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神に選ばれた人間異世界で王様になる  作者: ペンギン
ロンバール編
31/48

別離

 ガラハッドの告白を聞いた者の反応は二分される。一方は唖然とし、もう一方は深く思案に暮れている。

 

 「本当なのか、ガラハッド?」


 前者の中で最も驚きをあらわにしているのはアーロット。彼がそれまでガラハッドに持っていた印象は真面目、誠実、優しさ。しかし海賊はその正反対にいる存在と言っていい。少なくともアーロットはそう考えている。そんな彼らとガラハッドを結びつけることはできなかった。


 「はい、本当です。ただ言い方に誤りがありました。正しくは俺が乗った船は海賊船になった、です」

 「ガラハッド殿、もしや貴殿を乗せたのはギリストア海賊団ですかな?」

 「はい、その通りです」


 この場でその名を知らないのはキャメロットに住むアーロットたちだけ。ラスティナに入る前にあらかじめ情報をインプットして来たバルトは例外的にその海賊団を知っていた。


 「ギリストア海賊団は千年前に結成された海賊団だ。基本的にはロンバールの海の深部に存在する海底遺跡の宝を狙う集団だが、金持ちを乗せた客船を狙うこともある」


 それはアーロットのイメージぴったりの海賊だった。脳裏に描いた荒くれ者の集団がアーロットたちの望む情報を簡単に教えてくれるとは思わなかった。


 「海賊たちは、俺たちに協力してくれると思うか?」

 「船長の意思が残っているなら」


 もし断られれば、最悪戦闘になればアーロットたちは終わりだ。悪魔と海賊に挟まれるようなことになれば助かる見込みはない。


 「逃げるしか助かる道はないんだ。一か八か海賊たちに賭けよう。全員、出発の準備を始めてくれ」

 「「「はいっ!」」」


 戦争で大半の荷物は消えた上にこの結界を張ったのは昨日のこと。出発の準備には大して時間は掛からなかった。

 地下牢に閉じ込められていたセルスは弱体化の鎖で繋がれて、今はアーロットの隣にいる。この鎖は縛られている者の魔力を強制的に使用して弱体化の魔法を発動するので逃げる事は容易ではない。


 「ではこれより出発する」


 多少のパニックが予想されていたが、ロンバールの民の動揺は小さかった。白閻の求心力のなせる技だろうか。

 結界が崩壊し、外の世界が出現する。瞬間、刺すような冷気が一行を襲う。

 東に向かって、まずは森を抜け出すべく歩き出す。

 先日と同じくイールロンに跨ったアーロットはガラハッドともに隊列の最後尾にいる。先日と異なるのはそこに晴明も加わっていることだ。


 「今更だが、セイはこうして結界の外に出て大丈夫なのか?」

 「本当に今更だね」


 妖精は人間の契約者を得ないことには結界の外の世界に干渉することはできない。にもかかわらず晴明は過去の戦闘で大いに活躍し、今もこうして外の世界を歩いている。


 「あのときは急な襲撃でそれどころではなかっただろ」

 「それもそうだね。僕の今の契約者は白閻だよ。もっとも、今後の状況次第では僕が君と契約を交わすことも大いにあるけどね」

 「その時はよろしく頼む」


 雪が溶けたことでぬかるんだ土は人々の足跡を刻み込み、追ってくる悪魔に行き先を告げる。 

 それを隠蔽している時間はない。今必要なのはいかに隠れて進むかではなく、いかに素早く移動するか。

 そのため、この先は比較的歩きやすい舗装された道を進むことになる。当然、悪魔には見つかることになるだろうがこの際仕方ない。今は一刻も早く目的地であるシラノスに移動することが重要だ。

 黙々と歩いていくと前方で森が途切れている。

 森を出ると目の前をアスファルトの道路が横切っている。これに沿って東に進んでいけば一旦の目的地である港町シラノスに到着する。

 道沿いに進んでいくと遠くから雷鳴が聞こえてくる。音のする方に視線を向けると遠くに見える雲が光っているのが見える。ただし普通の雷のように瞬間的に光っているのではなく常に光り続けている。雷鳴も先ほどから常に聞こえている。


 「もしかしてあれが・・・」

 「そのようですね」

 

 近づくにつれて雷鳴は次第に大きくなっていく。

 オルド山脈の(ふもと)に着けば隣にいるガラハッドの声さえ聞こえない。思わず耳を塞ぎたくなるような轟音が絶えず鼓膜を震わせる。

 心なしか行進のペースも上がっている気がする。

 ちょうどアーロットのいる最後尾が麓に差し掛かった時だ。それまで鳴り続けていた雷鳴が嘘のように静まり返る。

 その状況に誰もが足を止めて辺りを見回す。


 「あ!あそこ!」


 住民の誰かが声をあげると一斉にそこに視線が集まる。()いで彼が指さす方向に視線をやると、そこにはなんと麒麟の群れが立っていた。

 さらにはロンバールでは滅多に見れない日の光が一筋、アーロットを祝福するように照らし出す。


 「よかったじゃないかロット」

 「?」

 「麒麟の方から君のところへ出向くというのは王にとって大変幸運なことなんだよ。それもこれだけの数の麒麟が出向くというのは過去に例がないんじゃないかな」

 「麒麟の方から出向くことが俺にとって具体的にどんな幸運なんだ?」

 「麒麟に出向かれた王が進む道には幸福な未来が待ち受けている、そう言い伝えられている。似たような話は中国にもあるよ」


 アーロットが無言でじっと麒麟の群れを見つめていると先頭にいた一頭が立ち去るのを皮切りに群全体が移動を開始した。

 すると天候も元に戻りたちまち雷鳴が轟き始めた。

 神秘的な光景にうっとりしていた住民たちも雷の音で我に帰った。


 オルド山脈を離れるにつれて雷鳴の音も次第に小さくなっていった。

 会話が可能になるとそこかしこで先程の光景について住民たちが興奮気味に話し出す。

 

 「こんな状況ですが、いえ、こんな状況だからこそ麒麟に出会えたのは僥倖(ぎょうこう)でしたね」

 「ああ、逃走の成功を暗示してくれているのならいいが・・・」

 「そこは微妙なところだね、気づいているかい?」


 アーロットもガラハッドも揃って頷く。先ほどから悪魔らしき気配が迫ってきているのは感じている。おそらく右翼や左翼、前方にいるラデスたちも感づいていることだろう。

 まだ目視できる範囲にはいないが安心はできない。


 「向こうは包囲網を崩さないように足並みを揃えて追いかけてきてるから行進のペースはこっちの方が早いはず。このままいけば追いつかれることなくシラノスにたどり着けるだろう」


 雪のせいで視界は悪いが、それでも遠くに街らしき影が視認できる。シラノスまでは後もう少しだ。街にさえ入れば一時的に身を隠すことも難しくないだろう。


 「果たして本当にそうかな?」


 心臓を鷲掴みにされた気分だった。

 アーロットが振り向くより早く銀の光が走った。


 「かは!」


 誰にも気づかれることなく近づいたフォルスは初撃でセルスの心臓を貫き戦闘不能にした。

 すぐさまアーロットとフォルスの間に割って入ったガラハッドを(かわ)すように後退するフォルス。

 続け様に魔法を放つ。


 「『黒砲(こくほう)』」


 生み出された漆黒の弾丸が無差別に発射される。

 それは咄嗟に晴明が張った魔壁をやすやすと消滅させて住民たちに降り注いだ。

 抵抗する(すべ)を持たない彼らは一瞬にして魔法の餌食となる。

 ものの数十秒で辺り一体が死体で埋め尽くされる。

 フォルスの動きはまだ止まらない。未だ混乱から回復しない一団に向かって再度の突撃を試みる。

 彼が剣を振るたびに白い雪が赤く染まり、彼が魔法を発動するたびに悲鳴が空気を揺らす。


 「俺とガラハッドで切り込むからセイは援護してくれ!」


 ようやく混乱から立ち直ったアーロットがガラハッドを連れてフォルスに向かっていく。アーロットたちが近づいてくるのを察知したフォルスは彼らを迎え撃つように剣尖をそちらに向ける。


 「むん!」


 既に全力の身体強化を発動していたアーロットがフォルスの一太刀で弾き飛ばされる。未だ修復しないエクスカリバーの代わりに抜いた幽霧之羽々斬(ゆうぎりのはばきり)での透過すらできなかった。


 「『黒盾(こくじゅん)』」


 追撃を阻止するべく晴明が放った魔法は漆黒の盾によって消滅させられる。

 フォルスが作った盾を目隠しにして彼の懐に飛び込んだガラハッドも軽くあしらわれる。


 「一点集中、貫け!」


 右翼にいたラデスが範囲を絞った雷を落とす。光の速さで迫るそれをフォルスがいとも容易く避ける光景は悪夢だった。


 「一人で乗り込んできたのか?フォルス」

 「久しぶりじゃな、人王陛下。お主の言う通りこのままではお主らに逃げられると思ってな、慌ててここまで走ってきた次第じゃ。あまり年寄りに無理させんでくれ」

 「なら年寄りらしく城でおとなしくしていることだ」

 「そうしたいのは山々だったのじゃがな。そこの馬鹿弟子の尻ぬぐいをせねばならんのじゃ。まったくだから儂は弟子など取りたくなかったんじゃ。それよりよいのか?こうしている間にも部下が包囲を縮めておるぞ」


 先ほどより自分たちを囲む悪魔の気配が一層近く、濃く感じられている。たしかにおしゃべりに興じている余裕はなさそうだった。


 「全員でフォルスを囲め!魔法で仕留めるぞ」


 その指示に各々が持てる最大火力の魔法を準備する。それが完了するまでの間はアーロットがフォルスと剣を交えなければならない。

 しかしフォルスは先日の戦いとはまるで別人だった。防戦一方どころの話ではない。アーロットは防御すら満足にさせてもらえない。それで時間稼ぎなどできるはずがなかった。


 「ぐ!」

 「次はそこの機械人形」


 バルトに狙いを定めたフォルスが一気に加速してバルトを攻撃する。高性能なセンサーのすべてを振り切ってバルトの目の前に現れたフォルスは一瞬のうちに十の斬撃を繰り出していた。

 派手な破砕音を響かせながらバルトが宙を舞う。血液の代わりにオイルが、悲鳴の代わりに火花が舞う。

 バルトの体が地面に落下するのを最後まで見届けずに槍を突き出すラデスめがけて魔法を発動する。


 「『黒砲』」


 腹部を貫かんとした魔法をぎりぎりで躱すも、わき腹がえぐれ、バランスを崩したラデスはそのまま地に倒れる。

 地面に倒れこむ寸前のラデスをとらえたフォルスは彼を近づいてくるアーロットめがけて思いっきり投げつける。


 「これはまずいことになったね・・・。ちょっと強すぎないかい、彼」

 「晴明、俺があいつを足止めするから、お前はアーロット様と一緒に逃げてくれ。できるだけ多くの仲間と一緒に」

 「いいのかい?そんなことをすれば間違いなく君は死ぬよ」

 「知っているさそんなこと。そのうえで頼んでいるんだ」


 晴明を見ることもなくガラハッドははっきりそう言った。ガラハッドの瞳には一辺の恐れもない。あるのはただ自らの王への忠誠心だけだ。


 「君のような臣下を持ててロットはさぞ幸せだろうね。いいだろう。この安倍晴明、必ずや騎士ガラハッドの願いを叶え、アーロットを逃がして見せよう」

 「ありがとう」


 それだけ言い残して飛び出していくガラハッド。

 それを見送った晴明は式神を召喚して重症のセルス、バルトを回収に行かせる。自らは少し離れた位置に吹き飛ばされたアーロットを保護しに行く。


 「ロット、逃げるよ」

 「フォルスは俺たちを逃がさんだろ」

 「ガラハッドが時間を稼ぐ。これ以上の言葉は必要かい?」

 

 嫌な予感などではない。それはもはや嫌な確信だ。千を超える拒絶の言葉がアーロットの胸中に渦巻いた。そして最後に残った言葉は子供のわがままのような言葉だった。


 「嫌だ・・・。ガラハッドを死なせたくない。あいつは俺がここで初めて出会った人間なんだ。記憶を失った俺がどれだけあいつに助けられたのか知らないだろ?」

 「知らないとも。僕が知ってるのは今君が彼の意思を踏み躙ろうとしていることだけだ」

 「!」


 その言葉は今まで受けてきた攻撃のどれよりも痛かった。


 「いいかいロット。もうすでに僕たちは負けているんだよ。この小さな局面でももっと大きな局面でも、今更思いの丈でどうこうなるもんじゃない。諦めて彼を見捨てるんだ」

 「お前!」


 晴明の言葉に耐えかねたアーロットが彼の胸ぐらに掴みかかる。

 その勢いに一瞬だけ顔を顰めた晴明だったがすぐに表情を元に戻す。無感情を()()()表情に。

 アーロット自身、晴明が無理をしていることはわかっている。彼とてガラハッドを見捨てる決断を本音では拒絶したいことだろう。

 それでも彼がアーロットと違ってガラハッドを見捨てることができるのは単に慣れているからだろう。長い戦いで切り捨てるという選択肢に慣れてしまったのだ。

 周りを見れば誰も彼もが逃走を開始している。

 未だ動けずにいるのはアーロットと晴明だけだ。


 「さあ立つんだロット、人の王よ。そして逃げるんだ。彼の思いを無駄にしないために」

 

 立ち上がり、全力で戦場から逃げ出す。それはそれは惨めに、敗者に相応しい姿で。

 一瞬たりとも気を抜くことができないガラハッドとは目を合わせることすら出来なかった。それがまたアーロットの感情を爆発させた。

 悲しくて苦しくて憎らしかった。フォルスの存在も、ガラハッドの決断も、彼にその決断を強いた自身の無力さも全てが憎くて仕方がなかった。

 目一杯に歯を食いしばっていなかったらきっと醜くて聞くにたえない絶叫をほとばしらせていたことだろう・・・。


 背を向けて走るアーロットの背後でガラハッドは笑っていた。

次回のタイトルは「極地」、六月の二十三日に投稿します。

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