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神に選ばれた人間異世界で王様になる  作者: ペンギン
ロンバール編
21/48

開戦準備

 戦争の準備が始まると清明の結界の中は途端に慌ただしくなった。

 誰も彼もが己の使命を果たさんと懸命に働く姿にアーロットは少し感動していた。しかしすぐに自分もなすべきことをなすためにと結界の一角に向かって歩き出した。

 屋敷の中庭に造られたのは即席の工房。ただし魔法使いのための工房ではなく鍛冶師のための工房だ。


(あずま)さんこれの加工を頼めますか」


 工房を訪ねたアーロットは中で作業中の職人に声をかけた。

 東と呼ばれた青年ははさわやかな笑顔でもってアーロットに答えた。


「任せてください。自分にできることならなんでもしますよ!」


 彼にはすでにアーロットの新しい防具の作成を依頼している。若くして天才的な才能とそれに胡坐(あぐら)をかかない確かな技術を備えた彼の作品を実はアーロットはひそかに心待ちにしていた。

 そんな東にこれ以上の作業を頼むのは申し訳ないと思いつつもアーロットは手にした闇石(あんせき)を東に差し出す。


「これ・・・闇石じゃないですか」

「そうです。ここに来る途中で手に入れました。次の戦争で使用したいのですが、加工を頼めますか」


 もう一度アーロットはそう東に確認を取った。対する東は先ほどの威勢のよさがなくなっていた。


「俺は闇石の加工を経験したことが無いです。なので絶対に成功するとは口が裂けても言えません。でも、この闇石の加工、俺に任せてはもらえないでしょうか。俺は鍛冶しか能がねえからいざ戦争が始まったらお荷物です。だからこそ、少しでも前線で戦う人たちの役に立ちたいんです。お願いします!」


 頭を下げた東の手に闇石を握らせる。顔を挙げた彼にアーロットはただ一言声をかけた。


「信じてます」


 それを聞いた東の顔はみるみるやる気に満ちていった。


「任せてください!」



 東に闇石の加工を任せると、工房の別区画でアーロットは自身の作業を開始した。ここ最近彼は一日のほとんどをこの鍛冶工房で過ごしている。

 彼の作業は単純。ただひたすらに己の魔性を駆使して武具を作成すること。鎧、刀、槍、弓、必要になるであろう物はとにかく作った。

 鎧が作れるならわざわざ他人に似た呑む必要はないと思うかもしれないが、彼が作れるのはあくまで量産品。個人に合わせて作るわけではないし、手間暇もかける時間も一点ものとは比べるべくもない。

 ちなみにアーロットが一つの武器を作るのにかかる時間は平均して一時間、全身鎧は一人分で五時間を要する。

 出来上がった物はすぐさま隣で魔法陣を刻む晴明に手渡していく。


「これも頼む」

「お任せあれ」


 この数日作業を共にするにあたって二人はすっかり打ち解けあっていた。作業の合間に他愛もない会話に興じる程度には。


「ところで、なぜ魔法なんだ?学ぶなら、極めるなら他にも色々あるだろう」

「そうだね、僕が魔法に入れ込んだのは単純に才能があったからさ。妖精に親はいない。生まれたばかりの僕たちは命がけさ。生き残るために自分に何ができるかを必死で考えなければならない。そして僕の場合それが魔法だった。きっかけなんてその程度のものさ。そこからさらに魔法に夢中になったのは僕の性格によるんだろうけど」


 いたずらっぽく笑いながら晴明はそう締めくくった。


「今度は僕の質問。君はどうして王様になったんだいアーロット。どうして人類の存続なんていう重たい責任を背負おうと思ったんだい」


 その質問に対する答えを生憎アーロットは持っていなかった。


「さあな。それを忘れたからつい先日までは苦労していた」

「じゃあ、今はどうなんだい?」

「今もたいして変わらんさ。ただ、俺は自分が信じる王道を進むことにした。それがどんなものか俺にはまだわからないけれど・・・」

「いいんじゃないかい。あれこれ悩むのは人間種の特権だ。君はそんな人間の王様なんだから大いに悩めばいいさ」

「そうすることにするよ」


 言葉を交わすうちに二人の間には確かな友情が芽生えていった・・・。


「そういえば、レーテルナの伝承では君の母は葛の葉という説があるのだが実際のところどうなんだ」


 その質問に少しの間ぽかんとした表情を晒したのち、苦笑気味に晴明は誤解を解いた。


「彼女は僕の母親じゃないよ。僕は妖精で、彼女は獣人なわけだし・・・。もっとも、そう思われても無理はないのかもしれない」


 過去を懐かしむように語る晴明に、アーロットは無言で続きを促す。


「妖精には親がいないって言っただろう。彼女は生まれてまもない僕を見つけて以来、親代わりとして数年生きるための知識を色々と教えてくれたんだよ」

「どうして一緒に居続けなかったんだ?」

「あの頃の人間にとって僕たちは妖怪の類としか認識されなかっただろうからね。迫害を恐れた彼女はレーテルナを離れたのさ。僕はまだその頃はレーテルナで色々見分を広めたかったから残ったってわけ」

「なるほど」


 自分と違う存在、理解できない存在を受け入れようとするのは困難を伴う。

 仮にこの戦争が終わったとしても、その時悪魔に未来はないかもしれない。この戦争を引き起こした張本人である彼らはまたいつ牙を剥くかわからない危険分子として他の種族に忌み嫌われることだろう。それで悪魔と残りの種族が不可侵を貫くのならまだいい。しかし悪魔を排除しようという運動が起こらないとは口が裂けても言えない。この戦争を終わらせることがすべてではない。もしかしたらそれ以上に戦争が終わった後の方が大変かもしれないと、アーロットは考えた。

 それでもまずは目の前の戦争に集中しようと再び武具の作成に勤しんだ。



「あ、あの・・・お昼です・・・」


 工房を訪れた黄華は消え入りそうな声で差し入れのおにぎりを差し出した。


「どうも」


 アーロットがそれを受け取ると黄華はすぐさま工房を後にした。


「黄華殿は人見知りだな」

「なれれば話しやすい方だよ。慣れてくれるまでが長い方でもあるけど・・・」


 おにぎりを食べながらアーロットは胸中がざわつくのを感じていた。



 一日の作業を終えてアーロットは部屋に戻るべく廊下を歩いていた。

 そこで縁側に座り、月を眺める黄華を見つけた。


「こんばんわ」


 少し迷ってからアーロットは彼女に声をかけることにした。

 声をかけられた黄華は驚いたのか少し腰を浮かせてアーロットの方に振り向いた。


「こ、こんばんわ・・・」


 彼女はアーロットが声をかけたことを少し後悔する程度に動揺していた。しかしここで挨拶だけして立ち去るのもせっかく声をかけた意味がないと考えて彼は少しだけ黄華と話をすることにした。


「きれいな月ですね」


 白閻と見た月も見事な満月だったが、今日の月も負けず劣らず見事だった。ここでは毎日が満月のようだ。


「つき?」


 黄華の反応を見てアーロットは自分の言い間違いに気づく。


「俺の故郷ではミースのことを月と呼ぶのです」

「なるほど・・・」

「ここではミースが欠けることはないのですね」

「ええ、そうです。晴明さまが生まれたこの場所は一年をとおして最も光の満ちた場所だったとか。だから晴明さまはここを常にあたたかな光で満ちる結界にしたのだと、以前そうおっしゃていたのを聞きました」


 ミースの光に照らされる、黄華の横顔に見とれないように、会話が途切れないように注意しながらアーロットは会話の種を探していく。

 彼の心にあったのは美女とお近づきになりたいという思い、ではない。今もなお胸の内でくすぶる違和感の正体を突き止めたいという衝動が彼の行動の理由だった。


「夢を見るのです」


 予想外に黄華のほうからアーロットへと会話を振ってきた。


「夢、ですか・・・?」

「ええ、とてもとても恐ろしい夢です。幼い時からずっと私を苦しめるのです。あんな夢を見続けたせいでしょうか、私がこんなに人を苦手とするようになってしまったのは・・・」


 あえて夢の内容を聞くようなことはしなかった。代わりにありうるであろう可能性の話をすることにした。


「それは、呪いの類ということでしょうか?」

「わかりません。晴明様に見てもらっても何も以上はありませんでした。それでも私は今なお悪夢にさいなまれているのです。今宵はまたあの悪夢に苦しめられると思うとどうしても眠る気になれなくて・・・」

「それでここで月・・・ではなくミースを見ていたのですか?」

「はい。でももう寝ますね。ここでいつまでもこうしているわけにもいきませんし。おやすみなさい、アーロット様」


 そう言って彼女は自身の部屋へと向かっていった。その背に向かってアーロットもまた声をかける。


「おやすみなさい、黄華殿。よい夢を見れるように願っております」


 振り返った黄華は丁寧にお辞儀をしてから去っていった。

 結局違和感の正体をつかむことはできなかった。


月日は流れ悪魔側、人間側相補の作戦の準備は順調に進んでいた。

 アーロットたちは順調に地下道をほり進め、交代でやってくる見張りの騎士を王法で続々と味方としていった。

 悪魔側もそんな人間たちの企みを察知して作戦を練っていた。


「報告します、地下道が開通しました」


 地下道の掘削責任者が集まったアーロットと白閻に報告する。


「ロンバール城内に目立った動きはありませんでした」


 同様に使い魔で敵の情報を探っていたメリサが報告する。


「ご苦労だった。皆休んでよろしい」


 報告を終えた二人が白閻の指示で退出する。


「準備は整いましたな」

「そうですね」

「作戦の開始は明後日鷹の月の十日にしましょう」

「では明日は翌日に備えて兵士たちに英気を養わせるとしましょう」


 ロンバール城でも作戦の詰めの作業が急ピッチで進められていた。


「人間たちは明後日十日にここを攻めるとのことです」


 いつも通りオリアナがセルスに報告をする。


「ならば攻めるのは九日の夜だ。準備は間に合うか?」

「間に合います」

「こちらの情報が洩れている可能性は?」

「問題ないかと。すでに城内で敵の使い魔と思しきものが確認されていますが、すべて偽の映像を送信するように対抗魔法をしかけました。また地下道の見張りの兵士に掛けられた催眠の方は強力で解除が難しかったので今回の作戦には参加できません。しかし大きな影響はないと思われます」

「わかった。下がっていいぞ」


 オリアナが退室した執務室でセルスは誰に聞かせるでもなく心中を吐露した。


「馬鹿な人間たちだ。おとなしくしていれば生きながらえたものを・・・」



 鷹の月九日の夜、作戦のすべての準備が整った人間たちは存分に英気を養い、明日を待つばかりとなっていた。

 誰もが作戦の成功を祈りながら床に就く中、アーロットは眠れずにいた。

 静謐な時間が流れる室内に通信機の音が鳴り響く。

 それはキャメロットからの通信だった。

 連絡を寄越したのはキャメロットにいるマーリンだった。


「アーロット様大変です!」


 常ならぬマーリンの動揺した声に、まさかこの段階でキャメロットが攻められたかと考えたアーロットだがそれは杞憂だった。しかし事態が最悪の状況に近いことは確かだった。


「み、未来が隠蔽されていました!」


マーリンの言っていることは容易に理解ができなかった。


「どういうことだ?」

「詳しくは私にも。ただ敵は私の予知を何らかの方法でかいくぐりこの最悪の未来の予知を阻みました!いましがた見た限りではこのままではアーロット様達は敗北します。すぐにそこからお逃げくだ・・・」


 そこで通話が切れた。通信を阻害するように発信された魔力の波の影響だ。

 つまり、明確な敵対行為。それを行うだけ敵は既に近くに来ている。

 アーロットが行動に移すより早く敵は攻撃を開始した。

 ガラスが割れるような音が彼の鼓膜を揺らす。外側から晴明の結界が攻撃されているのだ。

 音で目を覚ましたガラハッドたちが駆けつけてくる。


「アーロット様!」

「何事です!?」


 ガラハッド、メリサが動揺を隠す余裕もなく問いかけてくる。

 しかし彼らの質問に丁寧に答えている余裕はアーロットにもない。


「手短に話す。マーリンの予知が外れた。このままでは俺たちは負ける」


 それを聞いた三人の反応は全く同じものだった。一様に言葉を失い立ち尽くしている。

 いち早くその状態から脱したのはガラハッドだった。


「ここから逃げましょう」


 彼も又マーリンと同じ提案をする。


「わかった。みんなを集めるぞ」


 自らの主の言葉をガラハッドは否定する。


「いいえ、逃げるのは私たちと最低でも晴明。余裕があるのなら白閻殿と黄華殿も」


 ガラハッドの言っていることが彼にはすぐに理解できなかった。


「ここにいる全員を連れてオックス山脈を敵の攻撃の中下山することは不可能です。そして我々は人王陛下を失うわけにはいきません。あなたには、ここで彼らを見捨ててもらいます」


 非常な通告がアーロットを襲う。

次回の投稿は五月八日です。

タイトルは「悪夢」

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