禁忌の研究と悲しき存在
地下六階、基地の内部を絶叫が木霊する少し前、フォルスとの戦闘中のアーロットの耳にメリサからの通信が届く。装着した眼鏡から骨伝導で伝えられた内容の疑問点をアーロットは率直にフォルスに尋ねた。
「セルスが出資したというこの基地での研究に興味があるのだが、何を研究しているか教えてはくれまいか」
魔弾とともに言葉を投げかける。
「大した研究ではない。人王陛下にお教えするほどのものではないさ」
闇魔法とともに拒絶の言葉が返ってくる。
しかしアーロットは食い下がる。
「研究の内容はお前の後ろにいる何かに関連しているのか?」
アーロットの言葉にフォルスが少しだけ驚いた顔をする。
「寝ている奴の魔力に気づくとはなかなか精度の良い魔力感知じゃな」
それ以上は何も答えずフォルスは手にしたステッキから仕込み刀を抜く。そのまま一直線にアーロットへと迫る。
アーロットもフォルスが剣を抜くのを見て腰に帯びた鞘からエクスカリバーを抜いてフォルスの剣を受ける。
「『選定』」
聖剣に刻まれた魔法陣がその効果に従い未来の、今より卓越した技術を備えるアーロットを現在の彼に投影する。
高速の近接戦闘が開始される。一撃の威力よりも手数を重視した攻撃でお互い着実に相手にダメージを与えていく。
「お主はこの戦争をどう思うね」
両者が高速で交差する最中投げかけられた言葉の真意をアーロットは計りかねた。
しかし問いかけたフォルスに嘘偽りを述べることはしなかった。
たとえ無意味だとしてもアーロットは悪魔との対話を放棄する気にはなれなかった。それは殺意と殺意を交換することしかできない現状への彼なりの抵抗なのかもしれない。
「悲しく、辛く、苦しく、救いようのない要素が混沌と渦巻いている」
「ならどうする。この戦争を終わらせるかね?」
「無論そのつもりだ」
「ほう、どうするつもりじゃ?」
「俺が魔神になる。そして悪魔と多種族との架け橋となる」
「傲慢じゃな。何億といる悪魔がお主の思い通りに動くと思っているのか。そもそもお主に魔神を殺せるか?」
「言ってくれるな。世界ごとお前らの種を消しても良いんだぞ」
アーロットの挑発にフォルスは動じない。不可能だと考えているのだろう。事実、能力的に可能かどうかは別としてアーロットにそれを行うだけの覚悟はない。
「戯言じゃな。まだ『戦争の神』を殺すと言われた方が信じられるというものよ」
概念の守り手が神で、神が死ねば神に守られていた概念も全ての世界で消える。つまり『戦争の神』の死は戦争の禁止に直結する。
一見、最も犠牲の少ない方法に見えるこの方法を実行することはできない。
理由は二つ。一つは『戦争の神』が悪魔たちに拉致され、手出しできない状態にあるから。資源獲得のため戦争を仕掛ける悪魔たちはこの戦争が終わることを拒絶し、終戦の要因となりうる『戦争の神』を攫った。すでに他種族と領土を二分するほど領土を持つ悪魔だが未だ彼らの資源不足は解消されない。というのも悪魔は存在するだけで環境を破壊する。彼らがいるだけで木々は朽ち、川は枯れ、空気は汚染される。現にラスティナも悪魔に占領されてからは環境破壊が進み、資源の枯渇も始まっている。故に悪魔は資源が枯渇するはじから世界を侵略していきなんとか種の存続を図っている。持続可能な世界を持たない彼らに戦争を放棄する考えはなかった。
二つ目の理由、これが最大の理由だった。いかなる運命の悪戯か『戦争の神』は『不滅』の魔性を秘めていた。これによりいかなる者も『戦争の神』を殺すことはできなかった。この魔性があったからこそ神の制約に反き悪魔は『戦争の神』を誘拐できたとも言える。
会話が止み、広い空間に剣と剣が交わる金属音だけが響き渡る。
互いの剣が交差する最中、アーロットは決め手に欠けることに気づく。歴戦の猛者であるフォルスには『選定』の魔法を以ってしても圧倒するには至らない。このまま時間をかければ上で戦うガラハッド達にも限界が来ると考え、アーロットは体内にこれまで以上の魔力を流し込んだ。
「『解始』」
魔性によって作られた魔力がアーロットの体内を巡る。常人では耐えきれない莫大な魔力はしかしルシアが刻んだ魔法陣によって制御される。
溢れた魔力がアーロットの周りを青く染める。
並々ならぬ魔力を感じたフォルスの表情が引き締まる。
フォルスはアーロットが一歩踏み込むのを確かに見た。しかし彼の目に映ったのはそこまでだった。
身体能力にものを言わせフォルスの視界から消えたアーロットは一呼吸の間に八回フォルスの体を傷つけた。
フォルスから流れ落ちる血液が彼の足元を赤く濡らす。それでも致命傷に至らなかったのはすんでのところで展開した魔壁のおかげか、はたまた彼の体を強化した魔力のおかげか。
しかし相当な深手であることには変わりない。フォルスは膝から崩れ落ちそうになるのをなんとか刀を杖代わりにして踏ん張り、堪えた。
「当代の人王もなかなか一筋縄ではいかんようだな」
重傷を負ったフォルスに焦りはない。何か奥の手を隠しているのか、アーロットにも心当たりがないわけではないが実際のところフォルスが何を隠しているのか彼に確信はなかった。
「さてどうしたものか。ここでお主と心行くまで剣を交えるのもやぶさかではないが、儂にはまだやらねばならんことがある。ここはおとなしく退かせてもらうとしよう」
「随分とあっさり引き下がるのだな。お前たちにとってこの基地は重要な拠点なのではないか?」
「応ともさ。ここでこの基地を捨てるのは痛いが、自分の命には代えられんさ。お前さんには別の遊び相手を用意してやるでな今日のところはそれで勘弁しておくれ」
言い終えるとフォルスはスーツの内ポケットから一つのスイッチを取り出し迷わずそれを押した。
するとフォルスの背後で急激に魔力が膨れ上がり、勢いそのまま魔力は壁を突き破って暴発した。
爆風で一瞬アーロットの視界が遮られた瞬間を狙ってフォルスは『隠者』の魔法を発動してこの場から逃れた。
アーロットの視界が戻ると目の前にはフォルスの代わりに異形の怪物が立ちはだかっていた。
「GAAAAAAAA!」
世界を呪うような絶叫がアーロットの鼓膜を揺らした。
現れた異形の怪物はアーロットの知るどの生物にも一致しない。床から五メートルの高さにある頭部はドラゴンのもの。胴体はとそこから延びる腕は人間のものに近いがサイズが大きすぎる。腕に至っては左右で計四本、肘関節が二つ付いている有様だった。下半身はこれもサイズが大きく異なるがサソリの者に似ている。幾本も生えた足に、鋭いとげの付いた尻尾を備えている。全身が黒光りする甲殻に覆われており、容易に刃を通しそうにない。
「合成種か」
意識したわけではないがアーロットの口から言葉が漏れる。
漆黒の化け物を見たアーロットはそれがなんであるかを正確に看破した。
合成種、悍しい研究の研究の成果。それは異なる種族同士をつなぎ合わせそれぞれの長所を組み合わせることで最強の生態兵器を作り上げようという理念の下作り出された悲しき存在。初めにこの研究に着手したのはアーウィットという機人だった。世界最強の傭兵集団である機人の研究者だったアーウィットは多種族に売り出す商品としてキメラの研究に着手した。
長い時を経てアーウィットはついに研究を成功へと導いた。キメラは当初アーウィットが考えた以上の強さを誇った。
しかしキメラの誕生のメカニズムを知った他種族からの非難が相次ぎ、六王と神々の下でキメラの研究を禁止する法が施工された。
悪魔とてキメラの研究を忌避しているはずだった。
それゆえに目の前の存在がキメラであると確信しているにも関わらずアーロットはそれが信じられなかった。
だが信じる信じないは別として、目の前の生物がアーロットに明確な敵意を向けていることは確かだった。
「GAAAAAA!」
紅蓮に光る瞳に殺意の炎をともし怪物は巨大な腕を無造作に振り払った。
たったそれだけの事にもかかわらず恐ろしい膂力と体内を流れる高密度の魔力ゆえに凄まじい風圧が腕の薙ぎ払いを避けたアーロットを襲う。
足が地面を離れ宙に吹き飛ばされたアーロットは追撃が来る前に『飛翼』の魔法を使う。
「フォルスめ、お前の隠し玉はこれか。そうまでしてこの戦争に勝ちたいか。正真正銘の悪魔め」
筆舌に尽くしがたいほどの怒りがアーロットの胸中に渦巻く。
ここまできたらもうどうしようもない。キメラの贄とされた者を救うことはできない。せめてできるの怪物がその猛威を振るわないうちに速やかに命を刈り取ることだけ。
アーロットはそれが都合のいい大義名分であることを自覚しながら、聖剣を握る手に力を籠める。
重力と反対方向に力を発生させつつ、怪物のいる方向へと新たに魔力を力に変換する。アーロットの体は見えない糸にひかれるように黒き異形に吸い込まれる。
アーロットを捕えようと四本の腕が迫るが、アーロットはそれを踊るように回避して聖剣をキメラの胸に突き立てる。
キメラは素材とされた生物によって急所が異なる。胸を貫いたところでそこに心臓があるとも限らないし、そもそも心臓が致命傷とならない生物も存在する。
一旦距離を取ったアーロットは注意深く怪物の様子を観察する。
怪物は貫かれた胸から黒色の血をまき散らし呻いていた。
しかし傷は見る見るうちに塞がっていき、気づいた時には元通りとなっていた。
「自動再生か、厄介だな」
アーロットが再び突撃しようとする、キメラは巨体に見合わぬ俊敏さで身を翻すと空色の魔法陣を描いた。
「GAAAA!」
身の毛もよだつような恐ろしい声で吠えると魔法が発動した。キメラはその力と引き換えに著しく自我を失うが最低限の魔法を使うだけの知性は残されていた。そうでなければ実践になどとても投入できない。
巨体が重力に逆らって宙に浮くとそのまま猛烈な勢いで怪物は上昇していきついには天井を突き破り、上の階に侵入していった。
すぐさま後を追おうとアーロットが上昇しかけたところでその声は響いた。
「助けて!」
声はキメラの開けた大穴の奥から響いてきた。すぐにでもキメラを追いたいアーロットだったが無視するわけにもいかず急いで声のした方向に飛び込む。
大穴の奥は灯りがなく見通しが悪い。辛うじてアーロットは自分の周りに大小多数の檻が置かれていることに気づいた。中身は空だ。
「こっちよ!助けて!」
再び声が響く。声は部屋の奥から響いてくる。
「『光』」
灯りの代わりとなる魔法を発動し、声の主へとアーロットは迫る。
一つの檻の前で停止すると魔法で内部を照らす。
そこには一頭の白馬が閉じ込められていた。その毛並みはアーロットの魔法の光を受けて艶々と輝いており、とても幽閉されていたとは思えない。
「ここから出して、お願い。私は悪魔に誘拐されてここに連れてこられたの」
アーロットは一瞬フォルスの罠かと考えた。現状その考えを否定する術も肯定する術も彼は持たない。
結果アーロットはどちらの場合でも間違いが起こらないであろう案を取った。
「今外にキメラが逃げた。君もここにいたのなら知っているだろう。今はまだここにいた方が安全だ。後で必ず迎えにくるから待っていて欲しい」
アーロットの言葉を理解した白馬は頭を振った。そして翻訳の魔法で人語へと変換された言葉でアーロットに訴える。
「だから私はここから出たいの。あの子達を止めたいの。私はここで見てきたのあの子達がもがき、苦しむ姿を。その果てにあんな姿になってしまったのなら、せめてこれ以上の苦痛を与えずに終わらせてあげたいの。あなたがあの子達を止めると言うのならお願い、私にも協力させて。きっと役に立つから!」
その言葉を聞いたアーロットは手振りで白馬を檻の奥へと下がらせる。
手にした聖剣で柵を斬り、白馬を解放する。
アーロットはこの白馬を信じることにした。目の前の馬の言葉には本物の優しさが込められていると感じた。例えそれがキメラの命を終わらせることを願う言葉でも・・・。
「ありがとう」
白馬が頭を下げる。
「すぐにキメラを追う。悪いが背に乗せてもらえるか」
「もちろんよ」
白馬が答えると魔法で鞍や轡といった馬具が装着される。
「私の名前はイースロン、よろしくね」
「アーロットだ、よろしく頼む」
イースロンという名に聞き覚えのあったアーロットだが今は優先すべきことがある。
アーロットを背に乗せたイースロンが飛行の魔法を発動する。
キメラが通った後を追って一人と一頭は上昇する。
途中片腕を落としたラデスを発見する。
「見せてみろ」
魔性と魔法を併用してアーロットはラデスの腕を再生する。
「すまない」
「ラデス、お前はガラハッド達と合流しろ。そしてー」
「了解した」
ラデスに指示を出し、再び上昇を再開する。
地上に出ると土砂降りの雨がアーロット達を濡らした。
視界は悪かったがキメラはすぐに見つかった。幸にも基地からあまり離れてはいなかったようだ。
魔弾をキメラに放ち注意を引きつける。
「イースロン、回避は任せた」
「わかったわ」
キメラが四本の腕にそれぞれ火球を出現させる。魔法陣を使わなかったことからそれが魔性によるものだということは明らかだった。
先程の自動再生と合わせてこれでキメラは二つの魔性を持つこととなる。魔性を二つ持つ者はごく稀にだが存在する。マーリンはその一人だった。
キメラは組み合わされた存在の魔性を全て発揮することができる。キメラが恐れられる理由の一端がそこにあった。
四本の腕が同時に火球を投げ飛ばす。
イースロンはそれを華麗に避ける。一つたりとても被弾はしなかった。
イースロンに回避を任せたアーロットは魔法陣を描いていた。
魔法は効果が大きくなるほど、発動のための魔法陣の画数が大きくなる。とてもじゃないが戦闘の最中に描き上げることは不可能だ。
そのため、一般的には前衛が後衛への攻撃を防ぎながら後衛が大規模魔法を使うというのがセオリーだった。
しかし今は前衛と後衛に分けることができないの、アーロットは回避と攻撃に役割を分担した。車よりも馬の方が利用されるのはこの利点があるためと言っても過言ではない。
「今、解放してあげるからね。『白角』」
イースロンの頭に体と同色の、白く光る角が生える。その姿は馬というよりユニコーンだった。
投げつけられる火球を純白の角で切り裂きながら突進していく。
イースロンは角に魔力を込め、瞬間的に長さを拡張する。
華麗な動きでキメラに肉迫したイースロンは一メートル以上にも伸びた角を一閃する。
純白と純黒が衝突したのは一瞬だった。
キメラの腕の一本が切り落とされた。
「GAAAA!」
生物の声とは思えない、恐ろしい絶叫が辺りの空気を揺さぶる。
それも一瞬のことですぐさま新しい腕が生えてくる。
しかし攻撃は無駄ではない。
アーロットでもない限り再生にはそれなりの代償が付き纏う。考えられる最有力の候補は魔力だが、なんであれ無限に再生できるとは考えがたかった。攻撃を続ければいずれ限界が来る。
純白の光が煌めくたびにドス黒い血液が飛び散り、絶叫が天を揺らす。
心なしか再生速度が落ちてきている気がした。
キメラがその顎を目一杯に開いた。
竜の口から視界全体を覆うほどの炎が吐き出される。
しかしそれはイースロンの魔壁によって阻まれる。
キメラの攻撃はそれだけではなかった。炎で相手の視界を奪い、その隙にサソリのような凶悪な尾を突き出した。
それは易々とイースロンの魔壁を砕き、その体に鋭い尻尾をーおそらく毒を分泌するー突き立てようとする。
わずかな距離にまで迫った尻尾が直前で起動を変えた。キメラの意思によるものではない。下方から飛んできた魔法によって強制的にその軌道を変えられたのだ。
魔法を使ったのは地上にいるメリサ。そばにはガラハッド、ラデス、ログレスがいる。
彼らを見たアーロットは目でガラハッド達に合図する。彼らの準備ができているのを確認するとアーロットは描き上げた魔法を発動する。
「『焔』」
アーロットが好んで使う『魔弾』の魔法は魔法陣を使って発動する場合に必要となる画数は一画、ただの円を描くだけでいい。オルトスが使った世界を焼くほどの魔法、『炎焉龍火』の画数は三十二画。そして今アーロットが使った魔法『焔』の画数は四十九画、画数からしてこの魔法の威力がうかがえた。
世界を焼いて業火がキメラに迫る。直径一メートルほどの火球は鮮やかな赤色の輝きを発している。
空間を焼いて自身に迫る火球を躱そうとするキメラに猛火が牙を剥く。
直撃した火球は世界すら焼くその火力を遺憾無く発揮してキメラの体を焼いていく。それに抵抗するようにキメラは必死に再生を行使する。
再生と燃焼が拮抗する。それによって一時的にキメラの動きが止まった。アーロットはこの状況を作り出したかった。もとより彼にこの一撃でキメラを屠るつもりはなかった。否、『焔』を以ってしてもキメラに致命打を与えることができないと考えていた。
事前にラデスに指示した通り地上にいる四人が同時に同じ魔法を行使する。
「「『監獄結界』」」
詠唱と共にキメラを中心に鋼色の六角形の魔力の線が四重に現れる。
キメラを囲う魔力の牢獄が一際強く輝くと、それまで暴れていたキメラが嘘のように静止する。
『監獄結界』の魔法は予め指定した存在の座標を固定する。この場合メリサ達は魔法陣に魔法の標的をキメラとして記述し魔法を発動した。結果としてキメラは魔法発動時の座標に縛られることになり身動きが取れなくなった。
無論魔法を発動すれば相手がなんであれ動きを封じることができるわけではない。相手との実力差では魔法を破られることもあるし、そもそも魔法発動に戦闘中には無視できない溜めが発生する。魔法を相手にかけることすら至難である。故にアーロットは強力な魔法でキメラの隙を作ったのだった。そして四重の魔法でより強固な結界を作った。
そうまでしてアーロットがキメラの動きを止めたかった理由は無論キメラを倒すためである。
「王法【人の章】『継承』+『信仰』」
アーロットの右手に以前同じ魔法で作成した武具が現れる。
グングニル、黄金に輝く槍の真価が今まさに発揮されようとしていた。
槍を投げようとしたアーロットは確かにそれを聞いた。
終わらせて
魔力が空気の振動となってアーロットの鼓膜を揺らして届けたその言葉は化け物に堕ちた悲しき存在達の意思。
「安心してくれ、もう痛みは与えない。『死を運ぶ槍』」
イースロンの上で振りかぶった槍をアーロットは身動きの取れないキメラに投げつける。
北欧神話の主神オーディンは戦争や死を司る神とレーテルナでは知られている。そうした伝承の一部はアーロットが今投げたグングニルに起因する。
グングニルに貫かれた者はそれを投擲した者と魔力の力比べをしなければならない。これは単純に両者の保有魔力量を比較するというもので、投擲した者の魔力の方が大きいと貫かれた者は否応なく死を強制され、逆に貫かれた者の方が魔力量が大きいと槍を投げた者が死を強制される。
魔力の力比べに持ち込まれないためには魔壁でグングニルの勢いを止める、貫かれる前に槍を破壊するかの二択しかない。避ける、は必中の術式が刻まれているために取ることはできない。
オルトスとの戦いで使えなかったグングニルの本来の力をアーロットは制御できる魔力量が増えたことで使用可能となっていた。
黄金の槍が飛翔する。金色の流星となったそれはキメラの胸に突き刺さる。
キメラからは血の一滴も流れない。それどころか痛みすら与えていないだろう。
魔力の力比べが始まる。アーロットとキメラの体が青色に光る。
・・・力比べはアーロットの勝ちだった。無限の魔力の前には分かりきっていたことだった。
槍を中心にキメラから色が失われていく。槍の効果にしたがいキメラに死が訪れようとしていた。
再び声が響く。
ありがとう
「安らかに眠れ。そして叶うならお前達が転世して次は幸せな生を全うすることを願う。それまでにきっとこの戦争を終わらせるから・・・」
次回予告
戦いの果てに得たもの




