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サイコテロ  作者: 心楽
27/39

中継

 夏樹の部屋で、homeにいる面々が揃っていた。

 全員が部屋に置かれたテレビを見ている。

 数分前、この部屋にあるテレビだけでなく、日本中全てのテレビが、電波ジャックされ、一人の男を映している。

 テレビの中の男は、何かを待つかのように黙り込み、俯いている。

 男はゆっくりと顔を上げる。

「こんにちは。日本中の皆さん。私は伊藤龍哉です」

 伊藤は微笑みながら、続ける。

「今から、興味深い映像を見て貰います」

 すると、テレビの場面は切り替わり、路上に立っている段ボールの箱を抱えたサラリーマンの男を、カメラは空中から映す。

 男は耳にイヤホンのようなものを差しており、青ざめた顔をしている。

「この男は私が誘拐した自分の愛する息子と妻を解放するため、私の条件を飲みここにいる」

 空中から男を映していたカメラは、移動し男の数メートル向こうにある国会議事堂を映すと、また男に戻す。

 耳にあるイヤホンに手を当て、男は頷くと国会議事堂に向かい歩き始める。

「私がこの男に解放するために出した条件は、段ボールに入っている爆弾を持ち、国会議事堂で自爆することだ」

 クククッと伊藤の笑う声がテレビから流れる。

「しかし、もう息子も妻も死んでいるのだがな」

 男は国会議事堂に近づいて行く。

 その時、不審な男だと思ったのか、二人の警備員が男に近づく。

「では、もう死んで貰おう」

 警備員が男の手を掴んだ瞬間、光がカメラを覆いつくし、爆音が鳴り響いた。

 さっきまで、男と警備員がいた地面は、大きくえぐれている。

 その周りには大量のどす黒い液体と、かき集めても一人分の体にもならない肉片が落ちている。

「嫌ーーーー!!!」

 花宮は頭を抱え叫び、竜介はその場と嘔吐し、佐藤は憤怒の形相で見つめる。

 テレビからはまた、あの声が聞こえる。

「どうでしたか? 昼下がりの午後にこういう映像は新鮮でしょう? 後、テレビの皆さん、もう終わったと思ってますか?」

 すると、爆発地点を映していたカメラは、自爆した男が歩いてきた方向を映す。

 そこには、十人ほどの人が、自爆した男と同じように段ボールを抱え、国会議事堂に向かい歩いている。

 その顔はあまりに青ざめていて、まるで死者の行列だった。

「この人達も大切な人が捕らわれ、大切な人を解放するため、こうしているのです」

 映像は切り替わり、伊藤を再び映した。

「これは、警告です」

 伊藤はカメラを見据え、爆発音をBGMにして話す。

「東京の皆さん、こんな風になりたくなかったら、一週間以内に東京から出ろ。もし、一週間後に東京にいるものが居たら、殺す」

 テレビは消えた。









「決戦は一週間後、皆さん覚悟はありますか?」

 夏樹が全員の顔を見渡す。

 答えるように全員が頷く。

「決戦の場所は恐らく、今東京で建設中の二百階建てのビル、通称『バベル』、といってもまだ百階までしか建設されていませんが。多分そこでしょう」

「確かに、東京で一番高いビルはそこだな」

 夏樹の言葉に、氷室は同意する。

「一週間後……か」









「嘘……だろ、おい」

 桐田は、伊藤が消えたテレビを見つめたまま呟く。

「東京で、何をするつもりだあいつ」

 桐田は拳を握りしめる。







 部屋の中、四人の男女が円になるように座っている。

「動きだしたな」

 陽が口火を切る。

「ああ、最っ高に! 楽しい日になりそうだ。なあ、軍ちゃん」

 久崎は楽しそうに笑う。

「三倉はもう、行ってるのか?」

 軍ちゃんと呼ばれた、顔中に包帯を巻き、そこから目と口だけを出した、体つきからして男、軍眞健夫ぐんまたけおは質問で返す。

「三倉……もう……あっちにいる」

 軍眞の隣にいる少女は答える。

「水野ちゃんは、来なくていいからね」

 久崎は優しい声で少女、水野美香みずのみかに言うが、少女は首を横に振る。

「美香は……結末……見たい……だけ」

「そっか、水野ちゃんが言うんならいいけど」

 久崎は寝転び、氷室を見上げる。

「氷室ちゃんの弟も、来るんじゃない?」

「……かもな」

「そしたら、当然神藤ちゃんも来るだろな〜。ヤバい! 一週間後、超楽しみになってきた俺! 何人死ぬかな!? 笑い止まんない! ギャハハハハハハハハハハハハハ」

 部屋の中、久崎の笑い声だけが鳴り響いた。









「どういうこと何ですか? あの男は」

 漁師は漁船で見たテレビのことを、隣で歩いている警察官に訊ねる。

「どういうことと言われましても、テロですよ。国を征服しようとする」

「そんなもん、自衛隊をガンガン出せばいいんじゃ。ねぇんですか!?」

 漁師が手を振りながら熱弁する。

「が、そうはいかないんですよ。首相が自衛隊に出動命令を出さないみたいで」

「何やってんだ。この国は」

 落胆する漁師の肩に、警官は手を置く。

「まっ、とにかく東京には近寄らない方がいいですよ。それで、引き上げた水死体はどこに」

「あの漁船の上です」

 漁師は数メートル先にある漁船を指差す。

 漁師と警官は漁船に乗り込み、漁師が水死体を置いた場所まで行くが、

「あれ? 何で? 何でねぇんだ!?」

 漁師は置いたはずの水死体が無くパニックになるが、警官は呆れた顔で言う。

「バカにしないで下さい。水死体なんて、何処にも無いじゃないですか」

 警官の持つライトから伸びる光は、漁船の上に引き上げた数匹の魚だけを照らした。

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