表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイコテロ  作者: 心楽
33/39

金髪は突風と共に

 ◇十七階◇

 夏樹、黒瀬、佐藤、花宮は、壁に背を預け、銃弾を回避している。

「くそっ! 数が多くて撒けない」

 荒い息を整えながら、佐藤は苦々しげに呟く。

 四人全員が、この状況を打破する考えを思い浮かべる。

 だが、一人を除いて、他の三人は方法が見つからない。

 その一人か、銃声がBGMとして流れている沈黙を破った。

「私がここで戦います」

「……黒瀬さん」

 目を見開く夏樹を含め、驚く三人の顔を見て黒瀬は気丈に微笑む。

「私が何とかしますから、その間に皆さんは行って下さい」

「でも、黒瀬さんも何か目的があって来たのでは?」

「私は皆さんが目的を達成出来るようになるのが、目的ですから」

「でも……」

 心配そうに花宮は黒瀬を見る。

 黒瀬は花宮の頬を撫でる。

「大丈夫、死なないから」

「行きましょう」

 夏樹は花宮の手を取り、駆け出す。

 それに佐藤も続く。

 三人の後ろ姿が見えなくなるのを確認すると、黒瀬は自分の頬を軽く叩き、自分に渇を入れる。

「やりますか」






 壁に隠れていた黒瀬はいきなり通路に飛び出し、黒犬達の前に姿を現した。

 黒犬達が黒瀬に銃口を向け、引き金を絞った瞬間、黒瀬は消え、それと同時に黒犬の一人の首筋に衝撃が走り、意識は刈り取られ、黒犬は地に伏せる。

 倒れた黒犬の傍には、さっき消えた黒瀬が立っている。

 いきなり現れた黒瀬に慌てながらも、周りの黒犬が黒瀬を狙い打つが、また黒瀬は消え、さっきと同じように現れては、黒犬の首筋に一人一人蹴りを加えていく。

 残り二人になった時、一人の後ろに黒瀬は現れ蹴りかかるが、もう一人の黒犬が黒瀬を殴り飛ばした。

「あーあ、な〜に調子こいちゃってんの?」

 口を拭い立ち上がる黒瀬に向かい、殴った拳をプラプラと降りながら男は話す。

「なに? なんなの? あたし強いぞアピール!? うざいうざいうざいうざいうざいね〜、瞬間移動とかチートか? 前戦った氷の奴くらいうざい」

 隙だらけのその男の背後に黒瀬は瞬間移動するが、男は後ろを見ないまま、黒瀬の顔に裏拳を叩き込む。 地面に倒れる直前に、黒瀬は瞬間移動し、男達から少し離れた場所に現れ、距離を置く。

「瞬間移動か、少し厄介だな」

 黒瀬が最初に蹴りかかった見るからに神経質そうな細身の男が、黒瀬を殴ったガタイの良い男の横に立つ。

「はっ、余裕だろ、こんな調子のり子ちゃんは」

 細身の男の言葉を鼻で笑い飛ばし、ガタイの良い男は銃を構える。

 銃口を向けられ、引き金を絞るその瞬間、黒瀬は瞬間移動し、銃弾をかわす。

 違う場所に現れた黒瀬に、ガタイの良い男はもう一度銃を撃とうとしたが、横から伸びた手が、引き金にかけた指をはがす。

「落ち着け、無闇に撃ったところで無駄撃ちだ」

 ガタイの良い男は不満そうな顔をしながらも、細身の男の言うことを聞き、銃を下ろす。

 ガタイの良い男が撃つ気が無くなったのを確認すると、細身の男は黒瀬に顔を向ける。

「君は見逃してやるから、上に上がらせろ、と言ったらどうなる」

「上がらせません」

 即答した黒瀬に、細身の男は微笑する。

「やはりな、決意は固いということか」

 ゆっくりと話しをしている二人を見て、指を忙しなく動かしながら、ガタイの良い男は歯ぎしりしている。

「なら、仕方ない。女を殺すのは主義じゃないが……」

 細身の男は横目でガタイの良い男を一瞥し、ため息をつく。

「相方が我慢の限界なんで、やらしてもらう。……行け」

「待ってたぜーー!」

 『行け』の『い』の部分でガタイの良い男は飛び出した。

 溜めに溜めたイライラを、破壊衝動に変えて。








 ◇四十四階◇

 馬島は長刀を横に構え駆けながら、長刀を持ってきたことを少し後悔していた。

 長刀は柱が多くあるこの部屋では、長いリーチがあだとなり、リーチを生かすどころか振りにくく、ユキに柱を使い上手く戦われ、苦戦している。

 これがもし、ナイフや普通の長さの刀なら、もうすでに決着を付けている自信が馬島にはあった。

 ユキに向かい、上から長刀を降り下ろす。

 それを読んでいたユキは馬島の懐に入り、その腹に拳を叩き込む。

 体勢を崩した馬島の足を払い、ユキは馬島を仰向けにし、日本刀で馬島の心臓を突き刺そうとする。

 が、馬島はギリギリのところで狙いを反らし、日本刀は心臓より少しずれた、馬島の左肩を貫く。

 ユキは外したことを理解すると、すぐさま馬島の肩から日本刀を抜き、心臓に日本刀を刺そうともう一度試みる。

 しかし、それは馬島の蹴りが腹に入ったことで中断され、ユキは部屋の端まで吹き飛んだ。

 馬島は苦悶の表情をしながらも、ゆっくりと立ち上がる。

 左肩から流れる血は留まることを知らず、馬島の体温を奪っていく。

 愛用の長刀も、両腕で持つことが出来ず、左腕はだらりとただぶら下がっている。

 しかし、馬島は自分がもうすぐ死ぬことを理解しながらも、霞む視界でユキを睨み、片手で重い長刀を構える。

 そんな馬島を見て、ユキは顔をしかめる。

「そんなにまでなって、まだ戦うのか?」

「僕は、昔から皆に恐れられていた。人の何倍も高い身体能力。僕自信の冷たさもあったのか、誰も僕に寄り付かなくなった」

 滔々と語る馬島の言葉をユキは黙って聞く。

「この世界に、僕の居場所なんてないと思った。だけど、伊藤様だけは僕に居場所を与えてくれた。僕は、ただあの方の横に居れれば、こんな世界どうなろうとかまわない」

「狂信者……と言ったところか」

 ユキは一歩一歩、馬島に近づいて行く。

「そんな危険な奴は、死ね」

 馬島の前まで行くと、馬島は残りの力を振り絞り長刀を振るうが、ユキは長刀を跳ね上げ、首筋に向け刀を薙ぐ。




 その瞬間、ユキの視界は大きく揺れた。

 フワリと体が浮き上がるのを感じると同時に、身体全身に走る痛みを感じ、ユキは自分が誰かに体当たりをされたと理解した。

 浮遊感は思ったほど早く終わりを告げ、部屋の壁に体が打ち付けられる。

 痛みの割に無傷だが、軽く脳震盪を起こして変身が解けつつある頭を動かして、ユキは自分に体当たりをしかけた人物を見た。

 それは平凡な出で立ちをした少年だった。




 竜介がこの階に着き、馬島の声が聞こえたこの部屋に入った。

 部屋に入った竜介の目に飛び込んだのは、ユキが変身した馬島が馬島の首を日本刀で薙ごうとしているところだった。

 水谷を殺した馬島、友達の縁を切り、一生会うことなく、一生恨み怨み続けるであろうはずだった馬島。

 自分を殺そうとした時の長刀を持っている馬島が切られようとしているその光景。

 それを見て、竜介はどうでも良くなった。

 怨みとか、友達でないと言われたとか、自分を殺そうとしたこととか、そんなことを考える前に、この部屋に入って馬島を見た瞬間から、足が動き、腕が動き、助走をつけ、気づけば偽物に体当たりしていた。

 余りにも大胆なことをした自分自信にビックリしながらも、竜介は馬島の傍に駆け寄る。

「大丈夫か拓真!?」

「……何であっちが偽物だって、分かった?」

「……長刀」

 それ以上何も言わず、竜介は馬島の傷口を、自分のTシャツをタオル代わりにして押さえる。

 必死で血を止めようとする竜介のこめかみに、強烈な痛みが走った。

 横に吹き飛ばされ、竜介は頭を壁に打ち付ける。

 竜介はねっとりとした液体が頭から流れるのを感じながらも立ち上がる。

 竜介を蹴った足を下ろし、馬島の横で日本刀を振り上げるユキに竜介は声をかける。

「待て……よ!」

 血を流しながらも立ち上がる竜介を見て、ユキは目を見開く。

「よく立てるな? 一般人が俺に蹴られて」

「拓真を……殺すな」

「そうか、じゃあ、お前から先に殺そう」

 竜介に近づこうとするユキのスーツの裾を、馬島が掴む。

「竜介は殺すな……よ。僕を……殺せ」

 その言葉を聞いて、ユキは困ったように頭を掻く。

「どっちを先に殺せばいいんだよ」

 その時、大きな音と共に非常階段に繋がるドアが開かれる。

 部屋に開け放たれたドアから突風が吹き込み、一人の少年が部屋に入って来た。

 その少年は馬島が殺したはずの少年、その少年は竜介の希望、その少年は金色の髪にカチューシャをつけ、光る八重歯を見せ、言った。

「その前に、俺がいるだろ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ