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サイコテロ  作者: 心楽
26/39

大悪人鳴動して、毒蜂一匹

 氷室は月明かりを背に浴びて、窓に寄りかかっている。

 窓から吹き込む夏の生暖かい風が、氷室の横顔を撫でる。

 氷室は表情が影で隠れて、良く見えないまま呟く。

「……兄貴」








 ある喫茶店で、二人の男がテーブルに向かい会って座っている。

 一人の男は、耳にピアスをし、髪の毛は銀色で、その日本人的な顔つきから、地毛でなく、染め上げられているのが良く分かる。

 ウェイトレスがそのテーブルに、注文されたであろう飲み物を持ってくる。

 銀髪の男はにこやかに微笑み、もう一人の男は無表情のまま、飲み物を受け止る。

 ごゆっくり、とウェイトレスは言い、去って行く。

 その後ろ姿を見ながら、銀髪の男が飲み物に刺さっているストローをくわえる。

 一口飲むと、銀髪の男は口を開いた。

「あの子……いいね。ボンッ! キュッ! ボンッ! とはいかなくてもさ、ポンッ! キュッ? ポンッ! ぐらいはあるな」

 銀髪の男はやらしい微笑を顔に浮かべる。

 そんな銀髪の男を見て、無表情な男は溜め息を付く。

「……ハァ。お前はそんなことを言うために、俺を呼び出したのか? こんな夜遅くに」

「ちげぇよ。何かさ、伊藤ちゃんがそろそろ動くらしいって、後藤ちゃんが言ってたから、報告」

「報告したところで、俺達の作戦に変わりはないだろ? 久崎」

 無表情な男の問いかけに、銀髪の男、久崎時雨くざきしぐれは笑う。

「ギャハハハハハハハ。いっつも、冷静だよな? 陽ちゃんは。もう少しさ、緊迫感というか、仲間がまた一人死んだんだからよ、ちょっとは緊張してくれよ。こっちが全然面白くない」

 全然面白くないと言いながら、久崎は笑い続ける。「死んだ仲間ってのは吉津のことか? 仲間が死んだところで何も変わらない。お前はたった一人になってもやるだろ?」

「ヒーッ、ヒーッ、……ああ、まあな、当たり前だのクラッカー」

 久崎は笑い過ぎて出た涙を手で拭う。

「……古い」

 一言、無表情な男、氷室陽ひむろようは発すると、弟の氷室凍吾と瓜二つの顔で微笑んだ。

「まあ、それはいいんだが、俺は一つ聞きたいことがあるんだが」

「何?」

 久崎は不思議そうな顔をする。

「神藤の姉、神藤圭子を殺す必要があったのか?」

 その言葉に、久崎はストローをくわえたまま、陽の顔をしたから見上げる。

「ん? もしかして、陽ちゃん、一般人殺したから罪悪感、感じた?」

 試すような久崎の言葉を、陽はすぐに否定する。

「いや、そうじゃない」

「じゃあ、何?」

「神藤がpeace7に入らないなら、神藤自身を殺せば、手っ取り早いだろ?」

 その迷いのない、冷たい目を見て、久崎は口の端を吊り上げる。

「いや〜。やっぱ、陽ちゃんは冷静ってか、冷たいね。まあ、そこが好きなんだけどさ」

 久崎は飲み物を飲む。

「ああ、そうそう。神藤ちゃんを舐めない方がいいよ。あの子、強いから。それに、神藤ちゃんを苦しめるにはアレが一番いいんだ」 ストローから口を放し、笑う久崎の顔はまさしく悪魔だった。

「成る程な。まあ、お前がpeace7に入れようとする奴だ。強いに決まってるな。あの、間柱斗努呂まばしらとどろみたいにな」

 陽は久崎を挑発するように笑う。

 久崎は嫌な思い出を思い出し、舌打ちする。

「間柱斗努呂、あの漫画に出てくるみたいな名前の奴、陽ちゃんは戦ったことないだろうけどね。マジ、あいつ強いから。ホントマジ!」

「まあな、お前が殺せなかった奴、初めて見た」

「でしょ!? ホント強かった。赤い悪魔って言われてたぐらいだからな。まだ、生きてんのかな〜?」

 久崎は懐かしそうに目を細める。

「生きてたら、来るんじゃないのか? 俺達を殺しに」

「そうだな。来たら来たで、戦お。そんで殺そ」

 久崎はただただ楽しそうに笑った。









「もっ、もう一回言ってみろ」

 受話器から聞こえる声は、戸惑いを隠しきれずにいる。

「ですから、この国は私が貰います」

 伊藤はゆっくりはっきりと、電話相手に伝える。

「お前……裏切るのか!? そんなことをすれば、私は」

「自衛隊でも動かしますか?」

「……ぬ」

 伊藤は見透かしたように言うと、電話相手は押し黙る。

「大統領、あなたはたまには家に帰ってもいいんじゃないですか?」

「何!?」

「娘さんを誘拐しました。知らなかったんですか? まあ、家に帰っていないのだから、無理もないでしょう。……娘を殺されたくなかったら、自衛隊を動かすな」

「……そんなこと許されると思ってるのか!」

「これは、お願いでは無く、命令です」

「お前……」

 まだ電話相手、大統領が何かを言う前に、伊藤を電話を切る。

「所詮、自衛隊が動いたところでもう止まらない」

 机に両肘を置き、顔の前で手を組むと、伊藤はクククッと笑う。

 その時、部屋の扉がノックされ、一人の気弱そうな男が入ってくる。

「あのー、決行日はいっいつですか?」

 気弱そうな男は、短い髪を掻きながら伊藤に訊ねる。

「来週だ。それと新居橋、君は強いんだから、もう少し自身を持て。」

「はっはい」

 畏まった動作で、気弱そうな男、新居橋充にいばしみつるは礼をすると、出て行った。

 伊藤は新居橋が出て行った扉を見ながら呟く。

「本当に、君には期待してるぞ、馬島の次に、だがな。せいぜい喰い殺してくれ」











 一人の漁師は漁船に乗って、今日も漁に出掛けていた。

「今日も、不漁かな?」

 自分以外に誰も居ない海の真ん中で漁師は溜め息をつくと、網を引き上げる。

「おっ!」

 いつもの網よりずっと重い重量を手に感じ、漁師は一気に顔をほこらばせる。「こりゃ、大物か!?」

 嬉しそうにどんどん網を引き上げるが、上げるに連れ、漁師の顔は沈んでいく。

 網が完全に引き上げられ、網に掛かった獲物が船上に打ち上げられる。

 漁師は呟く。

「何だよこりゃ」

 最初、漁師が引き上げている時、金色が見えた。

 漁師は新種の魚か!? と思い、元気良く引き上げていくが、その金色の下には、白く輝く八重歯があった。

 そして、引き上げて見ると、やはり、少年の死体だった。

「……こいつ、生きてるんのか?」

 明らかに死んでるとしか思えない顔色をしている少年の胸に、漁師は屈んで耳を近づける。

「……死んでるな」

 胸に当てた耳からは、生きている者の鼓動が聞こえなかい。

 念のためにと言わんばかりに、漁師は少年の手首を取り脈を測る。

「……やっぱり、死んでる」

 漁師は少年の手首から手を放し、立ち上がると嘆息をつく。

「可哀想に、この年で。しかし、これをどうしたらいいかね〜。取り敢えず、港に戻って警察に電話しよう」

 漁師は船の操縦席に座ると、船を港に向け動かす。

「……とんだ大物だ」

 漁師は自分の不運を呪うように、大きな溜め息をついた。


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