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サイコテロ  作者: 心楽
22/39

重なる笑顔

 ビルの一階には誰も居なかった。

「上か」

 南雲はエレベーターのボタンを押し、佐藤共にエレベーターに入った。

 南雲は最上階のボタンを押す。

「ボスは最上階って決まってる」

 ドアが閉まると、エレベーターはゆっくり上昇し始める。

「何が起こるか分からねぇから準備しとけよ」

 南雲は刀の柄に手をかけ、姿勢を低くし構える。

 佐藤は拳銃のグッと握りしめる。

――待ってろよ圭子、もう少しだ。もう少しで、お前の仇を取れる。そしたら俺も死んでやる

 エレベーターの中に甲高い音が鳴り響き、ドアが開く。

 南雲と佐藤がエレベーターから出ると、両側に男と女が居た。

 どちらもとても整った顔をしていたが、その瞳には南雲と佐藤と同じように敵意しか込もってない。

 南雲は男と、佐藤は女と目が合い、足が止まる。

 男が口を開いた。

「朝っぱらから、ご苦労だな」

「行け!」

 その言った瞬間、南雲は刀を抜刀し男の首を切り落としにかかる。

 同時に佐藤は走り出す。 男は刀を屈んで避けるが、それを見越していたかのように、振られた刀は男の頭上で真下に振り下ろされる。

 男がそれを刀の柄を掴むことで止めた時、女が佐藤を追おうするが、

「お前の相手は俺だ!」

南雲はその胸を蹴り、壁に足で押さえつける。

「ここのリーダーは少年だ! 一番若い奴を殺せ!」

 佐藤はその言葉を背中で受け、一番奥にある扉を開けた。

 そこいた、四人の人間が一斉に佐藤を見る。

 佐藤は椅子に座っている一番若いと思われる少年に、すぐさま近づき首を左手で掴み、銃口を額に突き付ける。

 佐藤は振り向き、数メートルほど遠くの、唖然としている他の三人に

「動くな! 動くと撃つ!」

 と叫ぶ。

 佐藤はもう一回少年の方を向き、目が合う。

 佐藤と少年は同時に息を飲んだ。

「夏樹……くん?」

「佐藤……さん」

 佐藤は自分が冷や汗をかいてるのを感じる。

「君がここのリーダー……な……のか?」

 夏樹は一度、下唇を噛むと口を開く。

「……はい」

 佐藤は、目の前にいる少年、自分が銃口を向けている少年、ここのリーダーの少年、その少年が、この組織に入る為のきっかけになった神藤圭子、その弟、神藤夏樹ということに驚く。

「……はあ……はあ」 しかし、佐藤は右手が震えながらも引き金にゆっくり力を込める。 夏樹を殺せば、この団体のリーダーが居なくなる。

 が、夏樹は佐藤があの神藤の弟だ。

「……はあ……はあ」

 佐藤は息がどんどん荒くなる。

 超能力者は絶対悪。

 佐藤はそう決めてここまで来た。

 そう思えたからこそ、超能力者を殺すことに躊躇わなかった。

「……はあ……はあ」

 佐藤は夏樹から視線を外せずにいる。

 佐藤は視線を外せば、今まで支えてきたものが、崩れていくような気がしてならなかった。

 汗が目に入り、佐藤が瞬きした瞬間、目の前にさっきまで数メートルほど遠くにいた女が現れた。

 佐藤が反応する間もなく、銃を持っている腕を捻り上げられる。

 痛みで佐藤が銃を放した瞬間、女は鳩尾に強烈な膝蹴りを喰らわす。

 佐藤の視界が霞み、意識が飛んでいった。







 佐藤は体を揺すられ、意識を取り戻した。

 佐藤は夏樹に銃口を向けていた部屋で、南雲と背中合わせになって縄で巻かれており、南雲は必死にもがいている。

「……これは?」

「……これは? じゃねえよ! 見たら分かるだろ! 俺達は捕まったんだ!」 佐藤の疑問符に南雲は苛立ちながら答える。

 佐藤はゆっくりと顔を上げると、数人の男女が自分達を見下ろしている。

 男女の顔を佐藤は次々と見ていく。

 平凡な少年、活発そうな少女、黒髪の女性に、おそらく外国の血が混じっていると思われる綺麗な女性、ここのリーダー神藤夏樹、そして、最後に端正な顔をした男が居る。

 佐藤は最後の男の顔を見ると、驚きで口が開けたが、みるみる怒りの形相に変わっていく。

「氷室ぉーー!」

 縄が巻かれていのも忘れて、佐藤は氷室に飛び掛かろうと力を込める。

「落ち着いて下さい。佐藤さん」

 夏樹は佐藤に向かい言う。

 佐藤は力を込めるのを止めたが、氷室を睨み付けたまま言った。

「夏樹、何で、氷室と一緒にいる!? こいつは、こいつは圭子を殺したんだぞ!?」

「それは、誤解です! 氷室さんじゃありません!」「な……に? じゃあ、誰だって言うんだ!」

「それは、俺の兄だ」

 氷室が一歩前に出て静かに言う。

 佐藤が口を開こうとした時、南雲が叫ぶ。

「かっ! ふざけんな! てめえらは日本最大の超能力テロ組織だろうが! それが何よりの証拠だ! 下手な言い逃れはみっともないぜ!」

 夏樹が不快感をあらわにする。

「あなた達は誤解しています。僕らはテロを起こしたことは一回もありません!」

「じゃあ誰なんだよ!」

「peace7です。氷室さんのお兄さんもその組織に入っています」

「んだそれ、そんな奴等聞いた事がない。ちんけな嘘で俺は騙されないぜ?」

「事実です」

 夏樹は続ける。

「テロを起こしてるのはpeace7です。僕らは日本の超能力者を、あなた達に見つかるより早く保護するのを目的とした団体です。そして、peace7と対峙している団体です」

 佐藤と南雲が黙り込んだ瞬間、平凡な少年が口を開いた。

「それに、騙されてるのはあんたらの方だ」

「どういうことだ」

 佐藤と南雲は二人して眉をひそめた。

「あんたらの組織のトップ、伊藤龍哉は人の脳を食べることで、記憶や経験、超能力者のを食べれば超能力を得ることが出来る超能力者だ」

「何でお前がそんなこと知ってる?」

「伊藤龍哉は俺の父親だからだよ」

 少年は奥歯を噛みしめる。

 佐藤はその少年の、悲しそうな顔を見ると、それが嘘とは考えられなくなった。

 南雲も俯いたまま何かを考えてるようだ。

 沈黙が部屋に降りて来た時、夏樹が二人に近づき縄をほどく。

「これからどうするかは、あなた方の判断に任せます。しかし、僕個人としては仲間になって頂きたいです。何かが起こりますから」

「何かってなんだよ」

 体の調子を確かめるように肩を回しながら、南雲は訊く。

「分かりません。ですが、何かが起こることは確かです。僕ら超能力者に関する何かが。僕らの仲間の予言の能力を持つ人がそう言いました」

 ふーん、と南雲は呟くと出口の方に歩いて行く。

「行くのか?」

 佐藤は南雲の後ろ姿に声をかける。

「ああ、それでも俺は伊藤の下につくわ。今までサンキューな。お前はお前の好きなようにしろ」

 南雲はいつもの獣染みた笑いじゃなく、人懐っこい笑みを浮かべると部屋から出て行った。

 佐藤はドアが閉まるまで見届ける。

「……なあ」

 ドアの方に視線を向けたまま佐藤は呟く。

「お前の兄が圭子を殺して、peace7にいるってのは間違いないのか? 嘘じゃないんだな?」

 佐藤は燃えるような目付きで、氷室を見る。

「ああ、だが、それだけだ。お前がどんな恨みを持とうと。あいつを殺すのは俺だ」

「なっ」

 佐藤はいきなりの氷室の言葉に動揺する。

「俺はあいつに大切な人を殺されたんだぞ!?」

「家族の尻拭いをするのは、家族の仕事だ」

 佐藤と氷室は一触即発の雰囲気を醸し出す。

「佐藤さん。諦めて下さい。氷室さんは一回言うと聞きません」

「夏樹くん!?」

 佐藤が非難の声を上げようとするが、夏樹は言った。

「それに、僕だって姉さんの仇を取りたいんです。でも、姉さんはそんなことは望みません。姉さんなら、peace7の犠牲になる人々を助ける方がよっぽど喜ぶ。そう思いませんか?」

 夏樹は佐藤に微笑みかける。

 佐藤は夏樹の微笑みと、圭子の微笑みを重ね合わせ、目を閉じる。

 今でも、圭子の笑顔を鮮明に思い出せることに、佐藤は苦笑する。

 STCに入る時、圭子の写真と共に、捨てた思いが炎となって蘇り、復讐の為に凍り付いた心を溶かしていくように佐藤は感じる。

――結局、捨てれてなかったんだな。思いも、記憶も、心も

 佐藤は目を開ける。

 全ての景色が明るく変化していた。

「仲間になってくれますか?」

 夏樹が佐藤にもう一度微笑む。

 佐藤は明るく変化した世界に踏み出す一歩目の言葉を口した。

「もちろん」

 佐藤は夏樹に微笑み返した。


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