ログレスの森と裏切りの騎士
いつも読んでいただきありがとうございます。読んでくださる方がいることとても励みになっています。
このお話から地の文を三人称視点にしました。急な変更申し訳ありません。自分なりに読みやすさを考えた結果です。
今後ともより面白い作品になるよう努力して参りますので応援お願いします。
予想外の災害種との戦闘も無事に終了し、旅を再開しようとしたアーロット達だったが・・・。
「これはどうするべきだろうか・・・」
彼らの目の前には武具や装飾品の類が山となって積まれている。キャスパリーグを倒したことで収納の魔法で管理していた品物が全て吐き出された結果だ。中には明らかに食らった人間の遺品らしき物もある。
「一応このような場合、収納庫内の物の所有権は倒した人間に移動するのが国際的な決まりですが、明らかな遺品は埋葬するのが暗黙の了解です。持ち主不明の遺品を埋葬する場所も用意されています」
「そうか、なら一旦収納してロンバールにて埋葬するとしよう」
遺品の収納を終え移動を再開し、アーロット達は既にログレスの森に入っている。
周りは十メートルを超える広葉樹が鬱蒼と生い茂っている。雲ひとつない晴天の空から降り注ぐ陽光が枝葉の隙間を縫って地面を照らし出している。どこからか聞こえる川の音、視界いっぱいに広がる緑色、その全てがアーロットの疲れた心を癒してくれる。
「どうした?」
隣を走るラデスに声をかけられてアーロットは自分がいつのまにか泣いていたことに気づいた。
「いや、あまりに美しい景色だったのでな。心配ない、大丈夫だ」
「そうか、それならいいのだが」
「この先にはさらに美しい景色が待ち構えていますよ」
ガラハッドの言葉にアーロットの顔に微笑みが浮かぶ。
「それは楽しみだ」
そのまま走り続けると程なくして大樹が林立する森の中でも一際大きな大木が目に映る。
「これは・・・」
「この森で一番古くからある樹木です」
神秘的な光景だった。目の前の大樹はそれ自体が淡く発光しており、なによりもこの木からは過ごしてきた年月の重みが感じられた。
「これは植物種の根なのかもしれないな」
「まさしくその通りです」
植物の王に守護される植物種は仮初の体枝と本体となる根がある。根のままでは動けないので自由に動ける枝があるわけだ。枝の姿はさまざまで人間型のものもあれば形容に難しい異形の姿も存在する。共通するのは枝を持つ植物は魔力を有しているということだ。獣種同様植物種は例外的に魔力を持たずに生まれてくることがある。魔力を持って生まれてくる獣や植物はキャスパリーグのように他種族の言語を介すなどして優れた知性を示す場合もある。
「それにしてもすごい魔力だな」
枝が消滅しても根が残っていれば生きることに支障はない植物種。動けない本体を守るため枝があるのだが、枝がなくても根を傷つけることは難しい。それほど内包する魔力が多いということで、この木が発光しているのも余剰魔力が溢れていることが原因だ。魔力量で言えば植物種は全種族中最大値を記録している。
「旅のお方、どうか少しお時間くださいな」
目の前の木に見入っていると突然声をかけられる。
アーロット達の目に前に魔力が集まりやがて人型となる。そこには緑色の薄布を纏った見目麗しい女性が立っていた。
「俺の名前はアーロット、キャメロットの国王で現在の人王でもある。ここで出会ったのも何かの縁、話を聞きましょう」
「ありがとうございます。本来名前のない私ですが、今は人間たちがつけてくれた名、ログレスを名乗っておりますの。人王様に出会えてとても幸運ですわ。どうぞお掛けになってください」
すると地面からテーブルと椅子の形をした木が生えてくる。背もたれと座面には葉が生い茂りクッションの役割を果たしている。
これは魔性でも魔法でもなく、魔力持ちの植物は魔力のない植物を使役することができるという植物種の特性だ。
「植物の王に守られるべきわたくしがこのようなことを申すのは筋違いではありますがどうか願いを聞いてください」
勧められて着席するとログレスはそう前置きして話し始めた。
「問題ない。ここはまだキャメロットの領土、ならば君も俺が守るべき民の一人であることに変わりはない」
「ありがとうございます。お願いというのはこのナイフを持ってアノールに向かって欲しいのです」
「アノールに?どういうことだ」
「このナイフには私の枝を呼ぶ魔法陣が刻まれておりますの。ご存知の通り枝は同時に二人以上顕現できません。戦時下の今迂闊に根から離れることもできませんし・・・。これを持ってアノール向かっていただければアノールにわたくしも行くことができるのです。そして私はアノールで会わなければいけない者が・・・。この願い、聞いていただけるのならこの森にある誰も入れない妖精の泉への入り方をお教えいたしましょう」
アノールはキャメロット、ロンバールと同様ここ西の大陸にある国の一つ。大陸の西側にあるキャメロットの東側に位置する国である。
元々アーロット達はしばらくは各国を巡る予定だった。そのついでに済ませるには容易な申し出なため、彼はこの願いを聞くことにした。
「いいだろう。元々しばらくは西の大陸を見て回るつもりだった、その願い聞き届けよう。ただしもう一つ条件がある。君ほどの魔力を持った植物の力是非とも借りたい。無理強いはしないがどうか俺の戦いに協力してくれないだろうか」
ログレスの魔力は平均から並外れて高い。魔力量は戦闘力とは等号で結ばれない。しかし学力や筋肉同様努力次第でいくらでも増やせる魔力量がログレスの強さを物語っていた。
「構いませんわ。私の願いを叶えてくださるのなら、どうかこの力あなたが歩む王道を切り開く一助としてください。ナイフを通して私とはいつでも会話ができます。御用の際はいつでもお呼びください」
「ありがとう、助かる。必ず君をアノールに連れていくと約束しよう」
それを聞いてログレスは満足げに頷いた。
「では約束通り妖精の泉への入り方をお教えしましょう。ルシア」
「何?」
ログレスが誰かの名前を呼ぶとそれに応える声がどこからか響く。周囲には霧が現れ視界が狭まる。
「あなたに会いたいの」
「合言葉を言いなさい。本」
「書棚」
「泉と言えば」
「家」
「正解よ」
正解したことで霧が晴れていく。既にそこはログレスの森ではなかった。
視界いっぱいどこまでも広がる水面はもはや泉というより海だった。
現在は水面の上に立っている状態で不思議なことに魔法を使っていないのに沈むことはない。
「このように森の中でルシアの名前を呼んで合言葉に答えたらここに来れます。ルシアは魔法具の作成に優れた妖精なのですよ。有名なアーサー王の鞘を作ったのも彼女です。きっと王様の力になってくれるはずです」
「そういえば、先代の鞘の話は俺の世界にもあったが、今はどこにあるのだ?」
「それならば父上とともに先王の姉モルガンが持ち去ってしまいました」
「お前の父か・・・」
ガラハッドの父、ランスロットは円卓唯一の生き残りと言われていた男だ。実際はその息子も生きていたので唯一というのは誤りだったわけだが。
ランスロットは先王に仕える身でありながらアーサー王を裏切り悪魔に種族変化した。
王法には他種族を自種族に変化させる魔法が存在する。無論アーロットも妖精や亜人などを人間にすることができる。
そして悪魔になったランスロットは主人であったはずのアーサー王を殺した。
「モルガンも悪魔になっていたとはな・・・」
「ログレス」
面倒臭さを隠しもしない声が響く。現れたのはアーロットに『エレクナ』を思い出させる幼女だった。背に蝶のような羽が生えている。眼鏡を通してこちらを見つめる瞳は少女が不機嫌であることを伝えてくる。
「久しぶりですねルシア、今日はあなたにお客様を連れてきましたの」
「はあ、なんで今日に限って来客が多いのやら」
湖の底から現れた少女に遅れて先客と思われる男が現れた。その姿を見た途端アーロットの背後にいたガラハッドの様子が変わった。
「父上・・・」
神世界にいた時資料で何度かその姿を見たためアーロットにもその顔は見覚えがあった。
「久しいなガラハッド、我が息子よ」
「なぜお前がここにいる!?」
「古い友人に会いにきただけのこと。お前たちと戦いにきたわけではない。・・・あとは、即位した新しい人王を見に来たといったところか・・・」
アーロットに目を向けるランスロットの視線を受けて彼は気づいた。今この場で戦えばアーロット達は間違いなく全滅すると。
それを避けるために何かを喋ろうとするもアーロットの口は動かなかった。緊張で、ではなく別の理由で。
「久しぶりですねランスロット、三千年ぶりでしょうか」
(口が勝手に動いてる。・・・これは俺の魂に混ざったアーサー王の魂の言葉?)
(少しあなたの体を借りることをお許しください)
頭の中にアーロット自身以外の声が響く。それは間違いなくアーサー王の声だった。
(わかった。ここはあなたに任せる)
(感謝します)
「もしやアーサー本人か?」
「そうです。一時的ではありますがアーロットの体を借りています」
「今更なんの用だ?」
「あなたが契約を忘れていないか確認に来ました」
(契約?)
「お前との契約を忘れたことなど一度もない。用が済んだのなら失せるが良い。それとも・・・」
視認できない速度でランスロットが迫る。速すぎるあまり残像が見えたほど、それがランスロットの魔性の効果でもあった。首筋には彼の剣が押し当てられる。
「もう一度私に殺されるか?」
「やめなさい、ここでの喧嘩は許さないわよ。
ルシアの静止とともにランスロットの体がアーサーから離れる。今度はガラハッドの魔性による移動だ。
「俺はこれにて失礼する。次に会う時はお前たちを殺す」
捨て台詞とともにランスロットの姿が消える。
「以前よりはるかに強くなりましたね・・・」
アーサーがホッとしたように囁いた。
「アーサー様・・・」
アーサーが振り返るとガラハッドが跪いている。
「あなたも、久しぶりですねガラハッド。よくぞ今まで王の帰還を待ち続けました」
「もったいなきお言葉」
「私の魂は砕かれました。それゆえにいつでもこうしてあなたと言葉を交わせるわけではありません。それにこの体はアーロットのもの。良いですかガラハッド、これからはアーロットを私だと思い忠誠を誓いなさい」
「仰せの通りに」
「では私は眠ります。あなたたちの戦い、しかと魂に焼き付けさせてもらいますよ」
「「「はっ!」」」
(ありがとうございました。体、返しますね。急にすいませんでした)
(気にしなくていい、この体はアーサーのものでもあるのだから)
(次はいつ目覚めるかわかりません。この世界を、人類を頼みます)
(任された)
「ただいま、と言っていいのかわからんな。それにしても予想外の人物に会ったものだ」
「何事もなくて良かったです」
「今の俺たちでは奴一人に全滅させられていただろうからな」
ラデスでさえランスロットは遥か格上の存在として認識していた。
「あんた達は何しに来たのよ。さっさと用を済ませて帰って欲しいのだけど」
自分たちを邪険に扱うルシアにどう答えるかアーロットは迷う。そもそもここには本来立ち寄る予定はなかったのだから当然である。魔法具作成のスペシャリストということだがいきなり来て魔法具をよこせというのも失礼な話である。
困ったアーロットにログレスが助け舟を出す。
「偶然今の人王様に会ったものだからあなたにも紹介しに来たのよ」
「余計なことを・・・。良いわ、付いてきなさい。お茶くらい出してあげる」
ルシアがそう言うと一同の体が水の下に沈む。
不思議なことに水中でも呼吸に支障はなく、水が肌を濡らす感触もない。
しばらく沈むと水底に大きな建物が見えてきた。
落下が終了し、地に足をつけると目の前には扉があり、ルシアはそれを開けて中に入っていく。アーロット達が後に続いて中に入るとまたしても不思議なことに室内には水が入ってこない。
「ログレス、いつもの所で待ってて、お茶を持ってくから」
「わかったわ・・・こちらです」
ログレスの案内で訪れた部屋は立派な書庫だった。外から見た大きさと比較するとおそらくこの建物まるまる一つがこの書庫となっているのだろう。
足りない分の椅子を魔性で作り出し着席してルシアを待つ。
お茶を淹れてきたルシアが座るとお茶会が始まる。
「ルシアよ。見ての通り本を読むのが生き甲斐の妖精。早く本の続きが読みたいからできれば早く帰って欲しいものね」
歯に絹着せぬ自己紹介を皮切りに一通りの自己紹介を済ませる。
「読書の邪魔をして申し訳ないが、できれば妖精について教えてはもらえないか?」
神世界で一通りの勉強を済ませたアーロットだが勿論カバーしきれていない部分がある。妖精はその最たる例だ。
彼らは九種族ー王種を含むーの中でもっともその個体数が少なく、その生態については悪魔より情報が少ないほどだ。分かっていることはせいぜいが性別がないことくらいだろうか。故にアーロットのこの質問はお茶会の世間話以上の価値を持つ。
「なんで私が・・・」
「まあまあ、良いではないですか。せっかくのお茶会、喋ることが無ければつまらないですわ」
ログレスの説得もありルシアは渋々妖精についての説明を始める。
どうやらルシアはログレスの言うことは無碍にできないらしいとアーロットは考える。
「妖精はね言わば自然の申し子なのよ。あんた達他種族が無意識に放出する魔力が川や大地なんかに浸透して、長い時間をかけて私たちが生まれるの。だからなのかしら、妖精にだけ魔法の得手不得手があるのは」
ルシアの言う通り妖精にはそれぞれ魔法の得意属性というものがある。例えば火の妖精なら同じ火魔法でも他種族が使うよりも威力が大きくなる。代わりに水の魔法の効果が落ちるという苦手も現れる。
「あとはこんな風に自分の生まれた場所を再現して家を建てることができるくらいかしら。契約してない妖精は住処から出られないのが不便なのよね。私は気にしないけど」
妖精種は生まれたままの状態では棲家の外に干渉する術を持たない。大半の妖精は引きこもりの気質があるのでルシアのように気にしないが、外界に出ようとするなら人間と契約を結ばねばならない。契約内容は様々だが、それによって妖精達は棲家の外の世界に触れることができるようになる。この契約を結べるのは全九種族中人間とそれを守護する人王だけである。
そこまで話すともうこれ以上話すことはないとばかりにルシアは退室を勧める。
「妖精についてはざっとこんなものよ。ほらさっさと帰りなさい」
「まだです、まだ私はなぜあなたが父と会っていたのかを聞いていない。教えていただきたい。なぜ父はここにきていたのですか?」
それまで沈黙を守っていたガラハッドがルシアの話に一区切りがついたタイミングで今最も重要な質問をした。
実の父親であり、人類の裏切り者、そんな男が何をしに来たのか気にならないはずは無かった。
「悪いけどそれは答えられないわ。ランスロットだけじゃない、アーサーとの約束でもあるのだから」
「約束とはアーサー様が仰っていた契約のことですか?」
「そうよ、そしてその内容をあなた達に教えることはできない。ここで殺されたとしてもそれを伝えることはないでしょうね」
その言葉が強がりでないことはガラハッドにも理解できた。しかしそれで納得できるほど彼も冷静では無かった。どうするべきかと悩んでいたところに自らの主人が冷静になるようにと声をかける。
「落ち着けガラハッド。時がきて俺にアーサーの記憶が蘇ればわかることだ。俺も気にはなるが、ここでどうこうした所で聞き出せそうに無いのはお前も気づいているだろう」
「わかりました」
渋々といった体で引き下がるガラハッド。
「しかしこの問いには答えてもらおう」
家臣がいくらか落ち着きを取り戻したことを確認してからアーロットはルシアに向き直る。
「君は俺たちの敵か?それとも味方か?」
「味方よ。私だってこんな戦争早く終わって欲しい。だけど悪魔側の勝利で終わったらきっと他の七種族に未来はない。だから私はあんた達側につくわ」
「そうか、その言葉が聞けてひとまず安心した」
どこまでが本心かはわからない。ランスロットと接触した以上ルシアが悪魔側ということは十分に考えられる。しかし今の状況で彼女の真意について正確に読み取ることはできない。この場はその言葉がが本心であるとして納得することにしたアーロットだった。
「なら友好の印にお得意の魔法具の一つでも贈って差し上げたら?」
そう提案したのはログレスだった。にこやかな彼女とは対照的に提案されたルシアは心底嫌そうな顔をしていた。
「いやよ、そんな義理ないわ」
「いいじゃない沢山あるんだし。味方だって言うならそれぐらいの協力してくれてもいいんじゃない?それにアーサーさんには鞘あげてたじゃない」
正直無茶な言い分だと思ったがアーロット達はことの成り行きを見守ることにした。
ログレスの説得でルシアはようやくその重い腰を上げた。
「面倒くさいけどこれ以上ログレスの相手をするよりマシね」
ルシアがそう言うとログレスはこっそりアーロットにウウィンクをした。アーロットも頷きで感謝の意を示す。
「ただし、魔法具を作るのはアーロットだけよ」
「よろしく頼む」
「それで、あんたはどういう戦い方をするの?」
アーロットは詳しく自身の魔性やそれに関するデメリットを話した。
話終わると先程までのやる気のなさはどこへやら、そこにはすっかり目を輝かせたルシアがいた。
「気が変わったわ、私があんたを最強にしてあげる」
最強、記憶を失う前のアーロットならその言葉の持つ響きに心躍らせていたかもしれないが、自己というものを失った今となってはさして感情を揺さぶるほどの言葉ではなくなっていた。
やる気を出してからのルシアは見違えるように忙しく動き回った。本棚を右往左往してあれこれと本を引っ張り出してはああでもない、こうでもないと唸り声をあげていた。
水中に沈む図書館は時間の流れを感じにくい。腕にはめた時計をアーロットが見た時にはすでにここに来てから六時間以上が経過していた。
何事もなければキャメロットからロンバールまでは一週間で着く。ラデスは安倍晴明とは三週間後に会う約束をしたので時間は十分にある。しかし本来魔法具の作成には数ヶ月の時間を要する。道具に魔法陣を刻むだけと言ってしまえば簡単に聞こえるが高度な技術を必要とする魔法具作成には相応の時間と技術が必要となる。
一度晴明に会ってから出直すべきかと話し合ったアーロット達だがルシアがその必要性を否定したので大人しく待つことにした。
作業開始から2日でルシアは目的のものを完成させた。その仕事の早さはアーロット達を大いに驚かせた。しかしログレス以外はまだ知らなかった、ルシアという少女が如何に魔法というものの真理に迫っているかを。
「できた・・・」
疲れてはいるが、達成感に満ちたルシアの声を聞きログレスがねぎらいの言葉をかける。
「お疲れ様。満足のいくものはできた?」
「最高の仕上がりよ。アーロット、こっちに来なさい」
呼ばれたアーロットがルシアの元へと歩いていく。
「上半身の服だけ全部脱ぎなさい」
女性もいるこの場で半裸になることに一瞬ためらいを感じたアーロットだったが急かすルシアに有無を言わせずひっぺがされた。
「ちょっと痛むわよ」
そう言ってルシアがアーロットの胸に手を置くと途端に激痛が全身を襲った。
「痛!」
咄嗟にルシアから離れようとするがログレスががっちりとアーロットの体をホールドして身動きを取れなくする。
「ちょっとの間ですから我慢していてくださいな」
激痛に悶えるアーロットにその言葉は届いていなかったが、ログレスに取り押さえられたアーロットはそれ以降抵抗はしなかった。
やがてルシアが手を離し、激痛が治まった頃にはアーロットは満身創痍の状態だった。
「これで魔法陣の刻印は終わったわ。お疲れ様、私」
自分自身を労るルシアは己の仕事ぶりを他人に披露したくてたまらないとばかりに嬉々としてアーロットへの行いを説明しだした。
「アーロットの体にはたった今私が作り出した魔法陣を刻んだわ」
その発言に最も驚きを示したのはメリサだった。表情が全く変わらないことに定評のある彼女もこの発言には驚愕のあまり目を見開いた。
それもそのはず新しい魔法の発明には魔法具を作り出す以上の時間を要求される。年単位での作業が必要となる。一流の魔法使いマーリンの弟子である彼女がそのことを知らないはずがなかった。
「そ、その効果は?」
普段はスラスラと抑揚のない声で喋る彼女が珍しく狼狽する様に側から見ていたガラハッドは密かにほくそ笑んでいた。
「魔力に対する耐性の向上。こいつの体は自分が作り出す大きすぎる魔力に耐えるだけの器になっていない。だから魔法によって無理矢理抵抗値を上げて、丈夫な体にしたってわけ。本来なら体内魔力を無駄にしないように魔法発動を任意に行えるようにするべきなんだけど、こいつの場合魔力は有り余ってるわけだから常に自動で発動するようにもしてあるわ。これで今まで以上のパフォーマンスを発揮できるわ」
たしかに魔力に対する抵抗のない体に過剰な魔力を注げば耐えられない体は自壊する。無限の魔力ともなれば尚更その危険性は高い。逆に言えばそれに耐えるだけの体を手に入れれば無尽蔵の魔力の恩恵を最大限享受することができるだろう。
その結果を明確にイメージできる者はこの場に一人もいなかったが、それはまさに最強と呼ぶに相応しい力となることは誰一人として理解できない者はいなかった。
「体への悪影響はないんですか?」
それだけの変化何かしら負荷がかかることは容易に想像できる。メリサが問わなければ同じ質問をガラハッドやラデスもしていたことだろう。
「その結果がこれ」
ルシアはメリサの質問を受けて足元に転がるアーロットを指さす。つまりはあの激痛が代償ということだろうと理解したメリサ達であった。
激痛で気絶したアーロットが目覚めたのはそれから数時間後のことだった。
あり得ないほどのスピードで新しい魔法を作ったとはいえそろそろ出発するべきというガラハッドの言葉に異を唱える者はいなかった。
そしてルシアとログレスに礼を言い、一行はロンバールへの旅路を再開した。
次話投稿は土曜の19:00になると思います。
次回予告「トロワ基地」
悪魔の基地にて隠密作戦開始。




