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サイコテロ  作者: 心楽
31/39

赤い悪魔

 桐田は五歳のころ親に街の路地裏に捨てられた。

 途方にくれ、人通りが少なく、明らかに表に立って歩ける人間じゃないと分かるような男が客引きしている路地裏で歩いていると。

 桐田は赤い悪魔と出会った。

 人通りが少ない路地裏よりももっと人通りが少ない、普通の人なら必ず避けて通る場所に空を見上げて悪魔は立っていた。

 体を血で真っ赤に濡らし、周りには焦げ臭い匂いを漂わす黒い人の形をしたものが転がっている。

 ふいに、悪魔は空から目を反らし桐田を見つけると、ゆっくりと近づいて来る。

 桐田はすぐに逃げようとしたが恐怖で足が動かず、ただ歯をガチガチと鳴らすことしか出来ない。

 悪魔は桐田の前まで来ると、幼稚園の先生が子供に話す時のようにしゃがみ、桐田の頭に手をのせ言う。

「坊主、迷子か?」

 優しい笑顔の悪魔を見て、桐田が感じたのは恐怖。

 そこら辺に転がっている死体は目の前にいる悪魔が作り出し、その悪魔が笑っている。

 言い様のない恐怖に駈られ、桐田は頭に置かれた手を振り払った。

 その瞬間、桐田の手が燃え上がった。

 驚いて桐田は手を見るが、手はもう燃えていなかった。

 目の前の悪魔がやったのか、と思い桐田は悪魔を見上げるが、悪魔は手を振り払われた格好のままで呟いた。

「お前もなのか?」

 桐田はその後、この悪魔、間柱が運営していた孤児院で暮らすことになった。

 その孤児院は能力を持った子供を預かる場所だった。

 そこで、桐田は他の超能力者の超能力を、コピーする超能力を持っていることが分かった。

 あの時、手から火が出たのは、間柱の能力を桐田がコピーした為に起こったことだった。

 そこで過ごした日々は、親に捨てられた桐田の傷を癒すぐらい、楽しい日々だ。

 しかし、楽しい日々はそう長く続かず、数年後小学生から帰ってくると、孤児院の子供が全員殺されていた。

 頭が真っ白になり、数十分ぐらい立つと間柱が帰って来た。

 勢いよくドアを開け、間柱は入ってき、外傷なく死んでいる子供達を見た。

 間柱の顔は真っ青になり、震える指で携帯を取り出す。

「どういうつもりだ」

「いや〜、間柱ちゃんがpeace7に入ってくれないから……おしおき?」

 桐田は携帯から漏れる軽薄そうな声を聞いた。

「今から、行く! 覚悟しろ!」

 間柱は携帯を閉じ、不安そうな桐田の顔を見つめる。

「安心しろ、この街を守る。俺は赤い悪魔だぞ」

 間柱は桐田を安心させるように微笑むと、急いで出ていき。

 帰ってくることはなかった。

 数日後、間柱は死体で発見され、桐田は色んな孤児院にたらい回しにされた。

 生きる意味を見失い、自殺しようとした時、一冊の本が桐田の元に届けられた。

 その本は間柱の日記帳のようなもので、そこには、どれだけこの街が好きか、どれだけこの街の人々が好きか、大好きなこの街を守る為に戦っていることが書かれていた。

 それを読んだ瞬間、桐田は生きる意味を見つけた。

 それは、間柱が好きだったこの街をこの街の人々を守ること、赤い悪魔の意志を引き継ぐこと、それは桐田に与えられた宿命にも感じられた。

 ◇空中◇

 別々の窓ガラスから、桐田と伊藤は爆発の衝撃で外に吹き飛ぶ。

 桐田は空中で体勢を立て直すと、ここに登って来た時と同じように、反対側に吹き飛んだ伊藤を追うため、ビルの壁を地面と平行に走り抜ける。

 反対側まで行き、下に落ちて行っている伊藤の姿を見つけると、桐田は垂直に落下した。

 まるで、桐田の足がビルの壁と引き合うかのように、垂直にそびえ立つ壁面を重力を無視した動きで駆ける。

 ただ、目の前で落ちていっている男を殺すために。

 風が桐田の横で唸り声を上げて通り過ぎる。

 その風と同調するように、桐田は吠えながら、近付く。

「うおおおぉぉ!」

 桐田は右手を燃え上がらせ、壁を強く蹴り伊藤に飛び掛かる。

 振りかぶった拳を、下にいる伊藤の顔に叩きこもうとするが、拳は空を切った。

 桐田は空中で反転し、ビルの壁に手をつき、勢いをころす。

 桐田の上で、伊藤は空中に立って桐田を見下ろしている。

「複数の能力が使えるのか?」

「お前もだろ!」

 桐田は壁を駆け上がりながら、炎玉を伊藤に放つ。 炎玉は辺りの酸素を喰いながら、大きくなっていく。

 しかし、伊藤の目の前で空間が歪み、見えない何かが飛ばされ瞬間、炎玉が真っ二つに裂けた。

 危険を即座に感じ取った桐田は、寸前のところで姿勢を低くし、肩口から真っ赤な血が吹き出す。

 桐田はすぐに血が吹き出す肩口に手を起き、傷口を焼いて止血する。

「見えない刃、カマイタチみたいなもんか?」

 桐田の言葉を無視し、伊藤の目の前でまた空間が歪み、見えない刃を飛んで来る。

 しかし、桐田は横に移動し無傷で避ける。

 見えない刃をかわした桐田を見て、初めて伊藤は少し驚いた表情をする。

「どうした、完全に避けられたのは初めてか?」

 伊藤を挑発するように、桐田は鼻で笑う。

「ああ」

「素直だ……な!」

 不意をついて飛ばしてきた見えない刃を跳んでかわし、右手をビルの壁面に擦り付けながら、桐田は一気に間合いを詰める。

 桐田が右手を擦り付けた壁面には亀裂が走り、そこから、鉄骨や鉄パイプ、パソコンの一部が飛び出して、右手は鉄骨等の金属類に覆われている。

 伊藤に近づくほど、金属に覆われ大きくなる右手は、桐田が伊藤を射程範囲に捉えた時には、人二人分の長さと太さになっていた。「くっ!」

 伊藤が慌て、見えない刃を作り出すが、桐田は見えない刃ごと伊藤を無骨で、巨大で、凶悪な、鋼の右腕で殴りつけた。










 ◇二十六階◇

「改めて、久しぶりだな凍吾」

 二人の男は向かい合う、身長も、体格も、その端正な顔までも一緒の二人の男が。

「そうだな」

「何年振りだ?」

「十年」

 淡々と二人の男は言葉を紡いでいく。

「十年か、切りがいい……答えは出たか?」

「ああ」

 氷室は双子の兄、氷室陽を睨む。

「俺達が超能力を持っていると分かったら、人間は罵倒し、蔑み、殴る。だが、それだけだ」

 氷室と陽を中心に、辺りの気温が一気に低下し、氷室と陽の体からは冷気が吹き出している。

 氷室は叫んだ。

「たった一握りの人間が、助けてくれる。何万人、何億人、俺を攻撃しても、一人でも、俺の味方が居れば俺はその人のために戦う!」

 陽は眉をしかめる。

「そうか、それがお前の答えか」

「ああ」

「それなら、俺とお前は残念だが敵だ」

 陽は残念そうに首を振る。

「よって、殺す」

 陽が右手を振ると、手から尖った氷の粒が飛び出した。

 氷の粒が氷室の右目に飛んで来るが、氷室は首を横にし、軽くかわす。

「こっちのセリフだ」

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