少女
目が覚めた。まだ24時間もここで生活してないのになぜかよく眠れた。ふと横を見るとそこにはまだ見慣れない少女の顔が目の前にあった。鈴だ。ムカつくが鈴は黙っていれば可愛いのだ。少し動揺しながらも落ち着いてそっと離れ、軽く掃除と昨日の鍋の残りを温め始めたら、寝ぼけた鈴がきた。すると鈴は急に大声で
『鍋じゃん!美味しそう!』
と子供のようにはしゃいでいた。昨日も食べただろ...と小声でゆうとしばらく黙り、そうだっけ?と昨日の元気な鈴に戻った。
二人で朝食を食べたあと、この森のことをもっと知るために散歩をした。昨日は暗くて気づかなかったがすごく自然が豊かだ。しばらく歩くと誰が作っているのかもわからない畑があった。すると鈴は勝手に野菜を収穫し始めたので僕は
『いや人の畑はダメでしょ』
と注意をしたが鈴は
『あのね、気づいてないの?この世界多分私と君しかいないよ?』
驚いたが言われてみればそうだ。昨日から鈴以外の誰にも会っていない、人どころか動物や虫もいない、この世界は本当にどこなんだ?森を抜けるとそこはどうなっているんだ?考えれば考えるほど分からなくなる。そんな事は気にせず鈴は収穫した野菜を両手いっぱいにもって僕に微笑んだ。 二人で野菜を運ぶ帰り道、僕は前を歩く鈴の後ろ姿を見ていると急に鈴が振り返り僕に
『なんで泣いてるの?』
と言ってきた。いや泣いてないと否定しようと目の下を触るとなぜか濡れていた。
『汗だよ』
僕がそう言うとあら、そう、と鈴はまた歩いた。真冬なのになんで汗かいてるんだろ。わかんないや。と特に気にせず歩こうとした瞬間、一つだけ思い出した。
僕は鈴を前から知っている。
なぜか声に顔に仕草。すべて見たことある。僕は確かめるために思い切って鈴に聞いた。
『僕のこと、ここに来る前から知ってたりする?』
『やっと思い出してくれたの?知ってるよ、ずっと前から。名前も顔も声も。』
鈴は笑顔で答えた。
『どんな関係だったの?』
と僕は聞いたが鈴は急に走って小屋に向かった。鈴が落としたトマトを拾い遅れて追いかけた。小屋に着くと鈴は泣いていた。泣きながら笑っていた。鈴が泣いたとほぼ同時に雨が降り始めた。とりあえず落ち着いて話さないといけないのは記憶のない僕でもわかる。
収穫した野菜を置き、お互いの知っていることを全て話すことにした。僕から話した。鈴の声や顔、仕草を僕は見たことある。けど鈴が何者かだけが思い出せない。と
鈴はこの部屋の酸素を全て吸い尽くしてしまうくらいの深呼吸をしてこう言った。
『私はあなたの恋人です』
僕はそれを聞くまで友達やなにかの間違いで兄弟くらいの関係と予想していた。
嘘だろ。素直にそう思った。嫌いではないが正直鈴は苦手だ。記憶には恋人なんていないのに、なんで。鈴は続けてこう言った。
『最初から君のことは知ってたよ?全部知ってた。でもね段々忘れちゃうんだ。私は。』
鈴はそう言ったあと大号泣し僕の胸に飛びこんできた。雨も鈴の真似をして強く泣いた。
気づいた時には僕は鈴を抱きしめていた。
繋がった。記憶は思い出せないが理解はできた。この世界では僕が思い出した記憶の分だけ鈴の記憶は失っていく。つまり僕が全てを思い出した時には鈴は全てを忘れる。