下手くそ
私は叫んだあともう1回だけ抱きついてやることにした。すると少し気を使ってくれたのか頭を撫でてくれた。君は前も抱きついた時によく頭を撫でてくれたよね。嬉しいのになぜか寂しかった。
『よし、今日のリア充タイムはここまで!お腹減った!野菜取りに行くよー!』
私から抱きついたのに少し恥ずかしくなって強引に話題を切り替えた。君は
『さっき野菜取りに行ったからたくさんあるだろ?』
と半笑いで言ってきた。
あれ、野菜取りに行ったっけ。私また忘れちゃったのかな。さっきのことみたいだけど。まぁいっか。
『そうだった!』
そう言って私はスキップしながら小屋に戻った。
僕は急に抱きついてきた鈴に少し戸惑ったが受け入れ、気づいた時には鈴の頭を撫でていた。あれ、僕ってこんなことするやつだっけ?まぁいいや。まだ好きとは言えないが僕は鈴に興味をもった。思い出せるのかなと不安になりながら頭を撫で続けた。すると急に鈴は『よし、今日のリア充タイムはここまで!お腹減った!野菜取りに行くよー!』
とはしゃぎだした。本当に僕は鈴を好きになるのだろうか、半信半疑な気持ちだったがなぜか笑えた。あ、そうだ
『さっき野菜取りに行ったからたくさんあるだろ?』
鈴は物忘れが激しい。少し間があいて
『そうだった!』
と鈴は元気そうにスキップしながら小屋に戻った。スキップをしているのにどこか背中は寂しそうだった。僕は少し不安になりながらも小屋に戻った。
外は曇になって、森は黙り込んでいた。
小屋に戻ってから僕達は昼食を食べた。といってもここには大した食べ物はないし、ほとんど味付けができてない野菜炒めだが。あまり美味しくないなと二人で笑い会話を楽しんだ。食べ終わり片付けを初め、疲れたし昼寝でもしようかと思っていたところなのに鈴は大声で
『ねぇお絵描きしよーよ』
思わずため息が出た。小学生かよ。疲れてるし寝るよと言おうと思ったが、鈴はあまりにも綺麗な瞳で見つめてきた。その瞳は何色にも染まってなくそこに写っているのは僕の姿だけでまるで鏡のようだった。そんな目をされたら断れるはずもない。仕方なくしてやることにした。飛んで喜ぶ鈴の姿は小学生どころか幼稚園児のようで僕は呆れた。
『何書く?動物?似顔絵?何がいい?』
早く終わらせたかった僕はなんでもいいと答えた。鈴は少し不満げな顔をしたが手帳からちぎった紙とペンを渡してきた。よくそんなものもっているもんだ。と思ったが深くは考えないことにした。
『じゃあ書きたいものを書くことにしよう!勝負ね!負けたら言う事一つ聞く!いいね!』
と勝手にルールを決め鈴は絵を書き始めた。ほんとに鈴は僕の恋人なのか。不安になりながらも気にせず絵を書くことにした。気づいた頃にはペンは勝手に紙の上を走って足跡を残していた。僕の手はついていくのに必死だった。
どれだけ時間が経ったかはわからないが僕の絵がほとんど仕上げという時に
『できた!見て!トマト!』
とどうだと言わんばかりの顔で絵を見せてきた。そんなに時間をかけてトマトだけかと呆れて見てみたがなかなかの出来だった。絵からもみずみずしさが伝わってくる。初心者が書いたとは思えないできだ。
『さぁ、君も見せて!』
嬉しそうに鈴は言った。これを見たあとに出すのは少し恥ずかしいが見せた。
『凄いね!綺麗な湖!』
まだ仕上がってはないが鈴はとても褒めてくれた。
『すごいじゃん!写真みたい!これってどこの湖なの?』
褒めてくれたのに素直に喜べなかった。
どこの湖?鈴が知らないわけがない。だってこの湖には鈴が連れて行ってくれたじゃないか。忘れてなんかいないよね。
僕の絵が下手くそなだけだよな。