花と赤毛とニットと氷と銃声と
トランクケースはアタッシュケースの間違いです。誠に申し訳ありません。今度また、日本語の表現等を間違えていたらご指摘して頂けたら嬉しいです。感想も待ってます。では、長くなりましたが今後ともよろしくお願いします。
水谷は竜介の横に腰をかける。
「で、何で追われてたんだよ」
「知らないのに追いかけたのか?」
「友のピンチを見過ごす訳にはいかないからな」
「俺もまだ混乱してるからちょっと時間かかるぞ」
「わかった、わかった、だから早く話せ」
「あれは、俺が父さんの書庫に入ったのが始まりだった」
竜介はゆっくりと、自分の頭の中を整理しながら、今日起こった事を話し出した。
黒塗りの車が佐藤と南雲を乗せ、東京に向かって走っている。
佐藤は窓から流れる風景をボーッと見ながら、ふと思い立ったように口を開いた。
「そういや、黒犬の能力ってどういうもの何だ? 身体強化とかアンチ超能力とかいまいちピンと来ないんだが」
「あ〜、ボス、伊藤さんが言うにはさ、超能力ってのは、脳の使われていなかった部分を使うことで使えるらしいぜ」
「それで?」
「脳の使われてない部分を使うようになるだけで、身体能力は人間の限界まで出すことができる。つっても個人の肉体能力の限界だから個人差はある。大抵オリンピック選手並かそれ以下だ。けど、俺たち黒犬の身体強化は人間の限界を超えることが出来るんだ」
今一つ、理解出来ないような顔をし、佐藤は尋ねる。
「限界を超える?」
「例えばよー、目に見えないぐらい速く走れる能力とか、めちゃくちゃ力が強い能力とか、そういう感じだ。ま、俺たちの場合、全般的に限界を超えるから、目に見えないぐらい速くなったりしねーんだけどよ。黒犬の百メートルは平均七秒台だな、体も頑丈になるから、ビルの四階ぐらいの高さから飛び降りても大丈夫だ」
「ふーんそういうことか、じゃあアンチ超能力は、能力を打ち消したりできる能力なんだよな」
「完全に能力を打ち消せるのは隊長だけだな、他の奴は、まあ俺も含め、能力を弱めるぐらいだな、アンチ超能力を持つ者を中心にし、半径五十メートルぐらいに近づけば近づくほど能力は弱まり、逆に離れられたら能力は弱まらないんだよ。広さや打ち消す力も個人差があるけどな。まあ万能じゃねえってことだ」
「けっこう大変だな」
「そうそう、大変だぜ、しかも、範囲の外で発動した能力は範囲に入っても弱まらねえし」
車は赤信号で止まった。
「超能力者の中で同じ能力を持つ奴が複数人いることがあるのか?」
「同じ能力を持つ奴はいないと思うぜ、聞いたことがない」
佐藤はそれを聞き、眉をひそめる。
「じゃあ何で黒犬は同じ能力を持っているんだ?」
南雲はしまったという顔をした。
「あーー、それは言えねぇ」
「何でだ?」
「ルールだからだ、さっきから質問ばっかだなお前、静かにしろよ」
信号機は青に変わっている。
南雲はそれを確認すると、車の中に漂う気まずい空気を取り払うように、勢いよくアクセルを踏み込んだ。
少し走った後、携帯のバイブ音がなり、佐藤はすぐに足元に置いてあるアタッシュケースから携帯を取りだして、送られたメールを見た。
「何て情報だ?」
「石山圭吾 22歳 京都在住のサラリーマン。先日、会社に辞表を出した後、ヤクザの組員の男を鈍器のような固い物で撲殺。すぐに、同じヤクザの第一発見者が殺された男を見つけた時、石山の逃げる後ろ姿に向けて、持っていた銃で二発発砲したが、石山は倒れることなく逃げた。という情報だ」
佐藤は送られて来た情報を、一字一句間違えずに読んだ。
「場所は?」
「東京だ」
「ビンゴじゃねーか」
嬉しそうに南雲は笑う。
「東京か、何かが起きるような気がするぜ」
南雲はまた車の速度を上げた。
佐藤はより一層、早く流れる景色を見ながら、小さな笑みをこぼした。
「という事なんだ」
竜介は一通り、今日起こった事を話し、うつむいていた顔を起こして、水谷の反応を確かめるように彼の顔を見る。
水谷は笑っていた。
竜介の予想では少しは困った顔でもするかと思っていたが、まさか笑うとは。 水谷の予想に反した反応に、竜介が呆気に取られていると水谷は笑いながら言った。
「要するに竜介は追われてるんだろ?」
問いかけに竜介は頷く。
「じゃあやることは簡単だ。逃げればいい。木を隠すまら森の中、魚を隠すなら魚群の中、人を隠すなら人込みの中だ」
猫が一声鳴き、もうすぐ夜が明ける。
「行こうぜ、東京に」
「光希も来てくれるのか?」
「当たり前だろ、親友だからな。でも俺人殺しだから、竜介が嫌なら止めとく」
「それに関しては俺が悪いと思う。俺を助けるためにしたことだから。だから、俺といっしょに来てくれ」
水谷は、俯きながら言う竜介の肩に手を回し、歩かせ始めた。
「竜介は何も悪くねぇよ、全部、巻き込まれただけだ。俺が守ってやるから心配すんな」
竜介にとって、その言葉は気持ちをとても安らがせた。
「ありがとな」
朝日が二人の少年を照らしていた。
花宮のこめかみに銃を突き付け、引き金に力が籠る。
花宮が目を潰った時、銃声の代わりに上からグェッと苦しそうな声が聞こえ、花宮の上に乗っていた重さが無くなった。
花宮が目を開けると、上に乗っていた下品な男は五メートルほど遠くに転がっており、側には同性でも見惚れそうな綺麗な顔をした、赤みがかった長髪の女性が立って、下品な男を睨み付けている。
花宮が、この人が吹き飛ばしたのかとビックリしていると。
花宮の傍らから静かだが警戒心と殺意を込めた声が聞こえた。
「誰だお前」
花宮が傍らに立っていた静かな男を見ると、銃を構え、今まさに女性を撃とうとしていたところだった。
「危な
「グッ」」
花宮の忠告は静かな男の声で掻き消された。
ニット帽の青年が男に体当たりを仕掛け、男を下品な男の近くまで吹き飛ばし、花宮を真ん中にし、女性に向かい話しかけた。
「ほらなほらなほらな茜、言った通りだろ?」
ニット帽を被った青年は嬉しそうに言う。
「ええそうですね、いつもの嘘だったらぶち殺してましたけど」
「んだとてめー!」
「落ち着けよ吉備」
一人の男が暗闇から姿を現した。
「氷室さ〜ん、違うんすよ茜がさ〜俺の超能力にケチをね〜」
吉備が氷室に愚痴ろうと後ろを向いた瞬間、銃声が鳴り響き、氷室が倒れた。 下品な男が銃を持ちながら、天を仰ぐようにして大声で笑っている。
「ハハハハハハハハハハハハハハハ!! やってやったぞ〜氷使いの氷室 凍吾をぶち殺してやった! 眉間にドーンだ! ハハハハハハハハハ――」