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サイコテロ  作者: 心楽
25/39

決意

はい、心楽です。


学校が始まったので、更新スピードは遅くなると思いますが、読んで下さい。


感想、評価待ってます!

 竜介はベッドに寝転んでいる。

 自分の父は明らかに悪だ。

 竜介は自分も、父に『物』と考えられていると感じる。

 ふと、竜介は思い出す。 頭の片隅に残る微かな記憶、女性の柔和な笑顔。

 それは、竜介が物心つく前に死んだ、竜介の母の笑顔だ。

 ――母さん。教えてよ。僕はどうすればいいんですか?

 しかし、母の答えはない。

「どうすりゃいいんだよ!」

 竜介は叫ぶ。

 ここ一週間ぐらいで、変わってしまった自分の人生を恨むように。

 ――止めて

 小さな呟きが竜介の耳に飛び込む。

 ――止めてあげて、あの人を

「……母さん? 母さん!?」

 竜介が呼び掛けるが、小さな呟きはもう聞こえない。

 竜介はベッドから立ち上がる。

 友という心の支えを無くした竜介は、新たな心の支えを見つけた。

 ――幻惑でも、妄想でも、何でもいい。母さんが僕に父さんを止めてと頼んだんだ。

 竜介は俯き、拳を強く握りしめる。

 全てに捨てられ、壊れかけた心が、立ち上がる。

 儚げに、儚げに、触れればすぐに、壊れそうな光を瞳に宿しながら。

 竜介はゆっくりと顔を上げる。

「父さんを、伊藤龍哉を止める」







 佐藤は拳銃の手入れをしていた。

 弾数が六発入るその拳銃に弾は五発しか込められていない。

 佐藤はSTCを抜けたため、銃弾を貰えない。

「……南雲」

 佐藤は死んだ相棒の名を呟く。

 南雲はいつも、陽気に笑っていたが、どこか寂しげであった。

 佐藤は南雲の笑顔を思い出す。

 獣染みた笑い。

 初めて見せる、優しい笑顔。

 手入れをした拳銃を組み立てる。

 佐藤は銃の扱いのノウハウも、南雲に教えてもらった。

 拳銃が組み立て終わる。 佐藤は拳銃を両手で握りしめ、軽く拳銃に額を当てる。

 ――もう、誰の笑顔も奪わせたくない

 佐藤は天井を見上げる。 無機質なコンクリートの壁に、二人の男女の笑顔が浮かぶ。

「……南雲……圭子」

 佐藤は目に涙を浮かべる。

「大丈夫だ。俺が止める。伊藤も、STCも」

 佐藤はゆっくり目を瞑る。









「いいですね。花宮さん」

 少し離れたところに立っている花宮を見ながら、夏樹は横にいる黒瀬に話しかける。

「そうですね」

 黒瀬も花宮を見続けたまま答える。

 汗まみれになり、荒い息遣いをしながら、花宮は今にも倒れそうだが、立っている。

 手の甲で額の汗を拭う花宮の見つめる先には、十数個の灰色の四角い物体が宙に浮いている。

 限界が来たのか、花宮が倒れた。

 その瞬間、灰色の四角い物体は音を立て、地面に落ちる。

 倒れている花宮に、夏樹と黒瀬は近づく。

「凄いですよ! 一個十キロのあれを、十個も浮かべれるようになって」

「数秒程度ですけどね」

 花宮は顔を横に向け、答える。

「いやいや、謙遜しないで下さい。十分凄いですよ。それに、花宮さんの超能力も念じた物体を動かさるという事も分かりましたし」

「味気ない能力で、すいません」

「何言ってるんですか。さあ、今日はもう終わりにしましょう。あっちでご飯でも食べましょう」

「いえ、もう少しやります」

 手を付いて立ち上がろうとする花宮を黒瀬が止める。

「唯ちゃん。もう止めときなさい。体に負担がかかりすぎるわ」

 心配そうに花宮を見る黒瀬を見て、花宮は黙り込む。

 そんな、二人を見て夏樹は微笑む。

「黒瀬さんの言う通りですよ。花宮さん。もう、終わりです」

「……分かりました」

「じゃあご飯食べに行きましょう。黒瀬さん花宮さんを」

「はい」

 黒瀬は屈んで、花宮に肩を貸そうとする。

「希美さん。大丈夫です。もう少し休んでから行きますから。二人で先に行って下さい」

「……そう?」

 黒瀬は不思議そうな顔をしながら、立ち上がる。

「じゃあゆっくり休んで下さい」

 夏樹がにこやかに言うと、黒瀬を引き連れ、部屋から出て行った。

 花宮は寝転んだまま、天井にある明かりを見つける。

 火照った体に、冷たいコンクリートの地面が心地いい。

 二時間も練習した疲れか、花宮の瞼は重くなる。

 ――私に何が出来るか分からない。何も出来ないかも知れない

 花宮はゆっくりと瞼を閉じる。

 ――でも、何かしようとしないと、何も変えることが出来ないから

 花宮の意識も瞼が閉じるに従って閉じていく。

「私は、伊藤龍哉にこれ以上、誰も殺させない」










 茜は部屋のベッドの上に座り、手に持っているニット帽を見詰めている。

 それは、かつて吉備が、茜にあげた物だ。






 ある雪の降る日、吉備と茜はいつものように言い争っていた。

「だから、うるっせーんだよお前は!」

「吉備さんの声の方がうるさいですよ。第一何で嘘つくんですか? バカ何ですか?」

 その日、氷室は他の場所に行っており、二人を止める者は誰もいなかった。

 行き交う人々は、ニット帽のチビと美女の言い争いを怪訝そうに見る。

 ケンカの理由は、吉備が予知能力でショッピングモールで爆発が起こるのを見たという嘘が原因だ。

 実際に、行ってみれば、予知で見たという場所で爆発など起きず、日本のどこも爆発など起こっていない。

「だ・か・ら! 嘘じゃねえ! ただの冗談だよ。決っして嘘じゃねえ」

「人が笑えない冗談は冗談と言えませんよ」

 茜は顔を真っ赤にして怒っている。

「ハハハッ! ほら、俺が笑った。だから、これは冗談だ。もう、良いじゃねえか? せっかくショッピングモールに来たんだ。たまには買い物をでもどうだよ?」

 吉備は微笑む。

 吉備にしてみれば、茜とデートをしたくて、嘘をついてここまで連れてきた。

 女の子だからショッピングは喜ぶ、と吉備は思っていたが、大誤算だ。

 茜が微笑む吉備を睨む。

「何であなたみたいな嘘つきと一緒にショッピングを! ニット帽からはみ出てる金髪が鬱陶しいんですよ!」

「てめえ! お前こそ、赤いワカメウェーブだろが!」

「……なっ」

 珍しく吉備の言葉に押される茜を見て、吉備は調子を良くする。

「お前、昔からこの超能力団体に居るんだろ? 親に入れられたっていってたよな? 可哀想だなお前。超能力があるから超能力団体に入れられて、親から変な色の髪を受け継いで」

 吉備はそこまで言い、茜がどんな顔をしてるか見る。

 そこには、吉備が予想した悔しそうな顔でも、驚いた顔でもなく、いつも、冷静で強気な茜からは想像も出来ない泣き顔だった。

 ポロポロと涙が目からこぼれながら、茜は口を開く。

「……髪を……バカに……しないで……ヒグッ……下さい」

 それだけ言い終わると茜は泣き始めた。

 茜は声を必死に噛み殺すが、口から嗚咽が漏れる。

 確かに、茜は超能力を持っていたため、親に気味悪がられ、超能力団体に十歳の時に預けられた。

 だが、茜の母は引き取られるその日まで、茜の髪を事あるごとに褒めていた。 茜も母から受け継いだ赤みがかった髪が大好きであった。

 赤みがかった髪が、もう一生会えない母との、繋がりように茜は感じている。 だから、茜にとって赤みがかった髪をバカにされるのは、自分と母との繋がりが、茜の自己満足だと言われている気がした。

 茜はただただ涙を流す。 吉備はその茜を人通りの少ないところに引っ張っていく。

 人通りが少ないところに着いたところで、吉備は茜の周りを歩く。

「あのさー、ホントごめん! ほら、あれだよな? 言い過ぎだよな、俺? だからさー、泣き止んでくれないかなー? マジで頼むよ! お願い!」

 不器用ながら、吉備は泣いている茜を慰めようとする。

 茜も時間が立ち、冷静さを取り戻していく。

 茜は涙を腕で拭うと、目を真っ赤に腫らせたまま口を開く。

「……もう……いいです」 茜は歩き始める。

 茜を追うように吉備も歩く。

 茜はいきなり吉備に肩を捕まれ、振り向かされる。

 振り向いた茜に吉備は、脱いだニット帽を茜に被せる。

「やるよ。それ」

「要りません。第一、こんな物くれたところで、私許しませんから」

 睨む茜の目から逃げるように吉備は視線を反らす。

「別にそんなんじゃねえよ。俺はしたいことをしただけだ。お前はしたいことをしたことあるか?」

 吉備は反らしていた視線を茜に向ける。

「お前はさ、昔から団体に居て、過ごしてきた訳だろ? だからさ、俺はお前とショッピングぐらいして、一個何か買ってやりたかったんだよ。まあ、こんなんなっちまったからな、それやるよ」

 予想外の言葉に驚く茜を見て、頬を掻きながら吉備は続ける。

「お前はさ、もうちょいしたいことをしたらいいんだよ。お前が今のままでいいんならいいけどさ。俺はお前の窮屈そうな敬語とかが、嫌でしょうがないんだ。昔から、そうして他の奴の反感も買わずに過ごしてきたみたいでよ」

 その時、少しだけ見せた吉備の表情はどこか寂しげだった。



「吉備さん」

 茜はニット帽を見ながら呟く。

「私は正しい事をしていたのか分かりません。黒犬は敵だと勝手に見なしてました。悪人だと。これから、私は正しい事を出来るのでしょうか?」

 『お前はさ、もうちょいしたいことをしたらいいんだよ』

 それが、答えかのように茜の頭に吉備の声が鳴り響く。

「私の……したいことをしたら」

 手に持っているニット帽を茜は抱きしめる。

「私は……この力で、誰かを守りたい」

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