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神に選ばれた人間異世界で王様になる  作者: ペンギン
ロンバール編
19/48

縮小大陸

 アーロットの要求をロンバール国王白閻(びゃくえん)はきっぱりと断った。

 しかしアーロットに驚きはない。彼が白閻の立場でも同じ決断をするだろうことは明白だからだ。

 それでも一応アーロットは理由を聞くことにした。


「理由を聞かせてもらえますか」

「もちろんです」


 一呼吸間をおいて白閻が語りだす。


「先代の人王がお亡くなりになり、この世界は悪魔に支配されることとなりました。それはロンバールも例外ではない。今の我々にはここしか住む場所がないのです。それだけではありません。清明がいなくなれば我々は住居を失うだけでなく自衛すらままならなくなる。彼は今の私たちに必要不可欠な存在なのです。そんな彼をこの世界のためとはいえ差し出すわけにはいきません。私には責任がる。世界ではなく己の民を守る責任が」


 白閻の言葉はアーロットにもよく理解できた。アーロットが彼の立場なら同じように判断しただろうことは容易に想像がつく。


「しかし世界がこのままではやがてラスティナが滅ぶのは目に見えていますよ」


 だからと言ってアーロットも引き下がるわけにはいかない。


「そうですね。おっしゃる通りだ。そこで私から一つ提案があります」

「聞きましょう」

「我々と一緒にロンバール王都を奪還してほしい。あなたたちがトロワ基地を破壊したことは清明の式神を経由して知っています。ぜひそのお力をお貸し願いたい」

「つまりその条件を達成できたなら清明殿の力をお借りできるということですか」

「その通りです」


 普通に考えて今のロンバールに悪魔と戦うだけの力が残されているとは思えない。今回の戦いは先のトロワ基地とは規模が違う。相手は国だ、そうやすやすと堕とせるものではない。


「何か案があるのですか」


 仮にも一国の主だった者が無責任にこんな提案はしないだろうと踏んでアーロットは勝算があると踏んだ理由を問う。


「勿論です。我々とてただじっと誰かに救いの手を差しのべてもらうのを待っていたわけではありません。この時のために準備をしてまいりました」


 仮に、国を取り戻すことができても今の彼らにそれを守る力があるとは到底思えない。


「仮に国を取り返したとしてそのあとはどうするおつもりです。ただ取り返すだけではまた奪い取られるのではないですか」

「そこももちろん考えています」

「それについては私から説明させてもらいましょう」


 よく通る美しい声で晴明は説明を始める。


「僕が地形操作の魔法でキャメロットとロンバールを統合します。そうすれば二国の兵士たちが力を合わせることができますし、何より広い大陸を守るよりも国そのものを統合して縮めてしまえば少ない兵力でも二国を守ることは可能だと思います」


 確かにそれなら兵士をあちこち分散させることなくさらにはロンバール国の兵士の力を借りることもできる。国を守るうえでアーロットたちにもメリットのある話だ。


「確かにそうすることができるならこちらとしても文句のつけようはないです。しかしそれほど大規模な魔法を行使することができますか」


 理論上地形操作の魔法を大陸規模で発動することは不可能ではない。しかしそのためには膨大な魔力の用意、それを扱う技量などクリアしなければならない課題は多い。それらを満たしたうえで実際に大規模魔法を行使できる人間は暗黒界広しと言えどそう多くはいないだろう。


「僕一人ではむろん無理です。しかしアーロット殿に仕えるマーリン殿の力と他ならぬアーロット殿自身の力をお借りできれば可能だと考えています」

「俺ですか?」


 アーロットはここで自分の名前が出るとは考えていなかった。アーロットは神世界(しんせかい)にいた際魔法に長けた神に魔法を習ったことがある。そのおかげで高位の魔法を行使することも可能になったが、晴明やマーリンといった魔法のプロフェッショナルにはいまだ遠く及ばない。


「あなたがあの合成種(キメラ)に放った槍に込められた魔力は私がこれまでに見た中で一番大きなものでした。あの魔力と僕の魔力、そしてマーリン殿の魔力を合わせれば大規模な地形操作の魔法を発動させることは可能です」

 

 つまり晴明は言い方は悪いがアーロットを魔力炉と同様の扱いをしたいということだった。

 別段その扱いをアーロットは気にしなかった。


「つまりあなたたちはロンバールを取り戻すために我々の力を借りたい。無事王都を奪還できた暁にはキャメロットと同盟を結び二国間で領土防衛、さらに世界奪還を目指したいということでよろしいですか」


 アーロットがこれまでの話を要約するとロンバール側は一同が頷いた。


「少し時間をいただいてもよろしいですか」

「構いません。これだけの大きな話をここで決めて欲しいなどとは申しません」


 白閻が了承したことで話し合いは一時中断となった。


 黄華姫の案内でアーロットたちは来客用の部屋に通された。そこにも椅子とテーブルが置かれていた。寝室は(ふすま)を隔てた一つとなりの部屋にあるらしい。

 四人は椅子につき今しがたの会話の内容について話し始めた。


「とりあえずはマーリンの予知を聞いたほうがいいだろう」

「そうですね、連絡しましょう」


 ガラハッドが通信端末を取り出す。ラスティナの通信端末には『遠話(えんわ)』の魔法陣が刻んであり通話に電波を必要としない。基本どこからでもかけられるのが強みだ。


「ガラハッドだ、少し話がしたい。時間はあるか」


 マーリンの返事を聞いてガラハッドが端末をテーブルの中央に置いて、通話をスピーカーに切り替える。


「お久しぶりですね王様、トロワ基地攻略お疲れさまでした」


 端末から久しぶりに聞くマーリンの声が聞こえる。


「こちらこそ、お前の予知には助けられた。ありがとう。そちらの様子はどうだ」

「キャメロットのほうは異常ありません。やはりトロワ基地が陥落したのが大きいのでしょうな。近頃はほとんど悪魔を見かけません。住民たちも皆安堵しています」


 その言葉を聞いてアーロットは心底ほっとした。


「こちらは予定通り安倍晴明のもとを訪れたところだ。しかし困ったことになってな。お前の力を借りたい」

「お話を聞きましょう」


 それからアーロットはマーリンに白閻が提示した条件を話した。


「この条件を呑むべきだろうか」

「少し時間をください、未来を見てみます」


 そこでいったん通話を終了した。

 マーリンの魔性でみられるのは最大で一か月先まで。それ以上先を見ることはできないし、調子が悪ければもっと短い期間でしか未来を見ることはできない。アーロットたちが旅立つまでに見ることができたのはちょうどトロワ基地を攻めるところまでだったので会談がどうなるかは出発した段階ではわからなかった。

 獅子の月七日から一日ずつ、根気よくマーリンはアーロットたちの未来を見ていった。

 昼前に晴明のもとを訪れて、マーリンが未来予知を完了したのは日が傾いて、夜の帳が落ち始めた時だった。


「そうか、受けても問題はないか」

「ええ、アーロット様達と晴明たちが手を組めば問題なくロンバールを奪還できます」

「わかった。ありがとう、助かった」

「この程度大したことではありません。私は優秀ですから。ところでそちらに絶世の美姫と評判の黄華姫がいると・・・」

 

 そこまで聞いてアーロットは通話を終了した。そしてそれを誰も咎めなかった。

 マーリンが見たのはアーロットたちの勝利の未来だった。必ず的中する予知ではないため油断はできないがこれは大きな判断材料となる。

 アーロットはそれから仲間たちと短い相談を終えて夕食の席で白閻に返事をすることを決めた。


 

 時はアーロット達がトロワ基地を攻める前までさかのぼる。


「セルス様、本国より通達です。例の魔性持ちが見つかりました」


 執務室で書類仕事をこなしていたセルスを訪ねたのは彼の護衛であり、秘書の悪魔だった。スーツをきれいに着込み、眼鏡をかけた女性の悪魔は氷のような冷たい雰囲気をまとっていた。


「それが確かならあの裏切り者を出し抜くことがようやくできるわけか」

「はい」


 悪魔たちは長きにわたってたった一つの魔性を探していた。戦争を有利に進めるために。

 しかし魔性は誰にどんなものが発現するか誰にも予測できない。悪魔は目当ての魔性をもって生まれる悪魔を長い年月を費やして地道に探していた。そしてそれがようやく見つかったのだ。


「どれくらいで使えそうだ」

「あくまでまだ発見した段階ですので投入は少し先のことになるとのことです」

「そうか、わかった」

「それともう一件、例の者からの定時連絡です。いまだ雲の上に目立った動きはないとのことです」

「そちらも了解した」


 要件を伝えた秘書の悪魔は退室し、セルスは再び作業を再開した。


 マーリンとの連絡を終えてアーロットたちは白閻と夕食を共にしていた。アーロットが今食べているのは握り寿司だ。この世界に寿司があることも驚きだったが、何よりも彼を驚かせたのはこれを握ったのが晴明ということだ。握り寿司は江戸時代に完成したものなので平安時代に生きた晴明が知るはずはないとアーロットは考えたのだがそれは間違いだったらしい。


「生まれは平安の世でしたが、僕は転世者ではありませんよ。二十世紀の終わりに機人の船に乗せてもらってラスティナに来たのです」

「そうだったんですか。しかしなぜラスティナに?当時すでにここは悪魔に占領されていたはずですが」


 アーロットの質問に晴明は満面の笑みで答える。


「それはもちろん魔法のためですよ!大規模な戦争の最前線ともなれば見たこともないような魔法にお目にかかれるだろうことは容易に想像がつきますからね!いてもたってもいられずに機人の船で密航するもやむなしというものです!」


 一瞬にして熱量が最高潮に達した晴明に若干アーロットたちが引き気味になる。

 呆れと申し訳なさを絶妙にブレンドした顔で白閻がアーロットに謝る。


「いえ、お気になさらず。魔法のために命も顧みず戦地に飛びこむとは余程魔法がお好きなのですね」

「ええ、もちろんです!」


 清明の気迫に押されて誰も密航という彼の言葉に突っ込めないでいた。



 食事が一段落するとアーロットは白閻に先ほどの会談の続きがしたいと申し出た。白閻はそれを受けいれ会談が再開された。


「結論から申し上げますと、キャメロットはロンバールの提案を受け入れることとしました」


 アーロットの言葉を聞いて白閻と黄華の顔に安堵の色が浮かぶ。


「申し出を受け入れていただき誠にありがとうございます」


 白閻をはじめとした三人が深々と頭を下げる。


 会談がまとまり夜が更けていく。

 先ほどまで日課のゲームをしていたラデスも寝てしまい、起きているのはアーロットだけだった。

 寝室ではなくその隣の部屋で読書をしていたアーロットの耳に襖をたたく音が聞こえた。その音は寝ている人間を起こさないように十分小さいものでアーロットは一瞬聞き間違いかと思ってしまった。


「アーロット殿起きていますか」


 廊下から白閻の声が確かに聞こえた。アーロットは読んでいた本を閉じて廊下のほうへ歩いていき、襖を開けた。そこにはやはり白閻が立っていた。手にしたお盆には急須と湯呑が乗っている。


「お付き合い願えますかな」

次回「己とは」

投稿は五月一日です

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