集束
「と言う事です」
夏樹は竜介に、超能力や黒犬、home等。
超能力に関する事や、竜介を追っていた黒いスーツの男達、黒犬の説明をした。
「……なるほど」
竜介は何かが引っ掛かっているが、その何かが思い出せずにいる。
「では、次は僕からの質問です。あなたは何故追われていたんですか?」
竜介は頭で全てが繋がった。
「そうだ! それだ!」
「決行は明日だからな」
「ああ」
佐藤と南雲はベッドが二つあるホテルの一室に居た。
片方のベッドで佐藤は拳銃を手入れをしながら、静かに答える。
「しっかし、こんな簡単に分かっちまっていいのか〜?」
もう片方のベッドで片腕を枕にして、南雲はベッドに寝転びながら、携帯を上に投げてキャッチした。
「石山の携帯に入ってた発信履歴の一番最近のが、まさかhomeのアジトからかかって来てる何てな。ビックリだぜ」
南雲は携帯番号が見えるように画面を佐藤の目の前に突き出す。
「まあ、確かに上手い話だと思うが、この目で見ただろ? あのひっそりとしたビルを」
「確かにな。あれはアジトって言葉がピッタリ似合うビルだ」
南雲は声を立てて笑う。
佐藤と南雲は石山の携帯の番号から、情報部に発信場所を調べて貰い、そこを調査しに行くと、一つのビルがあった。
そのビルを二人はhomeのアジトだと仮定している。
例え、明日乗り込んだところが普通のビルであったら、本部の力で何とかして貰うつもりだ。
佐藤は拳銃の手入れを終えると、それを枕の横に置いた。
「なあ、明日の突入だが、他の黒犬を呼ばないでいいのか?」
「お前は氷室を殺したいんだろ?」
「ああ」
「じゃあ、他の奴ら何て要らねーよ。あいつらは手柄を上げたいから氷室を殺すぜ?」
「南雲はどうなんだ?」
「俺は出世願望がないからな。ちゃんとほぼ殺しで止めてやる」
南雲は自嘲するように笑う。
「……そうか。でも、一人で超能力者をやれるのか? アジトだから、何人もいるんだぞ?」
「気合いと根性で何とかなるさ」
佐藤は眉をひそめる。
「そんな顔すんなよ。大丈夫だって。そもそも、俺は伊藤を信じてないからな。あいつの部下も信じてない。だから、他の奴らは要らねーよ」
「お前も伊藤の部下だろ?」
「まあ、違うこともねーけど、合ってもねー。大人の事情ってやつだ」
南雲は言い終わると頭まで布団を被る。
「どういうことだ?」
佐藤が南雲に問いかけるが、南雲は寝たふりをして誤魔化している。
佐藤は一つ舌打ちをすると電気を消した。
竜介は暗い天井を見る。
竜介は話が終わった後、とりあえず夏樹達に敵意はなく、むしろ守って貰えるようなのでここにいることにした。
「しっかし、父さんは何を考えてるんだ?」
竜介には部屋が一つ与えられ、ベッドに寝転び数分前の出来事を思い出す。
「そうだ! それだ!」
いきなり竜介が大きな声を出したので、その場にいる皆が竜介を見る。
「何がですか?」
夏樹が皆の言葉を代弁するように言った。
「オカシイんだよ! STCっていう超能力を捕まえる組織のトップは俺の父さんだ! ならそれはオカシイんだ!」
竜介は興奮したように叫ぶ。
夏樹は眉をひそめる。
「だから、何がですか?」
「超能力者なんだよ! 父さんも超能力者なんだ!」
竜介は言い切った瞬間、この場にいる人間が息を呑むのを感じた。
「まさか……何故?」
夏樹が顎に手を当て、思慮深げな表情をする。
「……だからか」
竜介はまたパズルがはまったかのように目を見開く。
「だからだ。俺が父さんの超能力に関して知ってしまったから、父さんは俺を殺そうとしたのか」
たったそれだけの為に、と竜介は心の中で呟いた。
「なるほど、あなたの父はあなたを殺そうとしたんですか……その能力はどんな能力何ですか?」
「食べるんだ」
「食べる?」
夏樹が眉をひそめる。
「人の脳を食べるんだ。そうすると、食べた人間の記憶と経験、そして、超能力者の脳を食べたら超能力を得ることが出来る」
竜介を含む全員が吐き気を催すような内容を必死で堪える。
「超能力を得る為に、あなたの父、伊藤はSTCを立ち上げた」
皆が黙り込む。
すると、さっきまで黙っていた男が口を開いた。
「決戦は近い。そこで全ては分かるだろう」
「「決戦?」」
竜介と花宮は同時に言葉を発する。
「吉備の予言だ。8月、この東京で、人間が一人も通りを歩かない日、大きなビル、そこで、大きな爆発が起こる」
「まあ、まだ決戦と決まった訳ではないですけどね。何かが起こるのは確かです」
夏樹が真剣な顔で言うと、また全員が黙り込む。
その瞬間、夏樹はパンッと手を叩くと微笑んだ。
「とにかく、皆さんいろいろありましたからお疲れでしょう。今日はもう寝ましょう」
本当に今日はいろいろあったな、と竜介は思う。
父が自分を殺そうとしてるのは明らかで。
拓真は本気で自分を殺そうとした。
そして光希は自分を逃がす為に死んだ。
そして、俺は何をした? ただ、逃げただけだ。
そんな、俺が今度は何をするんだ? この、グループに入って何が出来るんだ? 何かをしようとするのか? また逃げるのか? また、大事な人を犠牲にして、逃げるのか?
「くそっ!」
竜介はベッドを殴る。
竜介は、右手に伝わった痛みが自分に何かを教えているような気がした。
逃げるなと。
次の日、二人の男がビルの前に立っていた。
いくら人通りが少ない通りとは言え、日本刀を肩に担いでいる男と、拳銃を持っている男が、黒いスーツを着て、堂々と立っているのは何とも可笑しな光景だった。
「緊張してるか?」
バカにするような感じで刀を肩に担いでいる男、南雲は笑う。
「まあな、あいつを殺せると思うと震えが止まらない」
拳銃を持っている男、佐藤は答えた。
「そりゃあ、あれだぜ、分かってると思うが、武者震いだ」
南雲は獣じみた笑いを浮かべる。
「だと言いんだが」
佐藤は口の端を上げる。
「さあ、狩りの始まりだ」
佐藤と南雲はビルに入って行った。