神様
今日は、いい天気だ。
花宮の心も今日の天気と同じように晴れわたっている。
花宮は、言葉使いから今日会うのは女性と思いながらも、いつも以上に鏡を見ながら、オシャレをしている。
ふと、花宮が時計を見てみたら、9時半を回っている。
花宮は、急いで家を出て行った。
花宮が待ち合わせ場所の喫茶店に急いでいる途中、数メートル先の電話ボックスから出てきた男とすれ違った。
花宮が後ろを振り返るとその男は、花宮が来た方向に歩いて行っている。
妙に強張った顔だったな〜と花宮は、思いながら待ち合わせ場所に急いだ。
その男は、これから倉庫に向かう佐藤だった。
花宮が、待ち合わせ場所に着いて、携帯で時間を見てみると10時10分と針は差している。
花宮は、申し訳ない気持ちになりながら、喫茶店に入り一番奥の席に向かった。
そこには、黒いスーツを華麗に着こなして黒い艶のある髪を、後ろでくくっている女性がいる。
花宮は、女性からキャリアウーマンという印象を受ける。
女性の綺麗な顔を花宮が見つめていると、女性がふと顔を上げた拍子に目が合う。
「こんにちは、黒です」
先にお辞儀をされたので、慌てて花宮もお辞儀しながら
「遅れてすいません。フラワーです」
申し訳なさから、花宮が頭を上げずにいると、女性が少し笑いながら言う。
「別に10分ぐらい気にしなくていいわよ。会社の社長に会いに来た訳でも無いのに。どうぞ座って」
花宮は、女性の向かい側に座るとウェイターが来た。
「何か飲む?」
「アイスコーヒーで」
「じゃあ、アイスコーヒー二つ」
二本の指をウェイターに向けて立てながら、女性は言う。
「何から話をする? その前に自己紹介がまだだったわね、私の名前は黒瀬希美よろしく」
ウェイターが向こうに行ったのを確認して、黒瀬はそう言って手を差し出した。
「花宮 唯です。よろしくお願いします」
花宮は、差し出された手を握った。
「で、何を聞きたいの? 私の知る範囲なら教えてあげられるわ」
そう言って柔らかな笑顔を向ける黒瀬に、花宮は尋ねた。
「これから私、どうすればいいんですか?」
「いきなり難しい質問ね」
黒瀬は、苦笑しながら答える。
「正直言うとね私、そんなに超能力の事に関して詳しくないの。私はね、超能力者を探してある人に会わせるのが仕事なの」
ウェイターがやってきた。
「アイスコーヒーです」
そう言ってアイスコーヒーを二つ置くと、また、戻って行った。
黒瀬は、息を吸って言った。
「その人に会って話しをしてくれないかしら? その人に会えば、あなたが知りたい事を教えてくれると思うわ」
花宮は、眉を少しひそめる。
「知る範囲で答えてくれるんじゃなかったんですか?」
花宮が、少し怒ったような口調で言う。
「ごめんなさい。私、あなたの緊張をほぐそうと思ったんだけど、ここまで切羽詰まっていると思ってなくて」
頭を下げる黒瀬を見て、花宮は勝手に怪しんだ自分を恥ずかしく思った。
「すいません。そんな怒ってるわけじゃないんで、顔を上げてください」
花宮が言うと、黒瀬は頭を上げた。
「本当に失礼な事して、ごめんなさい。でも、その人に会えば、あなたの知りたい事が解ると思うの、会ってくれないかしら?」
黒瀬さんが、ここまで信頼している人なんだ大丈夫だろう、そう思い花宮は、答える。
「わかりました、その人に会います」
「ほんと!? じゃあ早速行きましょうか」
黒瀬が立ち上がったので、花宮も立ち上がり黒瀬の後について行く。
「私が払うわ」
そう言って、黒瀬が会計を済ましている間、花宮は店の外花宮は店の外で待っていた。
黒瀬が店から出てくる。
「ありがとうございます」
花宮が、礼を言うと
「私の方が年上だから当たり前よ。それじゃあ行きましょうか、ついてきて」
黒瀬が歩き始め、その横に付いて、花宮が尋ねる。
「今から会う人って誰何ですか?」
「神様よ」
そう自信満々に答える黒瀬を見て、少し不安になりながらも花宮はついていった。
飛行機の中で、吉備と茜は相変わらず言い争っていた。
「何で皆、窓側の席なんだよ! 普通、横に席取るだろ! 縦って話しにくすぎだろ!」
「この窓側の縦、三席しか航空券買えなかったんです」
「嘘つけ! 俺の横、ガラッガラッじゃねえか!」
「吉備さんの横が、嫌だったのでは?」
「んな訳あるかー!」
後ろを見て吉備は叫ぶ。
「お客様、お静かにお願いします」
とキャビンアテンダントの女性に言われるが、吉備は止まらない。
「ほら、怒られてるぞ。静かにしろ茜」
「怒られてるのは吉備さんの方ですよ」
てめーと吉備がまた叫び出そうとした時、氷室が口を開いた。
「静かにしろ吉備、声がでかい」
「だって〜茜が縦三席とるから〜」
後ろから、吉備の不服そうな声が聞こえるが、氷室は気にしない。
「その程度の事で怒るなよ。それに今から俺たちのボスに会いに行くんだぜ、少しは気を引き締めろよ」
「てか俺、そのボスと会ったこと無いんですけど〜。どんな人何ですか〜」
吉備のその言葉を聞いて、茜は声をあげる。
「知らないんですか!?まさか、本部の場所も?」
吉備は、少しバカにした感じが含まれていたのを敏感に感じとる。
「本部の場所くらい知ってるつーの! 東京だろ、東京! てか、お前は知ってるのかよボスの事、知ってるなら言ってみろよ」
「私たちのボスは、神様と呼ばれている人で、いろんな超能力者を助けている方です」
誇らしげに答える茜の言葉を聞いて吉備は
「バッカじゃね〜、神様はないっしょ、神様は。ねぇ氷室さん」
と目に涙を浮かべながら、吉備が氷室に尋ねる。
「あぁ、神様と呼ばれている天才だ」
「……マジで? 神様?」
吉備は、考えるのを止め、窓から景色を見る。
「空は綺麗だな〜」
三人を乗せた飛行機は、東京に向かい飛んで行く。
花宮が黒瀬についていくと、ある小さなビルの前に着いた。
「ここです」
黒瀬は、そう言って中に入って行く。
花宮もそれを追い、中に入って行った。
二人はエレベーターに乗り、三階に上がって、エレベーターから降りて、一番奥の部屋に入った。
部屋は、窓が無く、壁に覆われているが、大量の蛍光灯が明るく部屋を照らしている。
部屋には、大きな机と大きな椅子があり、椅子は、花宮たちに背を向けている。
「神様、新たな超能力者を連れてきました」
そう言うとくるりと椅子が回り、花宮たちの前に神様と呼ばれる椅子の座り主が向いた。
椅子には、白いスウェットに、真っ黒なサラサラの髪の可愛い顔立ちをした中学生くらいの少年が、肘掛けに頬杖をついて座っている。
「こんにちは。僕は、神藤夏樹。神様と呼ばれています」
佐藤の恋人、神藤圭子によく似た笑顔を花宮に向ける、神藤圭子の弟、神藤夏樹が居た。