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神に選ばれた人間異世界で王様になる  作者: ペンギン
ロンバール編
27/48

欠陥魔法使い

 吹雪の中を進む人影が二つあった。

 時折彼らに襲い掛かる氷柱は攻撃魔法もかくやという威力を秘めているがこれらはすべて自然にできたもの。

 アーロットから住民の避難の命を受けたラデスとメリサは無事住民の避難を完了していた。

 しかし五百人以上を守りながらの下山は過酷を極め、メリサだけでなくラデスも下山とともに魔力が底をついてしまった。

 空を飛ぶ魔力もない二人には休むことしかできることはなく、歯がゆい思いをしながらも回復に努め、やっとのことで回復した魔力を使って現在戦場に帰還しようとしていた。


「アーロット様達は無事でしょうか」

「わからん。上から力尽きた敵味方が降ってきているということはまだ戦いが続いているということは間違いない」


 しかし自分たちの主が無事かどうかはわからん、言外にそう告げてラデスは先を急いだ。


「雲の上に出るぞ」

 

 突き破った雲の上では予想通りまだ戦闘が続いていた。

 そこに機人の姿があったことに()()()()一瞬なりとも驚いた。


「アーロットはどこだ?」


 周囲を見回してアーロットの姿を探すラデス。


「あそこか」


 ラデスが見つめる先にはアーロットだけでなくガラハッドの姿もあった。

 見たところアーロットたちが劣勢。しかもすぐにでも加勢が必要そうな状況だった。


「メリサ行くぞ・・・メリサ!」


 ラデスが声をかけると彼女はそれに答えることなくアーロットたちの方へと飛んでいってしまった。


「来たか」


 視界の端に猛然と迫ってくるメリサを見つけてアーロットは()()()()()()()()とともに呟いた。

 できれば彼女にはここにきて欲しくなかった。


「セルスは一度ラデスに任せて俺たちを回復してくれ、メリサ」


 そうは言ったものの今の彼女が自分の声に耳を貸すとはアーロットは思っていなかったはず

 予想通りメリサはセルスとの戦闘を開始した。


「悪魔は殺す。()()残らず」


 戦闘の音がそこかしこから響く中、メリサの声は不思議と明瞭に聞こえた。

 

「回復は俺がする。お前たちはしばらくじっとしていろ」


 メリサに遅れてやって来たラデスが回復の魔法を使う。


「できればメリサには来てほしくなかったんだがな、やりすぎるから」


 効率的に淡々と悪魔を殺していく彼女のことをマーリンが機人(ロボット)よりロボットらしいと評していたのをアーロットは聞いたことがある。

 それだけなら問題はない。

 しかし効率を追求する彼女は時に味方すら巻き込んで悪魔を攻撃する。

 実際、アーロットがこの世界にやってきて初めての大規模戦闘では民を巻き込んだ攻撃魔法の使用が確認されている。

 それをマーリンに聞いたときはアーロットも耳を疑った。

 彼女は根本的にアーロットたちとは異なる。

 そのことをアーロットはよくわかっていた。


「あいつは俺たちとは違う。俺たちは民を守ろうとするために剣を取る。だがあいつは悪魔を殺すために杖を取る。同じなのは手段だけだ」


 それに同調するようにガラハッドも付け加える。


「以前、アーロット様が来る前のことです。彼女は言いました。戦争が終わり俺たちが剣を置こうとも悪魔が一匹でも残っている限り自分が杖を置くことはないでしょうと」


 その言葉は彼女のスタンスを如実に物語っていた。


「ともかく今のセルスは危険だ。彼女一人ではどうしようも無い」


 回復が終わりアーロットは会話をそう締めくくった。


「それにあいつとは手を組めるかもしれない。なんとか生かして捕獲する方法がないかメリサに見てもらいたい」

「ならまずはメリサを落ち着かせないと」

「やれやれ、面倒な奴だ」


 話がまとまったところでそれまで援護に徹していた機人が合流した。


「今後の方針が決まったなら教えてくれ」

「あいつを捉えて仲間にできないか交渉する」


 高性能な観測装置を備えている機人が聞き間違いなどするはずがない。それを重々承知しながら機人は自分の耳を疑った。


「正気か?奴らは自分たちの利益のためだけにこの戦争を始めた利己的集団だぞ。手が組めるとは思えん。最終的には自分たちの利益のために裏切るに決まっている」

「だが現状、俺たちと奴との利益は一致している。なら可能性はある」

「・・・」


 アーロットの意図を探ろうとした機人は直後その行為をやめにした。

 彼に搭載されたすべての観測装置が告げていた。

 この男は本物の馬鹿だと。

 

「俺は雇われの身、雇い主の命令には従う」

「助かる。お前には引き続き俺たちの援護を頼みたい」

「了解した。それと一つ忠告をしておく。俺は前時代のロボット同様お前たちの意思で使い潰されるつもりはない。お前が俺たちを犠牲にするような判断を下せば俺たちはお前の元を去る」

「ああ、もちろんそれで構わない」


 アーロットの返事に満足した機人は再び彼らと距離をとった。


「俺たちも行くぞ」


 短いミーティングを経て三人は戦線に復帰した。


 憎い。

 悪魔を目にしたメリサの心はいつもその二文字に埋め尽くされる。

 時には憎悪に駆り立てられるままに味方すら焼いたこともある。

 それを師匠に厳重に咎められたこともある。

 しかし彼女がそれでスタンスを変えようと考えたことはない。

 悪魔と出会えば彼女は何度でも同じ過ちを繰り返す。彼女にとってそれは過ちでもなんでもないのだから。

 今もそうだ。

 彼女は目の前の悪魔をいかにして殺すか計算している。

 敵を屠るまでの道筋を描き、そこから外れればその都度修正する。

 どこまでも執拗に彼女は悪魔を殺すことを考える。

 それでも、いくら策略を練ろうとも勝てない相手というのは存在する。

 目の前の、同じように憎悪に取りつかれた悪魔のように。


「がああ!」


 もはや理性など失ってしまったようにセルスは吠える。

 憎悪に取り憑かれた男を見てもメリサは哀れみを嘲笑もしなかった。

 代わりに憤った。


「お前たちに憎しみの感情を持つ資格はない!その感情は奪われた側の特権だ。奪った側のお前たちは後悔の感情だけ持っていればいいんだ!生まれてきたことへの後悔の感情を!」


 初めてメリサの本心に触れた気がした。

 メリサの心からの叫びを聞いたアーロットは率直にそう思った。

 普段は感情を表に出すことはほとんどなく笑うことも、あんな風に怒りを露わにすることもない。

 (まなじり)を吊り上げ、犬歯を剥き出す彼女の表情は、それでもアーロットには今にも泣き出しそうに見えた。

 失ったものの痛みを忘れようと、必死に別の感情を作り上げているようにアーロットには思えた。

 主としてできる限り彼女の心に寄り添いたい。

 そう思うものの状況がそれを許さない。

 今はまず、彼女を落ち着かせなければいけない。


「やめろメリサ!死ぬぞ!」

 

 思いの丈は互角。しかし実力には大きな差が存在する。

 理性を失っても身につけた技は失われないセルスはあの手この手で彼の命を狙うメリサを返り討ちにする。

 メリサの憎しみもちょっとやそっとの負傷で止まれるほど安っぽいものではない。

 きっと彼女は自分が死ぬまで目の前の悪魔に噛み付くだろう。

 だから止めなければいけない。

 ここで彼女を失うわけにはいかないのだから。


「とりあえず俺がメリサを奴から引き離す。二人はセルスを囲んで時間を稼げ。いいか、お前たちまで熱くなりすぎるな」

「「了解」」


 一塊で飛んでいたアーロットたちが分散を始める。

 ラデスとガラハッドがセルスを遠巻きに挟み撃ちにして彼の注意を引きつける。

 その隙を狙おうとしたメリサをアーロットが押さえつける。


「離して!」


 力尽くでアーロットを引は剥がそうとするもアーロットがそれを許さない。

 純白の戦装束がメリサの血で赤く染まる。


「落ち着け!冷静になるんだ!」

「そんな必要ないです!悪魔さえ殺せればわたしがわたしじゃなくなってもいい!なんで止めるんですか!」

「臣下をみすみす見殺しにする主がいるか!」

「命なんて・・・命なんていりません!悪魔を殺せるのならこの命を差し出すことも惜しくありません!」


 まるで聞く耳を持たない。

 アーロットの説得をことごとく無視して自分の意思を貫こうとする様は勇ましく、それでいて子供らしい。

 アーロットには今の彼女が駄々をこねる子供のように見えてならなかった。

 行き場のない悲しみを魔法とともに誰かに打ち出すことでしか自分を保てない。そうしなければ悲しみに押しつぶされて身動きが取れなくなる。

 今の彼女はきっとそんな状態なのだろうと、彼女を抑える(かたわ)ら考えた。

 だからこそ伝えなくてはいけないと、アーロットは思う。


「そうして繋がれた命を、そこに託された思いを無駄にするのか?」

「!」

「復讐は何も生まないなんて綺麗事は言わない。復讐を遂げれば多少はスッキリするだろうさ」


 勧めはしないがな、と付け加えて言葉を続ける。


「だが復讐のために命を投げ出すのは間違っている。その行為はお前の両親と、飢え死にするのを待つだけだったお前を拾ってくれた彼女に対する裏切りだ」

「違う。・・・わたしはあの人たちから受け取ったものを返すために・・・」

「なら生きろ。誰もお前に復讐なんて望んではいない。復讐の心よりも彼らから受け取った感情を胸に生きるんだ」


 彼女を取り巻いた人間たちが彼女に何を託したのか、アーロットは正確にはわからない。

 それでもきっとそれは苦しさや悲しみや憎しみだけではないはずだからと、そう信じて語りかける。


「無理です。ずっと抱いてきたこの憎しみを捨てることなんて・・・」

「ああ、それでいい。その感情を捨てろとは言わない。ただそれ以外の感情にも目を向けてくれと言っているんだ」

「・・・」


 返ってくる言葉はなかったがメリサがいくらか落ち着いたことはわかったのでアーロットは話を前に進める。


「セルスは魔神に反旗を翻そうとしている。これはほぼ確実と言っていい。ならこれを利用しない手はない。最終的に生かすか殺すかは別として話を聞く価値はある。それにはまずあいつも落ち着かせないといけない。セルスは急に豹変した。あれは普通じゃない。何か絡繰りがあるはずだ」


 早口に言いたいことを伝えるとメリサはアーロットが皆まで言わずとも分析の魔瞳(まとう)でセルスの様子を確認した。


「あの刀です。あの刀からセルス以外の魔力が見えます」

「つまりあの刀を破壊すればセルスを止めることができるのか?」

「その可能性が高いです」

「わかった。メリサは後ろの機人と一緒に俺たちを援護してくれ。くれぐれも俺たちまで巻き込んで魔法を使うなよ」

「了解」


 指示通り深追いはせず絶えずセルスの注意を引きつけていたガラハッド、ラデスにも新たな指示を出す。


「二人ともあの刀を狙え。破壊するなり、弾き飛ばすなりすれば沈静化する可能性大だ」 

「「了解」」


 それぞれがバラバラに攻撃を仕掛ける、のではなく盾を持つガラハッドが前に出てラデスが雷で撹乱、隙を突いてアーロットが刀を狙うように戦う。

 一瞬たりとも気の抜けない時間が続く。

 理性を失ってもセルスの戦い方は変わらない。

 魔性を駆使したヒットアンドアウェイ。

 速型のセルスについていけるのは辛うじてアーロット一人のみ。

 よってあえて動くような真似はせず、襲い掛かるセルスを迎え撃つように陣を組む。

 ラデスが広範囲に網のように雷撃を放つ。

 当然のようにセルスはそれを躱して迫りくる。

 しかしそれによってセルスの進路は制限される。

 セルスの進行方向上に盾を構えたガラハッドが現れる。

 両手で盾を持つガラハッドは重型のセルスの攻撃を受け止め、はじき返すことに成功する。


「今です!」


 ガラハッドの合図で飛び出したアーロット。

 狙うは右手に握られているセルスの刀。

 セルスの刀は一目でわかるほどの業物。いくら魔力で強化しようとも簡単に破壊することなどできない。

 ならば自ずと選択肢は決まる。

 セルスの腕ごと刀を切り落とす。

 

「せええええい!」


 極限まで集中して繰り出された剣撃はセルスの右腕に食い込もうとした。

  斬った。

 それはアーロットだけではなく彼らを取り囲む全員が思ったことだった。

 直後、確信は裏切られた。

 まるで刀そのものが生きているようにアーロットの攻撃を防いだ。

 その動きはガラハッドの防御で体制を崩していたセルスには到底不可能な動きだった。

 それだけではない。

 刀からセルス以外の尋常ではない魔力が溢れて刀を最大限に強化した。

 アーロットのエクスカリバーを斬るほどに・・・。

 誰もが息を呑む中、ガラハッドとアーロットだけはその限りではなかった。

 透明に輝く剣、刻まれた魔法を発動することなく振るわれたガラハッドの愛剣。

 臣下から主へ託されたそれをアーロットは一閃する。

 その一太刀は攻撃直後のセルスの右腕を、肘の下から斬り落として見せた。

 

 


読んでいただきありがとうございました。

次回の投稿は五月二十九日、タイトルは「束の間の休息」です。

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