生きること、生きられること、好きになること
『半年後に死ぬ』
そう告げられたのは高校2年生の冬。いや正直もっと前から死ぬことは分かっていた。
だがそれを悲しむ親も友も恋人も僕にはいない。なぜなら死ぬからだ。
誰からも愛されず生きてきた。なのに他人の力を借りたいと生きられない。そんな自分が悔しかった。一人では何もできない。できるのは迷惑をかけることくらいだ。半年後に死ぬことは世間からすれば短い期間だろうが僕には長かった。死ぬとわかっているのに生きていることが辛かった。
僕はいつものように病院のベットの上で朝食の美味しくもない薄味のコロッケを食べて興味もないニュース番組をぼーっと何も考えず見ていた。ほとんど何を言っているか聞いてないのにある言葉だけはっきりと聞こえた。
『自殺』
そうだ、自殺だ。久しぶりに僕は微笑んだ。
自殺なら死んだ時に保険金が親に入らない。自殺なら僕は何も残さずに死ぬことが出来る。そう考えた僕はさっそく行動した。近くにおいてあったペンと手帳を持って病院を抜けだし、コンビニで小さなナイフと好きだったコーラを買い何となく森へ向かった。森なら誰にも見られないからだ。3kmほど歩きようやく森へついた。なぜかウキウキしている。近くにあった少し大きめの石を蹴りながらわりと平坦な山道を歩き始めた。
僕は誰もいないのに一人で話した。今までされてきたことやしてきたこと。どう思って生きてきたのか、どう思って死ぬのか。まるで他人事のように笑いながら話していると誰もいないはずなのに、
『それでいいの?』
と聞こえた。まわりを見渡しても土、石、きのこ、木しか見えない。『森』しか見えない。
『誰?』
少し怖かったが聞いてみた。
『また逃げるの?』
今度ははっきりと聞こえた。まるで脳に直接話しかけているように。ムカついた、逃げる?何がお前に分かる。
『誰かわからないけど逃げてるつもりは無い、生きることが辛いんだ』
少し怒りながら、どこか悲しくなりながら大声で叫んだ。声を出すことも精一杯だったのにこんな大声を死ぬまでに出すとは自分でも思っていなかった。しばらく返事はかえってこなかった。僕は考えた。もちろんさっきの声の正体についてもだがその声に言われた逃げるについてすごく考えた。逃げてるつもりはない。ただ誰にも僕は愛されず生きてきた。なのに一人では生きられない。それが悔しかったんだ。だから一人で死んでやろうと思った。
考えれば考えるほど自分の弱さに気付かされる。自分が逃げていたことを気付かされる。
『どうすれば正解なの』
思わず口に出た。雨のせいでそんな小さな声は誰にも聞こえない、はずなのに
『生きてればわかるよ』
また聞こえた。優しい女の人の声だ。
雨が口に入ってきた。少ししょっぱかった。
段々雨は強くなっていった。そのあとの記憶はないが目が覚めると見知らぬ屋根の下に僕はいた。
『え』
最初に出た言葉がそれだ。本当にどこか分からない。何も覚えていない。覚えているのは自殺しようとして山を登ってたら声が聞こえて···。そこから先の記憶はない。すると
『やっと起きたの?』
さっき山で聞いた声にそっくりだが今回は違う。人の声だ。しかも大きな声でどこか荒々しい...
『誰です...か?』
僕は聞いた。すると奥の方から10点満点で言えば8点くらいの綺麗な髪の長い緑色のニットを着た女の人が目の前にきていきなりでことでこをくっつけてきた。まず女性と関わることのない僕は激しく動揺してしまった。その様子を女は大声で笑いながら僕にこう言った。
『あんた、森で倒れてたんだよ?しかも泣きながら』
恥ずかしかった。森の中で一人しかも泣いている瞬間をしかも女の人に見られたのだ。
『こんなところだし仕方なく助けてあげたのに感謝の言葉の一つもないわけ?』
と少し怒り口調で言われたので思わず
『す、すいません』
と謝ってしまった、僕はこのタイプの女が大嫌いだ。すると女は
『じゃなくてありがとうでしょ?』
ダメだ、苦手だ。さっさと会話を終わらせたかった僕は仕方なく感謝の言葉を伝えた。
すると女は寝ている僕の上に乗りこう言った。
『あんた、自殺しに来たでしょ?』
なぜ分かったのか分からないが女の目はどうだと言わんばかり自信に溢れていた。
何も言えなかった。事実、僕は自殺しに来たからだ。しかし何で自殺しようと思ったのか思い出せない。
『何も言えないってことはそうゆうことね、名前はなんてゆうの?』
やっぱり僕はこの女が苦手だ。仕方なく名乗ろうとしたが、なぜか名前が出てこない。
まて、僕の名前はなんなんだ?家族は?友達は?なんで今こんな場所にいるんだ?何も分からない。何も思い出せない。思い出せるのは自殺をしようとしたことだけ。何も頼ることのできない僕は仕方なくこの事を全て女に伝えた。以外にも女は驚かず
『あら、そう。なら思い出したら教えてね』
と言った。なんでそんなに余裕なんだ?そしてお前は誰なんだ?謎が謎を呼んでもう僕はわけがわからなかった。
『痛っ』
なぜか僕は女に頬の抓られていた。本当なら蹴飛ばしてやりたいが相手は女、しかも僕の上に乗ってるとなるとそれは不可能だった。
『じゃあ、きみって呼ぶね、よろしくね、きみ』
なぜか笑いながらゆってきた。この女とんでもないな...と思った。いや、まて
『え、よろしくね?』
どうゆう意味がわからなかったので聞いた。すると女はこう言った。
『え、ここ住まないの?』
確かに行く宛はないしなにも僕には分からないが...よりによってこの女...と色々考えていると女はやっと僕から離れまた、話し出した。
『ついておいで』
笑顔でそういって女は出かける準備を始めた。よく分からないが何もわからないままでいてもしょうがないので女についていくことにした。
女について行き僕は少し古い小屋を出た。
僕の記憶では外は雨が降っていたが今は快晴だ。女は険しい山道をどんどん進んでいく。男の僕の方が足でまといになっていた。思わず休憩したいと女に伝えた。すると女は
『あんたまじ?まだ半分も来てないわよよ?それでも男?ちゃんと付いてる?』
と半笑いでバカにしたような口で言った。
下品な女だ、やはり僕はこの女が苦手だ。と思ったがそれよりまだ半分も来てないことに絶望を感じた。休憩を終えて腹を括り女について行き後半は女に手を引っ張ってもらい歩いた。正直手を引っ張ってもらうのはプライドが許さないがそんなこと言ってる場合ではなかった。
『着いた』
一足先に女は山頂について2秒ほど遅れて僕がついた。そこには見たことないのにどこか見たことのあるような不思議な空間があった。来たはずの道が一つも見えないどころかそこからは大きな湖以外霧で何も見えない風景があった。
『ここはね、私が唯一覚えている場所なの』
女は言った。なんとなく察した。この女もなにか目的がありその途中記憶を失くしたのだと。僕とほとんど同じ状況だが唯一違うところは女はここに来た目的は何も覚えていないのだ。女はさっきまでの強い口調ではなくどこか寂しく、
『私たちなんでここに来たんだろう』
とつぶやいた。
『あんたが連れてきたんだろ?』
と聞いたが女はしばらく黙り泣いていた。
どこの誰かも知らない女、しかも嫌いなはずの人間なのに僕は気づいたら女の横で背中を撫でながらただ湖を見つめていた。ここがどこかも分からないのに。
しばらくすると女は
『あ、そうだった私から誘ったんだった』
と笑いながら言い出した。この女のことはやはりよく分からないが悪いヤツではなさそうだ。とりあえずここにいても仕方ないので小屋に帰ることにした。そういえばここはどこでどうすれば帰れるのだろうと女に聞いてみたが女も詳しく知らないらしい。
『そういえば名前は?』
僕は少し勇気を出して聞いてみた。
『鈴ってかいてりんだよ!』
元気に言ってきたのがムカつくことに少し可愛かった。鈴も嬉しそうだった。でもなんで僕は名前を思い出せないんだろう。と一瞬考えたが深くは考えず色々話していると小屋についた。どこから取ってきてるかは分からないが野菜と魚だけはあったので鈴ととりあえず夕食を取ることにした。この小屋には冷蔵庫やテレビなど以外は基本あるし最低限の生活はできる環境が整っていた。が問題だったのは鈴の料理の腕だ。基本調理方法は焼くのみ。とてもじゃないが美味しくはなかった。気づいたら僕が料理をしていた。簡単な鍋だが。鈴は
『すごいねー、料理したことあるの?』
と聞かれた。僕は頷き答えようとしたが、僕はなんで鍋の作り方を知っていたんだろう。ここに来てから全く昔のことを思い出せない。だから
『体が覚えてた。けどなんで作れたのかは分からない。』
と答えると鈴は
『私も分からないの。何でここにいるのかなんできみといるのか、ここに来てからどんどん記憶を失くしたんだ』
と珍しく優しい口調で悲しげに言った。すると続けてこう言った。
『私とあなたの違いが分かったかもしれない』
と笑いながら言った。どこがだよと言い僕達は鍋を囲んだ。けど鈴はどこか悲しい表情をしていた。
食事を終えて片付け、僕は掃除を始めた。しばらくここにいるとなると少しでも綺麗な場所に居たいしなんせここはすごく汚いのだ。
鈴はあまり気にしてないらしい。やはり僕達はとことん合わない。山道を散々歩きご飯を食べたし風呂に入って寝たいところだが、この小屋には風呂がない。雨にも濡れ歩き回り泥まみれだったためどうしても体を洗いたかった僕は鈴に風呂をどうしているか聞いた。すると以外な答えが帰ってきた。なんと2.300mほど先に湯が沸いているらしい。この山は本当になんなんだと疑問に思う前に素直に風呂に入れるという嬉しく一瞬に行くことになった。
『てかなんで最初あんなに動揺してたの?』
と鈴が思い出したかのように言ってきたので
『鈴がいきなり乗ってきたからだろ?』
と少しきつい言い方をしたら
『なにムキになってんの?え、そんくらいあるでしょ?彼女とかいたの?』
と軽くバカにしたような言い方をしてきた。彼女ができたことは無いという嫌な記憶だけはなぜか残っていた。鈴は怯んでいる僕にさらにおいうちをかけるかのように
『まぁこんな美人とお風呂入れるんだから自殺しなくて良かったね』
と馬鹿にしてきた。ムカつくやつだ。やはり僕は鈴が苦手だ。とのんきなことをいつまで言っている時二人は目を合わせこう思った。
『え、こいつと風呂入るの』
しまった。考えてもいなかった。男女で風呂に入るということも。しかも僕達はタオルなども一切もってきていない。
『べ、別に私はいいけどね』
と鈴は意地を張ってきたので負けまいと言い返し結局お互い目も合わせれず入浴してしまった。見てはいないものも仮にも裸の男女だ同じ風呂に入っているんだ。気まずくないわけがない。小屋への帰り道が無言だったことは言うまでもない。次から風呂の時間だけは絶対に別にしようと二人は誓ったに違いない。
地獄の風呂からやっとの思いで小屋に帰った。2.300mのはずが2.3kmにすら感じた。
以外にも鈴は上機嫌で寝る準備をしていた。
なぜか同じ部屋で寝ることになったがさっきの風呂に比べればましだ。お互い背を向けて寝ようとしている時鈴はいきなり
『あんたって自殺しようとした以外覚えていないの?』と聞いてきた。鍋の作り方は正直説明しろと言われると難しい。だがもう一つ自殺以外に覚えていることがあった。
『自殺する前に姿は見えなかったけど女の人が自殺を止めてきた』
それだけは思い出したのだ。なぜかニコニコしながら鈴は笑っていた。すると鈴は
『私も自殺しようとしてこの山に登ってきたんだ。親が離婚してしかも学校でいじめられるようになって、叔母に引き取られたけど気づいたら外にはほとんど出なくて、そんな時に自殺してやろうって思ったんだ』
と語っていた。こんなに明るいのに可愛いのにいじめられるのか。と
そんなことをいうと調子に乗ってしまうので言葉を飲み込み、そうかとだけ言った。しばらく沈黙が続いて鈴が寝たのを確認して僕も寝た。夜中寒かったので少し目が覚めた。そういえば僕はここに来る前どんな人だったんだろう、と一人で考えていると何か物音が夕食を食べた部屋から聞こえてきたので覗いて見るとそこには泣きながら何かメモのようなものを書いている鈴の姿があった。なんで泣いているのか聞こうか迷ったが僕はそっとまた布団に戻った。