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サイコテロ  作者: 心楽
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冷たい始まり

「はぁはぁはぁ」

 確か、朝のニュースで言ってたなぁ、と男はお天気お姉さんの言葉を思い出していた。

「今日は例年、稀に見る暑さとなるでしょう」

 そんな、外を歩くのでさえ嫌になる暑さの中、ネクタイを外し、立たせた短い髪も汗でへたっている、サラリーマンと思われる男は走っている。

 その表情は必死で元の爽やかな顔からは想像もできない。

 男とすれ違う通行人は皆、こんな暑い日に何なんだと言うようにギョッとした顔で男を見るが、男はそんな変な物でも見るような視線も気にせず、ただただ必死に走っている。

 必死で男が走っている原因は、仕事中にかかってきた、一本の電話にあった。




 ほんの数分前、男は会社で仕事をしていた。

「今年、当社は地球環境に関する商品を開発するため、夏はエアコンを切ることに決定した」 という社長の決定で男の勤める会社はエアコンを切っていた。

(あのバカ社長の迷言のせいで、こんな暑い日までエアコンを切ることになるなんて)

 と心の中で悪態を呟きながら、男はもうすぐ休暇をとるため、仕事を一段落させようと大量の書類を処理している。

 男が仕事を片付けていると、黒い眼鏡がトレードマークの青年が部署に入ったきた。

「暑っち〜」

 青年はネクタイを外し、ワイシャツのボタンも2つも開いている。

 ふわふわとした肩くらいの茶髪の髪をかきみだしながら、今年度の新入社員、桐田優人きりたゆうとは、つかつかと部長の席に近づく。

「これ、終わりましたー。部長」

 とドサッと書類を渡した。

「これさっき渡した書類かな?」

「そうすっよ。何か問題でも?」

「いや、相変わらず早いなと思ってな……よし! 問題はないみたいだな行っていいぞ」

「どーも」

 桐田は大量の書類を片付けている男の席に向かってきた。

「ちわっす、泉先輩、今日は暑いっすね」

 パタパタ手で扇ぎながら桐田は男に話しかける。

「はぁ〜、毎度毎度言うけどな、名前の方を名字みたいに呼ぶな、俺の名字は佐藤だ」

「この毎度毎度のやり取りがいいんじゃないすか、泉先輩。じゃ、まだ仕事あるんでまた飯連れてってください」

 イタズラ好きの少年のような笑顔を見ながら佐藤は苦笑する。

「また、今度な」

(全く、あの図々しさで、仕事が出来なかったら即刻クビだな)

 桐田に気を取られていた佐藤が、仕事に取りかかろうとした時

「あっ!」

 桐田は何かを思い出し、振り返った。

「そういやーさっき、泉先輩を電話が来てるからって電話係の人が呼んでましたよ」

 ハハッ忘れてたと言い去っていく桐田の後ろ姿を見ながら、

「先に言えよ」

 と呟き、佐藤は電話部に急いだ。 電話部の部屋に佐藤は入って、

「呼ばれた佐藤ですけどー」

 と佐藤が大きめの声を上げると、一人女性が受話器を上に挙げながら言う。

「こっちです。何だか警察のかたから電話です」

 佐藤は女性から受話器を受け取り、電話に出た。

「お待たせしました。佐藤です」

「佐藤 泉さんですか?」

「はい、そうですけど何かあったんですか?」

「率直に言いますが、近くの水泳施設で起こった事件で亡くなった、ある女性の遺体から、あなたの名刺が出てきました。ご確認のため来て頂けませんか」

「えっ……」

(俺の名刺を持っていて、しかも水泳施設に行ってる……まさか)

 暑さでかいていた汗は冷や汗になり、体の中はスゥッと冷たいなっていった。

「す、すぐ行きます」

「場所は分か……」

 警察の話を最後まで聞かず受話器を置くと、佐藤は走り始めた。



 佐藤はある水泳施設の前にたどり着いていた。 水泳施設の周りにはたくさんの警官がいて、辺りに張り巡らされた黄色のテープが、記者の侵入を阻んでいる。

 近くの警官に佐藤は急いで駆けより説明をする。

「あなたが佐藤さんですね、私に着いて来てください」

 と警官に言われるまま佐藤は着いて行く。

 着いたところは女性の更衣室であった。

「ここです」

 と警官がドアを開けた瞬間、不安と恐怖で冷たくなっている佐藤のからだより冷たい冷気が流れ出してきた。

 そこには、たくさんの警官とたくさんの凍った人がいた。

 状況が理解出来ないでいる佐藤に、警官が上司と思われる警官を連れてきた。

「先ほど電話した木津です、女性はこちらです」

 佐藤が上司と思われる警官に促されるまま進むと、そこには着替える直前か直後だったのか開け放されたコインロッカーの下には凍って倒れた衝撃のせいか、下半身と上半身が分かれた凍り付けにされた遺体がある。

 恐怖で目を見開いたまま死んでいる遺体の顔に、佐藤は見覚えがあった。

 それは、佐藤と結婚を直前に控えた恋人の遺体だった。

 佐藤は体温等もうありもしない、とても冷たい恋人の遺体を抱きしめる。

 そして、佐藤は泣いた。

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