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サイコテロ  作者: 心楽
2/39

STC

 あるアパートの一室で、ベッドの中には佐藤と佐藤の腕の中に眠る、一人の女性がいた。

「おはよ」

 佐藤がそう声をかけると、女性は起き出した。

「おはよ、とうとう明日だね。泉君」

「そうだな、何だか緊張してきた」

 佐藤は困ったような笑顔を女性に向けた。

「しっかりしてよ〜」

 笑いながら女性は続けた。

「あーあー、明日から私も佐藤さんかー、」

「嫌なの?」

 イタズラっぽい笑顔で佐藤は言った。

「嫌なはず無いじゃない。でも、結婚したら私、佐藤圭子よ? すごく平凡じゃない? しかも、日本で一番多い名字」

「今まで佐藤で生きてきた俺に、なんてこと言うんだよ」

 佐藤がムッとした表情をすると

「でも、名前が泉でしょう?」

「女みたいな名前でやだよ」

「そお?可愛いけどなー」 笑って女性は佐藤の胸に顔をうずめた。

「幸せにしてよ」

「幸せにするよ、神藤しんどう先輩」

「先輩はやめてよー」 笑う神藤の体をギュッと抱きしめると、佐藤はベッドから出た。

「そろそろ、仕事に行ってくるよ」

 そう言って、佐藤はスーツに着替えて、アパートを出ようとした時

「今日さー。結婚前の最後の息抜きってことで、友達に近くにある、値段が高いプールのタダ券貰ったから行っていい?」

「いいよ」

 そう言ってもう一度ぬくもりを確かめるかのように佐藤は神藤を抱きしめた。

「行ってきます、圭子」

「行ってらっしゃい、泉君」







 今、佐藤は数日前のことを思い出しながら、神藤の弟と神藤の葬式の後片付けをしているところだった。 神藤には親戚がいず、神藤の葬式は、神藤を知る人逹だけの静かな葬式となった。

 神藤の両親は神藤が高校生のときに、事故で亡くなり、神藤の家族は弟だけだった。

 それは、弟のほうも同じで、3歳の時から育ててくれた母親であって、姉でもあった神藤のことをたった一人の家族と思っていた。 片付けが終わり。さっきまで泣いていて、真っ赤になった目を見ながら、佐藤は呟いた。

「俺のせいだ……すまない」

「佐藤さんのせいじゃないですよ、事故ですから……この話は止めにしましょう、話したらお互いつらいだけですから」

「この後、どうするんだい?良かったら俺と……」

 その先の言葉が言えず佐藤は黙りこんだ。

「佐藤さんに迷惑をかけるわけにはいきませんよ、実は、親戚が一人居たんで、その人に引き取ってもらうことにしたんです」

「そうか、分かった。勉強頑張れよ」

 佐藤は無理に作った笑顔を見せた。

「ハハッ分かってますよ。佐藤さんも姉さんより綺麗な彼女見つけてください」 そう言って、佐藤と同じ無理に作った笑顔を見せながら、彼は手を振り、去って行った。

 その神藤にあまりにもよく似ている笑顔を見た佐藤は、今まで我慢してきたものが込み上げきたかのように、無理に作った笑顔はぐしゃぐしゃになり、泣いた。

 数十分ほどたっただろうか、佐藤の涙が流れなくなってきた時に、一人の男が話しけてきた。

「佐藤 泉さんですね?この度は、誠にお悔やみします」

「何の用ですか」

 男は40代後半といったところで、高級そうなスーツに身を包み、細い顔に、オールバックの髪型、細い眼鏡をかけた、見るからに高い位についてる人物と分かる。

 男の機械的な喋り方と泣いているところを見られた恥ずかしさで少し威圧的な話し方になった、佐藤の言葉を受けながらも平然とした顔で

「赤の他人が話しかけてきて警戒するのも分かりますが、あなたに話があります」

「何なんだあんた!?今は誰とも話したくないんだ!」

 無機質に喋る相手に腹が立ち、男の胸ぐらを掴んだ佐藤の叫びを聞いても男はたんたんと喋り続ける。

「私の名前は、伊藤龍哉いとうりゅうやです。単刀直入に言いたい。あなたの恋人を殺した犯人を私は知っている」

「えっ!」

 伊藤の不意をつく言葉に佐藤の胸ぐらを掴む手が降りた。

「誰なんだ!」

 男は乱れたスーツを整えながら

「超能力者です」

「超能力者だと? 馬鹿馬鹿しい!」

 去ろうとした佐藤の後ろ姿に、声がかかる、

「佐藤さん、あの事件をどうやって説明するんですか? 何人もの人が凍っている、どうやって? あなたは認めたくないだけでしょう? 私は、何故、あなたが認めたくないか分かります。超能力者というあんな凶悪な力を持つものが犯人ならば、ただの人間である、君が、復讐できないからだ! 違いますか?」

 佐藤は自分の思いを全て見ぬかれたことに怒りが沸く。

――確かに、俺は圭子が殺された時から復讐を考えていた。犯人を絶対を殺そうと思った。けど、犯人が超能力者なんて、俺は……俺は

「なら俺はどうすればいいんだ! ただの人間が、超能力者に復讐できるわけない! 俺は、勝てないと諦めて泣き寝入りは絶対しないぞ! 超能力者から見たらすぐに殺せるただの人間だが、俺はただの人間でも犯人の指ぐらいもぎ取ってやる!」

 その言葉を聞いて、向き合いながら、伊藤はゆっくり口を開いた。

「その言葉が聞きたかった」

 さっきまでの丁寧な言葉使いが迫力のある言葉使いにかわり、体からは他を威圧するような雰囲気を出す。

「なに!?」

 佐藤は、眉をひそめた。

「君にその超能力者の名前を教えよう。ただし、条件がある」

「なんだ?どんな条件も飲んでやる!」

 伊藤は三本の指を出し、一本づつ折り始めた。

「では、私の出す条件は三つだ。一つ、今住んでいるところ、勤めている会社、その他全てのあなたと関わりがある人物から縁を切り、あなたが持っている必要最低限のもの以外の所有物を全て捨てる事、二つ、私の組織に入ること、最後は、条件を飲むと人を殺す機会が増えるだろう、それを躊躇しないことが条件だ」

 人を殺す。その言葉に

佐藤は悩む。

――殺人をしてもいいのか? 許されるのか? ……いや、圭子がいない世界なんて、もう要らない。何の未練も無い。だから、圭子を殺した奴を殺すまで、何だってしてやる。

 佐藤は真っ直ぐに伊藤を見た。

「わかった、条件を飲む。だから、早く名前を教えてくれ」

「そうか、よく決心してくれた」

 そう言って一枚の写真を佐藤に渡した。

 そこには、真ん中で目のしたまでありそうな前髪を分けた、彫りが深く、整った顔をした。見た感じ、20代半ば頃の男が写っていた。

 それを佐藤はじっくり見ている。

「その男の名前は、氷室

凍吾ひむろとうご体から冷気を出すことができる超能力者だ」

「こいつが、圭子を」

 佐藤は、ぐしゃっと写真を握り潰した。

「さぁ、条件に従って貰おう」

「わかった、明日から条件に従って会社を止め、家を出て、俺と関わりがある人物から縁を切る。数日ぐらいかかるが、終わったら、どうすればいい」

「全てが終わったら、ここに電話をかけてくれ」

 伊藤は一つの名刺を佐藤に渡した。

 名刺には、伊藤の名前と電話番号、そしてアルファベットが三つ並んでいた。

「電話番号は覚えて、すぐに名刺を焼いたりして捨ててくれ」

「S……T……C?」

 その言葉を受けに伊藤は静かに、だが、迫力がある声で言った。

「STC、サイコテロ対策本部、私の組織であり、君がこれから入る組織の名だ」

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