大きなお世話
朝、出勤する人混みの中、黒いスーツを着た佐藤と南雲はいた。
周りをキョロキョロと見渡しながら、二人は歩いている。
「こんな探し方でいいのか?」
かれこれ二時間こうして歩いている佐藤がイライラしながら言う。
「しゃーねーだろ、場所はここらへんってしか情報がねーんだからよ」
南雲もイライラしながら答える。
「はぁ、そろそろ飯でも食わないか? 情報いつ来るか解らないし」
「そーすっか」 二人は近くの喫茶店に入って、空いてるテーブルに腰掛けた。
南雲は一口水を飲む。
「しっかし、こんな暑い日に経済の歯車となって働く奴らも大変だな」
窓を見ながら、南雲は水を飲み干して、口を手で拭う。
「どうせ、そんな事興味ないんだろ?」
佐藤も水を一口飲む。
「まあな」
南雲は氷をガバッと口に放り込み、噛み砕く。
「興味ないな、俺が言いたいのは、暇だっていう言葉だ」
「最初からそう言えよ」
「まあそう怒んなよ佐藤、冗談だ」
南雲はウェイトレスが持って来たアイスコーヒーを受けとる。
佐藤もアイスコーヒーを受けとり、一口飲んだ。
「どうする?」
「情報来るまで待つしかねえだろ」
「はぁ」
二人の男が窓を見ながら呟いた。
「暇だね〜」
花宮は夏樹の前に立っている。
「本当にいいんですか?花宮さん」
「はい」
花宮は目に強い光を持って言い放つ。
「でも、何か強引に両親に電話させたり、黒犬に追われたりして、それで強引に組織に入れたりしたみたいで悪いですよ」
「違うんです。これは私の意志なんです。お願いします」
花宮は深々と頭を下げる。
「止めてくださいよー。分かりました。花宮さんの意志は分かりましたから顔を上げてください」
夏樹は慌てたようすで言う。
ほっとした感じで花宮は頭を起こす。
「じゃあ、早速何か手伝わせてください」
「いきなりですか!?」
「はい」
困った顔をする夏樹に花宮は満面の笑みを返す。
「分かりましたよ。じゃあこの人を保護してくれませんか?」
夏樹は机の上に写真を置いた。
花宮は写真を手に取り見る。
「この人は」
「石山圭吾さんです。先日ニュースで出た殺人犯ですね」
「そーなんですか、何で殺したりしたんだろ」
「理由は解りませんが、いきなり超能力を持って悩んでいたのかもしれません。そんな彼を助けるのも僕たちの仕事です。彼は今、新宿で待ってます。そこに向かい保護してください」
「分かりました」
花宮が写真を手に取り、部屋を出ようとした。
「ちょっと待ってください。言い忘れたことが」
「何ですか?」
花宮がドアノブに手を掛け立ち止まる。
「これから仕事は黒瀬さんといっしょにして下さい。出口で待ってます」
「私が組織に入ることがわかってたんですか?」
花宮が驚いた顔で尋ねるが、夏樹はイタズラっぽい笑顔を向ける。
「さぁ、どうでしょう?」
花宮は少しため息をつくと部屋を出た。
一階に行くと黒瀬が待っていた。
「よろしくね、花宮さん」
「よろしくお願いします。黒瀬さん。後、唯でいいですよ」
「そう? じゃあ唯ちゃん、私も下の名前のほうがいいわ」
「じゃあ希美さん?」
「うん、それでいいわ」
黒瀬は花宮に笑顔を向ける。
「それじゃ、行きましょうか」
そう言って外に出た黒瀬に花宮は着いていく。
黒瀬はスポーツカータイプの赤い車に乗り、花宮も助手席に乗る。
「あの〜、石山さんとはどこで待ち合わせをしているんですか?」
「新宿の喫茶店よ。待たせちゃ悪いから行きましょうか」
黒瀬はアクセルを踏み込んだ。
「若者の街、新宿! なかなかいいね〜」
「静かにしろよ光希」
人混みの中、大袈裟に天を仰ぐ水谷の腕を竜介は必死で下ろさせる。
「見つかったらどうすんだよ!」
「ヤンキーにか? 不良にか? そんな奴らにビビってるなんて小市民だな〜」
「黒い服の奴らだよ!」
必死の竜介に対して水谷はヘラヘラ笑っている。
「まぁ、そんときは逃げる!」
「何でそんな能天気なんだ」
竜介は頭を抱える。
「うじうじすんなよ〜。楽ありゃ苦あり。苦ありゃ楽あり。楽しい時に目一杯楽しむのが人生だ」
「お前の人生論何か知るか! うまくねーよ」
竜介が水谷を睨んでいると、水谷は遠くの方を見て、笑いが止まった。
「どうした?」
「苦が来たぜ」
そう言って水谷は指を差した。
指の先端をたどっていくと喫茶店の中に二人の黒服の男がいた。
「ちっ、この街にもいるのかよ! 幸い気付いてねー逃げるぞ」
水谷は竜介の手首を持って走りだした。
喫茶店で短い髪をした一人の男が座っている。
彼、石山はカタカタと震えながら、帽子を深く被り直し、後ろのテーブルの黒い服の男の様子を伺いながら、思い出していた。
昨日ある少年に電話で言われた言葉を。
『黒い服の二人組には気をつけて下さい。彼らはあなたを殺す人達です』
石山は最初に彼らが入って来た時、逃げ出そうとしたが、この場所で待ち合わせすることにしたため動けず、出入口は彼らの方が近い。
そのため助けを待つことにした。
視線を出来るだけ下に落とし、顔を見られないようにしている。
何分待っただろうか?
時間の感覚も無くなりそうになりながら石山はずっと下を向き、彼らの雑談を聞いて様子を伺っている。
入って来た時からずっと他愛もない会話をしていた一人が、突然石山に話しかけてきた。
「大丈夫かあんた、具合悪そうだぜ」
「だ……だい……大丈夫です」
黒服の男は席を立ち、石山の横に立っている。
恐怖で冷や汗が溢れ出て、ろれつが回らなくなった舌のおかげで石山を余計心配し始めた。
「マジで大丈夫か?」
「大丈夫……大丈夫……ですから!」
石山が必死で言ったのが効いたのか、黒服の男が座ろ席に戻った。
石山がほっとした時、黒服の男が戻って来た。
「でもよ、帽子ぐらい外しとけって、頭、熱いだろ?」
そう言って黒服の男は石山の帽子を外した。
その瞬間、黒服の男と石山は目が合って固まる。
客が入って来て、扉のベルが鳴った。
「てめえ……石山か」
黒服の男がそう呟いた瞬間、石山はガラスを破り、外に出て逃げ出した。
(見つかった! 見つかってしまった!)
南雲が話しかけていた男がいきなりガラスをぶち破り、逃げ出した。
「くそ! 石山の奴、逃げやがった! 佐藤! 追いかけんぞ! ぐずぐずすんな!」
苛立たしげにテーブルを蹴飛ばし、石山が穴を開けたガラスから飛び出した。
佐藤も慌てて、ぼーぜんとしている定員に頭を下げてから、喫茶店から出て走り出した。
しかし、二人とも超能力者のため、どんどん距離が離れていく。
ふと横を見ると、一人のサラリーマンが自転車に乗っていた。
佐藤はその前に立った。
サラリーマンは急ブレーキをかけ、不満げな顔をしている。
「何なんだお前!」
その声を無視しながら、佐藤はサラリーマンを強引に降ろし、自転車に跨がり、呆然としているサラリーマンに封筒を投げ渡した。
「これでこの自転車を売ってくれ」
佐藤は自転車で二人を追いかけ始めた。
何が起こったか分からないサラリーマンが、封筒の中を見ると、そこには札束が入っていた。
「どうなってんだよこりゃ」
サラリーマンはフラフラと会社に向かった。
ここまで目を通してくれてありがとうございます心楽です。え〜もしかしたらもう1つ連載を開始するかもしれません。皆さんの応援と感想待ってます!