがないと場の空気は徐々にお手上げムードになっていく。

 そんな空気の中に一筋の光明を照らしたのは意外にもセルスだった。


「なにを悩んでいるんだい?マーリンの予知を使えばいいじゃないか」


 セルスの案に一瞬アーロットも光明を見出したがすぐにそれを否定する。


「マーリンは一度予知を外している。そればかりか最近は未来を見ることすら満足にできていない。正直、現状彼の魔性は頼りにできん」

「ぐっ!」


 事実とは言え、本人を前にして痛烈な評価を下すアーロット。あまりの慈悲のなさに端末越し、キャメロットにいるマーリンが本気で落ち込んでいることがガラハッドにもセルスにも察することができた。


「いや、問題ないはずだ。まさか騎士団本部もマーリンが見るであろう未来のすべてを隠蔽することはできないだろうからね」


 アーロットの評価に若干引いていたセルスだが、すぐに気を取り直して、彼が知る情報に基づいた意見を口にする。


「マーリンの予知を機能不全に貶めているのは、おそらく騎士団が最近発見した『隠蔽(ハイド)』の魔性持ちの仕業だ。なんでも、未来でさえ隠蔽できるこの魔性も隙が無いわけではない。

 限りなく存在する未来をひとつずつ調べ上げ、お前たちの利益になる、あるいは騎士団の不利益になる未来を消すことは不可能だ」

「・・・それが確かなら調べてみる価値はあるな。頼めるか?」

「お任せください」


 スピーカー越しにもわかるほど落ち込んでいたマーリンだったが、アーロットの命令を受けるその言葉には一切の気負いを感じない。自身の魔性が完全に封じられたわけではないと知れたことが大きいのだろう。


「ちなみに、『隠蔽(ハイド)』の持ち主はいまどこにいる」


 アーロットのその質問は少しばかりガラハッドにとって意外なものだった。

 障害となる敵の居場所を尋ねたのだからその行動が意図する結果はただ一つ。障害を排除すること。

 敵を殺すことに強い忌避感を抱いていた主の成長にしかし、ガラハッドは素直に喜ぶことができなかった。きっとアーロットはいまも心の中では強い嫌悪感にさらされているのだろうから。


「僕にも居場所はわからない。ただ、魔神領の奥深くにいることだけは確かだろうね」


 それが確かならば今後もしばらくマーリンの予知に大きな制限がかかることは想像に難くない。いまここでどうにかできることでもないのでアーロットは早々に割り切った。


「見えました!」

「本当か!?」


 セルスの言う通り、マーリンはアーロットたちが聖剣の鞘を見つける未来を見事予見して見せた。


「それで、鞘はどこにある」

「アノール首都ペリエに囲まれたペリエ湖です!」

次回の投稿は八月二十五日です。

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