わかってた。
『おっはよー!ご飯にする?お風呂にする?それとも...』
『迷わずご飯で』
『もぉ、可愛くないなー』
『だって今朝だろ?鈴と違って僕は朝から元気じゃないんだ』
『はいはーい。』
今日もご飯を食べ野菜を取って絵を書いてご飯を食べてお風呂に行って寝るのいう普通の1日を送る。ここ最近、鈴の記憶は少しずつはなくなっているものもほとんどここで暮らすには問題ない程度のもので僕は順調に記憶を取り戻していっていた。たまに考える時がある。今はこんなに幸せだがふと考える時がある。僕が全てを思い出した時鈴は全てを忘れる。だから鈴が僕のことを分からなくなる前にこの森から出ないと行けない。
思いきってゆってみた。
『なぁ鈴』
『んー?』
『ここから抜け出さないか?』
『この森からってこと?』
『そう、ずっとここにいるってわけにも行かないだろ?』
『確かにそうだけど...』
『どうしたの?』
『どうやって抜け出すの?』
『ちょっと連れて行きたい場所があるんだ。ついてきて』
そう言って僕は野菜をもったままあ
『ねぇいつ着くの?』
『おいおい、まだ半分も来てないよ?』
『えぇー嘘でしょー』
『いいから行くよ』
そう言って僕は鈴の手を引っ張りながら目的の場所に向かった。
『ついた』
鈴は2秒ほど遅れて僕と同じ景色を見た。
『綺麗だね、でもここどこ?』
『ここはね、僕がこの森で一番好きな場所。』
『ここはね、僕がこの森で一番好きな場所。』
君が言った。私には少しわからなかった。けどなぜか見覚えがある。
『ねぇ、なんで泣いてるの?』
え。確認すると私の目の下には水滴が落ちていた。分からない。
『分かんない。なんで泣いているか。ここに何でいるのか。』
『なんでって僕が連れてきたからだろ?』
『そうだっけ?ごめん忘れちゃってた』
悪気はない。本当に私はここに来た理由を忘れた。
『そっか、なら仕方ないか。って何でまた泣き出すの?』
君が少し笑いながら私の頭を撫でていた。なんで君は私の頭を撫でているの?あれ、待って。私は恐る恐る確かめてみた。
『ねぇもう一つ分からなくなったことがあるの。』
『どうしたの?』
『君って、誰なの?』
覚悟はしてた。いつかこの時が来るって。でもはやすぎないか。なんて返せばいいんだろう。
『ねぇ、なんで泣いてるの?私が君の事忘れちゃったから?』
聞かなくても分かるだろ。それ以外あるもんか。
『違う...』
『そっか!ならよかった!』
僕の事を忘れてるはずなのに鈴は前みたいに明るく振る舞った。だがその会話からしばらくは沈黙が続いてもう夜を迎えようとしていた。久しぶりに鈴が口を開いた。
『ねぇ、いつまでここにいるの?てかこの森ってお風呂とかない?ずっと歩いてたから体洗いたくて』
『お風呂ならこの場所にあるよ、気をつけて行っておいで、僕はその間ご飯作って待ってるから、お風呂上がったらここに書いてある小屋に来てくれるかな?』
前こっそりポケットに入れておいた鈴の手帳を取り出し地図の部分を切って渡して僕達は別々の目的地に向かって歩いていった。
なぜか森は笑ってた。まるで僕を嘲笑うかのように。
僕は1人小屋に戻り考えた。なんで鈴は忘れちゃったんだろう。忘れないってゆったのは鈴じゃないか、僕は思い出したのにそれじゃ約束が違うじゃないか。僕の怒りの矛先は鈴に向いていた。悔しくて泣いた。壁を殴った。机を壊した。外に出て思いっきり叫んでやった。
『無視するのかよ、教えてくれないのかよ』
しばらく叫んだのに森からは返事がない。だがしばらく空を見ていると誰かの声がする。
『おーい、大丈夫ー?ご飯できたー?』
鈴だ。僕のことを忘れてるくせに前と一つも変わらず大きな声だ。少しは気を使えよな。やっぱり僕は鈴が苦手だ。
そんなことを思ったが口には出さず小屋に戻り食事をとった。
昨日や今日の朝とは違い、食器の音と野菜を口に入れ噛む音だけが小屋から発せられる。食べ終わり片付けを始めたらいつもは手伝わない鈴が手伝ってきた。近くにいるのに距離を感じた。
『あの、質問いいですか?』
なぜか鈴は僕に対して敬語を使った。どうやら本当に忘れてしまったらしい。
『いいよ』
僕は怒り口調で鈴に言った。正直今の鈴とは会話したくない。僕はこの女が大嫌いだ。
『私って、記憶をなくしていってるんですよね?』
どうやらその事は覚えているらしい。僕は何も言えなかったが鈴は続けた。
『あなたとどうゆう関係でどんなことをしたのか、何でここにいるのか、私は誰なのか、今は何も分かりません。』
知っている。頼むから黙ってくれ。だが僕の気持ちなんか考えず鈴は続けた。
『今の私はあなたから見たらきっと嫌な奴なんだと思います、口も聞きたくないはずです。』
分かってるなら喋るな。口を閉じろ。今僕の前にいるのは鈴じゃない。別人だ。鈴の姿を借りた道化師だ。そう思っているだけにしようとしたのに思わず口から出てしまった。
『ごめん、頼むからもう黙って。』
そういったのに鈴は真っ直ぐな目で話を続けた。
『たぶん、前の私はこんな時が来ると分かってたんです。だからこれを残したんだと思います。』
そう言うと鈴はポケットからくしゃくしゃの紙を取りだして僕に差し出す。
『私からの手紙です』