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神に選ばれた人間異世界で王様になる  作者: ペンギン
アノール編
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作戦会議

「さて、作戦会議といこうか」


 リッツァーの後ついて訪れた部屋はアーロットの予想以上に広かった。

 そしてなによりアーロットを驚かせたのは内装の豪華さだった。

 床一面に広がる絨毯んはこれでもかというほど緻密に模様が編み込まれている。その上に堂々と鎮座する巨大な円卓はキャメロットのそれにも勝るとも劣らない。職人が手間暇かけて作成したであろう円卓は、実用品と言うより芸術品に近い。使い勝手を損なうことなく刻まれた彫刻には気品すら宿っている。

 正直、この船に乗ってからアーロットは圧倒されっぱなしだった。

 

「どうした?はやく座れ」


 怪訝そうに言うリッツァーに促されてこれまた内装にマッチした上品な椅子を引く。

 卓上の半分を占めるのはリッツァーを含めた十人の海賊たち。残る半分を占めるのはキャメロット陣営からアーロットたちと新しく配下に加わった侍を含めて五人、ロンバールからは白閻と晴明、そしてバルトの計八人。


「リヴァイアサンを、俺たちの大切な家族を殺したあのクソ野郎を倒す。そのための策を考えようじゃねえか」


 正気を疑うような行為だった。大海の怒りにわざわざ自分から挑むなど、誰が聞いても自殺行為に等しい。本来ならすぐにでも止めるべきだ。

 しかし海賊たちの覚悟は固い。それが分かるだけにアーロットたちも止めようとはしない。

 ならばせめて巻き込まれないようにしたいところだが、契約上そうもいかない。

 正直、フォルスたちと戦闘を行うのと、リヴァイアサンと戦闘を行うのではどちらにより勝機があるのか微妙なところである。

 しかし、文字通り乗りかかった船である。自分たちが死なないためにも全力を尽くす他に道はない。


「具体的にどうする。まず奴の居場所を君たちは知っているのか」


 リヴィアさんはこの惑星の海のあらゆる場所を行き来する。接近することでさえたやすいことではない。


「それについては当てがある。おい、ジョン」

「へい」


 名前を呼ばれたジョンと言う海賊が卓上に電子マップを展開する。ホログラムによる立体映像が周辺の地理を事細かに立体表示する。


「俺の魔性は追跡に特化してる。打ち込んだ俺の魔力が離れていてもあのクソ野郎の場所を教えてくれる」 


 一定以上距離が開けば魔力の制御が効かずに魔法はその効果を失うのが常だが、魔性ともなれば多少なりともその制限から逸脱できる。なかにはこうして距離に寄らず効果を発揮し続ける魔性もある。もっとも、たいていの場合できることはたかが知れている。


「そんで、俺の魔性が教えてくれるには・・・。よかったじゃねえか。俺たちとあんたらの行き先は一緒だ」


 地図上、アノール国の中心に赤い点がプロットされる。

 険しい山々が連なるロンバールとは異なり、アノールは川や湖が多い。いっそ海の上に都市が点在していると言っても過言ではないほどに。アノールの首都ペリエなど海と見紛(みまご)うばかりの湖をぐるりと囲むように都市が形成されている。

 都市と都市の間を縫うように流れる川はすべてアーロットたちが今いる海につながっている。リヴァイアサンはそこからアノールへと侵入したのだろう。


「複雑だな。寄り道せずにアノールに行けるのならこちらとしてもうれしいが・・・」

「そうですね。リヴァイアサンが人間が暮らす都市に侵入したとなれば明らかに非常事態です。最悪、俺たちがつく前にアノールが沈んでもおかしくない」


 誰もガラハッドのその言葉を不謹慎な冗談と咎めなかった。リヴァイアサンならそれほどの脅威になりうると誰もが理解している証拠であった。


「やつを討たねばならん理由がひとつ増えましたな。して、どのようにして奴を討つつもりか」


 リヴァイアサンの保有する魔力量は晴明のそれをたやすく超える。アーロットでさえ、リヴァイアサンが保有する魔力を作り出そうと思ったら一日や二日では足りない。仮にリヴァイアサンが保有する魔力すべてを爆発の現象に変化させればこの惑星の半分は消え去るだろう。

 それだけの魔力を有していれば当然、その防御力は尋常なものではない。アーロットの『透過(トランスピア)』でさえ突破して見せたリッツァーの『大魔丸(キャノン)』でさえ傷一つつけられないだろう。


「奥の手は用意してある。あんたらも見ただろ。この船の主砲を使う。あれを当てればいくら大海の怒りとかいう大層な名前で呼ばれてるあのクソ野郎もひとたまりもないだろうよ」

 

 アーロットたちにはあの大砲の威力がどれほどのものかはわからない。しかし一度リヴァイアサンと遭遇したうえでリッツァーがそういうのなら、最後の決め手として信頼するに足るだろう。


「この間奴とやり合ったときは嵐の壁に阻まれて主砲が届かなかった。だから、お前らに頼みたいのは奴が作る嵐の壁をぶち抜いてほしい」


 つまり、アーロットたちが嵐の壁なる防御機構を破壊する。それによって生じた穴にリッツァーたち海賊団が主砲を叩き込む。作戦としてはかなりシンプルだ。


「暴風によってあらゆるものの侵入を阻むリヴァイアサン最強の守りが嵐の壁。しかも奴はそれを三重に張っていた。これを破るのは一筋縄じゃいかねえ。できるか?」


 実際にアーロットたちは嵐の壁を見たことはない。だが、全く可能性のない話ではない。


「闇魔法なら可能だろう。もっとも、嵐の持つ運動エネルギーが闇子の許容量を超えていた場合は消滅しきらない可能性もある」

「その場合はどうする?」


 アーロットにとっては聞かれるまでもないことだったが、問われたアーロットは自信をもってその問いに答えた。


「俺の仲間がなんとかする」


 誇らしげにそう宣言するアーロット。

 リッツァーも、そしてアーロットも気づかなかない。たが二人の部下たちだけは気づいていた。頼れる仲間を誇りに思うアーロットと、手に入れた財宝を自慢するリッツァーの表情がとても似ていることに。

 それはアーロットが仲間を物扱いしているとかではなく、リッツァーがそうであるように、アーロットも仲間を誇りに思い寄る辺にしているということだった。


「いいだろう。リヴァイアサンは現在アノール首都ペリエの都市に囲まれるペリエ湖から動いてねえ。恐らく決戦の舞台はここになる。このまま順調に進めば決戦は二週間後、全員それまでに準備を怠るんじゃねえぞ!」


 会議をそう締めくくったリッツァーにガラハッドが横から待ったをかけた。


「いや、その前に寄ってほしいところがある」

「ったく、人がせっかく締めたところで・・・。恰好がつかねえだろうが。・・・で、どこに寄れってんだ?」


 不機嫌さを隠しもせずにリッツァーが行き先を尋ねる。


「行き先は今から聞くので待ってほしい」


 それだけでガラハッドが次に言わんとすることを察したアーロットは『収納(ボックス)』の魔法陣からログレスの短剣を抜いた。

 それをそのまま定位置となっているアーロットの右隣に座るガラハッドに渡す。


「ありがとうございます」


 それを(うやうや)しく受け取ったガラハッドは短剣を通して、遠く離れたキャメロットにいるログレスに語り掛ける。


「・・・」


 短剣を通してログレスからガウェインの居所を聞いているらしいガラハッドは一分とたたずに通信を終えた。

 通信を終えたガラハッドは再び感謝の言葉とともにログレスの短剣をアーロットに返した。


「誰か、アノールにある燃える山を知っているか?」


 ガラハッドの問いに、いまだこの世界に来て間もないアーロットはもちろん、白閻たちのような生まれた時からラスティナに住んでいる人間たちも答えることができない。

 それも無理からぬ話。アーサーの死後、侵攻してきた悪魔に占領されてからは各国間の交流は途絶えて久しいのだから。

 ガラハッドの言う燃える山は、五百年前の大敗北以降に生まれたものなのだから、白閻たちでさえ知らないのは無理もない。

 唯一、広い海を自由に移動している海賊たちはその存在を認識していた。


「それなら知ってるぜ」


 リッツァーでも、ジョンでもない別の海賊が代表して地図の一点を指さした。


「燃える山があるのはアノールのここだ。前に行った時は生き残った住民たちが地上の太陽(ジェルタ)とか言って(あが)めてたな」


 海賊たちが目的地を知っていたおかげで、わざわざログレスを呼び出す必要もなく、話し合いは次のステップに進む。


「ここに何があるってんだ」


 陸にはさして興味を持っていないリッツァーも、燃える山というラスティナでも屈指の不思議スポットには興味を抱いていたらしく、その表情には好奇心の影が見え隠れしている。

 

「円卓の騎士の一人にして、先王アーサー様の甥、サーガウェインが眠っている」

「・・・嘘じゃねえだろうな?」


 ガウェインの名前を聞いたリッツァーの表情から好奇心が消え、途端に真剣そのものと言った表情になる。


「ガウェインの伝説は俺でも知ってる。もし奴が生きて俺たちに力を貸してくれるなら、リヴァイアサン討伐はグンとやりやすくなる」


 ガウェインの伝説はアーロットが思っていた以上に広く言い伝えられていて、さらに彼の実力は多くの人間に高く評価されていた。

 当然と言えば当然である。ここラスティナはガウェインの故郷であり、ガウェインはここで多くの戦に参加した。ラスティナでのガウェインの評価はレーテルナのそれとは比べ物にならない。

  

「仮に偽りだったとしても、確認するだけの価値が彼にはある」


 彼の高い評価は同じ円卓の騎士であるガラハッドのこの発言からも容易に理解できることだろう。


「ま、それもそうだな。仕方ねえ、寄り道するか・・・。幸い燃える山は俺たちがペリエ湖を目指すルートからそう大きく外れてねえしな」


 リッツァーもガウェインの能力を高く評価しているからこそ、ガラハッドの提案を否定はしなかった。

 

「ほかになにかあるか?ないなら会議を終わりにするぞ」


 今度は横やりを入れられないようにと確認したリッツァーにアーロットは思い出した疑問を投げかけた。


「一ついいか?」

「なんだ?」


 再度会議の終了を妨げられたことにリッツァーはややうんざりした様子を見せる。


「そもそも俺たちがこの船に乗ろうと思った理由は、竜宮の乙女が原因だ」


 もっとも、シラノスの港にアーロットたちが使える船が一隻もなかったというのも大きな原因ではある。しかし、元を辿ればアーロットたちがギリストア海賊団を探した理由は竜宮の乙女にある。


「俺たちはもともと竜宮の乙女を避ける方法を知りたくて君たちを探していたんだ。リヴァイアサンもいいが、彼女たちをどうにかする(すべ)を君たちはもっているのか?」


 問われたリッツァーはそんなことかと言いたげに、ため息をついた。


「そんなもん知ってるに決まってるだろ。海に出る者の基本だ」


 そして、リッツァーはあっさりとそう言い切った。

 これには毎年少なからぬ被害者を出していたロンバール国王の白閻も驚きを隠せなかった。


「百聞は一見に如かず、知りたい奴はついてきな」


 レーテルナから輸入されたであろうことわざを使ったリッツァーは立ち上がり、甲板へと向かうべく会議室のドアを開けた。

 ア-ロットも白閻も、その場にいた全員がリッツァーを追って甲板に出た。

 

「ほら、見えるだろ。あれが竜宮の乙女だ」


 再び訪れた甲板はやはり神秘的な光景に満ちていた。

 ただ、先ほどと違うのは遠間から船を取り巻く多数の何かが存在していることだ。


「見えるだろ?あれが竜宮の乙女だ」


 船を囲う、紫に燃える円環が放つ光で、辛うじて乙女たちを視認することができる。

 全体的なビジュアルはおとぎ話にでてくる人魚のようだ。しかし、遠目から見てもわかるほど、その存在は美しさからかけ離れている。ファンタジー作品より、ホラー作品に出てくるのがお似合いな風貌だ。

 魚の尾びれを生やした下半身、滑らかな曲線を描く人間の女性の上半身が見える。ただし、魔力で強化された視界はなにも身につけていない上半身が青白く、そして無数の鱗が生えていることを教えてくれる。さらに視線を上に向けると海水に揺れる青緑色をした長髪と、その隙間から生える立派な角が目に映る。眼光は鋭く、その瞳は血のような赤色に染まっている。


「あいつらは炎に弱い。あいつらが暮らす深海じゃ、炎なんてまずお目にかかれないからな。未知なるものに恐怖するのは人間も獣も同じってことだ」


 つまり、今船を囲っている炎の円環は単に海水の流入を防ぐ結界の役割を果たしているだけでなく、竜宮の乙女たちの侵入を阻む結界の役目も果たしていることになる。


「ずいぶん都合のいい魔法だな」


 皮肉でもなんでもなく素直に感じたことを口にしたアーロット。

 実際、潜水のための魔法がそのまま竜宮の乙女対策にもなるなんてあまりにも海賊たちに都合がよすぎた。


「当たり前だろ。航海をより安全に、快適にしようという意思があり、かつそれを果たせるだけの技術があるんだからな。誰が好き好んで自分たちに都合の悪い魔法なんて作るかよ」


 それもその通りだと、リッツァーの言葉でアーロットは納得した。

 きっと、今船を囲む魔法も航海の安全を願った彼らの先代たちが何度も改良を重ねて編み上げてきたものなのだろう。


「もうこれでいいか?」

「ああ、十分聞きたいことは聞けた」

「そうかい。なら会議は終了だ」


 会議が終わり、船内に戻ったリッツァーはそのまま第一階層に降り、そこで船を制御している部下に指示を出す。

 『飛翼(アーラ)』の魔法陣が空色に輝く。見えない力に引っ張られて船が進路を変える。目指すはアノール、大海の怒りと地上の太陽(ジェルタ)が待つ地。

次回の投稿は八月十四日です。

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