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神に選ばれた人間異世界で王様になる  作者: ペンギン
ロンバール編
26/48

憎悪

「アーロット様・・・」

 

 オリアナを排除したガラハッドはすぐさま主君のもとに馳せ参じたい衝動をぐっとこらえた。

 そしてぐるりと戦場を見回した。

 まず戦場の大半を占める戦闘は晴明の援護と機人の加勢でそれまでの劣勢を覆し優勢に立っている。

 そして酒呑童子と機人の指揮官の戦闘もお互い決め手に欠けてはいるものの今すぐ加勢は必要なさそうだった。何より自分が加わったところで酒呑童子の魔性で役立たずになるのを彼はよく理解していた。

 やはりここは自らの主の助太刀に行くべきと彼は判断して飛び立った。


「アーロット様」

「やつを通すな!」


 ガラハッドの動きを察知した数名の騎士が彼を取り囲むようにその進路を阻む。

 背後で始まった戦闘の音を聞いたアーロットはガラハッを安心させるように声を張った。


「大丈夫だ!問題ない!」


 それでどこまで彼が安心したのかアーロットには判断できなかったが、今はそれ以外にできることはない。


「問題ない、か。言ってくれるな人王」


 酒呑童子が引き離されて再び一対一の状況に戻った二人は一進一退の攻防を繰り広げていた。

 セルスはその剣技において暗黒界にその名を響かせる傑物。

 たいしてアーロットは剣技においてはセルスに一歩も二歩も劣るものの魔法、魔性を駆使し、時には武器を入れ替えるなどして総合力では決してセルスに劣っていなかった。

 魔性『変身(トランスフォーム)』は速さに秀でた形態、速型(そくけい)と攻撃、防御に秀でた形態、重型(じゅうけい)、そしてバランスの取れた形態、汎用型(はんようけい)のほかにもう一形態への変身が可能だ。

 魔法のみならず遠距離攻撃全般に補正がかかる遠射型(えんしゃけい)

 合計四つの形態を自由自在に使い分けるセルスは強かった。


「はっ!」


 速型による高速移動でアーロットの視界から消え、絶えず動き回る。

 そして攻撃の瞬間を狙って一瞬だけ遠射型に変身。『拡張斬刺(かくちょうざんし)』の魔法が刻まれた刀で遠距離からアーロットを斬り裂く。


「『黒壁(こくへき)』!」


 闇子の盾がそれらの斬撃をすべて消失させる。


「『黒砲(こくほう)』+『黒斬(こくざん)』」


 反撃の魔法が放たれる。

 闇子の弾丸と斬撃が飛来する。

 セルスに与えられた選択肢は回避と相殺の二つだけ。セルスは回避を選んだ。

 残像を残す勢いで回避したセルスはそのままアーロットに突進をかます。


「「はあああ!」」


 二人の絶叫が重なった瞬間、聖剣と長刀がぶつかる。

 派手に火花を散らせながら爆音を辺り一帯に響かせる。

 

「アーロット様ああ!」


 後方からガラハッドの声が響く。

 アーロットは振り返ることができなかったが、それでもガラハッドが満身創痍の状態であることは容易に想像がついた。

 オリアナは決して弱くなかった。

 オリアナを倒したガラハッドの魔力は限界に近かった。

 それでも主の元へ駆けつけようとした彼は行く手を阻む悪魔の群れとの戦闘を余儀なくされた。

 個々の力量は取るに足らない者たちでもそれが十、二十と限界のガラハッドに襲い掛かったのだからこの結果はアーロットにもわかりきっていた。

 本当は助けに行きたかった。

 それでも彼は自分が最初に出会った忠臣を信じて自分のなすべきことをなそうとした。

 襲い掛かる悪魔を退けたガラハッドは最後の力を振り絞って自分が持つ聖剣を投げ出した。

 そこで完全に力尽きた彼は駆けつけた味方の兵士に抱えられ戦場を後退していった。

 

「託されたぞ、ガラハッド」


 つばぜり合いを演じるセルスを力任せに引きはがし、高速で飛来するそれを空いた左手で掴み取る。

 悪魔を根絶する聖剣、フィリ・ア・ナイト。

 ガラハッドに託されたその剣は本来の重さ以上に重い。

 悪魔に特攻効果を持つ剣は当然悪魔に警戒されている。

 託された剣を見てセルスが一瞬怯んだその隙を、アーロットは見逃さなかった。

 あらん限りの気合を刃に込めて飛翔する。

 息つく間もなくセルスとの距離は縮まる。

 反射的に繰り出された防御の一太刀を右手のエクスカリバーで薙ぎ払う。

 一秒にも満たない変身。

 距離を取ろうとするセルスだが、コンマ数秒の差でアーロットの剣の方が早かった。


「ああああっ!」


 繰り出された光の刃がセルスの胸を貫く。

 引き抜くとオリアナと同様、その胸には光の傷跡が残されている。

 魔を拒絶する聖なる光がセルスを滅ぼさんと熱を上げる。


「うああああ!」


 胸の中心から体全身を焼くような強烈な熱にセルスが(わめ)き声をあげる。

 そして力尽きた彼はこの戦場で息絶えた者たちと同じように雲海に沈んでいく。


 熱を感じることしかできなくなった己の思考が別の熱に侵されていくのをセルスは感じた。

 今現在自分を苦しめる熱よりもはるかに熱く、(おぞ)ましいそれは復讐の炎。

 ()()()から今日まで自分を駆り立てる炎は死せるその瞬間まで彼を焼いている。

 皮肉にも彼のその並々ならぬ復讐心が彼を救った。

 自分の中に自分以外の何かが入り込む嫌悪感。もし体が自由に動いたのなら彼は全身を搔きむしっていたことだろう。

 復讐の炎が燃え盛るにつれ、その燃料となるかのように自我が燃やされていく。

 本能的に危機感を感じた彼は感情を制御しようとするも、心は言うことを聞かない。

 自我が燃え尽きる最後、彼が感じたのは恐怖だった。


         憎悪に身を焦がせ


 薄れゆく意識の中どこかで聞いた声が彼の胸に響いた。


落ちていくセルスを眺めながらアーロットはこの戦いが自分たちの勝利で終わったことを確信した。

 依然戦闘は続いているがトップとその補佐を失ったあとの騎士を掃討するのは容易だろう。酒呑童子だけは相変わらず健在だがそれも機人が彼女を引き付けたうえで、彼女の領域外から魔法で援護すればそうそう負けはしない。

 そこまで考えたアーロットはセルスの異変に気付いた。

 全身から異常な魔力が放出されている。

 赤黒い炎のような魔力がセルスの体に巻き付いている。

 明らかな異常事態。ゆるめていた警戒を最大限まで引き上げる。

 

「あああああああああ!」


 悲鳴とも雄叫びともとれる声が木霊(こだま)する。

 

「キルス!」


 恐らくは悪魔の名前と思われる言葉とともにセルスがこれまで以上の速度で迫ってくる。

 それは彼を最大限に警戒していたアーロットですら避けることのできない速度だった。

 咄嗟に展開した魔壁をやすやすと砕き、避けようとするアーロットの左肩を彼の拳がしたたかに打ち据える。

 治したばかりの骨が砕ける嫌な音がアーロットの耳に届いた。それが幻聴でないことを証明するように激痛が走るが今はそれで動けなくなっている場合ではない。

 追撃を避けようとしたアーロットは直後目を疑った。

 アーロットを攻撃したセルスはそこで標的を変えて近くにいた味方の騎士へと突撃する。

 全く予想外の攻撃に動くこともできなかったその騎士は味方であるはずの悪魔に殺された。


「な・・・ぜ?」


 それだけを言い残して騎士は落ちていった。

 騎士の最後の言葉に答えることはなくセルスは次なる標的に襲い掛かった。

 敵味方を問わず攻撃を繰り出すセルスに戦場はさらなる混沌に見舞われることとなる。


 セルスの暴挙を酒呑童子と彼女と戦っていた機人の指揮官も呆然と見ていた。

 二人とも、状況把握に秀でた機人でさえ現状を理解できないでいた。

 酒呑童子は彼を差し置いて行動を始めた。


「なんかきな臭いことになってきたからあたいはお(いとま)するね」

「主を置いて逃げるのか?」

「あたいはセルスの臣下じゃないよ。楽しそうだから彼に協力してただけ。それに仮にあたいが奴の臣下でも自分を攻撃してくる主に尽くすほどいい奴じゃないよ、あたいは」


 機人は一秒にも満たない時間で決断を下した。

 すなわちこの場で酒呑童子を見逃すか否か。

 そして下した結論は見逃す。

 ここでこれ以上の不確定要素を抱え込むことを機人の指揮官は嫌った。


「行け」

「お礼は言わないよ」


 転進し、この場からの離脱を開始する。

 最後に一言だけ残して彼女の姿は消えていった。


「今度は必ずお前を壊すから」


 その言葉を聞いた彼は感情のない声で飛び去った彼女に言葉を投げ返す。


「それは、こちらのセリフだ」


「やめてくださ、ぎゃああ!」


 無差別に攻撃を仕掛けるセルスがまた一人味方の悪魔を切り伏せた。

 その凶刃が人間に向いたときアーロットはやっと自分が何をすべきだったか思い出した。

 アーロットとセルスの間に広がる距離は彼が味方の兵士とセルスの間に割って入ることを許さない。

 魔弾の嵐がセルスに降り注ぐ。

 先ほどまでのセルスだったら容易に回避してのけただろうその攻撃をセルスはまともに食らった。

 傷だらけになりながらも彼の魔力は尽きることなく溢れてくる。まるでアーロットの魔性のように。

 

「邪魔をするなあ!」


 怒り狂ったセルスがそこで再び標的をアーロットに変更する。

 左肩の骨折はいまだ完治していない。両手がふさがっていて魔法が使えないからだ。そのためアーロットは右手に持ったエクスカリバーだけで対処を余儀なくされる。

 

「何がしたいんだお前は!非道な行いに手を染めてまで国の平和を得たかったんじゃないのか。お前がさっき殺したのはお前が守りたかった民じゃないのか!」


 アーロットが怒りと悲しみに任せて吠える。

 この戦争に絶対の善は存在しない。

 だからこそ、各々が自分自身の信念のもとにこの戦争に参加していると、アーロットは本気でそう思っていた。

 だからこそ目の前の光景が許せない。

 自らが守るべき者たちまで殺してしまったのなら、自分たちは一体何のために戦っているのかわからなくなる。


「僕はキルスのために、あいつの仇を取るために戦っているんだ!」


 セルスには信念があった。

 それはアーロットが思い描いていたものとは全く別の。


「僕はあいつの仇を討つために、祖国を滅ぼすんだ!」


 衝撃的な発言。

 キルスという名にアーロットは聞き覚えがないが、貴族が謀反を企てるとはただ事ではない。

 今のセルスは全く正常な状態ではないが、だからこそその言葉には偽りがないように思えた。


「なら・・・なんで俺たちは戦っているんだ!」


 倒すべき敵が同じなら、彼らは手を取り合える。少なくともこうして剣を交える必要はない。


「人間も悪魔も(みんな)殺す!」


 会話の成り立たないセルスの攻撃を右腕一本で受け止めるアーロット。

 衝撃で力の入らない左手からガラハッドの剣が滑り落ちる。

 それだけにとどまらず限界以上に身体強化したアーロットの腕を押し返していく。

 じりじりとセルスの刀がアーロットの首に近づく。

 数ミリの距離を残して刀が迫った時、不自然な軌道で飛んできた弾丸が正確にセルスを貫く。


「がああっ!」

「助かった」

「気にするな。これも仕事だ」


 小銃形態の可変兵器を構えて酒呑童子と戦闘していた機人が合流する。


「私も戦います」


 アーロットが落とした剣をキャッチした傷だらけのガラハッドもそこに加わる。


「大丈夫か?」

「主が戦っているのに、俺だけ寝ているわけにはいきませんよ」

「なら頼む」

「はい」

「援護は任せろ」


 後方に機人を残し、アーロットとガラハッドがセルスの懐に飛び込む。

 彼らの後ろから曲線軌道を描く弾丸がセルスを襲う。

 それらを速型で躱しそのままの形態でアーロットたちに迫る。


「俺が受けます!」


 セルスの動きをガラハッドは目視できていない。

 それでも彼はアーロットとセルスを結ぶ直線の間に割って入った。

 神業に等しい攻撃予測。

 並外れた才能はもちろん、それを発揮できるだけの経験に裏打ちされた確かな技術の表れ。

 速型から重型に変身し、手にした刀をガラハッドが掲げる盾に打ち付ける。


「今です!」


 強烈な衝撃に盾を持つ左腕の骨に(ひび)が入る。

 それでもそのおかげでセルスの態勢も崩れた。


「はあ!」


 アーロットが渾身の一撃を叩き込むも重型のセルスにはたいしてダメージが通らない。

 

「ああああ!」


 ガラハッドとアーロットを巻き込んでセルスがめちゃくちゃに暴れる。

 盾を構えることのできないガラハッドに代わり、今度はアーロットが攻撃を受ける。

 一撃目、右手が痺れるほどの衝撃が走る。

 二撃目、右手から剣が弾き飛ばされる。

 三撃目、腹部に熱が走る。

 体ごと後ろに飛んだアーロットはそのままガラハッドを巻き添えにして後ろに飛ばされる。


「ごほっ!まずいな、ちょっと手に負えなくなって来たぞ」

「せめてこの傷さえ治療できれば」


 現在、二人は片腕が使えない状態が続いている。アーロットに至っては腹部から大量に出血している。

 前線でセルスと戦っている二人はもちろん、後方で彼らを支援する機人にも二人を治療する余裕はない。


「こちらに回る余裕のありそうな兵士はいないな」


 魔法陣から落としたエクスカリバーの代わりに夕霧之羽々斬(ゆうぎりのはばきり)を取り出す。


「今は耐えましょう。もう少しすればメリサたちが戻るはずです」


 半ば自分を励ますようなガラハッドのセリフにアーロットも今はすがるしかなかった。

今回も読んでいただきありがとうございました。

次回の投稿は五月二十六日、タイトルは「欠陥魔法使い」です。

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