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神に選ばれた人間異世界で王様になる  作者: ペンギン
ロンバール編
29/48

緊急事態

すみません、先日投稿した話は誤りでした。こちらが正しいです。

 目が覚めるとアーロットは布団の中にいた。

 (かすみ)がかった意識で最後の記憶を思い起こすと自分は椅子の上で寝落ちしたことに気づく。

 誰か、恐らくガラハッドかラデスが彼を移動させたのだろう。

 アーロットが周りを見渡すとガラハッドとラデスが寝ていた。もしかしたら衝立(ついたて)で仕切られた向こう側でメリサもまだ寝ているかもしれない。

 他の者を起こさないようにアーロットは慎重に寝室を後にする。


「静かだな・・・」


 戦争前の活気が嘘のように建物全体が静まり返っている。

 それは単に誰も彼もが疲弊しているからだけではない。

 人がいないのだ。

 戦いに出た兵士はその三分の二以上が死んでしまった。全体でいえば亡くなった人間は三分の一に上る。

 具体的な数字がアーロットの心に現実を突きつける。

 灯りをつけなかった室内は彼の予想以上に暗かった。

 

「誰か起きているかい?」

 

 部屋の外から晴明の声が聞こえる。

 室内のろうそくに魔法で火を(とも)し、廊下につながる(ふすま)を開ける。

 

「どうした?」

「起きたんだねロット」

「つい今な。ところで今何時だ?」

「昼の十二時だね」


 屋敷の中央寄りにある客室には窓がなく、現在の正確な時刻はわからない。

 それでもアーロットが治療を終えたときには十五時を過ぎていたことは確かだ。

 当然のことながらアーロットは晴明の答えに混乱した。

 しかしすぐに自分が丸一日ちかく寝ていたのだと理解する。


「今起きたのなら先に昼ごはんにしよう」

「いいのか?何か要件があってきたんだろう」

「まあ、そうだけど。長丁場になるだろうからその前に済ませよう」

「わかった」


 食堂に場所を移してここだけは戦争前と変わらない調理場からおにぎりを受け取る。

 食事を終えて本題を切り出そうとする晴明を制止するアーロット。


「その前に電話をかけてもいいか?色々あってキャメロットにまだ連絡してないんだ」

「構わないよ」


 廊下に出るとタイミングよくマーリンから連絡が入る。


「ご無事で何よりです、アーロット様」

「結末は見えていたか?」


 スピーカーから困ったような疲れたような声が聞こえる。


「あの後必死に魔性を使って結末を予知しましたよ。一度目の予知でアーロット様たちが全滅する未来を見た時は生きた心地がしませんでした・・・」


 震えそうなほどの寒気を感じると同時にどこかで納得している自分がいることにアーロットは気づいた。

 何か一つでも結果が異なれば今回の戦争はアーロットたちの全滅で終わっていただろう。少なくとも彼はそう確信していた。


「それでも、五回目の予知でようやく未来が変わった時は安堵しました。一度予知を外した手前なかなか信じることが出来なかったですが」

「それだ。どうしてあれほど極端に予知が外れた?」


 確証はありません、そう前置きしてからマーリンは自身の見解を述べ始めた。


「恐らく隠蔽系統の魔性による効果でしょう。あるいは魔法の効果かもしれませんが」

「そういえば、前もそんなことを言っていたが、未来の隠蔽とは可能なものなのか?」

「わかりません。ただ魔性の効果は文字通り人の数だけ存在します。広大な暗黒界を探せばあるいはそんな魔性を発見することも・・・」

「そうか・・・」

「それについてはこちらの方で調べておきます。今はとにかくあなた達が無事でよかった」

「心配をかけたな。お前も疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」

「はい」


 通話を終了して晴明の元に戻る。


「もういいのかい?」

「ああ、もう大丈夫だ」

「それじゃあ行こうか」


 行き先も告げなければ気になるのは当然のことでアーロットはそれを尋ねずにはいられなかった。


「どこへ?」

「・・・セルスのところだ」


 晴明が作り直した結界は基本的には前回のものと何も変わらない。

 唯一違うのが地下に新しく作られた牢屋。

 投獄されている人物は言うまでもない。


「気分はどうだ?」

「最悪だ。お前も経験してみるといい。十時間以上も身動きが取れず、椅子に座り続けるのはなかなか苦痛だぞ」


 アーロット達を出迎えたのは傷を治療され現在拘束中のセルスだった。

 身につけていた鎧の代わりに今は全身をくまなく覆うツナギのようなものを着せられている。肌が露出しているのは顔だけだった。

 服に座標固定の魔法をかけ、会話だけを可能にするための措置だ。


「時間がないから要件だけ言う。俺の配下になれ」

「良いだろう」


 問う方もそれに答える方も一切の無駄がなく問答は迅速に終了した。

 流石に予想外だったのかアーロットも晴明もさらにはセルスに魔法をかけている兵士すら言葉を失っている。


「時間がないと言うからさっさと答えを聞かせたまでだ。それともあっさりしすぎて不審か?」

「それはそうだろう。私としては条件の一つや二つふっかけられた方が安心というものだよ」

「祖国を滅ぼす。そのために悪魔達の内部で地道に力を蓄えてきた。それを今回の戦争で全て失った。だから目的達成の可能性のある側につく。至極当然の帰結だと思うが?」


 セルスの発言には確かに筋が通っていた。暴走中の彼の発言とも一致している。


「それに条件はある。僕と一緒に悪魔の世界を滅ぼすこと、それが条件だ」 

 

 その言葉に偽りはないとアーロットは判断した。それでも聞かなければいけないことはある。


「なぜ祖国に刃をむける?」

「祖国に殺された友のためと言うのが半分」

「もう半分は?」

「今の悪魔の世界が間違っていると思うからだ。自己のために他者を犠牲にしていいはずがない」


 短くない時間をかけてアーロットはセルスと見つめ合った。

 白閻は言った、王たる者、人を見る目がなくては困ると。

 この先も誰かと言葉を交わし、重要な決断を下すときは必ずくるだろう。

 どれだけ互いに言葉を交わそうとも、人は容易に嘘をつく。それは人だけでなく、神も悪魔も知性あるすべての種に言えることだ。

 だからと言って決断を下さないという選択肢はない。それは王としての責任放棄に他ならない。

 そんなとき、最終的に決断の寄る辺となるのは自分の目だけだとアーロットは白閻から教わった。

 そしてセルスの目を見たアーロットは決断を下した。

 彼を信じると。


「彼にかけている魔法を解いてくれ」

「待った。いくらなんでも簡単に信じすぎだ、ロット」 

「疑い出したらキリがない。どこかで妥協は必要だ」

「だからって機密情報の一つ二つ喋らせた後でも良いだろう」

「機密情報なんて裏の取りようがないだろう。機密情報なのだから。聞いたところでそれを信じる材料にすることはできない。それに彼にだけ譲歩を引き出すのはフェアじゃない。いいか、俺はお前を信じる。お前が周囲に振り撒いた憎悪は本物だった。それを信じる。ただ今はまだ魔法を解くまでだ」

「良いだろう」


 滞ることなくどんどんと話が決まっていく。

 見張りの兵士が判断を仰ぐように晴明を見る。

 若干の不満は残しているものの晴明は目くばせで兵士に魔法解除の許可を出した。

 それを受けて兵士は慌てて魔法を解除した。


「それで、僕は何を話せばいい」


 暫くぶりに自由になった体をほぐしながら尋ねるセルスに不審な様子はない。少なくとも自由になった途端に暴れだすということはなかった。仮に暴れだしても牢の壁も柵も魔法で頑丈に補強されているためやすやすと突破することはできない。


「じゃあまず最初に一つ。君が連れてきたあの巨大な骨はなんだい?」


 椅子に座り直したセルスが無表情で回答を口にする。


「あれは巨人の遺骨だ」

「おっと、いきなり嘘かい」

「いいや、あれは正真正銘巨人の骨さ」


 無数の世界に暮らすのは基本的に六王に守護された六種。例外として神、王種、悪魔が存在しており、そこに巨人の名は存在しない。


「私は巨人という種を見たことも聞いたこともない。ここにいるみんなだってそうだろう?」


 見張りの兵士を含め全員が首を縦に振る。


「僕は生きた巨人も見たことがあるがな。彼らは最近生まれてきた種族だから知らないのも無理はない」

「にわかに信じがたいね」

「そうだろうか。何も不思議なことはないと思うがな。お前達だってそうだろう。広大な暗黒界の中、無限に等しい世界で起きた進化の奇跡がお前達であり、僕達だ。同じ境遇の新たな種が生まれても不思議じゃない」


 会話に参加しないで、アーロットはじっくり脳内でセルスの言葉を整理していた。

 その上で出した結論は、あり得る。どこかの世界で自分たちとは全く違う進化を遂げた種が生まれてもおかしくないと考えた。

 セルスの言葉を頭から信じたわけではないが、否定することもできないと考える。

 晴明も納得はしていないもののそれ以上の追求はできずにいた。

 黙る晴明に代わって別の切り口からアーロットも質問をする。


「お前達も真っ当に進化したような口ぶりだが、お前たちは魔神によって生物の負の感情から生まれるんじゃないのか」

「お前たちにはそういう風に伝わっているのか・・・」


 バカにするのではなく呆れるようにセルスは呟いた。


「違うのか?」

「違う。僕達もお前たちと同じ進化という過程を経て今の姿になった」

「そうか・・・」


 アーロットに悪魔の成り立ちを教えたのは『エレクナ』だ。今のセルスの話が真実なら、神々でさえも真実か遠い場所にいるか、あるいは神々がアーロットを(たばか)ったということになる。

 しかしそれは今ここで結論の出しようのないことだった。


「質問をかえる。俺は魔神を倒すことがこの戦争の最も確実かつ犠牲の少ない終わらせ方だと考えている。魔神について知っていることを話せ」


 アーロットが質問をしてもセルスは図具に答えを返さなかった。


「・・・悪くない考えだ。彼が滅べば現在の悪魔の世界は崩壊するだろう。それは僕の目的にも一致する」

「そうだろう。だから話してくれ、魔神のことを」

「最初に言っておく。お前の計画が成功することはない」


 セルスの言葉に(はや)る気持ちを抑えて、続きを視線で促す。


「そもそも魔神とは・・・」


 続いた言葉にアーロットたちは耳を疑った。先ほどよりも重く長い沈黙が地下牢を支配した。


 

「今の話は本当なのか」

 

 ようやく衝撃から立ち直ったアーロットがセルスに確認を取る。


「本当だ。信じられないのも無理はないがな」

「ああ、全くだ。君の話が本当なら、この戦争に終わりはないじゃないか」


 晴明がそう言うのも無理はなかった。

 セルスの言葉が真実なら確かにアーロットの計画が成功する見込みはゼロだ。


「これは早急に白閻殿たちとも共有すべきだろう」

「同感だ、ロット。セルスの処遇も含めて真偽のほどはそこで検討するべきだ。・・・君たちは今ここで聞いたことは忘れて、決して他言しないように」


 半ばトランス状態になっている見張りの兵士たちが頷いたところで地下牢と上階を繋ぐ階段とを隔てる扉がノックされる。


「入っていいよ」


 許可を得ると先の戦いを生き残った兵士が入ってくる。


「偵察に赴いていた機人の兵士が帰還しました。緊急事態とのことで既に白閻さまたちが集まっています」

「わかった。連絡ありがとう。僕たちもすぐに向かう」


 昨日の会議にも使われた大部屋に向かうとそこには主要なメンバーが全員そろっていた。

 アーロットと晴明が着席すると調査の報告を受けたバルトが改めて調査結果を報告した。


「昨日放った配下から緊急の連絡が入った。報告によると既にロンバール王都には増援が配備され、その数は十万に及ぶとのことだ」

「な!?いくら何でも早すぎる!戦争が終わったのは昨日だぞ!」


 いつになく動揺を露わにする晴明の態度が事態の異常性を物語っていた。


「増援の供給に一か月はかかると言ったのは君だろう?」


 問い詰められたバルトの返答は冷静なものだった。しかしそれを聞く者たちの心境は穏やかとは程遠いものになる。


「おそらく奴らは長距離転移を可能にする魔法、あるいは装置を開発したと見るべきだろう」


 長距離転移は現在技術に優れた機人ですら不可能としている。

 ログレスの短剣が辛うじてそれに近しい効果を発揮するが、それでさえ移動できるのはログレスただ一人だけだったり、代わりに誰かが移動する必要があったりと、とても使い勝手のいいものとは言えない。

 さらに悪い知らせは続く。


「現在ロンバールにいる部下からの情報によると増援部隊を指揮しているのはフォルスだ」


 部下から送られてきたのであろう映像をバルトが表示する。そこには確かにフォルスの姿が映っていた。

 立場をわきまえず舌打ちしたい衝動に駆られるアーロット。

 状況は戦争前よりも悪くなったとしか言えない。


「悪い知らせはまだあるぞ。ロンバールに駐屯する騎士たちが各地に展開している。一番多く人員を割かれた部隊が向かっているのは戦地の真下、つまり現在我々がいる領域にほど近い場所だ」


 その意図は明白で、誰にも誤解を挟む余地はなかった。

 こうしている現在もアーロットたちを殲滅するべく展開された包囲網は完成していく・・・。


 

次回の投稿日時に変更はありません。次回の投稿は六月九日です。

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