ゲームオーバー
「何を知りたいんですか?」
机の上で肘をついて、手を組み、その手の上に頭を乗せながら夏樹は聞く。
「私、どうしたらいいんですか?」
「花宮さん、あなたの方が年上ですので、僕に敬語は止めてください。」
苦笑いをしながら、神藤は続ける。
「その質問は早すぎですね。それは最後に僕があなたに、聞きたい質問なので、少し僕の話しを聞いてくれませんか?」
花宮は頷く。
「じゃあまず、我々、超能力者が何故超能力を得たのか、話をしましょうか」
夏樹は、そう言って椅子から立ち上がり、歩き始めた。
「何故、我々超能力者が超能力を手に入れることができたのか?」
夏樹は、くるくると机の周りを歩いている。
「それは解りません。ですが、超能力者には先天的に超能力を持っていた人もいれば」
夏樹は立ち止まり、花宮に向かい人差し指を向ける。
「あなたの様に後天的に超能力を手にいれた人もいます。何故?」
花宮はいきなり質問され戸惑っている。
そんな花宮を見て、夏樹は続ける。
「これは、僕の予想なんですが、人間誰しも超能力を手に入れる可能性を持っているんです」
夏樹は、指で自分の頭を軽く叩く。
「超能力を使う時に、僕らは脳を使っています。脳には、使ってない部分がいろいろあります。その部分を使ってるのが僕たち、超能力者だと思うんです。お分かり頂けましたか?」
夏樹は、花宮が頷くのを確認すると、笑顔になった。
「よかった。じゃあ次は、とても重要な事を話します」
笑顔が消え、夏樹の顔が険しくなる。
「僕達、超能力者は国に狙われています」
「なんで?」
「僕たちが、超能力を持っているからです」
花宮は、怒りで顔を歪める。
「そんなこと、しょうがないじゃない!?」
「ですが、あなたは、自分が超能力を手に入れた時、自分が怖くありませんでしたか?」
「……怖かった」
花宮は、手に入れたばかりの事を思いだしながら答える。
「でしょう?今は、僕も黒瀬さんも超能力者だから、自分が異質の存在という感覚が薄れてます。けど、普通の人間から見れば、僕達は恐れるべき対象でしかないんです。そして、駆逐されるべき対象なんです」
夏樹は、悲しげに頭を垂れる。
「そして、国は超能力者を殺すため組織を造り、黒いスーツを着た、超能力者を殺すための超能力者の特殊部隊、黒犬を造りました。それに対抗するため、僕は超能力を保護する団体、HOMEを設立して、殺される前に、超能力者を保護しているんです」
夏樹は、息を吸った。
「まだ、あなたはバレてないかもしれません。これから家に帰って、誰にも知られないように暮らしていくか、危険かもしれないですが、僕達の団体に入って、僕達と共に仲間を助けるか、花宮さん、あなたはこれからどうしますか?」
(死ぬのは嫌。でも、団体に入らなかったら、仲間を裏切るような気がする)
花宮は、黙っている。
そんな花宮を見て、さっきから黙っていた黒瀬が、口を開いた。
「神様、今答えを出させなくても宜しいのでは? もうすぐ日が落ちますし、今日は家に帰ってもらって、ここに来たくなった時に、また来てもらえばいいのじゃないでしょうか?」
夏樹は、黒瀬の言葉を聞いて頷き、
「そうですね。もう帰ったほうがいいですね。じゃあ困った時にまた来てください。黒瀬さん、花宮さんを家まで送ってくれますか?」
夏樹は、そう言い終わると、椅子に座り、いつの間にかゲーム機を取り出し、遊んでいる。
「行きましょうか」
黒瀬は花宮の手を引き、部屋から出て言った。
ゲームの画面では、街の中で、一人の子供が鬼から逃げていた。
ゴールと書かれた、真っ赤なエリアに入ろうとした時、横からもう一匹鬼が飛び出してきた。
チャラチャラチャラ〜♪ゲ〜ムオ〜バ〜♪とゲームから、ゲームオーバーに相応しくない軽快な音楽が流れた。
「ゲームオーバーの音が、本当にムカツクゲームですね」
夏樹は、倒れた子供の上に乗っている、二体の鬼を見ながら呟いた。
「ここでいいです」
ビルの前で花宮は言った。
「何で? 家まで送るわよ」
黒瀬が不思議そうに尋ねる。
「そんな、いいですよ。道も覚えてますし、そこまでしてもらったら申し訳ないです」
と言って花宮は、両手を顔の前で振る。
「そう? じゃあこれ、私の電話番号、いつでも連絡して」
黒瀬は、メモ用紙に電話番号を書いて、花宮に渡した。
「ありがとうございます。じゃあ」
花宮が、お礼を言って立ち去ろうとした時、後ろから声がかかり振り替える。
「黒いスーツを着た二人組には気をつけて、すぐに逃げるのよ」
黒瀬の心配そうな顔を見て、花宮は笑顔で手を振る。
「私、陸上部のエースなんで、大丈夫ですよ。じゃあまた」
花宮は、家に帰って行った。
花宮が家の前に着き、インターホンを押そうとした時、右にある曲がり角から、二人の黒いスーツを着た男が現れた。
花宮は二人の男を見た時、二人の言葉を思い出した。
「黒いスーツを着た、超能力者を殺すための超能力者の特殊部隊、黒犬」「黒いスーツを着た二人組には気をつけて、すぐに逃げるのよ」
花宮は駆け出した。
それに気付いて、二人の男も花宮を追いかけ始めた。
(追ってきた! 本当に黒犬なんだ)
花宮は必死に足を動かす。
だが、二人の男はそれ以上に速く、花宮との差を縮めていく。
花宮は、直線ではすぐに追い付かれると思い、ジグザグに道を曲がりながら、この町の土地勘を持ってるお陰で、なんとか距離を保っていた。
花宮が、波止場にある倉庫のどれかに隠れようと、波止場に着き、まだ後ろにいる男を撒こうとして振り返った時、気付いてしまった。
男が一人しかいないことを。
その瞬間、倉庫と倉庫の間から、もう一人の男が飛び出し、花宮を捕まえ、地面に叩きつけた。
男は、花宮を素早くうつ伏せにし、その上に乗る。 男は花宮を後ろ手にすると、花宮の顔が自分の方を見れるように横にした。
もう一人の男は花宮の傍らに立った。
「助かったぜ〜わざわざ人が居ない所に逃げてくれて。どうやって人の居ない場所に連れて行こうと思ってたからな〜」
花宮の上に乗っている男は、下品な笑顔を花宮に向ける。
「だって、銃声が聞こえちまうからな〜、ハハハハハハ〜」
大声で笑う男を、花宮は睨む。
「そんな顔しても無駄だぜ、この距離で能力を使っても、俺たちには全然効かないからな〜」
また大声で笑う男に向かい、花宮の傍らに立っているもう一人の男が、口を開く。
「さっさと殺せ」
「はいは〜い、そもそも刀持って来たら、銃声なんて無いから、すぐに殺せたんだけどな〜」
上に乗っている男は、スーツの内ポケットから銃を取り出す。
「刀を持って行かなくてもいい、って言ったのはお前だろ?」
「まぁ、そうなんだけどな」
銃口を花宮のこめかみに突き付けながら言う。
「あ〜あ、高校生ぐらいだろ〜? 可哀想に、超能力なんて持たなかったら、死ぬことも無かったのにな〜? 今ごろ、明日から誰と遊ぼうかとか、彼氏とデートとか、いろいろいろいろいろいろ、やることあったのにな〜? まーさ、結局何が言いたいかってっと、ドンマイってことだ」
バンッ、暗闇に銃声が鳴り響いた。
チャラチャラチャラ〜♪ゲ〜ムオ〜バ〜♪と夏樹のゲーム機から、また軽快な音楽が流れた。
「またゲームオーバーですか」
「神様、そろそろ止めたらどうでしょう?」
「クリアするまで終われません!」
と夏樹がさっきから同じゲームをしてるのを見て黒瀬は、神様もやっぱり子供だなと思った。
「あの子、入ってくれるといいですね?」
「はい。僕も花宮さんには期待しています」
「何を根拠に?」
「何となくです」
「私も、何となく期待してます」
黒瀬と夏樹の楽しそうな、二人の笑い声が、小さなビルの一室に響いた。
その頃、東京の隣、埼玉県のある町で、一人の手錠をかけられた少年が走っていた。
「何で……何でこんな事になっちゃったんだよ!」