ジャンプ
◇ニ十階◇
爆発音が上から聞こえ、氷室と茜は上を見上げる。「何かあったんですかね?」
「誰かが巻き込まれたかもな、だが、それだけだ。成すべき目的のため皆動いている。人の心配をしている暇は無い」
氷室は見上げるのを止め、辺りを見渡す。
「しかし、さすがに黒犬居すぎだろ」
黒いスーツを着た数人の男達が横たわっており、その真ん中に氷室と茜は立っている。
「確かにそうですね」
茜は、ずれたニット帽を被り直す。
そんな茜を見て、氷室は口を開く。
「それ、吉備のか?」
「はい、吉備さんに貰ったものです。それが何か?」
「吉備が今のお前を見たら大喜びだな」
「へ?」
不思議そうな顔をする茜に背を向け、氷室は上に上がる階段に向かい歩く。
「それ、どういう意味ですか!? ちょっと、氷室さん!?」
背後から叫びながら付いてくる茜の声を無視して、氷室は歩く。
氷室は茜に気付かれないように笑う。
――まだ、幸せを感じれていたんだな。あの時から、何も感じなくと思ったんだが、吉備のお陰か
俯いて歩いていた氷室に、前から突然声がかけられる。
「よう、久しぶり」
昔、聞いたことがある声に、氷室は顔を上げる。
上に行く階段に包帯を顔に巻いた男の横に、壁に背を預けて立って上に指を向けている男が口を開く。
「上でやろう」
後ろから来た茜が、上に指を向けた男の顔を見て息を飲む。
自分の傍に立っている氷室と、余りにも似ている男の顔を見て。
男は上に上がって行き、氷室も包帯の男の横を通り抜け、上に上がって行く。 氷室の後を追おうと茜は階段に近づくが、立ち塞がるように包帯の男が立ち上がる。
「退いてください」
「……あいつらは決着をつけないといけないんだ。お前が行く理由がどこにある?」
包帯から覗く鋭い眼光を体に浴びながらも、茜は怯まず男を睨み、体からバチバチと電気がはしる。
「私は誰も殺させない。そう、決心したから」
茜が右手を振ると、電気が包帯の男の顔面に襲いかかる。
が、そんな茜の不意を突いた攻撃に包帯の男は素早く反応し、頭を横にしてかわす。
「理由になってない」
◇四十五階◇
大きな爆発音とともに、階全体が揺れる。
新居橋は情けない顔をより情けなくしながら、必死に柱にしがみつき、その横で馬島は揺れをものともせずに立っている。
「なっなんですかこれ!」
新居橋は震動が収まると同時に叫ぶ。
「伊藤さんが戦ってるかもしれませんね」
冷静に呟く馬島を見て、新居橋はまた叫ぶ。
「ほんとですか!? すぐに助けに行かないと!」
駆け出そうとする新居橋に、馬島はいきなり斬りかかった。
「うわっ!」
頬に刀が掠めながらも、不細工としか言いようがない、情けない避け方で新居橋は避ける。
新居橋は座り込み頬を押さえながら、馬島を見上げる。
「なななななっ何するんですか!?」
叫ぶ新居橋を無視し、馬島は刀を首に突きつける。
「あなたは誰です?」
「だっ誰って、新居橋ですよ」
震える声で新居橋は馬島に訴える。
「違う」
が、馬島は首を横に振り即答する。
「全然違う。新居橋さんは確かに、顔も声も体格も身長も身体能力も、今のあなたと一緒ですが、思考が違う。新居橋さんはもっと悩む、悩んで悩んで悩むんです。自分に自信が無いから、自分が異常な存在と認知しているから」
馬島は更に刀を新居橋と呼ばれる男の首に近づける。
「しかし、さっきのあなたは何ですか? 伊藤さんが襲われたかもしれない。だから、助けに行こう。違います。本当の新居橋さんなら悩みながら行きます」
馬島が男の首を貫こうと手に力を込めた瞬間、男に馬島は蹴り飛ばされる。
馬島はバク転をして受け身を取り刀を構える。
新居橋と思われる男は既に立ち上がっている。
「あ〜、まっさか見抜かれるとはな〜」
男は新居橋の情けない顔のままだが、その顔にはもう情けなさは感じられない。
「そんなに情けないのかよ、パクんの無理だろこれ」 男が顔に手を当てると、髪の毛は茶色く変わって行き、身長も伸びる。
体つきや髪が変わってしまった男が、顔から手を外すと、四十代くらいの新居橋の顔は、二十代くらいの顔に変わっていた。
「もう一度聞きます。あなたは誰です?」
「俺はpeace7のユキだ。俺からも質問あんだけどいい?」
「いいですよ。死ぬ前に一つだけ」
「俺さ、触った人間の顔や体格、身体能力とか、全部まね出来るんだけどさ、あっ、超能力は無理だけどね。それでさ、自分と戦ったことある?」
ユキが顔に手を当てて、変化を始める。
変化が終わると顔から手を外し、馬島の顔で馬島に笑いかける。
ユキは刀を腰から抜いて構える。
「感想は?」
「ドッペルゲンガーと会った気分です」
「なら、お前死ぬよ?」
「ドッペルゲンガーは僕の方かも知れませんよ?」
「そんな返し方したのお前だけだ」
ユキは刀を横に構え、駆け出した。
◇十五階◇
「何か聞こえなかったか?」
「いえ、僕は何も。竜介くんは?」
「いや、俺も」
「私も、希美さんは?」
「いえ、私も聞こえないかったです」
佐藤は微かな音を聞いたが、夏樹を始め、花宮と竜介、黒瀬も聞こえていなかった。
「聞こえたはずなんだが」「そうですかね?」
佐藤と花宮、神藤が話しながら、歩いて行く中、竜介はふと窓を見た。
するとそこに見覚えのある金色の頭が窓の外にあった。
「え!?」
竜介が瞬きすると、もうすでに金色の頭は消えている。
「神藤! このビルって非常階段とかあるのか?」
いきなり大声を出した竜介に驚きながらも、夏樹は振り返り答える。
「はい。ここから二階下の階に外に出るドアが合ってそこから……」
「ありがとう」
夏樹が言い終わらない内に、竜介は駆け出す。
そんな竜介の後ろ姿を見つめながら、花宮は呟く。
「大丈夫かな?」
「皆、何かしら目的があるんです。僕らが付いていくと邪魔なだけです」
「……でも」
花宮は訴えるように夏樹を見るが、夏樹は真剣な顔で言う。
「危険だと分かってて、皆来たんです。覚悟が無いなら帰ってます」
竜介は確かめずには居られなかった。
さっき窓の外に見た金色の頭が、幻や妄想、自分の希望から見えたものかもしれないと分かっていながら、確かめずには居られなかった。
下に降りる階段に向かい竜介は駆ける。
竜介は階段の近くで更に加速し、階段を飛び降りた。
小さな希望を抱いて。
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